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本編
本編ー7
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自分のクエスト報酬を全部授業の単位にとして受け取っているナギトにとって、ベル・オブ・ウォッキング魔法学園の敷地内にある実技演習場で行われる実技授業は数少ない授業に参加する機会だった。
そのせいか、同じ学年にどんな生徒が居るかも知らず、授業に参加すれば実技担当の教師や同級生達からはまるで珍獣の様な扱いを受けているのはご愛敬。
一年生四回目のナギトにとっては、そんな視線も扱いも今更だけど。
ただあえて言うなら、学内ランク認定試験で派手に目立ったお陰で、実戦授業で対戦相手に選ばれた生徒が半泣きになるのが少し困りもの。なぜか苛めている気分になるから。
まあそれでも、中には強いモンスターと戦う事もあるんだからと、気を引き締めて掛かって来る同級生はいるけれど。
仮想モンスターとして挑まれるのは、それはそれで引っ掛かるものがある。
でもナギト自身も、危険度ランクの高いモンスターを前にした時、父親や母親を基準に考えて、あの二人よりは弱いとか考えるのだから、人の事をとやかく言えないか。
魔法剣士学科は、魔法剣士であるがゆえに、純粋に魔法を使わず剣のみで戦う授業も用意されている。
人によっては習っている流派がある為、細かい指導が必要な者、剣の握り方や自分に合った剣を選ぶ者達が受ける授業と、生徒同士での実戦に近い状況での戦闘訓練授業とで、パターンに分かれていた。
ナギトの場合は、実戦に近い状況での戦闘訓練。
自分に合った剣もわからないのに魔法剣士を目指す者を、時に人は剣なしと揶揄する事があるが、バカバカしい話。誰だって最初は、わからない事だらけなのだから。
時には、教師の指摘により使う剣を変えた結果、大きく成長した例もあるのだから、侮れない。
「ヴェルメリオ、ツーハンドソード」
≪ああ、遠慮なく使え、ナギト≫
赤い閃光が、実技演習場内部を染め上げる。
ナギトの指に誘われるようにして左耳から離れたヴェルメリオは、赤いイヤーカフから赤い刀身を持つ一振りのツーハンドソードへと姿を変えた。瞬間上がるどよめきや感動の声は、観客として見守っていた生徒達のもの。稀少な魔法剣の精霊を生で見られるのだ、この反応は、むしろ当然か。
だが、初心者向け授業を受けている生徒達までこっちを見ていて良いのだろうか。教師も一緒になってヴェルメリオを見ているので、もう考える事を放棄した方が良い。
今回ナギトの実戦相手を務めるのは、地元の村で自警団としてモンスターや盗賊と戦っていたと言う実戦経験者の男子生徒。時には狩人として狩りをしていたらしい。名前は、ワイリーン・ノーヴェル。
その証拠とでも言うのか、実技を受ける為の学園支給の運動服に覆われていない腕には、くっきりと何かのモンスターに付けられたらしい爪跡があった。古い傷なのは、見ればすぐにわかる。使っている剣は、鞘の形状や長さから見て、一般的なロングソード。十五歳で既に自警団としての実戦経験があるなら、多少は実力もあるだろう。
ナギトの読み通り、ワイリーンは学内ランクでDを取っていた。新入生としてはかなり高い評価だと言える。まあ、一年生で既にSランク認定をされているナギトに褒められたとしても、複雑な気持ちになるだろうが。
けれど、気になる事が、一つ。ワイリーンの持つ武器だ。間違いなくワイリーンの持つロングソードは、新品。
自警団としてモンスターや盗賊と戦っていたのなら、ロングソードは多少使い古された感じがあってもおかしくないのに。入学する時に武器を新調したのだろうか。
四方が二〇メートル程の、真四角の実戦舞台の上。そこに、大体一〇メートルの距離を開けて、ナギトとワイリーンは向かい合って立つ。
「魔法禁止の実技授業ってのも面白いよな」
「正直助かりました。僕、魔法はあまり使ったことがなくて……村でも練習してたんですけど……。てんでダメで。正直、学内ランクでDを取れたのも奇跡的なんです」
「誰にだって得手不得手はある。気にすんな。それに、攻撃魔法使うだけが魔法剣士じゃねぇよ。補助魔法や治癒魔法の方が得意って可能性もあんだろ」
「あ……それ、先生らにも言われました」
恥ずかしそうに頭を掻いて言うワイリーンに、だがしかしナギトは軽く肩を竦めるだけ。
なんて事はないとさらっと言い切るナギトに、少しだけ緊張していたワイリーンの顔が明るくなったように見える。教師達と同じ言葉が、学内認定ランクでSランクを取った生徒から出たからだろうか。
左手で柄を握っていたヴェルメリオを、刀身を立てたままナギトが一度ぐるりと自分の体の周りを一周させ、それから左足を引きながら腰を下ろして両手で構える。
その動きから、ヴェルメリオが軽いのは、多少剣を扱う者ならすぐに理解出来るだろう。が、相手は稀少な魔剣の精霊だ、動きが軽いからと言って、剣撃までもが軽いとは限らない。
そもそも魔剣の精霊に、人間の常識が当てはまるだなんて、とても思えないから。
「それぞれ真剣を使うが、相手に必要以上にケガをさせないように。審判の判断で中断もありうるからそのつもりで。魔法の使用は禁止。補助魔法でも使った場合は即失格だ。相手が敗北を認めるまでは訓練は続行、いいな?」
「はいっ!」
「へーい」
緊張しているワイリーンに対して、ナギトは自分のペースを崩さない。
戦闘開始の合図を待つ二人の態度は、対照的。それでもきっと、開始の合図を聞いた瞬間動き出す筈だ、と。ワイリーンは勿論、実技担当の魔法剣士教師、周囲で見守っている生徒達も、思っている。
同じ魔法剣士学科の一年生だ。学内ランク認定試験でのナギトに関わる一件は全て見ていて、実力は、よく知っている。仮に魔法禁止でも、同じ学年にナギトに勝てる者は居ない事も。
だからと言って、この実技授業から逃げる事は出来ないけれど。
教師曰く、時には勝てそうにないモンスターを前にする事もあり、勿論逃走を選ぶのが定石だが、簡単に逃げられる相手なら苦労はしないと。時には戦う必要もあるからこそ、立ち向かう勇気や強さも必要なのだ、と。
結局、どう転んでもナギトが仮想強敵モンスター扱いされているのは否めないか。
実戦開始の号令が響く。瞬間的に飛び出したのはワイリーンで、ロングソードの柄を両手で握り、ナギトに向かって突進。顔の横でロングソードを構えると、真っ直ぐに刃を突き出す。
しかし、この攻撃を想定していたのだろうナギトは、避けようともせず、自分の正面の床にヴェルメリオを突き立て、刀身の腹でこれを受け止めた。
剣と剣とがぶつかり合う剣戟音が、響く。
渾身の突きが届くとは思っていなかった、ワイリーンだって。でもまさか、ヴェルメリオの刀身で受け止めるなんて、想定外。ハッと息を呑むワイリーンに対して、眉一つ動かさないナギトの対比は、筆舌に尽くしがたい。
「イイ突きじゃん、慣れてるな」
「っ、どうも……っ!」
一度ワイリーンがロングソードを引き大きく数メートル後退。が、彼の両足が部隊の床に着くよりも早く、次に仕掛けたのはナギト。ヴェルメリオを引き摺るようにして前に出ると、今まさに着地しようとしていたワイリーンに向けて大きくヴェルメリオを振り抜く。下から上へ、斬り上げる形で。
ワイリーンも負けじとロングソードの刀身でこれを受け止めようとするが、剣の大きさから来る剣撃の重さの違いか、ロングソードが弾かれる。
大きく体勢を崩したワイリーンの隙を、見逃してくれる程ナギトも優しくなくて。
両手を大きく上げた状態の無防備なワイリーンの腹を、思い切り右足で蹴り飛ばす。流石に舞台の外まで吹っ飛ぶ事はなかったが、軽く数メートルは吹っ飛んでいた。
「えぇっ?!」
「ちょ、今のあり!?」
「先生!これ実戦授業ですよね?!」
「いやありだろ。だって剣だけ使って戦う授業じゃねぇし。魔法禁止なだけだろ」
「実際にモンスターと戦ってたら、手も足も出るものよ?」
「ああ、『剣だけ』とは誰も言っていない。『魔法禁止』と言っただけだ。なので今のアクオーツの攻撃は問題ない」
まあ、ちょっと容赦ない気がしたけど、と続く教師の声は、聞こえなかった振り。
ざわつく周囲の生徒達を横目に、ナギトはヴェルメリオを肩に担ぎ、ふーっと細く長く息を吐く。まだ一撃しか見ていないが、僅かな違和感がある、ワイリーンには。明確に、どんな違和感かと訊かれると、困るけど。違和感の正体に気付くには、時間が足りない、圧倒的に。では、どうするか。
答えは簡単。続ければ良い。
体をくの字に折り曲げ、蹴り飛ばされた腹を抱えて呻き声を上げるワイリーンへと、歩み寄る。
「おーい、だいじょぶかー?」
「う……っ。だいっ、じょぉぶ……ですっ。やれま、す!」
「イイねぇ」
思い切り蹴り飛ばされ、まだ痛む腹を抱えながら、ワイリーンが起き上がる。多少よろめいているものの、それでもしっかりと両足で立ち、ロングソードを構える。やる気は十分だ。
ナギトの蹴りは綺麗に決まったが、それでも敗北を認めないのは、負けず嫌いだからか、本当にまだやれるからか。
対するナギトとしては、どちらでも良いけれど。
戦闘開始の合図がかかった時の位置まで、二人は戻る。そして今度は、仕掛けるのはナギトの方が先だった。
ヴェルメリオを肩に担ぎ、両足の踵をスッと上げ、前傾姿勢を取るナギト。突進が来る。誰もが、ワイリーンもそう判断し、ロングソードの柄をぐっと握り直したのが、スタートの合図。
強く踏み込んだナギトが駆け出し、数メートルの距離をあっと言う間に縮めて行く。
かと思えば、同時に肩に担いだヴェルメリオを、左から右へとナギトは横一閃。この攻撃をワイリーンはバックステップを数歩踏み、限界までのけぞる事でなんとか避ける。余裕はない。ギリギリ、紙一重の回避。
赤い軌跡が、ワイリーンの目の前で踊る。ヒュッ、と、ワイリーンの喉が恐怖に鳴る。
もしこれが実技授業ではなく、実戦で。相手がワイリーンではなく、モンスターだったとしたら。きっと今頃、頭と胴体が綺麗に分断されていた筈だ。本当に、容赦ない。
更にもう一歩、後退しようとしたワイリーンの足がぴたりと止まる。慌てて崩した体勢を立て直しロングソードを構える。が、踏み止まるのが後少し遅ければ、確実にワイリーンは舞台から落下していた。
「……っ!こうなったら……!!」
悔しそうに顔を歪めたワイリーンが左に、対峙するナギトから見れば右に、移動。
それは、右目を眼帯で覆っているナギトの死角。狙いとしては、悪くない。むしろ、当然の対応と言える。
死角に入り込むワイリーンを追い、左足を軸にして回転するように、ナギトが右足を後ろに下げ、その姿を視界に捉えるべく、動く。ヴェルメリオの柄を上げ、刀身を下げる形で構える。刀身で自分の死角、体の右側を庇うようにしながら。
動くワイリーンと、追うナギト。
先に仕掛けたのは、言うまでもなくワイリーン。極力ナギトの死角、更には刀身の大きなツーハンドソードのヴェルメリオに隠れるように低い体勢を維持して強く踏み込み、ロングソードを振り上げる。
それを限られた視界の隅で捉えたナギトが、腰を落とす。深く腰を落とす事で、すぐには動き難い体勢になったが、ロングソードの一撃を受け止めるには十分。
誰もが、またナギトに攻撃が防がれる、そう思っていた。
だが時に想定外は起きるもので、今回がまさにそれだった。
今まさに振り下ろされようとしていたロングソードの柄を、ワイリーンが九〇度回転。すると自然、ロングソードの刀身は鋭い面ではなく、腹をナギトに見せる事になる訳で。とてもじゃないが、斬撃にはならない。
更には、そのまま剣をナギトに向かって振り下ろすのではなく直線に下ろす。
これには周りで見ていた教師や生徒達も驚き、どよめきが上がる。勿論、ナギトも。
「おっ?イイねぇ」
驚いた、と言うよりも、楽しんでいる、と言った方が正しいか。
舞台の床にロングソードの柄が当たるよりも、先。ぐっと強くロングソードを引き、即座に剣先を突き出す。
迷いのない攻撃だった。が、僅かに刀身が揺れている事にナギトは気付いていた。
重いのだ、ロングソードが。
彼の腕には、ロングソードは重過ぎる。
ナギトが右手をヴェルメリオの柄から離し、後方の床につく。腰を落とした状態でそのまま仰向けに倒れ込み、床についていた右手を支えに、ぐるっと小さく後方一回転。一回転する寸前、自分の胸があった辺りの空間に突き刺さったロングソードの刀身を見て、薄くナギトが笑っていたのは――多分、ワイリーンだけしか気付いていない。
回転するついでに、膝でロングソードを握るワイリーンの手を蹴り飛ばせば、簡単にワイリーンの手からロングソードが飛んでいった。
「避けろ!」
「きゃあああ!!」
「あっぶな!」
ロングソードが飛んでいった先に居た生徒達が、悲鳴を上げる。寸前で教師が防いだから良かったものの、ちょっとした大事故になりかねない瞬間だった。
良かった、なんて軽く息を吐きながら、なんとなく自分の中の違和感の正体に気付いたナギト。
だが、確認の為にと口を開く。
「なー、お前って自警団やってたんだろ?」
「えっ?あ、あぁ……そう、です」
「大人に混じって?」
「はい……」
右手を顎に当てながら、何かを考え込むナギト。
ちらりと見るのは、相棒であるツーハンドソード姿のヴェルメリオだ。
「どんな?」
≪大体お前の予想通りじゃないか?さっきの刺突も、刀身がブレてた≫
「ロングソードは重くて、んでもって大人に混じって自警団……。んで、刺突……。あ、そのロングソード新品だけど、自警団やってる時に使ってたのとは違うよな?」
「は、はい……。その、この学園の招待状が来たから、こっちに来る時にお祝いに、て……村のみんなから……」
なぜこんな質問をするのだろう。戸惑いを隠せないワイリーンを横目に、うんうんと頷きながらナギトは自分が原因で吹っ飛んだワイリーンのロングソードへと歩み寄る。
一応、武器を拾う為に舞台を下りるのはセーフかと教師に訊いて、セーフだと返されたのを聞いてから、舞台を下りる。被害を受けそうになった生徒達に「ごめんなー」なんて軽く謝ってから、舞台の上へ。
右手で持ったロングソードを、見る。
特に凝った装飾がある訳でもなく、極々一般的なロングソードだった。
ありきたりと言っては失礼だが、本当に、ザ・ロングソードとも言うべき、基本的なロングソード。重さも、多分普通のロングソードと変わりない。多分だけど。
「ヴェルメリオ、ロングソードなれるよな?」
≪ああ。すぐに≫
ナギトの言葉を受け、ツーハンドソードの姿をしていたヴェルメリオが、赤い光を放つ。かと思えば、数秒の間を開けて現れるのは赤い刀身を持つロングソードなのだから、流石は、ある程度の長さの剣であれば、任意で姿を変える事が出来る特殊な能力を持った魔剣の精霊と言える。
後日、興味を持ったミナギが質問した事で、実はヴェルメリオの基本の姿はロングソードだと言う事がわかるが、この時実技訓練場に居た魔法剣士学科の一年生が、それを知る筈もなく。
ヴェルメリオの持つ特殊能力を目の前で見た教師や生徒達は、ざわざわと色めき立つ。
まあ、そんなざわつきもナギトの耳には届かないのだけども。
右手にワイリーンのロングソード。左手にロングソード姿のヴェルメリオ。二種類のロングソードを握り、軽く振り回す。やはり、二本のロングソードは、重さも大体同じ。
それでも、ワイリーンには重過ぎたのだから、もっと軽い剣の方がきっと彼には合う筈だ。
正確には、もっと軽くて、斬るよりも突きをメインにした剣が、か。
「やっぱブロードか?スキアヴォーナもありか?フルーレとかエペだと」
≪それだと刺突に振り切り過ぎていないか?フェイクだったとは言え、さっきの動きはもう少し鍛えればしっかりと使える動きだ≫
「うーん……。センセー、ブロード・ソードかスキアヴォーナの予備あるかー?あったらコイツに渡してー」
ああだこうだとヴェルメリオと相談して、最終的にナギトは、とある剣の名前を挙げ、審判役をしていた教師に予備があるかと尋ねる。
それは、剣なしと揶揄される事もある自分に合った剣がわからない生徒達用に用意されている、お試し剣。ナギトが名前を挙げた二種類の剣は、ロングソードよりも少し短く、軽い剣で、刺突は勿論、斬撃も可能な部類の剣だ。
ロングソードの斬撃には、及ばないけれど。まあそれは仕方ない、許容範囲だろう。
予備の剣を取りに向かう教師を横目に、完全に話から置いて行かれる形になったワイリーンは、困惑するばかり。それこそ、ブロード・ソードがギリギリ剣の種類名だとわかった程度か。
そんなワイリーンに歩み寄り、まずは彼が村を出る時に渡されたと言うロングソードを返す。
「コレ、お前には重過ぎ。プレゼントなのはわかるけど、剣変えとけ。自分に合ってない武器は、自分も仲間も危険に晒すぞ」
「あ、ありがと……?」
「買い替えが難しいなら、この学園お抱えの鍛冶師にこのロングソードをブロード・ソードかスキアヴォーナに打ち直してもらう事も出来んじゃね?詳しくはセンセーに訊いて、説明たいぎい」
≪そこまで話といて面倒臭がるなよ、ナギト……≫
ふぅ、と息を吐いて、もはや口癖とも言えるたいぎいを口にするナギトに、流石のヴェルメリオも呆れ、ツッコミに回ってしまう。だからと言って、はいそうですかとナギトの対応が変わる訳もなく。
もしここでもっと丁寧な説明を要求するなら、ユヅキを連れて来る必要がある。
だがあいにくと今はユヅキも精霊術師学科の授業中、連れて来られる筈もなくて。夕飯の時にでも告げ口してやろうと決意するヴェルメリオ。
現状、このナギトが大人しく言う事を聞く相手は、ベル・オブ・ウォッキング魔法学園には二人しかいないのが現実だ。
ユヅキではないもう一人に関しては、渋々、本当に渋々、仕方なく言う事を聞く形だけども。
審判役の教師が持って来たのは、ブロード・ソードとスキアヴォーナの二種類。
予備とは言えしっかりとした造りで、そのまま生徒が専用で使っても良いくらいには綺麗な状態だ。
差し出された二振りを前に、困惑顔を見せるのは、当然ワイリーン。視線を向けられた教師も困り顔で、とりあえず使ってみたらどうかと提案。
実は教師自身も、入学してから今日までに何度かあった実技授業で、ワイリーンが使うのはロングソードではなく、別の剣の方が良いのではないか、と。
他の魔法剣士学科の教師陣と協議を重ね、もうそろそろ提案してみようと話していたのだ。
まさかこんな形で、ワイリーンに提案する事になるとは思わなかったけれど。
「……えっと、じゃあ……使ってみます」
「おう。まずはどっちかにしとけー。で、ロングソードより自分に合いそうだったら、センセーに相談で。俺は知らん、たいぎいから」
≪ナギト……≫
今頃ヴェルメリオ、頭抱えてそうだなぁ、なんて。頭の片隅で思いながらも、ナギトは実践訓練の再開を、今か今かと待っていた。
◇ ◆ ◇
「で、結局その人、剣変えたの?」
「ああ。ナギトとの実践訓練が終わった後、教師と相談して悩んだ結果、スキアヴォーナを選んでいた」
「確かに、ロングソードとスキアヴォーナだと違いが大きいねぇ」
「でもぉ、どうしてぇ、ナギトはロングソードが合ってないと思ったのぉ?」
夕食時。場所を大食堂に移したナギトは、いつも通り、ユヅキやミナギと合流後、食事をしていた。これまたいつも通り、三人分の食事と、おかず単品をいくつかテーブルの上に広げて。
いつも通りでないところをあえて言うなら――ナギト、ユヅキ、ミナギ、アルバ、セラータの人間三人と精霊二人で囲んでいるテーブルに、一人、見慣れない人間が居る事くらいか。
正確には人間ではなく、人間の姿を取ったヴェルメリオ、なのだけど。
刀身と同じ赤色の髪に、赤い瞳。
人で言えば見た目の年齢は大体三十代の男性寄りの姿で、声の通り、落ち着いた大人と言ったところか。
普段、イヤーカフか剣の姿を取っていない為、こうして人の姿を取る事は珍しいが、今日はどうやらそう言う気分だったそうで。さあ夕食を食べようとしたところで、突然ナギトの隣に現れた人型のヴェルメリオに、ミナギが誰だと驚いてしまったのはご愛敬。
そしたらまさかのヴェルメリオなのだから、人型にもなれたのかと更にミナギは驚いた。
人に生み出されたとは言え、一応ヴェルメリオも精霊の為、なれない事はないと説明を受け、やっと納得した。普段イヤーカフや剣の姿だけなのは、人の姿を取る必要がないから、と言われた。まあ実際、わざわざ人の姿になっても何をするのかと困るか。
では、今日はどうしてと問えば、ナギトの実技授業の時の話になって。げっと顔を顰めるナギトの横で、止める間もなく事細かくヴェルメリオは語って。
ユヅキ達がほうほうと頷く横で、まず剣の名前らしきものに首を傾げるミナギ。
あいにくと剣の種類に関する知識がそこまでないミナギには、大きな違いはわからない。でもそれを訊くと、話が長くなりそうなので割愛。
自分で調べる事も大事だと、このパーティに入って学習したから、ミナギは。
そんなミナギの考えを知ってか知らずか、ナギトは自分用のケバブを頬張りながら、ん-、と唸る。
「理由はまー、色々か?一番わかりやすいのは、こう、突きを出した瞬間、剣先がブレてたんだよ」
手元にあったナイフを持ち、ナギトはテーブルを挟んだ向かい側に座るミナギやユヅキの前に突き出して、僅かに震わせる。
ロングソードの重さに耐えられてなくて震えたんだ、と入る補足はヴェルメリオのもの。
普段使い慣れていれば、ブレる事はないもんな、とミナギは納得。
続きの説明の為にとナギトが用意するのは――おかずのシュウマイと小籠包。乗っていた皿の上にそれぞれ二列ずつ横に並べ、向かい合わせる。
「コッチ、シュウマイがモンスターで、小籠包が人間の大人って考えて」
「おかずで何やってんの?」
「この方が説明しやすいから許せ。んで、ソイツの地元だと、子供も志願すれば自警団入れるみたいなんだよな。でも、街より人は少ないから、子供はあんまり危険にさらさないようにって、こう、前衛と後衛の間に挟んで隊列させるんだって」
そう言ってナギトは、二列に並べた小籠包の間に、一口団子を置いて行く。
食べ物でたとえ話をするのはいかがなものかとは思うが、確かに今は食事中で、ノートを広げる事も出来ない為、仕方ないか。食事時でなければ、こうして三人が揃う事もあまりないから。
あまりないだけであって、全くない訳ではないが。
「さてミナギ、ここで質問」
「えぇ……ヤだよ」
「お前はこの一口団子なわけだが、前衛の小籠包の後ろからこのシュウマイを攻撃するとして、お前ならどうやって攻撃する?」
「話聞いてる?ガン無視じゃん」
完全なる聞く耳持たず状態に、ミナギがイラッとしてしまうのは仕方ない。苛立ちを抑えようともせずにナギトを睨むが、まあ当然の事ながらナギトには通用せず。イイからさっさと考えろとまで言われてしまった。
これに更にミナギの苛立ちは増すが、何を言ったところで無意味なのはわかっている為ぐっと堪える。
握り締めた両手は震えていて、怒りを堪えるのも大変だ。
「……ユヅキさんには訊かないの?」
「ゆづはもう今の話で大体予想ついてるから」
「え、うっそ。ホントに?」
精一杯言い返しても、やっぱりナギトには響かない。むしろ驚きの言葉が返って来る始末。
思わずミナギが目を丸くして驚くのも無理はなく、慌ててユヅキを見れば、フォークを口に銜えたまま笑顔でコクコクと何度も頷いていた。嘘だと思いたいが、ナギトの言う通り、本当に予想が出来ているらしい。
そして恐らく、ユヅキのその予想は当たっている。
「えぇー……?大人の後ろからどうやって、って……」
「あ、魔法剣士学科の生徒だから、お前が装備してるのは剣って事で。大人用の剣じゃなくて、子供用の剣を使ってるからな」
「剣なんて使った事ないから余計わかんないよ。ヒントとかないの?」
「子供用の剣は、子供が使う事を考えて、大人の物よりも短く軽く作られているぞ」
「補足ありがとヴェルメリオ。そう言うのめっちゃ助かる、ホントに……。この人等マジでイジワルなんだから……」
弱々しい声を上げてシュウマイと小籠包、一口団子が並ぶ皿の上に、目を落とす。
そんなミナギを見るナギト、ユヅキ、アルバ、ヴェルメリオは楽しそうで。残るセラータも、テーブルの上でお座りをしながらミナギを見上げていた。
星空のようなセラータの瞳が、頑張れと、そう言っている気がして。ミナギは、考えてみる事にした。
確実に面白がっているナギト、ユヅキ、アルバはともかく、補足を入れてくれるヴェルメリオと応援してくれている気がするセラータは、今のミナギにとっては心強い味方だ。
想像力を働かせろ。大人達と一緒に、自警団に所属する子供は自分。
でも大人達は子供を危険に晒さないように、自分達の後ろに配置している。大人達の後ろからモンスターを攻撃するなら、自分はどうするか。
剣の使い方に詳しくはないが、とりあえずモンスターに斬りかかろうとして剣を振り回せば、確実に手前の大人達を傷付ける可能性が高い。そうなると、大人達を傷付けないようにして攻撃をする必要が、あって。
その場合、剣を振り回す斬撃ではなく――。
と、そこまで考えて、嗚呼成る程とミナギは納得。
前に立つ大人達を傷付けないように、大人達の間を縫って攻撃するなら、斬撃よりも刺突が良い。そして、使っていたのが子供用の剣だとしたら、突然大人用の剣を持たされれば、筋力が追い付いてなくて得意である刺突でも剣先がブレる事はある――の、かもしれない。
あくまでも想像は想像。あっているは限らないし、確認の為にと自分の想像を語ってみようと試みるが、これがなかなか難しい。自分の頭の中を言語化するのは、そう簡単な事じゃない。
そう考えれば、ナギトがいつもわかりやすく説明してくれるのも、実は大変な作業なんじゃないかと思う。
当のナギトはと言えば、ミナギの想像を聞いて、にたり、左目を眇めて笑う。
相変わらず、人の悪い笑顔だ。ユヅキが相手の時は、もっと柔らかく笑うのに。付き合いの長さによる違いだと言われれば、それまでだが。
「正解。エライエライ」
「凄いわぁ、ちゃぁんとわかってるじゃなぁいぃ」
「ミナギくん凄いっ!」
なぜだろう、褒められている筈なのに、褒められている気がしないのは。特にナギト、絶対褒めてない、断言出来る。目が残念だと訴えているのが見える。ちゃんと褒めているのは、ユヅキくらいだろうか。アルバはどちらかと言えば、ナギト寄りの反応な気がするから。
完全におもちゃにされているが、ここで反論したらしたで面白がられるのは明白なので、我慢するしかない。
我慢も過ぎれば限界に来るものの、相手がナギトだと思えば我慢の一手。
「……あ、でも……刺す?のが得意なら、そのまま刺す専門の剣みたいな方が良いんじゃないの?そう言うのもあるんだよね?」
「それは俺も言ったー。けどヴェルメリオが」
「剣を変える前……最後の刺突の直前に見せた攻撃はフェイクだったが、あれは鍛えればちゃんとしたものになる動きだった。恐らく、子供同士のごっこ遊び程度でやっていた筈だ」
「ガキは派手な動きでカッコつけたがるからな。ごっこ遊びの動きって考えたら、俺も納得出来た」
「ナギト、ちっちゃい頃からナギトパパに鍛えられてたから、『ごっこ遊び』でもなかったもんね」
そうユヅキが笑いながら言った後の、ナギトの顔と言ったら。心底うんざりしたと言わんばかりの表情から見るに、子供同士のごっこ遊びなんて可愛いレベルではなかった事がわかる。
まあ、二歳でおもちゃ代わりに木剣を持たされ、両親が受けたクエストにも一緒に連れて行かれるくらいだったのだ。ごっこ遊び程度の経験では、簡単に死んでしまっていた可能性が高い。話を聞く度に思うが、ナギトの両親は一体どんな人物なのか。
とりあえずわかるのは、ミナギの感覚からして、ごく一般的な大人の冒険者の枠にはおさまらない気がする。
気がするだけで、一般的な冒険者をあまり見た事がないミナギにとっては、あくまでも想像でしかないけれど。
「ねえ、そう言えばナギトさんの両親って……どのくらいのランクなの?今も現役の魔法剣士と魔法銃士なんだよね?」
ミナギの疑問は、至極当然。
向けられた疑問に、一度ナギトとユヅキは揃ってぱちくりと瞬き、顔を見合わせ、無言のまま数秒見つめ合う。それから、「ああー」とほぼ同時に声を上げるのだから、この二人やっぱり面白い。幼い頃から一緒に過ごしていた時間が長いとは言え、ここまで言動が揃うのは珍しいだろう、きっと、絶対。
ちなみに、今の「ああー」は、そう言えば言ってなかった、の意味だ。
「うちの親父達はランクなしだよ」
「……………………はい?現役なのに、ランクなし?」
片眉を跳ね上げ、怪訝な表情を見せるミナギに対して、無言でうん、と同時に頷くのはナギトとユヅキ。
さも当然とばかりの反応だが、流石に二人の言動に慣れを見せ始めたミナギでも驚く。
【ランクなし】
それは聞き方によっては、自分の剣を持たない魔法剣士に対する剣なしや、自分に合う魔法銃を持たない魔法銃士に対する銃なし、魔力を持たずに生まれた者に対する魔力なしのように、揶揄するようにも聞こえる言葉。
時には、重罪を犯した結果、冒険者としてのランクをはく奪された場合もある。が、先程ナギトとユヅキは、現役でランクなしかと訊いた時、肯定していた。否定ではなく、肯定を。
それはつまり、ランクをはく奪された訳ではなく、逆を意味する訳で。
冗談でしょ、と喉の辺りまで言葉が出掛かったが、こんな事でナギト達が冗談を言うメリットは皆無。それに、あまりナギト達は冗談や嘘を言う事がない。諸々を考えればやはり、全ては事実であって。
そして何よりも、ナギトが学内ランク認定試験でSランクを取った事にも、納得出来る。
「……ナギトさんの両親って……『指定災害変異超獣ハンター』……なの?」
「ん、そだよ」
「軽過ぎ……」
ついには片手で頭を抱えるミナギだが、当のナギトは軽く肩を竦めるだけ。指定災害変異超獣ハンターの肩書きは、ナギトにとってはかなり軽いらしい。
魔力なしとして実家では酷い扱いを受けていたミナギでも、知っているくらい、有名な肩書きなのに。
【指定災害変異超獣ハンター】
モンスターの中に極稀に生まれる変異種。その中でも、もはや災害レベルとも言える力を持った異常変異モンスターには、指定災害変異超獣として、モンスターとしての種族名ではなく、個体名を付けられる。
たった一匹、一頭居るだけで、街が二つや三つは軽く滅ぼされ、人間は数百、数千が死ぬ。そんな指定災害変異超獣を狩る実力を持った冒険者の事を、指定災害変異超獣ハンターと呼ぶようになっていた。
彼等は規定の冒険者ランクから外れ、様々な権限が与えられ、大陸王族から直接依頼を受ける事もあり、大陸間の移動も自由に出来る上、上陸の際の審査も免除される。
勿論、それ相応の実力が必要となり、下手に指定災害変異超獣ハンターを騙れば、即死刑は免れないと噂されている。
まあそんな重大な肩書きも、ナギトにとってはたいぎい話と軽く流されてしまうのだから、どうしたものかと頭を抱えるミナギ。
だからと言って、自分が知っている指定災害変異超獣ハンターの凄さのあれこれを語ったところで、両親が指定災害変異超獣ハンターであるナギトにとっては、耳にタコが出来るような内容ばかりだろう。いつも通り、たいぎいの一言で片付けられる可能性が高い。
「まーそんな感じだから、ウチじゃぁ俺は鍛えられまくった……。ゆづもだけど」
「あぁ……確か、術師……じゃない、後衛?だっけ、『後衛でも接近戦に対応出来る実力つけとけー』って言う、あれ?……そっか、指定災害変異超獣ハンターで、しかも二人だけのパーティなら、そりゃ後衛も接近戦で対応出来るだけの実力は必要なのか……」
「ウチの親父達は色々規格外だからなぁ……。流石に、指定災害変異超獣とか、高ランククエストに俺やゆづを連れてく事はなかったけど」
「連れてったらぁ、それこそ大変だものねぇ?」
大変なんてレベルじゃないでしょ。思わずツッコミを入れたミナギは間違っていない。
しかし、今夜の話で色々謎が解けた。規格外の実力、戦い慣れしている事や、色々な知識量、戦闘時の考え方、精霊術師であるユヅキまでナイフを使った戦闘が出来る事などなど。そもそも世間一般の基準から外れまくった両親に育てられていれば、全てに説明はつく。
ハーッと疲れ果てたため息を吐き、料理が置かれていないテーブルの空いてる空間に突っ伏す。正直な話、どうしてこうも色々あれこれと人が驚くようなネタを出して来れるのだろう。不思議でならない。
最初にパーティに勧誘された時にも思ったが、とんでもない人達とパーティを組んでいるのだと思い知る。否、とんでもなく規格外の人達、だろうか。とりあえず、同年代の、世間一般の子供達と同列には並べられない。
とんでもない人達だと思いつつ、ミナギは気付いているのだろうか。
そんなとんでもないナギトやユヅキ達と一緒に居るのを、楽しんでいる自分が居るのを。
そして実は、自分もとんでもない人の一人に、片足の爪先を突っ込み始めている事に。
そのせいか、同じ学年にどんな生徒が居るかも知らず、授業に参加すれば実技担当の教師や同級生達からはまるで珍獣の様な扱いを受けているのはご愛敬。
一年生四回目のナギトにとっては、そんな視線も扱いも今更だけど。
ただあえて言うなら、学内ランク認定試験で派手に目立ったお陰で、実戦授業で対戦相手に選ばれた生徒が半泣きになるのが少し困りもの。なぜか苛めている気分になるから。
まあそれでも、中には強いモンスターと戦う事もあるんだからと、気を引き締めて掛かって来る同級生はいるけれど。
仮想モンスターとして挑まれるのは、それはそれで引っ掛かるものがある。
でもナギト自身も、危険度ランクの高いモンスターを前にした時、父親や母親を基準に考えて、あの二人よりは弱いとか考えるのだから、人の事をとやかく言えないか。
魔法剣士学科は、魔法剣士であるがゆえに、純粋に魔法を使わず剣のみで戦う授業も用意されている。
人によっては習っている流派がある為、細かい指導が必要な者、剣の握り方や自分に合った剣を選ぶ者達が受ける授業と、生徒同士での実戦に近い状況での戦闘訓練授業とで、パターンに分かれていた。
ナギトの場合は、実戦に近い状況での戦闘訓練。
自分に合った剣もわからないのに魔法剣士を目指す者を、時に人は剣なしと揶揄する事があるが、バカバカしい話。誰だって最初は、わからない事だらけなのだから。
時には、教師の指摘により使う剣を変えた結果、大きく成長した例もあるのだから、侮れない。
「ヴェルメリオ、ツーハンドソード」
≪ああ、遠慮なく使え、ナギト≫
赤い閃光が、実技演習場内部を染め上げる。
ナギトの指に誘われるようにして左耳から離れたヴェルメリオは、赤いイヤーカフから赤い刀身を持つ一振りのツーハンドソードへと姿を変えた。瞬間上がるどよめきや感動の声は、観客として見守っていた生徒達のもの。稀少な魔法剣の精霊を生で見られるのだ、この反応は、むしろ当然か。
だが、初心者向け授業を受けている生徒達までこっちを見ていて良いのだろうか。教師も一緒になってヴェルメリオを見ているので、もう考える事を放棄した方が良い。
今回ナギトの実戦相手を務めるのは、地元の村で自警団としてモンスターや盗賊と戦っていたと言う実戦経験者の男子生徒。時には狩人として狩りをしていたらしい。名前は、ワイリーン・ノーヴェル。
その証拠とでも言うのか、実技を受ける為の学園支給の運動服に覆われていない腕には、くっきりと何かのモンスターに付けられたらしい爪跡があった。古い傷なのは、見ればすぐにわかる。使っている剣は、鞘の形状や長さから見て、一般的なロングソード。十五歳で既に自警団としての実戦経験があるなら、多少は実力もあるだろう。
ナギトの読み通り、ワイリーンは学内ランクでDを取っていた。新入生としてはかなり高い評価だと言える。まあ、一年生で既にSランク認定をされているナギトに褒められたとしても、複雑な気持ちになるだろうが。
けれど、気になる事が、一つ。ワイリーンの持つ武器だ。間違いなくワイリーンの持つロングソードは、新品。
自警団としてモンスターや盗賊と戦っていたのなら、ロングソードは多少使い古された感じがあってもおかしくないのに。入学する時に武器を新調したのだろうか。
四方が二〇メートル程の、真四角の実戦舞台の上。そこに、大体一〇メートルの距離を開けて、ナギトとワイリーンは向かい合って立つ。
「魔法禁止の実技授業ってのも面白いよな」
「正直助かりました。僕、魔法はあまり使ったことがなくて……村でも練習してたんですけど……。てんでダメで。正直、学内ランクでDを取れたのも奇跡的なんです」
「誰にだって得手不得手はある。気にすんな。それに、攻撃魔法使うだけが魔法剣士じゃねぇよ。補助魔法や治癒魔法の方が得意って可能性もあんだろ」
「あ……それ、先生らにも言われました」
恥ずかしそうに頭を掻いて言うワイリーンに、だがしかしナギトは軽く肩を竦めるだけ。
なんて事はないとさらっと言い切るナギトに、少しだけ緊張していたワイリーンの顔が明るくなったように見える。教師達と同じ言葉が、学内認定ランクでSランクを取った生徒から出たからだろうか。
左手で柄を握っていたヴェルメリオを、刀身を立てたままナギトが一度ぐるりと自分の体の周りを一周させ、それから左足を引きながら腰を下ろして両手で構える。
その動きから、ヴェルメリオが軽いのは、多少剣を扱う者ならすぐに理解出来るだろう。が、相手は稀少な魔剣の精霊だ、動きが軽いからと言って、剣撃までもが軽いとは限らない。
そもそも魔剣の精霊に、人間の常識が当てはまるだなんて、とても思えないから。
「それぞれ真剣を使うが、相手に必要以上にケガをさせないように。審判の判断で中断もありうるからそのつもりで。魔法の使用は禁止。補助魔法でも使った場合は即失格だ。相手が敗北を認めるまでは訓練は続行、いいな?」
「はいっ!」
「へーい」
緊張しているワイリーンに対して、ナギトは自分のペースを崩さない。
戦闘開始の合図を待つ二人の態度は、対照的。それでもきっと、開始の合図を聞いた瞬間動き出す筈だ、と。ワイリーンは勿論、実技担当の魔法剣士教師、周囲で見守っている生徒達も、思っている。
同じ魔法剣士学科の一年生だ。学内ランク認定試験でのナギトに関わる一件は全て見ていて、実力は、よく知っている。仮に魔法禁止でも、同じ学年にナギトに勝てる者は居ない事も。
だからと言って、この実技授業から逃げる事は出来ないけれど。
教師曰く、時には勝てそうにないモンスターを前にする事もあり、勿論逃走を選ぶのが定石だが、簡単に逃げられる相手なら苦労はしないと。時には戦う必要もあるからこそ、立ち向かう勇気や強さも必要なのだ、と。
結局、どう転んでもナギトが仮想強敵モンスター扱いされているのは否めないか。
実戦開始の号令が響く。瞬間的に飛び出したのはワイリーンで、ロングソードの柄を両手で握り、ナギトに向かって突進。顔の横でロングソードを構えると、真っ直ぐに刃を突き出す。
しかし、この攻撃を想定していたのだろうナギトは、避けようともせず、自分の正面の床にヴェルメリオを突き立て、刀身の腹でこれを受け止めた。
剣と剣とがぶつかり合う剣戟音が、響く。
渾身の突きが届くとは思っていなかった、ワイリーンだって。でもまさか、ヴェルメリオの刀身で受け止めるなんて、想定外。ハッと息を呑むワイリーンに対して、眉一つ動かさないナギトの対比は、筆舌に尽くしがたい。
「イイ突きじゃん、慣れてるな」
「っ、どうも……っ!」
一度ワイリーンがロングソードを引き大きく数メートル後退。が、彼の両足が部隊の床に着くよりも早く、次に仕掛けたのはナギト。ヴェルメリオを引き摺るようにして前に出ると、今まさに着地しようとしていたワイリーンに向けて大きくヴェルメリオを振り抜く。下から上へ、斬り上げる形で。
ワイリーンも負けじとロングソードの刀身でこれを受け止めようとするが、剣の大きさから来る剣撃の重さの違いか、ロングソードが弾かれる。
大きく体勢を崩したワイリーンの隙を、見逃してくれる程ナギトも優しくなくて。
両手を大きく上げた状態の無防備なワイリーンの腹を、思い切り右足で蹴り飛ばす。流石に舞台の外まで吹っ飛ぶ事はなかったが、軽く数メートルは吹っ飛んでいた。
「えぇっ?!」
「ちょ、今のあり!?」
「先生!これ実戦授業ですよね?!」
「いやありだろ。だって剣だけ使って戦う授業じゃねぇし。魔法禁止なだけだろ」
「実際にモンスターと戦ってたら、手も足も出るものよ?」
「ああ、『剣だけ』とは誰も言っていない。『魔法禁止』と言っただけだ。なので今のアクオーツの攻撃は問題ない」
まあ、ちょっと容赦ない気がしたけど、と続く教師の声は、聞こえなかった振り。
ざわつく周囲の生徒達を横目に、ナギトはヴェルメリオを肩に担ぎ、ふーっと細く長く息を吐く。まだ一撃しか見ていないが、僅かな違和感がある、ワイリーンには。明確に、どんな違和感かと訊かれると、困るけど。違和感の正体に気付くには、時間が足りない、圧倒的に。では、どうするか。
答えは簡単。続ければ良い。
体をくの字に折り曲げ、蹴り飛ばされた腹を抱えて呻き声を上げるワイリーンへと、歩み寄る。
「おーい、だいじょぶかー?」
「う……っ。だいっ、じょぉぶ……ですっ。やれま、す!」
「イイねぇ」
思い切り蹴り飛ばされ、まだ痛む腹を抱えながら、ワイリーンが起き上がる。多少よろめいているものの、それでもしっかりと両足で立ち、ロングソードを構える。やる気は十分だ。
ナギトの蹴りは綺麗に決まったが、それでも敗北を認めないのは、負けず嫌いだからか、本当にまだやれるからか。
対するナギトとしては、どちらでも良いけれど。
戦闘開始の合図がかかった時の位置まで、二人は戻る。そして今度は、仕掛けるのはナギトの方が先だった。
ヴェルメリオを肩に担ぎ、両足の踵をスッと上げ、前傾姿勢を取るナギト。突進が来る。誰もが、ワイリーンもそう判断し、ロングソードの柄をぐっと握り直したのが、スタートの合図。
強く踏み込んだナギトが駆け出し、数メートルの距離をあっと言う間に縮めて行く。
かと思えば、同時に肩に担いだヴェルメリオを、左から右へとナギトは横一閃。この攻撃をワイリーンはバックステップを数歩踏み、限界までのけぞる事でなんとか避ける。余裕はない。ギリギリ、紙一重の回避。
赤い軌跡が、ワイリーンの目の前で踊る。ヒュッ、と、ワイリーンの喉が恐怖に鳴る。
もしこれが実技授業ではなく、実戦で。相手がワイリーンではなく、モンスターだったとしたら。きっと今頃、頭と胴体が綺麗に分断されていた筈だ。本当に、容赦ない。
更にもう一歩、後退しようとしたワイリーンの足がぴたりと止まる。慌てて崩した体勢を立て直しロングソードを構える。が、踏み止まるのが後少し遅ければ、確実にワイリーンは舞台から落下していた。
「……っ!こうなったら……!!」
悔しそうに顔を歪めたワイリーンが左に、対峙するナギトから見れば右に、移動。
それは、右目を眼帯で覆っているナギトの死角。狙いとしては、悪くない。むしろ、当然の対応と言える。
死角に入り込むワイリーンを追い、左足を軸にして回転するように、ナギトが右足を後ろに下げ、その姿を視界に捉えるべく、動く。ヴェルメリオの柄を上げ、刀身を下げる形で構える。刀身で自分の死角、体の右側を庇うようにしながら。
動くワイリーンと、追うナギト。
先に仕掛けたのは、言うまでもなくワイリーン。極力ナギトの死角、更には刀身の大きなツーハンドソードのヴェルメリオに隠れるように低い体勢を維持して強く踏み込み、ロングソードを振り上げる。
それを限られた視界の隅で捉えたナギトが、腰を落とす。深く腰を落とす事で、すぐには動き難い体勢になったが、ロングソードの一撃を受け止めるには十分。
誰もが、またナギトに攻撃が防がれる、そう思っていた。
だが時に想定外は起きるもので、今回がまさにそれだった。
今まさに振り下ろされようとしていたロングソードの柄を、ワイリーンが九〇度回転。すると自然、ロングソードの刀身は鋭い面ではなく、腹をナギトに見せる事になる訳で。とてもじゃないが、斬撃にはならない。
更には、そのまま剣をナギトに向かって振り下ろすのではなく直線に下ろす。
これには周りで見ていた教師や生徒達も驚き、どよめきが上がる。勿論、ナギトも。
「おっ?イイねぇ」
驚いた、と言うよりも、楽しんでいる、と言った方が正しいか。
舞台の床にロングソードの柄が当たるよりも、先。ぐっと強くロングソードを引き、即座に剣先を突き出す。
迷いのない攻撃だった。が、僅かに刀身が揺れている事にナギトは気付いていた。
重いのだ、ロングソードが。
彼の腕には、ロングソードは重過ぎる。
ナギトが右手をヴェルメリオの柄から離し、後方の床につく。腰を落とした状態でそのまま仰向けに倒れ込み、床についていた右手を支えに、ぐるっと小さく後方一回転。一回転する寸前、自分の胸があった辺りの空間に突き刺さったロングソードの刀身を見て、薄くナギトが笑っていたのは――多分、ワイリーンだけしか気付いていない。
回転するついでに、膝でロングソードを握るワイリーンの手を蹴り飛ばせば、簡単にワイリーンの手からロングソードが飛んでいった。
「避けろ!」
「きゃあああ!!」
「あっぶな!」
ロングソードが飛んでいった先に居た生徒達が、悲鳴を上げる。寸前で教師が防いだから良かったものの、ちょっとした大事故になりかねない瞬間だった。
良かった、なんて軽く息を吐きながら、なんとなく自分の中の違和感の正体に気付いたナギト。
だが、確認の為にと口を開く。
「なー、お前って自警団やってたんだろ?」
「えっ?あ、あぁ……そう、です」
「大人に混じって?」
「はい……」
右手を顎に当てながら、何かを考え込むナギト。
ちらりと見るのは、相棒であるツーハンドソード姿のヴェルメリオだ。
「どんな?」
≪大体お前の予想通りじゃないか?さっきの刺突も、刀身がブレてた≫
「ロングソードは重くて、んでもって大人に混じって自警団……。んで、刺突……。あ、そのロングソード新品だけど、自警団やってる時に使ってたのとは違うよな?」
「は、はい……。その、この学園の招待状が来たから、こっちに来る時にお祝いに、て……村のみんなから……」
なぜこんな質問をするのだろう。戸惑いを隠せないワイリーンを横目に、うんうんと頷きながらナギトは自分が原因で吹っ飛んだワイリーンのロングソードへと歩み寄る。
一応、武器を拾う為に舞台を下りるのはセーフかと教師に訊いて、セーフだと返されたのを聞いてから、舞台を下りる。被害を受けそうになった生徒達に「ごめんなー」なんて軽く謝ってから、舞台の上へ。
右手で持ったロングソードを、見る。
特に凝った装飾がある訳でもなく、極々一般的なロングソードだった。
ありきたりと言っては失礼だが、本当に、ザ・ロングソードとも言うべき、基本的なロングソード。重さも、多分普通のロングソードと変わりない。多分だけど。
「ヴェルメリオ、ロングソードなれるよな?」
≪ああ。すぐに≫
ナギトの言葉を受け、ツーハンドソードの姿をしていたヴェルメリオが、赤い光を放つ。かと思えば、数秒の間を開けて現れるのは赤い刀身を持つロングソードなのだから、流石は、ある程度の長さの剣であれば、任意で姿を変える事が出来る特殊な能力を持った魔剣の精霊と言える。
後日、興味を持ったミナギが質問した事で、実はヴェルメリオの基本の姿はロングソードだと言う事がわかるが、この時実技訓練場に居た魔法剣士学科の一年生が、それを知る筈もなく。
ヴェルメリオの持つ特殊能力を目の前で見た教師や生徒達は、ざわざわと色めき立つ。
まあ、そんなざわつきもナギトの耳には届かないのだけども。
右手にワイリーンのロングソード。左手にロングソード姿のヴェルメリオ。二種類のロングソードを握り、軽く振り回す。やはり、二本のロングソードは、重さも大体同じ。
それでも、ワイリーンには重過ぎたのだから、もっと軽い剣の方がきっと彼には合う筈だ。
正確には、もっと軽くて、斬るよりも突きをメインにした剣が、か。
「やっぱブロードか?スキアヴォーナもありか?フルーレとかエペだと」
≪それだと刺突に振り切り過ぎていないか?フェイクだったとは言え、さっきの動きはもう少し鍛えればしっかりと使える動きだ≫
「うーん……。センセー、ブロード・ソードかスキアヴォーナの予備あるかー?あったらコイツに渡してー」
ああだこうだとヴェルメリオと相談して、最終的にナギトは、とある剣の名前を挙げ、審判役をしていた教師に予備があるかと尋ねる。
それは、剣なしと揶揄される事もある自分に合った剣がわからない生徒達用に用意されている、お試し剣。ナギトが名前を挙げた二種類の剣は、ロングソードよりも少し短く、軽い剣で、刺突は勿論、斬撃も可能な部類の剣だ。
ロングソードの斬撃には、及ばないけれど。まあそれは仕方ない、許容範囲だろう。
予備の剣を取りに向かう教師を横目に、完全に話から置いて行かれる形になったワイリーンは、困惑するばかり。それこそ、ブロード・ソードがギリギリ剣の種類名だとわかった程度か。
そんなワイリーンに歩み寄り、まずは彼が村を出る時に渡されたと言うロングソードを返す。
「コレ、お前には重過ぎ。プレゼントなのはわかるけど、剣変えとけ。自分に合ってない武器は、自分も仲間も危険に晒すぞ」
「あ、ありがと……?」
「買い替えが難しいなら、この学園お抱えの鍛冶師にこのロングソードをブロード・ソードかスキアヴォーナに打ち直してもらう事も出来んじゃね?詳しくはセンセーに訊いて、説明たいぎい」
≪そこまで話といて面倒臭がるなよ、ナギト……≫
ふぅ、と息を吐いて、もはや口癖とも言えるたいぎいを口にするナギトに、流石のヴェルメリオも呆れ、ツッコミに回ってしまう。だからと言って、はいそうですかとナギトの対応が変わる訳もなく。
もしここでもっと丁寧な説明を要求するなら、ユヅキを連れて来る必要がある。
だがあいにくと今はユヅキも精霊術師学科の授業中、連れて来られる筈もなくて。夕飯の時にでも告げ口してやろうと決意するヴェルメリオ。
現状、このナギトが大人しく言う事を聞く相手は、ベル・オブ・ウォッキング魔法学園には二人しかいないのが現実だ。
ユヅキではないもう一人に関しては、渋々、本当に渋々、仕方なく言う事を聞く形だけども。
審判役の教師が持って来たのは、ブロード・ソードとスキアヴォーナの二種類。
予備とは言えしっかりとした造りで、そのまま生徒が専用で使っても良いくらいには綺麗な状態だ。
差し出された二振りを前に、困惑顔を見せるのは、当然ワイリーン。視線を向けられた教師も困り顔で、とりあえず使ってみたらどうかと提案。
実は教師自身も、入学してから今日までに何度かあった実技授業で、ワイリーンが使うのはロングソードではなく、別の剣の方が良いのではないか、と。
他の魔法剣士学科の教師陣と協議を重ね、もうそろそろ提案してみようと話していたのだ。
まさかこんな形で、ワイリーンに提案する事になるとは思わなかったけれど。
「……えっと、じゃあ……使ってみます」
「おう。まずはどっちかにしとけー。で、ロングソードより自分に合いそうだったら、センセーに相談で。俺は知らん、たいぎいから」
≪ナギト……≫
今頃ヴェルメリオ、頭抱えてそうだなぁ、なんて。頭の片隅で思いながらも、ナギトは実践訓練の再開を、今か今かと待っていた。
◇ ◆ ◇
「で、結局その人、剣変えたの?」
「ああ。ナギトとの実践訓練が終わった後、教師と相談して悩んだ結果、スキアヴォーナを選んでいた」
「確かに、ロングソードとスキアヴォーナだと違いが大きいねぇ」
「でもぉ、どうしてぇ、ナギトはロングソードが合ってないと思ったのぉ?」
夕食時。場所を大食堂に移したナギトは、いつも通り、ユヅキやミナギと合流後、食事をしていた。これまたいつも通り、三人分の食事と、おかず単品をいくつかテーブルの上に広げて。
いつも通りでないところをあえて言うなら――ナギト、ユヅキ、ミナギ、アルバ、セラータの人間三人と精霊二人で囲んでいるテーブルに、一人、見慣れない人間が居る事くらいか。
正確には人間ではなく、人間の姿を取ったヴェルメリオ、なのだけど。
刀身と同じ赤色の髪に、赤い瞳。
人で言えば見た目の年齢は大体三十代の男性寄りの姿で、声の通り、落ち着いた大人と言ったところか。
普段、イヤーカフか剣の姿を取っていない為、こうして人の姿を取る事は珍しいが、今日はどうやらそう言う気分だったそうで。さあ夕食を食べようとしたところで、突然ナギトの隣に現れた人型のヴェルメリオに、ミナギが誰だと驚いてしまったのはご愛敬。
そしたらまさかのヴェルメリオなのだから、人型にもなれたのかと更にミナギは驚いた。
人に生み出されたとは言え、一応ヴェルメリオも精霊の為、なれない事はないと説明を受け、やっと納得した。普段イヤーカフや剣の姿だけなのは、人の姿を取る必要がないから、と言われた。まあ実際、わざわざ人の姿になっても何をするのかと困るか。
では、今日はどうしてと問えば、ナギトの実技授業の時の話になって。げっと顔を顰めるナギトの横で、止める間もなく事細かくヴェルメリオは語って。
ユヅキ達がほうほうと頷く横で、まず剣の名前らしきものに首を傾げるミナギ。
あいにくと剣の種類に関する知識がそこまでないミナギには、大きな違いはわからない。でもそれを訊くと、話が長くなりそうなので割愛。
自分で調べる事も大事だと、このパーティに入って学習したから、ミナギは。
そんなミナギの考えを知ってか知らずか、ナギトは自分用のケバブを頬張りながら、ん-、と唸る。
「理由はまー、色々か?一番わかりやすいのは、こう、突きを出した瞬間、剣先がブレてたんだよ」
手元にあったナイフを持ち、ナギトはテーブルを挟んだ向かい側に座るミナギやユヅキの前に突き出して、僅かに震わせる。
ロングソードの重さに耐えられてなくて震えたんだ、と入る補足はヴェルメリオのもの。
普段使い慣れていれば、ブレる事はないもんな、とミナギは納得。
続きの説明の為にとナギトが用意するのは――おかずのシュウマイと小籠包。乗っていた皿の上にそれぞれ二列ずつ横に並べ、向かい合わせる。
「コッチ、シュウマイがモンスターで、小籠包が人間の大人って考えて」
「おかずで何やってんの?」
「この方が説明しやすいから許せ。んで、ソイツの地元だと、子供も志願すれば自警団入れるみたいなんだよな。でも、街より人は少ないから、子供はあんまり危険にさらさないようにって、こう、前衛と後衛の間に挟んで隊列させるんだって」
そう言ってナギトは、二列に並べた小籠包の間に、一口団子を置いて行く。
食べ物でたとえ話をするのはいかがなものかとは思うが、確かに今は食事中で、ノートを広げる事も出来ない為、仕方ないか。食事時でなければ、こうして三人が揃う事もあまりないから。
あまりないだけであって、全くない訳ではないが。
「さてミナギ、ここで質問」
「えぇ……ヤだよ」
「お前はこの一口団子なわけだが、前衛の小籠包の後ろからこのシュウマイを攻撃するとして、お前ならどうやって攻撃する?」
「話聞いてる?ガン無視じゃん」
完全なる聞く耳持たず状態に、ミナギがイラッとしてしまうのは仕方ない。苛立ちを抑えようともせずにナギトを睨むが、まあ当然の事ながらナギトには通用せず。イイからさっさと考えろとまで言われてしまった。
これに更にミナギの苛立ちは増すが、何を言ったところで無意味なのはわかっている為ぐっと堪える。
握り締めた両手は震えていて、怒りを堪えるのも大変だ。
「……ユヅキさんには訊かないの?」
「ゆづはもう今の話で大体予想ついてるから」
「え、うっそ。ホントに?」
精一杯言い返しても、やっぱりナギトには響かない。むしろ驚きの言葉が返って来る始末。
思わずミナギが目を丸くして驚くのも無理はなく、慌ててユヅキを見れば、フォークを口に銜えたまま笑顔でコクコクと何度も頷いていた。嘘だと思いたいが、ナギトの言う通り、本当に予想が出来ているらしい。
そして恐らく、ユヅキのその予想は当たっている。
「えぇー……?大人の後ろからどうやって、って……」
「あ、魔法剣士学科の生徒だから、お前が装備してるのは剣って事で。大人用の剣じゃなくて、子供用の剣を使ってるからな」
「剣なんて使った事ないから余計わかんないよ。ヒントとかないの?」
「子供用の剣は、子供が使う事を考えて、大人の物よりも短く軽く作られているぞ」
「補足ありがとヴェルメリオ。そう言うのめっちゃ助かる、ホントに……。この人等マジでイジワルなんだから……」
弱々しい声を上げてシュウマイと小籠包、一口団子が並ぶ皿の上に、目を落とす。
そんなミナギを見るナギト、ユヅキ、アルバ、ヴェルメリオは楽しそうで。残るセラータも、テーブルの上でお座りをしながらミナギを見上げていた。
星空のようなセラータの瞳が、頑張れと、そう言っている気がして。ミナギは、考えてみる事にした。
確実に面白がっているナギト、ユヅキ、アルバはともかく、補足を入れてくれるヴェルメリオと応援してくれている気がするセラータは、今のミナギにとっては心強い味方だ。
想像力を働かせろ。大人達と一緒に、自警団に所属する子供は自分。
でも大人達は子供を危険に晒さないように、自分達の後ろに配置している。大人達の後ろからモンスターを攻撃するなら、自分はどうするか。
剣の使い方に詳しくはないが、とりあえずモンスターに斬りかかろうとして剣を振り回せば、確実に手前の大人達を傷付ける可能性が高い。そうなると、大人達を傷付けないようにして攻撃をする必要が、あって。
その場合、剣を振り回す斬撃ではなく――。
と、そこまで考えて、嗚呼成る程とミナギは納得。
前に立つ大人達を傷付けないように、大人達の間を縫って攻撃するなら、斬撃よりも刺突が良い。そして、使っていたのが子供用の剣だとしたら、突然大人用の剣を持たされれば、筋力が追い付いてなくて得意である刺突でも剣先がブレる事はある――の、かもしれない。
あくまでも想像は想像。あっているは限らないし、確認の為にと自分の想像を語ってみようと試みるが、これがなかなか難しい。自分の頭の中を言語化するのは、そう簡単な事じゃない。
そう考えれば、ナギトがいつもわかりやすく説明してくれるのも、実は大変な作業なんじゃないかと思う。
当のナギトはと言えば、ミナギの想像を聞いて、にたり、左目を眇めて笑う。
相変わらず、人の悪い笑顔だ。ユヅキが相手の時は、もっと柔らかく笑うのに。付き合いの長さによる違いだと言われれば、それまでだが。
「正解。エライエライ」
「凄いわぁ、ちゃぁんとわかってるじゃなぁいぃ」
「ミナギくん凄いっ!」
なぜだろう、褒められている筈なのに、褒められている気がしないのは。特にナギト、絶対褒めてない、断言出来る。目が残念だと訴えているのが見える。ちゃんと褒めているのは、ユヅキくらいだろうか。アルバはどちらかと言えば、ナギト寄りの反応な気がするから。
完全におもちゃにされているが、ここで反論したらしたで面白がられるのは明白なので、我慢するしかない。
我慢も過ぎれば限界に来るものの、相手がナギトだと思えば我慢の一手。
「……あ、でも……刺す?のが得意なら、そのまま刺す専門の剣みたいな方が良いんじゃないの?そう言うのもあるんだよね?」
「それは俺も言ったー。けどヴェルメリオが」
「剣を変える前……最後の刺突の直前に見せた攻撃はフェイクだったが、あれは鍛えればちゃんとしたものになる動きだった。恐らく、子供同士のごっこ遊び程度でやっていた筈だ」
「ガキは派手な動きでカッコつけたがるからな。ごっこ遊びの動きって考えたら、俺も納得出来た」
「ナギト、ちっちゃい頃からナギトパパに鍛えられてたから、『ごっこ遊び』でもなかったもんね」
そうユヅキが笑いながら言った後の、ナギトの顔と言ったら。心底うんざりしたと言わんばかりの表情から見るに、子供同士のごっこ遊びなんて可愛いレベルではなかった事がわかる。
まあ、二歳でおもちゃ代わりに木剣を持たされ、両親が受けたクエストにも一緒に連れて行かれるくらいだったのだ。ごっこ遊び程度の経験では、簡単に死んでしまっていた可能性が高い。話を聞く度に思うが、ナギトの両親は一体どんな人物なのか。
とりあえずわかるのは、ミナギの感覚からして、ごく一般的な大人の冒険者の枠にはおさまらない気がする。
気がするだけで、一般的な冒険者をあまり見た事がないミナギにとっては、あくまでも想像でしかないけれど。
「ねえ、そう言えばナギトさんの両親って……どのくらいのランクなの?今も現役の魔法剣士と魔法銃士なんだよね?」
ミナギの疑問は、至極当然。
向けられた疑問に、一度ナギトとユヅキは揃ってぱちくりと瞬き、顔を見合わせ、無言のまま数秒見つめ合う。それから、「ああー」とほぼ同時に声を上げるのだから、この二人やっぱり面白い。幼い頃から一緒に過ごしていた時間が長いとは言え、ここまで言動が揃うのは珍しいだろう、きっと、絶対。
ちなみに、今の「ああー」は、そう言えば言ってなかった、の意味だ。
「うちの親父達はランクなしだよ」
「……………………はい?現役なのに、ランクなし?」
片眉を跳ね上げ、怪訝な表情を見せるミナギに対して、無言でうん、と同時に頷くのはナギトとユヅキ。
さも当然とばかりの反応だが、流石に二人の言動に慣れを見せ始めたミナギでも驚く。
【ランクなし】
それは聞き方によっては、自分の剣を持たない魔法剣士に対する剣なしや、自分に合う魔法銃を持たない魔法銃士に対する銃なし、魔力を持たずに生まれた者に対する魔力なしのように、揶揄するようにも聞こえる言葉。
時には、重罪を犯した結果、冒険者としてのランクをはく奪された場合もある。が、先程ナギトとユヅキは、現役でランクなしかと訊いた時、肯定していた。否定ではなく、肯定を。
それはつまり、ランクをはく奪された訳ではなく、逆を意味する訳で。
冗談でしょ、と喉の辺りまで言葉が出掛かったが、こんな事でナギト達が冗談を言うメリットは皆無。それに、あまりナギト達は冗談や嘘を言う事がない。諸々を考えればやはり、全ては事実であって。
そして何よりも、ナギトが学内ランク認定試験でSランクを取った事にも、納得出来る。
「……ナギトさんの両親って……『指定災害変異超獣ハンター』……なの?」
「ん、そだよ」
「軽過ぎ……」
ついには片手で頭を抱えるミナギだが、当のナギトは軽く肩を竦めるだけ。指定災害変異超獣ハンターの肩書きは、ナギトにとってはかなり軽いらしい。
魔力なしとして実家では酷い扱いを受けていたミナギでも、知っているくらい、有名な肩書きなのに。
【指定災害変異超獣ハンター】
モンスターの中に極稀に生まれる変異種。その中でも、もはや災害レベルとも言える力を持った異常変異モンスターには、指定災害変異超獣として、モンスターとしての種族名ではなく、個体名を付けられる。
たった一匹、一頭居るだけで、街が二つや三つは軽く滅ぼされ、人間は数百、数千が死ぬ。そんな指定災害変異超獣を狩る実力を持った冒険者の事を、指定災害変異超獣ハンターと呼ぶようになっていた。
彼等は規定の冒険者ランクから外れ、様々な権限が与えられ、大陸王族から直接依頼を受ける事もあり、大陸間の移動も自由に出来る上、上陸の際の審査も免除される。
勿論、それ相応の実力が必要となり、下手に指定災害変異超獣ハンターを騙れば、即死刑は免れないと噂されている。
まあそんな重大な肩書きも、ナギトにとってはたいぎい話と軽く流されてしまうのだから、どうしたものかと頭を抱えるミナギ。
だからと言って、自分が知っている指定災害変異超獣ハンターの凄さのあれこれを語ったところで、両親が指定災害変異超獣ハンターであるナギトにとっては、耳にタコが出来るような内容ばかりだろう。いつも通り、たいぎいの一言で片付けられる可能性が高い。
「まーそんな感じだから、ウチじゃぁ俺は鍛えられまくった……。ゆづもだけど」
「あぁ……確か、術師……じゃない、後衛?だっけ、『後衛でも接近戦に対応出来る実力つけとけー』って言う、あれ?……そっか、指定災害変異超獣ハンターで、しかも二人だけのパーティなら、そりゃ後衛も接近戦で対応出来るだけの実力は必要なのか……」
「ウチの親父達は色々規格外だからなぁ……。流石に、指定災害変異超獣とか、高ランククエストに俺やゆづを連れてく事はなかったけど」
「連れてったらぁ、それこそ大変だものねぇ?」
大変なんてレベルじゃないでしょ。思わずツッコミを入れたミナギは間違っていない。
しかし、今夜の話で色々謎が解けた。規格外の実力、戦い慣れしている事や、色々な知識量、戦闘時の考え方、精霊術師であるユヅキまでナイフを使った戦闘が出来る事などなど。そもそも世間一般の基準から外れまくった両親に育てられていれば、全てに説明はつく。
ハーッと疲れ果てたため息を吐き、料理が置かれていないテーブルの空いてる空間に突っ伏す。正直な話、どうしてこうも色々あれこれと人が驚くようなネタを出して来れるのだろう。不思議でならない。
最初にパーティに勧誘された時にも思ったが、とんでもない人達とパーティを組んでいるのだと思い知る。否、とんでもなく規格外の人達、だろうか。とりあえず、同年代の、世間一般の子供達と同列には並べられない。
とんでもない人達だと思いつつ、ミナギは気付いているのだろうか。
そんなとんでもないナギトやユヅキ達と一緒に居るのを、楽しんでいる自分が居るのを。
そして実は、自分もとんでもない人の一人に、片足の爪先を突っ込み始めている事に。
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