狩りの時間

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霜魚(そうぎょ)の遊泳 3

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「昨夜は……失礼した」
 気まずげにガンダロフォがルキノのところへやってきたのは、翌日の午後をすぎてからだった。
 ルキノは人形たちの予約を確認し、利用者の好みに応じた微調整をしているところだった。
「予約ですか」
 ルキノの言葉に面食らったような顔をしてガンダロフォは入り口に突っ立ったままでいる。
「いや、詫びを」
 ルキノから視線をずらしてガンダロフォは横を向く。叱られた子どもが、しかたなく詫びにきたという感じだ。
「別に。酔っていたのでしょう」
 それに、あれくらいのこと。昨夜のガンダロフォなど可愛いものだ。荒くれどもだらけの辺境の惑星中心にわたってきたルキノの過去には、様々なことがあった。けれども、ガンダロフォの行為はそのどれとも違って何故か嫌悪感が強い。
「酔っていたとはいえ、その、失礼なことを」
 ぎくしゃくと頭を下げる。まるで今まで他人に謝ったことなどなく、まるで慣れていない。
「もうやめにしましょう。わたしの予約でしたら……」
 ガンダロフォはルキノの言葉 を手をあげて遮った。
「それだけだ」
 そう言いおくと、ガンダロフォは部屋を出ていった。ルキノは端末のキーボードを叩き、過去のガンダロフォの利用履歴を見た。
 実は昨日も気になっていたのだ。
 人形の利用が極端に少ない者が何名かいた。
 ロベルトは、同性嗜好だからわかる。事務局長は高齢だから理解できる。
 ただ、ガンダロフォの理由がわからない。
 昨夜の様子を思い返すと、同性も相手にできるバイセクシャルのようだけれど。だからといって、ジュリオとの痕跡は見あたらなかった。二十代だ、枯れているわけではないだろう。もっとも一人で済ませるほうが気楽だという場合もあるだろうが。
 ルキノは昨夜のガンダロフォが振りまいていた男臭さを思いだし、吐き気に口元を押さえた。


 一通りの作業を終え、あとは夜を待つだけの人形たちを並ばせるとルキノはソファに深く腰をかけて背もたれに身を預けた。
 連日の奉仕は、さすがにルキノの年齢にはきつい。ヴァイオレットカラーの平均寿命は四十から五十。見かけこそ、若さを保てるよう遺伝子操作されているが内蔵はぼろぼろだ。
「三十五だからな……」
 問わずがたりにルキノは天井に向けていた目を閉じた。
 ヴァイオレットは肉体年齢が十五になるまで人工子宮で育つ。その間に、直接脳に日常生活と仕事に必要な知識がインプットされる。言語、一般常識、日常生活の細々しいこと。
 そして子宮から出されて、手も足もまだほぐれないうちに……女の格好をさせられ……『初物』として供される。
 ルキノはそれを思い出すと今でも体に痛み感じる。
「はやく終わればいい」
 苦役からの解放の日はそう遠くない。
 いっそ人形に生まれたかった。なんの感情もなく、男たちと交わる人形に。
 ルキノは遅い午睡に落ちていった。
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