タイムリープした俺には逆らえない〜未来の知識で嗜む復讐のカルテ〜

刹那冥夜

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13話

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早川結衣は、学校に来なくなった。

 くるみの流した噂と、クラス中からの迫害に耐えられず、家に引きこもってしまったのだ。

​ 計画通りだ。

 これでまた一人、くるみへの強烈な憎悪を抱いた人間が完成した。

 今は絶望に沈んでいるだろうが、いずれ俺が手を差し伸べれば、彼女は喜んで『復讐の兵隊』になるだろう。

 中学の間に、こうした被害者を一人でも多く増やしておく。それが、高校という本番の舞台でくるみを包囲するための布石となる。

​ さて。
 今日は、別の「兵隊」の調教だ。

​          




~~~~~~~~~~~~


​ 日曜日の駅前。

 私服姿の桐島玲奈は、不機嫌を隠そうともせずに立っていた。

​「……何なのよ、これ」

​ 俺が到着するなり、彼女は睨みつけてきた。

 俺の命令で着てこさせた、少し背伸びをしたワンピース。普段のクールな彼女とは違う、可愛らしい装いだ。

​「デートだよ。見れば分かるだろ?」

「はあ? あんたとのデートなんて、罰ゲーム以外の何物でもないわ」

「口が悪いな。写真はまだ持ってるんだぞ?」

「……ッ」

​ 玲奈が唇を噛む。

 弱みを握られている以上、彼女に拒否権はない。

 俺はニヤリと笑い、歩き出した。

​ 人混みの中、俺たちは並んで歩く。

 はたから見れば、休日にデートを楽しむ中学生カップルに見えるだろう。

 だが、その内実は冷え切っている。

​「ほら、もっとこっちに来いよ」

​ 俺は自然な動作で、玲奈の腰に手を回し、自分の方へ引き寄せようとした。

​「っ、触らないで!」
​ バシッ!
 玲奈は反射的に俺の手を振り払った。

 周囲の人が驚いて振り返るが、彼女は顔を真っ赤にして俺を睨みつけた。

​「調子に乗らないで。誰があんたなんかと……気持ち悪い」

「つれないな。ミナやアイリなら、喜んで抱きついてくるぞ」

「一緒にしないで! あいつらみたいな尻軽と私は違うの!」

​ 玲奈は肩で息をしながら、自分の腰――俺が触れようとした場所を、汚いものでも払うように手で擦った。

 その拒絶は、本物だ。

​ だが。
 俺は見逃さなかった。

 彼女の耳が、真っ赤に染まっていることを。


​(……なによ、今の)

​ 玲奈の胸中では、嵐のような混乱が渦巻いていた。

 嫌いだ。憎い。あんなゴミみたいな男に触れられるなんて、生理的に無理だ。

 そう思って振り払ったはずなのに。

​ 腰に残る、彼の手の熱。

 引き寄せられそうになった瞬間、心臓が跳ね上がった感覚。

 それが「恐怖」だけではないことを、彼女の身体は知ってしまっている。

​(なんで……ドキドキしてるのよ。あんな奴に)

(悔しい。私だけを見てほしいなんて思った自分が、バカみたいじゃない)

​ 雑踏を抜け、少し人気のない公園のベンチへ。

 俺はジュースを二本買い、一本を彼女に渡した。

​「……ありがと」

​ ぶっきらぼうに受け取る玲奈。

 俺は隣に座り、彼女の横顔をじっと見つめた。

 不貞腐れた表情。強気な瞳。けれど、その奥に隠しきれない揺らぎが見える。

​「玲奈。お前は可愛いな」

「……からかわないで」

「本心だ。ミナたちみたいに言いなりになる人形もいいが、お前みたいに牙を剥く犬も嫌いじゃない」
​ 俺は再び距離を詰めた。

 今度は逃がさないように、彼女の顎を指先ですくい上げる。

​「やめ……」

​ 玲奈が顔を背けようとするが、俺は強引に顔を近づけた。

 キスをする距離。

 吐息が触れ合う瞬間、玲奈の限界が来た。

​「ふざけないでっ!」

​ パチンッ!
​ 乾いた音が響いた。

 俺の頬を叩こうとした玲奈の手。
 その手首を、俺は紙一重で空中で掴み取っていた。

​「……っ!?」
​ 玲奈が目を見開く。

 本気で叩くつもりだった掌は、俺の顔の数センチ手前で止められている。

​「威勢がいいな」

「は、離して……!」

「躾が必要だ」

​ 俺は彼女の手首を掴んだまま、有無を言わさず唇を押し付けた。

 甘さなどない。

 罰を与えるような、所有権を主張するような、暴力的で一方的なキス。

​「んぐっ!? ん、んーっ!!」

​ 玲奈が必死に抵抗する。

 空いた片手で俺の胸を叩き、身をよじる。

 だが、俺は離さない。舌をねじ込み、彼女の口内を蹂躙する。

​ 数秒、十数秒。
 やがて、抵抗していた玲奈の力が、ふっと抜けた。

 怒りと屈辱。

 その隙間から、どうしようもなく湧き上がってくる『快楽』と『被支配感』。

 叩こうとした手が、いつの間にか俺の服を弱々しく掴んでいる。

​「ぷはっ……」

​ 唇を離すと、銀の糸が引いた。

 玲奈は肩で息をし、潤んだ瞳で俺を睨みつけていた。
 その顔は、怒っているようにも、泣き出しそうにも、そして欲情しているようにも見えた。

​「……最低」

​ 絞り出すような声。


 彼女は乱暴に袖口で唇を拭うと、バンッとベンチを蹴って立ち上がった。

​「もう帰る! 死ねばいいのに!」

​ それだけ叫ぶと、玲奈は逃げるように走り去っていった。

 ワンピースの裾を翻し、一度も振り返ることなく。

​ 俺はベンチに残され、その背中を見送った。
​「ふっ……」
​ 自然と笑みがこぼれた。

 面白い。

 ミナやアイリのように完全に壊れて依存するのもいいが、玲奈のようにプライドと本能の狭間で苦しむ姿もまた、極上の娯楽だ。

​ 嫌悪すればするほど、彼女の心には俺という存在が深く刻まれる。

 その感情の名前が何であれ、彼女の頭の中は今、俺のことでいっぱいのはずだ。

​「せいぜい足掻けよ、玲奈」

​ 俺は飲みかけのジュースを煽り、歪なデートの余韻を楽しんだ。

 中学卒業まで、あと少し。

 彼女が完全に堕ちるその瞬間まで、この駆け引きを愉しむとしよう。
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