タイムリープした俺には逆らえない〜未来の知識で嗜む復讐のカルテ〜

刹那冥夜

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37話

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凛華さんは下がってて! こいつら、アタシらだけで十分だ!」

「そうだよ! 生意気な女二人、ボコボコにしてやる!」

​ 凛華を守るように、手下たちが前に出た。

 その構成員11名のうち、大半の8名が女子だ。

 派手なメイクにピアス、改造したスカート。いかにも気が強そうなレディース予備軍たちが、一斉にガンを飛ばしてくる。

 残りの男子3名は、彼女たちの勢いに押されつつも後ろで構えている。

​ 数の暴力。そして女特有のヒステリックな威圧感。

 普通の女子なら泣いて逃げ出す場面だ。
​ だが、ミナとアイリは嘲笑うように、鞄から黒い棒を取り出した。

 透から渡された、硬質ゴム製の警棒だ。

​「あらら、怖い怖い。レディース気取り?」

「じゃあ、どっちが『女王様』か、教えてあげる」
​ 二人は、躊躇なく踏み込んだ。

​ ドゴッ!!

 鈍い音が響き、先頭の金髪の少女が膝から崩れ落ちた。

 脛への一撃。骨は折れていないが、激痛で立ち上がることは不可能だ。

​「ギャッ……あ、足が……!?」
「次」

​ バチンッ! ガッ!!

 ミナとアイリは踊るように棒を振るった。

 相手が女子だろうが関係ない。いや、女子だからこそ容赦がない。

 狙うのは太もも、鳩尾、そして二の腕。

​「いたッ、やめ……!」

「ごめんねー、可愛い顔が台無しだね♡」

​ 悲鳴が上がる。
 ミナとアイリの目は笑っていた。透のために敵を排除する行為そのものに、快感を覚えているかのように。

 ゴム製とはいえ、フルスイングされたそれは凶器そのもの。

 数分もしないうちに、11人全員が地面に這いつくばり、化粧を涙で汚して呻き声を上げていた。

​「…………」
​ 凛華は、その光景を呆然と見ていた。

 大事な妹分たちが、虫けらのように叩き伏せられている。

 助けようとして足を踏み出しかけたが、体が動かなかった。

 恐怖だ。
 目の前の女たちは、喧嘩をしているのではない。『作業』をしている。

 その狂気が、歴戦の不良であるはずの凛華を金縛りにしていた。

​「さて。これで邪魔なお姫様たちはいなくなったね」

「凛華ちゃん、お話の続きしよ?」

​ ミナとアイリが、倒れ伏す少女たちを踏み越えて近づいてくる。

 凛華は後ずさりしながら、震える声で叫んだ。

​「なんで……なんでこんなことすんだよッ!」

「え?」

「アタシたちが何したって言うんだ! 確かにアタシらは外れもんだよ! 派手だし、口も悪いし、世間から見りゃ不良だよ!」

​ 凛華は涙目で訴えた。

​「でもな! アタシたちはそこらのチンピラみたいに、一般人に手出したり、カツアゲしたりなんかしてねぇ! 売られた喧嘩を買ったり、街を荒らすクズ共をシメたりしてただけだ!」

「…………」

「なのに、なんで……! アタシたちがこんな目に遭わなきゃなんねぇんだよッ!」

​ 血を吐くような悲痛な叫び。

 彼女たちのグループには、彼女たちなりの正義と仁義があったのだ。

​ その言葉を聞いたミナとアイリは、顔を見合わせた。

​(ぷっ……真面目だねー)
(うん。本当に悪ぶってるだけの良い子たちなんだ)

​ 二人はコソコソと耳打ちし合い、苦笑いを浮かべた。

 昔の自分たちなら同情したかもしれない。
 だが、今の二人には『透のため』という絶対正義しかない。

​「ごめんねー、凛華ちゃん。同情はするけど」
「可哀想だけど、透くんのためだから」
​ 二人は冷酷に言い放った。

​「私たちが欲しいのは、正義の味方じゃないの。私たちの『派閥』の手駒なの」

「使えるか、使えないか。重要なのはそれだけ。アンタたちがどんな人間かなんて、どうでもいいのよ」

​「――ふざけんなッ!!」
​ 凛華の中で何かが切れた。

 恐怖を怒りが凌駕する。

 彼女は咆哮を上げ、無鉄砲にもミナに殴りかかった。

​「ウオオオッ!!」
​ 速い。重い。

 流石はグループのリーダーを張るだけのことはある。

 だが。
​「遅いよ」

​ ミナは半歩下がり、凛華の拳を紙一重で躱した。

 そして、がら空きになった胴体へ、全体重を乗せた蹴りを叩き込んだ。

​ ドガァッ!!

​「がはッ……!?」
​ 凛華の体がくの字に折れ、吹き飛ぶ。

 地面を転がり、受け身を取ろうとするが、追撃の警棒が太ももを強打した。

​「ぐっ、あ……ッ!」
​ 勝負あり。

 凛華は激痛に顔を歪め、立ち上がろうとするが足が痙攣して動かない。

 たった一撃。ミナ一人に、完敗した。

​ ミナとアイリは、蹲る凛華を見下ろすようにしゃがみ込んだ。

​「ねえ、凛華ちゃん」

​ 今度は暴力ではない。甘い毒のような言葉が、凛華の耳に注がれる。

​「アンタたち、これからどうするつもり?」


「は……?」

「星涼高校に入ったとして、その先よ。元不良のアンタたちが、いい大学に行って、まともな会社に就職できると思う?」

「それは……」
​ 凛華が言葉に詰まる。

 それは彼女が一番恐れていたことだった。

 親のために勉強して進学校に入ったが、その先のビジョンがまるで見えないのだ。

 根が不良の自分たちが、社会に適合できるのか。

​「世間は冷たいよ。過去は消えない」

「もし就職できなくて、フリーターとかニートになったら……アンタの大事な親御さん、どう思うかな? 泣いちゃうかもね」

「ッ……!」
​ 凛華の顔色が蒼白になる。

 ハンバーグを作って待っている母親の顔が脳裏をよぎる。

​「でもね。私たちの派閥に入れば、そんな心配はいらないよ」
​ アイリが囁く。

​「今後、お金儲けに苦労することはなくなる。私たちについてくれば、一生食いっぱぐれないだけの立場とお金が手に入る」

「不良だからって理由で、稼げないなんて馬鹿げたことにはならない。……親孝行、できるよ?」

​ 悪魔の誘惑だった。

 自分たちの存在意義と、将来への不安。そして親への想い。
 その全てを解決する道が、目の前に提示されたのだ。

 プライドを捨てて、手駒になれば。
​「…………」

​ 凛華は唇を噛み締め、倒れている仲間たち(妹分たち)を見た。

 彼女たちもまた、痛みの中で凛華の決断を待っている。

​ 長い、長い沈黙の後。

 凛華は苦渋の表情で目を閉じた。
​「……帰ってくれ」

「お?」

「今は……決められねぇ。みんなと相談させてくれ」
​ 即答は避けた。だが、拒絶もしなかった。

 彼女の心は既に、大きく揺らいでいる。

​「……入学式の日に、返事をさせてくれ」
​ 絞り出すようなその言葉に、ミナとアイリは満足げに微笑み、立ち上がった。

​「オッケー。いい返事を待ってるよ」
「じゃあね、凛華ちゃん。……お母さんのハンバーグ、冷めないうちに帰りなよ?」

​ 二人は軽やかに手を振り、夕闇の中へと消えていった。

 残されたのは、身体の痛み以上に、心に深い爪痕を残された凛華たちだけだった。
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