女王の巡り

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融合

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 豊かな胸のうえで翡翠の首飾りが揺れた。揺れたのは首飾りなのか胸なのか。頭の後ろで高く結い上げた長い黒髪はゆるやかに波うって肩まで届いている。体に塗られた甘い香りは大輪の花を思わせた。
 ヨナはこわごわと自分のうえにまたがる少女の薄いしげみから目が逸らせなかった。初めて目にする女の裸体にヨナはふるえた。
 褐色の肌、足のあいだにわずかに切れ込みがあるように見え、何故か大きく喉が上下した。
 弓の戦士は引き続きヨナの足の掴み、少女を避けることができない。
 少女は目の戦士の手を借りながら、ヨナの固くなったものに手を添えたが、じかに見ることを拒むように横を向いた。
 大きく息を吸うときつく目を閉じ、細い指に握ったヨナの一部を縦の割れ目へとねじ込んでいった。
「!? ちがう……」
 間違っている、入れるのはそこでは……。
 思わず叫んだヨナの言葉を理解したのか、口を歪めると目の戦士は少女にささやいた。
『やはり女を知らぬ』
 くすっと鼻先で笑い、見下すような視線でヨナを見た。ようやくヨナも気づいた。男と女ではちがうことに。
 伯父から教えを受けるときには……不意に伯父の指使いを思いだし、込み上げるものがあった。

 ――ひとかどの男になるためには、この教えはかかせないのだ。

 そう言うと、伯父はヨナの体を……。
 目の前で繰り広げられているのは、自分と伯父の夜の光景とよく似ている。
 少女はあれこれと助言する戦士に答える余裕もないらしく、ただ性急に押し込もうとする。
「つっ」
 表皮が乾いた布でこすられるようにひきつれ、ヨナは小さく悲鳴を上げたが、それは少女も同じだった。ほんのわずかの体への侵入も許さなかったようだ。
 何度もこころみるがうまくいかない。進展しないなかで、ヨナはこの儀式が終わったなら、自分は殺されることを知っていた。

 ――翡翠宮ジェイドラには女しかいない。女王が代わるとき、子種を求めて宮から出てくる。そして男を狩るのだ。

 伯父の声を、腕枕の感触とともに、まざまざと思い出す。
 種を吸いとられた男は、女王の手でほふられ、切り落とされた『夫』の首は翡翠宮に並べられるのだ。
 いくばくもない命を思うと、ヨナの心臓は縮みあがり、中心は次第に力を失っていった。少女はたびかさなる不手際に眉を寄せ、今にも泣き出しそうになっている。
「……!」
 業を煮やしたように老婆が戦士たちを指差し何かを命じると、戦士二人は互いに目くばせしたように見えた。すると、ヨナの足を押さえていた弓の戦士は少女を後ろからするりと抱き寄せヨナのうえから退いた。
 まるで蜘蛛が獲物を絡めとるように、少女の両腕の肘を左手で頭の後ろまで引き上げて押さえ、両足で少女の足を開かせて固定した。
 悲鳴が少女の口からあがった。あたかもはりつけにされた蛙のような姿だ。胸も足のあいだのものも、見せつけるようにしてヨナの視界に入ってくる。
 悲鳴をあげ続ける少女の胸を戦士の手はとがった乳首を軽くはじき、下へとおりていく。首にあてた唇は赤い舌をのぞかせ耳たぶまでなぞってゆく。手が動くたびに少女は体をよじり、歯向かうように暴れたが戦士はびくともしない。細くしなやかな指は、少女の足の間へとたどり着いた。
 瞬間、少女が空を仰いだ。
 戦士の指先が繊細に動き始めた。中指が円を描くように動くと、少女は歯を食いしばり足を閉じようとした。ヨナからもそのようすは見えた。いつしか、かすかに湿った音がしてきた。戦士の指に透明なものがまつわりつき、少女の秘所から蜜がしたたり始めていることを教えた。
 女性の体の変わりように、ヨナは固唾をのんだ。それに並行して、下腹部が熱くなっていくのを感じずにはいられない。
 今や少女の薄紅色のすき間は広げられ、無表情の戦士の指が細いみぞをなぞるように、ゆっくりとなんども出し入れされている。そのたびに少女は悲鳴を必死に抑えているが、唇から鼻にかかった甘い声が時おりもれる。
 戦士にもてあそばれる少女の瞳は潤み、切なげに眉を寄せる。
 蹴られた鼻の奥に再び痛みを覚え、寝かされているというのにめまいを感じた。
 ぬるりとした感触にうろたえヨナは自分の体に目を戻した。
 いつのまにか目の戦士がヨナにおおい被さっていた。挑むような目つきでヨナを見据え、戦士はヨナに歯をたてた。
「うああっ!」
 噛みきられる! 
 全身から冷や汗がふきだした。思わず体をねじって戦士を振りほどこうとしたが、無駄だった。
 ヨナの狼狽ぶりに満足したのか、するどく笑うと戦士は喉奥ふかくまでくわえこむと、大きく頭を上下させた。
「っあっ、や、やめろ」
 ヨナの抗議もむなしく、ほしいままに貪られ、瞬く間にヨナは固くなっていく。このままでは、女の口へ吐き出してしまう。伯父から分けられたみこの精を渡すわけにはいかない。
 ヨナは手を固く握りしめてこらえた。すぐ隣にいる少女の体ががくがくとふるえ、まるで気を失ったように、そのままぐったりと首が落ちた。
 理由など分からないが、このまま二人ともに戦士たちに殺されてしまうのかと目の前が暗くなった。
 と、戦士が寸でのところでヨナから体をはなし、口元を手の甲で拭うと弓の戦士に合図した。
 はちきれんばかりに天をむくヨナの真上に、腕をつかまれた少女が再び据えられた。
 どこか焦点が合わぬような目つきで、少女はヨナをぬれそぼった自身にあてがった。わずかに腰をおろすと、少女のなかへヨナは導かれた。
「……」
 最初の部分をくわえこむと、少女は息を止めて一気に体を沈めた。
「!」
 わずかな段差を感じたあと、ヨナは急激に締め付けられた。狭く、きつく、甘い痺れが腰から背中へと駆け上がる。
「あ、ああっ」
 少女はヨナの上で大きくなんども息をした。流れ出た涙をぬぐい、ぎこちなく腰を動かし始めた。おそらく、痛いはずだ。自分も初めて伯父から教えをうけたときには、痛くて泣いた。体が串刺しにされるような痛み、互いの体の熱さ。ただされるがままになっていた。
 少女の胸が大きくはずむ。そらした顎に汗の雫が一つ、ふたつ。褐色の肌が紅色に染まっていくのが見てとれた。いまや少女は声をこらえてはいなかった。
 ぐん、っとヨナは体の中で殻が弾けたように感じた。
 瞬きをすると、木の中の命が透明な流れとなって見えた。横たわる地面には人に似た踊る小さな影があまた見えた。それらは手を取り合い、睦びあって一つに融け合い三つや四つに分かれて増えていく。
 森の草や花の輪郭が光り始めた。かすかな旋律、鼓動によく似た律動、小さな人影は歌い踊り重なり合っていく。
 ヨナは体のうえの少女の顔を初めてまざまざと見つめた。
 苦し気に眉をよせ、形のよい厚めの唇からは悩まし気な声がもれていた。ヨナの視線に気づいたのか、少女はヨナと目を合わせた。
『……』
 何も聞こえなかった。けれど、ヨナの胸は水を注がれたように何か知らぬもので一杯になった。
「あっ」
 ヨナの体は大きくはねた。それはあまりに急激でヨナ自身には止められなかったのだ。
 ビクビクといまだ少女の体内でヨナはふるえた。精が解き放たれた。
 二人は無言で見つめ合った。少女の瞳は首飾りと同じ色だった。
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