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冬の章
ブッシュドノエル
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いったいどうしてこうなった。
風と茉莉花は、皿の上のいびつな【薪】を前にして下がり眉だ。
何が悪かったのだろう。ふたりは腕ぐみして首をひねる。茉莉花が先に考察した。
「焼きすぎたんだよ。生地を。それで、ぼそぼそだからうまく丸められなかった」
「そうだね。それから、バタークリームを塗るタイミングが早すぎたんじゃないかな。ロールケーキが冷えていないから、クリームが解けてしまったんだ」
おかげで、幹の部分はうまく丸まらず、クリームは半分溶けてしまっている。見た目、美味しそうとは言えない仕上がりだ。
いちおう動画なども見てから取り掛かったはずだが、見るのとやるのとでは大違いだったのだ。十二月第二日曜日、風と茉莉花は敗北を喫した。
「おお、できあがったか。うまそうじゃないか、一切れ味見させてくれないか」
寝室から昼寝を終えてリビングに出てきたおじいが、肩を落としたふたりに声をかける。
「そうだね、ともかくお茶にしよう。クリスマスまでにはまだ時間があるから、反省点を整理して来週またチャレンジだ」
風が言うと、茉莉花は下唇を噛んでうなずいた。それから両手で自分の頬をぱちんと叩くと、風と一緒にお茶の用意をした。
不格好なブッシュドノエルは、それでも味は悪くなかった。
「バタークリームって、ときどき無性に食べたくなる」
風は【薪】のクリームをすくって口に入れた。無塩バターを練って作ったクリームは、見た目よりも軽く、こくがあって舌のうえすっと溶けていく。
「うん、うまいじゃないか」
おじいは切り株のケーキをゆっくりと口に運ぶ。茉莉花は、ちょっと不満げだったがケーキを一口食べると、瞼がすっと持ち上がり、目をぱちくりとした。
「見た目よりも、ずっとおいしい……」
茉莉花は正直な感想を口にする。思わず風は笑ってしまった。
「そうだね、おいしい。来週は、もっとおいしいのが作れるよ、きっと」
風の言葉に茉莉花は大きくうなずいた。
誰かにプレゼントするものなのか、家族用なのか、それとも友人たちとのパーティー用か。詳しく聞きはしないが、茉莉花には茉莉花の事情があるのだろう。
風にしても、おじいと二人きりだから、ホールのケーキなど買うわけはない。せいぜいショートケーキを買うくらいだった。ほんとは一年一年大切にしてくべきなのだ。
おじいは週に二回、月木をデイサービスで過ごすようになった。塗り絵や折り紙はしてこないが、皆と一緒に軽い運動をしたり、会話を楽しんで来る。
おじいがディサービスへ通うことで時間が出来たので、仕事のことを伊東に相談した。今よりも仕事を増やして欲しいと。すると伊東は「空いた時間は、葛城さんが体を休める時間に使ってください」と風に伝えた。
今までも、さして疲れてきたわけでないし、仕事を増やして収入を少しでも上げるほうがいいと思っていたのに、意外な返答に風は肩透かしを食らったように感じた。
けれど、今まで短時間外出するにせよ、おじいのことが気にかかってゆっくり買い物や通院をすることもなかったのだ。伊東のことばに素直に従ってみることにした。
そうすると、時間にせかされることがない日が週に二回できると自然と気持ちに余裕が生まれた。いままで気を張って暮らしていたことに気づいた。収入はいまのところ増えてはいないけれど、伊東の意見に従っていてよかったのだと感じた。
12月下旬、おじいはディサービス先でクリスマスを祝って帰宅した。
茉莉花は二回目のチャレンジで、まずまずのブッシュドノエルを完成させた。
年はゆっくりと暮れていった。
風と茉莉花は、皿の上のいびつな【薪】を前にして下がり眉だ。
何が悪かったのだろう。ふたりは腕ぐみして首をひねる。茉莉花が先に考察した。
「焼きすぎたんだよ。生地を。それで、ぼそぼそだからうまく丸められなかった」
「そうだね。それから、バタークリームを塗るタイミングが早すぎたんじゃないかな。ロールケーキが冷えていないから、クリームが解けてしまったんだ」
おかげで、幹の部分はうまく丸まらず、クリームは半分溶けてしまっている。見た目、美味しそうとは言えない仕上がりだ。
いちおう動画なども見てから取り掛かったはずだが、見るのとやるのとでは大違いだったのだ。十二月第二日曜日、風と茉莉花は敗北を喫した。
「おお、できあがったか。うまそうじゃないか、一切れ味見させてくれないか」
寝室から昼寝を終えてリビングに出てきたおじいが、肩を落としたふたりに声をかける。
「そうだね、ともかくお茶にしよう。クリスマスまでにはまだ時間があるから、反省点を整理して来週またチャレンジだ」
風が言うと、茉莉花は下唇を噛んでうなずいた。それから両手で自分の頬をぱちんと叩くと、風と一緒にお茶の用意をした。
不格好なブッシュドノエルは、それでも味は悪くなかった。
「バタークリームって、ときどき無性に食べたくなる」
風は【薪】のクリームをすくって口に入れた。無塩バターを練って作ったクリームは、見た目よりも軽く、こくがあって舌のうえすっと溶けていく。
「うん、うまいじゃないか」
おじいは切り株のケーキをゆっくりと口に運ぶ。茉莉花は、ちょっと不満げだったがケーキを一口食べると、瞼がすっと持ち上がり、目をぱちくりとした。
「見た目よりも、ずっとおいしい……」
茉莉花は正直な感想を口にする。思わず風は笑ってしまった。
「そうだね、おいしい。来週は、もっとおいしいのが作れるよ、きっと」
風の言葉に茉莉花は大きくうなずいた。
誰かにプレゼントするものなのか、家族用なのか、それとも友人たちとのパーティー用か。詳しく聞きはしないが、茉莉花には茉莉花の事情があるのだろう。
風にしても、おじいと二人きりだから、ホールのケーキなど買うわけはない。せいぜいショートケーキを買うくらいだった。ほんとは一年一年大切にしてくべきなのだ。
おじいは週に二回、月木をデイサービスで過ごすようになった。塗り絵や折り紙はしてこないが、皆と一緒に軽い運動をしたり、会話を楽しんで来る。
おじいがディサービスへ通うことで時間が出来たので、仕事のことを伊東に相談した。今よりも仕事を増やして欲しいと。すると伊東は「空いた時間は、葛城さんが体を休める時間に使ってください」と風に伝えた。
今までも、さして疲れてきたわけでないし、仕事を増やして収入を少しでも上げるほうがいいと思っていたのに、意外な返答に風は肩透かしを食らったように感じた。
けれど、今まで短時間外出するにせよ、おじいのことが気にかかってゆっくり買い物や通院をすることもなかったのだ。伊東のことばに素直に従ってみることにした。
そうすると、時間にせかされることがない日が週に二回できると自然と気持ちに余裕が生まれた。いままで気を張って暮らしていたことに気づいた。収入はいまのところ増えてはいないけれど、伊東の意見に従っていてよかったのだと感じた。
12月下旬、おじいはディサービス先でクリスマスを祝って帰宅した。
茉莉花は二回目のチャレンジで、まずまずのブッシュドノエルを完成させた。
年はゆっくりと暮れていった。
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