狩りの時間

ビター

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奈落 ※

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 いつもと同じだ。ロベルトとするときのように。二時間もたてばすべて終わっているだろう。
 ルキノは自分に言い聞かせて、ガンダロフォの部屋を訪ねた。
 扉を開けたガンダロフォは普段どおり、にやりと笑った。
「逃げずに来たな。ほめてやろうか」
「仕事ですから」
 言い終わらないうちに、ガンダロフォはルキノを薄暗い部屋に引き込み、唇を重ねてきた。
 舌が侵入し、咥内を蹂躙する。あまりの強引さに息が詰まり、ルキノはガンダロフォの胸を拳で叩こうとした。しかし振りあげた手首を掴まれ、そのままベッドに押し倒された。服の中に手を入れてきたガンダロフォにルキノは抵抗し、しばしもみ合いになった。
「っ!」
 小さく叫んでガンダロフォはルキノを突き放した。ガンダロフォの額に爪痕がつき、見る間に血がにじんだ。
 ルキノはルキノでガンダロフォに噛まれて切れた唇の血を手の甲で拭った。
「やるじゃないか、ヴァイオレットのぶんざいで」
 ガンダロフォが愉快そうに顔を歪めた。
「服を脱げ。仕事をしろ。おれに傷をつけた代償は高いからな」
 ルキノは着てきた青のシャツのボタンに手をかけたが、怒りに振るえた指はうまく動かなかった。
「なんだ、じらすつもりか。昨日はいせいよく脱いでいたじゃないか」
 言うより早く、ガンダロフォはルキノのシャツの前をはだけさせた。
「下も脱がせてやるよ」
 大柄なガンダロフォはルキノを片手で押さえたままでベルトを外すと、ズボンを脱がせた。裸にむかれたルキノの尻をガンダロフォの手がまさぐる。
「あっ」
「なんだよ、今さら緊張するのか。おれが初めての相手でもあるまいし」
 ルキノは唇をかみしめて、こらえた。今までのことを思い出せ。こんな扱いはなんども受けたはずだ。
 複数の男たちに無理矢理犯されたこともあった。最中に殴られたことや首を絞められたこともあった。それに比べれば、と。
 それでもルキノの嫌悪感はなくならなかった。
「っつ!」
 なんの準備もなく、ルキノにガンダロフォの指がねじこまれた。
「うっ、く」
「かたいな、いつもこんなもんなのか」
「そんないきなり……無理に決まってるじゃないです、か」
 ガンダロフォはルキノを仰向けにベッドにおろした。間接照明ひとつだけの室内に、ルキノの肌はほのかに白く光って見えるだろう。
「足をひろげろ」
 ガンダロフォはルキノの膝に手をかけ、外に広げた。ルキノは耐えられず、顔を腕で隠した。
「勃ってもいないか、やっぱりな」
 足の間に体を割り込ませてガンダロフォがルキノの腕をどけると視線を合わせた。
「知ってるさ。おまえは何も感じない。すくなとも、性的に興奮はしない。いつも薬の力を借りる、あるいは演技する」
「な……」
 ガンダロフォは眼鏡を外すと、ベッドわきのテーブルにのせた。
 その顔にルキノはぞわりとした。記憶の深いところにあるような既視感、あるいは夢で見たような頼りなさ。
「白いドレスを着てくるよう、注文しておけばよかったな、ルキノ。いや、エーレの弟」
「!」
「なんで知ってるかって? 有名だからな、エーレ……泣き人形のエーレ。そして氷人形のルキノってな」
 ルキノはガンダロフォの腕を振りほどき、ベッドのうえで後ずさった。すぐ背中が壁につく。
「最初の相手に恋をして、好きでもない男どもに抱かれるたびに、恋しい人を想って泣く。そのくせ最高の抱き心地ときた……エーレは伝説の域だ。想いがかなって引退したエーレの代わりに作られたお前は……期待はずれ」
 ガンダロフォはルキノに自分の通信端末を投げてよこした。
「最初を除いて」
 小さな画面の中の人物が動いている。
「これ……!」
 ガラスの瓶を冷蔵庫から取りだしながらガンダロフォがあざけるように笑った。
「親父の遺品を整理していたら出てきた」
 瓶から手のひらに油のような液体を広げる。
 動画は少年だった。赤い宝石をあしらったチョーカーがまるで首輪のようだ。小さなディスプレイの中で、体を何度も貫かれ、か細い泣き声をあげてもがいている。
 無理やり開かされた幼いつぼみに、突き刺さる赤黒い肉棒が大写しになる。
 ルキノは胸苦しさに額に脂汗が浮かんだ。
「あなたは……」
 答えずガンダロフォはルキノの足首を掴んで引き寄せた。液体をたっぷりつけた指をルキノの秘所にあてじわじわと沈める。
「ああっ!」
 きつく閉じた場所に埋め込まれる違和感にルキノは悲鳴をあげた。
「……いい声じゃないか。ようやく聞けるんだな。お前が来たときから楽しみにしていた。だから、ついがっついて……」
 ルキノの肩をおさえ、表情を伺いながらガンダロフォは指を動かした。
「いやだ、いや……いたいの……」
 まるで体がまだ未経験だった時に戻ったように、こわばり固くなる。
 ディスプレイの少年はルキノだ。生まれて間もなくオークションにかけられ、落札させた男に辱しめられ痛みに悲鳴をあげて……やがて小さく体を振るわせる。強引に射精させられて。
「おれの母親を捨て、全財産をヴァイオレットの初物喰いにつぎ込んで家を傾けたロクデナシがお前の最初の相手だ」
 自虐的に笑うガンダロフォはルキノの最初に刷り込まれた相手の顔だった。
「ああっ! いやだ、いやだ!! 離せ……っ」
 言葉とは裏腹に体に力が入らない。
 ガンダロフォの指はいつの間にかルキノをつかみ、擦りあげていた。
「っ……や……だ」
「いやなら抵抗しろよ、ほらもうじき出そうだぞ」
 体の芯が熱くなる。肌が火照る。
 ああ、とルキノは口をおさえた。
 ガンダロフォの手の中でルキノの体は歓喜にふるえた。目の奥で弾けた光にルキノはめまいを感じた。
 不意にガンダロフォはルキノに口づけた。ぬるりとしたものが舌先で入れられ口と鼻をおさえられた。
「飲め」
 息苦しさから抗う間もなくルキノはそれを飲み下した。
 喉をおさえて荒い息をするルキノの前にガンダロフォの張り切ったものが突きつけられた。
 今まで見たことがないほどの大きさだった。
「くわえろ」
 前髪を掴んでガンダロフォはルキノの口に自身を押しつけるようにして含ませた。
「噛むなよ。噛んだら殴る」
 吐きそうだった。ルキノは喉の奥につかえるエレクトしたガンダロフォに舌を絡めてなんども口を頭ごと動かした。
「うまいじゃないか、思ったよりも」
 鼻で笑ってガンダロフォがルキノを見下ろす。
「どうだ、ほしいか」
 今すぐに口から出したい。そう思うのに、体は狂おしいほどガンダロフォを欲っしている。熱くなった汗ばむ体を滅茶苦茶にしてほしい。その欲情がどこからわいてくるのか、ルキノは戸惑った。
「出すからな、飲めよ。ぜんぶ」
 言い終わらないうちに口の中が青臭く苦いものであふれた。がくっとガンダロフォの体がちいさくふるえた。
「飲め」
 言われるままにルキノは飲み下した。喉をおりていくガンダロフォの精液はむせかえるほど量が多かった。
 ルキノはせき込み、ベッドにうずくまった。
「こっちむけよ」
 丸まるようにしていたルキノを起こし、ガンダロフォはルキノの乳首をねじりあげた。
「いたっ」
「いい眺めだ。もう我慢できないんだろう、こんなにして」
 立ち上がり始めたルキノを一瞥しただけてあえて触れはしなかった。ガンダロフォにのしかかられ、すでにあらがう気力も体力もルキノにはなかった。
 自分の体なのに、ひどく遠く感じる。
 まるで体と心が離れていくような、体のうえに同じ姿の自分が浮き上がっているような、そんな奇妙な感覚があった。
「ほしいって言えよ」
「……ほし、い」
「ほしいです、だ」
 ガンダロフォはルキノの額に歯を立てた。わずかに皮膚が痛む。
「あっ、ほしい、です」
 早くこの熱をおさめてほしい。精液を飲まされた屈辱も、乱暴に扱われることも、どうでもいい。
「はやく」
 ガンダロフォは苦しげな声をあげるルキノの下肢に、かすかに生臭い瓶の液体を注いだ。冷たさに瞬間体がすくむ。瓶を逆さにしてガンダロフォは液体の残りをあおった。
「自分でひろげて見せろ」
「っん」
 ルキノに恥ずかしさはなかった。もう逆らう気持ちはどこにもない。じらされるのが辛く、秘所をさらす時間がとてつもなく長く感じた。
「ヒクつかせてやがる」
 差し入れられたガンダロフォの指を難なく受け入れ、指の動きに声がもれた。
「二本でもゆるゆるかよ。淫乱だな。いままで何人の男をくわえ込んできたんだ」
 体の内側の感じやすいところをガンダロフォの指が刺激する。電極を差し込まれたように体に痺れが走る。
「おねがい」
 声がふるえた。
「なにが」
「挿れて」
 さっきから足に当たる、熱く脈動するものを早く入れてほしい。
 にやっと笑うとガンダロフォは指を引き抜き、自身を一気に突き入れてきた。
 ルキノの背中が跳ねた。
「んっ!!」
「きつい。いいよ、ルキノ」
 ルキノはガンダロフォの首にしがみついた。体の奥に達した大きく硬いものを受け入れた自分が信じられなかった。
 ガンダロフォは無言で腰を動かし始めた。
「あっ、あっ……んっ」
 ゆるやかな動きはやがて激しさを増した。
「い、いたい……」
「おいおい、きもちいい、だろ」
「やだ……ああっ……!」
 ガンダロフォから手をはなし、ルキノは顔を覆った。荒々しい動きにルキノの体はベッドのうえで小さく弾んだ。
「後ろをむけ、足をひらけ」
 半ば強引に体を反転させられ、ベッドに両膝を大きく広げて四つん這いになる。
「うっ、くっ……ん」
 更に奥まで突かれて、内臓が押される。胸の内側にまで苦しさが届く。息が不規則になるのは、呼吸をこらえてガンダロフォを受け入れているからだ。
「いやだ」
 容赦ない動きにルキノは悲鳴をあげた。
 痛みのなかでルキノは幻を見た。
 出口のない巨大な迷宮に不意に扉が現れる……。扉のノブに手をかけてはいけない!
 けれど意思に反してルキノ自身は触れないままで、はち切れそうになっている。
「いけ」
 ガンダロフォが腰をつかんで激しくルキノを突き上げた。
「やだ!! こわい……こわい……」
 自分が自分でなくなる。
 愉悦への扉を開けたら二度と戻れない。
「こわいのは最初だけだ」
 ガンダロフォはルキノの首筋を甘噛みした。
「あっ!!」
 ぱたぱたと、シーツに白濁した液が飛んだ。
「っ、きた」
 背中のガンダロフォの体が痙攣したように小刻みにふるえたかと思うと、ルキノの中が液体で満たされた。
「搾り取られた気分だ」
 ルキノは自分を支えきれずにそのままシーツにくずおれた。


 まだ暗いうちに目が覚めた。頭に痛みを感じて額に手をやる。
「起きたか」
 ぎょっとして隣を見ると、ガンダロフォが手枕してルキノを見ていた。
「楽しんだか、氷人形」
 部屋の照明がつくと、裸のままのガンダロフォと自分が見えた。
「キスマークだらけにしやがって」
 言われてルキノは体を見た。見える範囲だけでも目立つキスマークが何ヵ所もあった。
 ガンダロフォの体にも無数の赤いものがちりばめられていた。
「お前がつけた」
「うそだ」
「こんなところに自分でつけられないだろうが」
 ガンダロフォは首を指さした。そこにも赤い蝶のように形がついている。
 ルキノは首を左右に思い切りふった。
「いってからのこと、覚えてない? 記憶が飛ぶほど良かったか」
 じりじりと離れようとするルキノをガンダロフォは逃がさなかった。
 力づくでルキノを夜具に引き入れ、いい放った。
「おまえはもうおれから離れられない」
 ルキノはガンダロフォの頬を平手で張った。
 乾いた音が室内に反響した。
 ルキノは、やにわに立ち上がると脱ぎ散らかされた服をつかんで裸のまま通路に飛び出した。
「また夕方にな……」
 ガンダロフォの声がいつまでも追いかけて来るようだった。
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