狩りの時間

ビター

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闇を巡る 2※

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 ロベルトはルキノに無理な要求はしなかった。
 気づかうように、ルキノを正面から抱きとめ、ゆるやかに腰を動かした。
「あぁ」
 夜ごとガンダロフォトと体をかわしながら、決して味わうことのない甘い情感にルキノはふるえた。
 暴力的でない行為は何日ぶりだろうか。ルキノはロベルトの首に腕をまわし、唇を耳に押し当てた。
「おろすから」
 ロベルトはルキノを床に横たえた。体はつながったままだ。ルキノ自身が固くなって自分の腹にぶつかった。
「もっと」
 ルキノの懇願にロベルトが戸惑うように目をそらした。
「なに?」
「いや、まえはこんなふうに自分から言い出したりしなかったから、その」
 今さらのようにロベルトが顔を赤くしている。ルキノの中に愛おしさがわいてきた。ロベルトはガサツだけれど、いつも優しかった。そして、今も優しい。
「好きにしていいよ」
 ルキノのかすれた声にロベルトは目を見開いた。
「ああ」
 ロベルトはシャツを脱ぐと、ルキノの奥深くまで体を進めた。
「うっ、あっ、ん、おおき……い」
 頭がくらくらとする。ルキノは迷わず快楽の波に身をあずけた。ルキノの上気した頬に誘われるように、ロベルトの動きは早くなった。
「あっあっ」
 体の芯がとろけるほど熱くなる。ロベルトも額に汗をうかべ眉を寄せて一心に腰をゆする。
 と、突然扉があいた。
「!」
 反射的に動きを止めた二人の横を人形が通り過ぎていった。仕事を終えた人形が戻ってきたのだ。
「こんばんは、マスター」
 ブロンドの人形は会釈して奥へと去っていった。
 人形は身につけているものをすべて脱ぎ、ランドリーボックスへ入れた。アクリルで仕切られたメンテナンス用の小部屋の定位置へ行くと、そのまま目を閉じスリープモードになった。
 ルキノとロベルトは顔を見合わせて、くすりと笑った。
「これからどんどん戻ってくるけど、気にしないで」
 ルキノが言うと、ロベルトはぎくしゃくとうなずいた。続きが始まった。
 時折、人形が帰ってくる。
「こんばんは、マスター」
 極上の笑みを、もつれあう二人に投げかける。やがて人形が何体来ようと気にならなくなった。
「あ、でそうだ」
 ロベルトが顔を歪めて必死にこらえている。その手がルキノのシャツの下の胸をじかに触った。しこりにぶつかったような、小さな痛みをルキノは感じた。
「あっ!」
 背中を反らせてロベルトはルキノの中に放出した。腹の奥が熱くなる。ルキノもわずかに遅れて達した。
 荒い息のままでルキノのうなじに顔を押しつけるようにしていたロベルトは小さく叫んだ。
「え!?」
 ロベルトは手を引き抜き、まじまじと自分の両手を見た。それからルキノのシャツをたくしあげた。
「胸が」
 起きあがったルキノは自分の胸に手を当ててみた。太ったわけではない。むしろあばらが指にあたる。あばらが浮いた胸にかすかなふくらみ。乳房というには、あまりにささやかであったが、確かに胸はふくらんでいた。
「霜魚みたいだ」
 ロベルトの口をついて出た言葉にルキノは呆然とした。
 白い髪にわずかな胸。それはそのまま霜魚の特徴だ。ルキノの手がふるえた。
「なにか、されたのか?」
 扉が開き靴音がした。人形が帰ってきたようだ。
「わからない……」
 まさか瓶の液体が何かの薬だったのだろうか。例えば、女性ホルモンを多量に含んでいた?
 ――女になりたい。
 ルキノは思わず自分の腹を見た。アレッシオのように膨らんではいなかった。
 ふたりは、ただ不安げに顔を見合わせるだけだった。
「こんばんは、ロベルト」
 低い声に驚き振り仰ぐと、そこにはガンダロフォがいた。
「あ!!」
 止めるまもなく、ガンダロフォはひざまずいているロベルトの顎を容赦なく蹴りあげた。
 ごつ、という鈍い音がしてロベルトが後ろの壁に頭をぶつけた。
 振り返ったガンダロフォの眼は血走っていた。
「やってくれたな、ルキノ。さすがおれが見込んだヴァイオレット」
 ガンダロフォの腕がルキノに伸びてきた。いつもの暴力がフラッシュバックしてルキノの身がすくむ。
「や、やめろ」
 鼻と口を血で汚したロベルトが、膝でにじりよるとルキノをかばい二人の間に割り込んだ。
「間男が」
 吐き捨てるように言うと、ガンダロフォはロベルトの髪をつかみ、拳をふりあげた。ルキノは両手で顔を覆った。
「ルキノも……」
 言葉は途切れ、ルキノにロベルトの衝撃が伝わりガンダロフォが手を離すと、ロベルトの首ががくりと落ちた。
「や、やめてくれ」
 ルキノは血を流し倒れたロベルトのうえに覆い被さった。ロベルトは歯が折れていた。鼻からの出血もひどい。見るまに顔が内出血で腫れ始めた。
「わ、わたしから誘ったんだ、ロベルトは悪くない」
 はあ!? とガンダロフォは短く叫んだ。
「あれほど嫌っていたくせに、すっかり淫乱になったもんだ」
 ガンダロフォはルキノの胸ぐらをつかみ、引きずるようにして立ち上がらせた。
「よくも下賤なクラスの精液を入れてくれたな。こんな時じゃなかったら八つ裂きにするところだ」
 ルキノの顔に噛みつくような近さでガンダロフォは恫喝した。
「ル、ルキノに手を出すな……」
 よろめきながらもロベルトはガンダロフォに掴みかかった。
「たかがブルーの一人や二人、いつでも消せる」
 ロベルトをにらんだ瞳は冷たく澄み、完膚なきまでの真顔だった。
「ジュリオはどこだ!?」
 くぐもった声でロベルトは食い下がった。
「なんのことかな?」
 ガンダロフォはルキノをソフアに突き倒すようにして座らせた。
「ジュリオ、も、そうだった。いなくなる少し前から、あんたが見張ってた」
「ほお?」
 ガンダロフォは右手を腰にあてた。
「ジュリオは怖がっていた……!」
 ガンダロフォは声をたてて笑った。まるで、はなからとりあわないとでも言うように。
「こんどは、こんどこそは施設長に言う、おまえに……ルキノを好きにさせない」
「わかってないな。言ってみればいい。ギルは何もできない」
 それに、とつけ加えた。
「ヴァイオレット相手に恋人きどりか? 女を知らない不憫な奴。あと五年、いや三年でおまえらブルーにも生身の女が支給されるさ」
 ルキノもロベルトもガンダロフォの芝居がかったせりふに鼻白んだ。
「出ていけ」
 ガンダロフォは床のロベルトのシャツを蹴った。
「医務室に……」
 立ち上がろうとしたルキノの肩をガンダロフォが押した。
「一人で行けるよな? コドモじゃないんだから」
 ロベルトはうめき、ルキノを見つめている。
「早く行ったほうがいい。酷い顔してる」
 ガンダロフォはルキノを押さえつけたま、低く笑った。
「かならず……」
「行け!!」
 ガンダロフォはロベルトに最後まで話させなかった。足を引きずり、ロベルトは扉の向こうに消えた。
 ルキノは小さくふるえていた。ガンダロフォとただ二人残された部屋は、緊張の糸が張りつめていた。
「さて……」
 ガンダロフォがソファの背に手をかけ、ルキノに覆いかぶさるようにした。ルキノの心臓は早鐘を打ち、指先が冷たく痺れてきた。
「後ろを向け」
 命じられて後ろを向いた。ガンダロフォはルキノの膝に両手をかけて開かせると、何も言わずに指を突き入れた。
「いたっ!! いたい」
「中はぐしょぐしょか。まったくどれだけ搾り取った?」
 ガンダロフォはルキノの悲鳴を無視して、さらに奥まで指を差し込み精液をかきだした。ルキノの腿を液体が伝う。部屋には血のにおいと体液のにおいで満ちていった。
「なんだ。こんなのでも感じるのか?」
 ルキノは今日何度めかの昂ぶりを下半身に感じた。感情など無視して、鎌首をもたげ始めている。
「すぐにでも腹を切って中を確かめられたら……くそ、ろくな機材も手に入らない辺境に飛ばしやがって」
「ああっ!」
 ルキノはガンダロフォの指だけでいってしまった。ルキノは体をふるわせた。ソファの背に、涙の染みがいくつもついた。背後でガンダロフォが笑っているのが分かった。
「あともう少しだ。それまでは生かしておいてやるよ」
 どん、とルキノの胸を乱暴に突くと、ガンダロフォは窓のシェードをあげた。
「ひっ!!」
 窓には無数の霜魚が集まっていた。ガンダロフォはなぜか満足げに笑うとルキノを見た。
「……月が満ちたら、狩りに行く」
 霜魚たちのむこうの虚空に、真円に近くなった月が輝いていた。

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