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番外編
番外編ー1
しおりを挟むミナギの傍に居る、五人の小さな精霊達の話をしよう。
二人の風の精霊と、光と水と地の精霊が一人ずつの、全五人。
ミナギの幼少期から傍に居て、クレティアでも一番大きな北方の大陸、ロディッキ大陸からベル・オブ・ウォッキング魔法学園があるグラナディール大陸に移動する際、一緒に付いて来た、ある意味物好きな子達でもある。
精霊として生まれては間もなく、まだまだ力も弱い。その上世間知らずで、精霊術師の存在は知っていたが、人間の中には未契約の精霊達が見える力を持ち、声を聞いて話す事が出来る者がごく少数である事すら、知らなかった。
だからこそ、自分達の無知故の行動がミナギを傷付けている事を自覚したのは、ミナギの傍に現れるようになって、しばらく経った後だった。
「キミ等、最近ヒトのコのところに行ってるみたいだけど、そのコは精霊術師なの?たまに、ウチ等の姿は見えてても声が聞こえないとか、声は聞こえてても見えないとか、ウチ等が居るなーってわかる程度のコ等も居るんだけど」
自分達よりも長く生き、力の強い精霊に言われて、初めて全て理解した時には、既に手遅れ。
なぜ、多くの人間達が自分を無視するのか。
どうしてミナギが、自分達と話そうとしないのか。
自分達の姿が見えているのに、途中から無視するようになったのか。
ミナギがどんな家の子供なのか――理解するには遅過ぎた。
「人間の中には、魔法を使えるのが自慢で、そんな家なのに魔法が使えない子供が生まれたら、ミンナでよってたかってイジメるんだよ」
「もしそんな子が、我等精霊が見えるって言ってごらん?嘘つきだーなどと言われてしまう」
「まー、それ以前に、その子、『精霊』って存在を認識してるかどうかだよねー。最近は、グラナディール大陸のベル・オブ・ウォッキングがちょっと前にやらかして、あっしら精霊の存在も広まって来てはいるらしい、が……」
出来る限り、自分達が知っているミナギの情報を語れば、先輩である大きな精霊達は揃って難しい表情をして顔を見合わせた。
五人の精霊達は、単に遊びたかっただけだった、ミナギと。
他の人は無視する自分達に気付いてくれたから、嬉しくて。だから一緒に遊ぼうと、言葉が通じていないのにも気付かず話し掛けて、それが原因で、家族から余計に冷たくされている事を知るには、遅過ぎた。
精霊同士は仲が良く、それが属性の違いがあっても同じ。
力が弱く精神的に幼い精霊達を、力が強く大きな精霊達が守り、時には力の使い方や世界の在り方をを教える事も多い。
だからこそ小さな五人の精霊達には、人間が同じ人間を苛めると言う事実がにわかには信じられずにいた。まあ、最終的にはミナギが大人や同年代の子供達に怒鳴り付けられ、傷付いた顔を見せ、泣いている姿を見て、そうして初めて、人間は同じ人間を苛めると言う現実を受け入れられた。
「あの子の名前、誰かわかる?」
「ぼくたちがなかせちゃったあのこのなまえ?」
「わかんない」
「わっかんなーい」
「わかるわけないじゃん」
最初にミナギの名前を気にしたのは、水の精霊だった。けれど、まあ、当然と言えば当然か、精霊は人間の言葉がわからず、文字も読めないのだから。
精霊術師が精霊と会話している時、周囲の人間には歌を歌っているように聞こえると言う。他の人間には聞き取れない言語で歌う姿に恐れを抱き、結果的に悲惨な事件が過去に何度も起きた事は、後々、ミナギがナギト達とパーティを組むようになってから聞いた話。
でもせめて、自分達のせいで泣かせてしまったあの子の名前が知りたいと、大きな精霊に訊いて回ったが、勿論知る者はおらず。
半ば諦めかけていたところで現れたのが、シエロだった。風の統括大精霊であり、ある精霊術師と契約したと言う、五人の小さな精霊達にとっては、強い味方。まあ、まさか風の統括大精霊が出て来るなんて思ってなくて、突然彼が現れた時には、五人揃って文字通り飛び上がる勢いで驚いた。
当の本人、もとい本精霊は、五人の小さな精霊達のあまりにも見事な驚きっぷりに、腹を抱えて大笑いしながら、その辺を飛び回っていたけれど。
そうして、ミナギの名前を知って。ミナギが結界術師である事を知ったのは、それから少し後。ベル・オブ・ウォッキング魔法学園に入学する事を知ったのは、更にしばらく後だった。
「ベル・オブ・ウォッキング?せいれいのなまえとおなじ?」
「精霊の名前を学園の名前にしたんだって。その精霊が統括してる地域に作ったからって」
「がくえんってしってるよ!にんげんのこどもたちがたくさんあつまるところ!」
「シエロさまがけいやくしたせいれいじゅつしも、そのがくえんににゅうがくするんだよ!」
「にゅうがくしたら、そのこをさがそう!ぼくたちのはなし、きいてもらえるかも!」
知らなかったではすまされない。自分達は間違いなくミナギを傷付けた。だから、ごめんなさいと謝りたい。声が届かないなら、代わりに届けてくれる人を捜して伝えよう。
そして叶うなら、未契約の精霊を見る力を持つミナギの事を苛めないで、受け入れてくれる人がだったら友達になってほしい。理解してもらえなかったミナギの痛みを、きっと理解してくれる筈だから。理解してくれると、信じたい。
ミナギにくっつく形でベル・オブ・ウォッキング魔法学園に着いたら着いたで、入学式ですぐにシエロと契約した精霊術師を見付けたものの、まさか風の統括大精霊だけでなく、光や闇の統括大精霊とまで契約しているだなんて、想定してなくて。シエロを前にした時と同じく、五人の小さな精霊達は文字通り震え上がった。
それでもなんとかミナギの状況を説明すれば、精霊術師のユヅキと、そのソキウスのナギトは新味に話を聞いてくれて。結果的に、ミナギをパーティに入れてもらえたのは、凄くありがたかった。
「ミナギ、ごめんね!いままでいっぱい、ごめんね!」
「ぼくたちのせいで、いっぱいないてた!」
「知らなかったの。僕達のこと、見えない人が多いの!」
「ごめんなさい!」
「ほんとごめんなさい!」
【って、言ってるよ、この子たち】
【……オレには、なんにも聞こえないけど……。ユヅキさんが精霊の言葉喋ってる時も、歌ってるみたいに聞こえるし……でもなんて言ってるかはわかんないな】
【普通の人間はそんなもん。俺も昔は、なんにもないトコ見て笑ったり、突然歌ったりするからびっくりしたもんだ】
笑顔のユヅキに、怪訝な表情のミナギと、肩を竦めるナギトと。そんな三人を見上げながら、五人の小さな精霊達は、やっとミナギに伝えたい言葉が伝わったと諸手を挙げて喜んだ。
ユヅキ達がなんと言っているのかはわからなかったが、ちゃんとユヅキが言葉を伝えてくれた事だけは、はっきり理解出来た。理由は単純明快。それまで自分達と目を合わせようとせず、追い払う事も多かったミナギが、自分達を真っ直ぐ見てくれたからこそ。
しかもその過程で、これからも傍に居て良いと許可が出たのだから、精霊達が喜ばない筈がなかった。
精霊とは違う人間の暮らしに戸惑い、風呂やトイレに付いて来てはいけない理由を知った時は、人間は妙な事を気にするものだと、五人で顔を見合わせた事もあった。ミナギが気にするなら、気を付けるけども。
でもやっぱり気になるからちょっと覗いちゃおうか、忍び込んじゃおうか、なんて考えるのは、小さな精霊達の悪戯心。幼さ故の子供っぽさとも言える。
まあ、勿論精霊にはここに性格があるわけで、小さいから子供っぽい、力が弱い、と言う理論も、間違ったものではあるが。
早い話、精霊自身の個性だ。
【この五人に、何かした方がいい?ご飯……て、精霊は何食べるの?】
【人間のご飯も食べるっちゃ食べるが……肉は食べないな。後は本人達の好み。甘いの好きなヤツ、苦いのが好きなヤツ、辛いのが好きなヤツ、色々だ】
【でもこの子達は……ミナギくんが食べてるもの分けてあげたら喜ぶんじゃないかな】
自分達を見渡して笑うユヅキに、何の話をしているかわからず、通訳してと騒ぎ立てるのはいつもの事。
そうして通訳してもらった内容に、その通りだと二人手を取って大きな丸を作るのは、風の精霊コンビ。わかりやすい主張に、ふ、と小さくミナギが笑えば、五人の小さな精霊達は揃って手を叩いて喜んだ。
見たかった笑顔が、ここにある。
自分達のせいで余計に傷付いて、泣かせてばかりだったミナギの笑顔が、ここにある。
その現実に、笑顔が止まらない五人の小さな精霊達を見てユヅキもにこにこ。ユヅキと精霊達の笑顔を見て、恥ずかしいような、むず痒いような、複雑な表情を見せるのはミナギ。残ったナギトだけは、精霊が見えない為、なんとなくこうなんだろうな、と状況を予想する程度だ。
本当に見えないのかな、と悪戯してみようと思った小さな精霊達だが、そこはナギトの傍に居るセラータやアルバに恐れをなして、大人しく我慢した。
流石の精霊達も、統括大精霊の前で悪戯する度胸はないらしい。度胸のある者も居るには居るが、少なくともここには居ない。
「これから、みんなでがんばろーね!」
「ミナギいじめるにんげんゆるさない!」
「わるいこはおしおき!」
「おしおきするんだ!」
「僕達は、契約出来ないけどミナギと一緒に居る精霊だもんねっ!!」
おーっ、と。五人で手を繋ぎ、輪になりながら声を上げる。精霊はその属性に関係なく仲が良いとは聞くが、本当に仲が良い。
そんな仲の良い精霊達を見下ろして、困ったようにミナギは笑っていた。
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