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本編
本編ー9
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魔法銃。歴史は浅く、ほんのまだ数十年程度。
手にした魔法銃に魔力を流し込み、魔力を弾丸として撃ち出す武器で、矢数に左右される弓とは違い、魔力さえあれば何発でも撃てる事と、弓矢と比べると圧倒的な攻撃力を持っている――と言うのは、よく聞く話。
だが、実際見ると聞くとは大違い。百聞は一見に如かずとはよく言ったもので、自分と相性の良い魔法銃を見付けた魔法銃士は、口を揃えてこう言うのだ。
「ただ魔力を弾丸にするだけで戦えるなら、誰も苦労しない」
その言葉通り、今まさに、自分の魔法銃に振り回されている魔法銃士が、ここに。
◇ ◆ ◇
自分の魔力を、一発の弾丸にして撃ち出す。
言葉だけではただそれだけだが、実際のところ、ただそれだけでも難しい。だって問題は、その後。込めた魔力の量によって、当然弾丸の威力は変わって来る。だが、魔力を込め過ぎれば魔法銃が暴発する可能性もあり、逆に込める魔力が弱過ぎればモンスターの表皮を傷付ける事すら出来ない。
加えて、撃った対象を貫く弾丸や、炸裂する弾丸、発射すると複数の弾丸に分裂する弾丸。更には、着弾すれば燃え上がったり、凍結させたり、時には爆発したり。様々な効果を持たせた魔法の弾丸は、それだけ扱いも難しくなる。
どれだけの魔力を込めれば自分の銃は耐えられるのか。どれだけの魔力を込めればモンスターを倒せるか。
必要な物事を複数同時に考えつつ銃を構え、仲間の動きを予測し、モンスターの動きも予測し、なおかつモンスターの弱点を狙う。しかも、魔法銃を構える自分が安全な位置に居る事も大事で。
本当に、本当に、色々な事を考えて引き金を引き、一発を撃つ。
相性の良い、自分だけの魔法銃を見付ければ良いと言う訳ではないからこそ、本当の魔法銃士は大変なのだ。
そして、ここにも自分の魔法銃に振り回される魔法銃士が、また一人。
「…………っ。ホンマに、どうやったらウチの銃は安定するんかな……っ」
魔法銃のスコープを覗きながら、彼女は苦しそうに息を吐き出す。
ここは、ベル・オブ・ウォッキング魔法学園の、五棟ある実技演習場の、一つ。魔法銃士学科が専用で使っている実技演習場だ。
教師に指定された効果を持つ自分が作れる魔法の弾丸を創り、不規則な動きをする的に向かって撃ち出す、実技試験。何人か同時に試験を受ける中に、彼女の姿があった。
フォレルスケット・カペラ。十八歳。一七六センチ。
燃え上がる炎のようなルビーレッドの髪と瞳を持つ、魔法銃士学科の三年生。
バレットM82A1と名前の付いた、魔法銃の中でも特に大きな狙撃銃が、彼女の愛銃だ。
例えるならそれは、太陽の如く巨大な炎を、長さ十三センチくらいの弾丸に抑え込む作業。ほんの一瞬でも気を抜いてしまえば、その瞬間銃身が爆発するのではないかと思う程の圧力を抑え込むのは、並大抵の苦労ではない。
まあこれは、彼女の魔力が他の人よりも特殊なものだからこそ、なのだけれど。
暴れそうになっている魔法の弾丸を必死に抑え込み、不規則に動く的を見据え、彼女は、フォレルスケットは引き金を――引いた。
「あー…………やっぱ今回の試験もボッロボロやった……」
愛銃であるバレットM82A1を背負いながら、フォレルスケットはがっくりと肩を落とし、実技訓練場を後にする。
魔法の弾丸は撃ち出せた。動く的も、まあまあ動きを予測して撃ち抜けた。けれど――今回の実技試験で彼女の評価は、六十点。後一点でも低ければ、追試験なっていたギリギリの合格点。
なんとなく予想はしていたものの、予想通りギリギリクリアとなると、落ち込む者は落ち込む。
自分の欠点がわかっているからこそ、ちゃんと克服する為に魔法銃を改良したり、自分の魔力コントロールを研究したりと、色々しているのに。
「的にはなんとか当たってくれたんやけどなぁ……。威力デカ過ぎて、他の的まで吹っ飛ばしてしもて、狙った効果が出とったんか判断出来ひんかったし……」
重く息を吐き出し、またがっくりと肩を落として項垂れるフォレルスケット。
頭の動きに合わせてふわふわ揺れる髪の毛は、まるで本当に燃えている火のようにも見えるのだから、少し不思議な話。
その隣を、同級生の生徒達がクスクスと笑いながら通り過ぎて行く。わざとらしく聞こえる声で、「また追試ギリギリだったわね」だとか、「ヘタクソ過ぎ」だとか言うのだから、性格が悪い。
まあ当のフォレルスケット本人は、いつもの事だからと聞き流していた。他人に言われるまでもなく、自分だって、そう思っているから。
追試ギリギリなのはいつもの事。自分の魔力のコントロールが下手なのも、いつもの事。少しでも成績を良くしようと、出来る事は何でもやっているのに。なかなかどうして、上手くいかないものだ。
魔法銃の改良、調整。魔力のコントロールが上手くなるとされている訓練。教師に個人的に授業を付けてもらった事も、一度や二度ではない。
それでもこれと言った成果がないのだから、フォレルスケットの気は重い。
「……なんとか三年にまではなれたけど……進級もギリギリ、ちょっとおまけしてもろうた結果やから……。今年は難しいかもしらんなぁ……」
再度がっくりと項垂れ、もう何度目かもわからないため息を、一つ。重いため息は、フォレルスケットの足元に沈む。
打開策を探って実家に相談してみたものの、結果はお察し。
カペラ家の中でも、ここまで自分の魔力の扱いが下手な者は初めてだと書かれた手紙が届いたのは、二日前。これで落ち込むなと言う方が無理な話だ。
本当どうすれば良いんだろうと、肩からずり落ちて来たバレットM82A1を背負いなそうとしたところで、聞こえて来た、足音。明るく、楽しそうに軽快で、確認せずとも、足音の主は絶対笑顔だと思わずにはいられない、そんな音。
瞬間的にフォレルスケットが眉を顰めて渋い顔をするのは、足音の主は落ち込んでいる時に逢いたくないナンバーワンに上げられる男だから。
天才はどこにでも居るものだ。否あれを、天才と称するのは難しいけれど。
魔力を持たない家に、突然変異の如く強い魔力を持って生まれた結果、家族だけでなく親戚一同から天才だともてはやされた。挙句、ベル・オブ・ウォッキング魔法学園なんて有名校に招待されれば、もう止められない。
自分は天才なのだと思い上がるようになるのに、時間はかからなかった。
お調子者なんて表現では足りない。思い上がりに、思い込みの激しさが追加され、更には自分と相性の良い魔法銃を見付ける時、「憧れの魔法銃士と同じになるから」と言う理由だけで手にしたハンドガンタイプの魔法銃と適合した事で、更に思い込みの激しさは増長されて。自分は他の誰も追いつけない天才なのだと、吹聴するようになった。
誰かの気持ちに同調する事もない、他者を理解する事もなく、周囲からの苦言やアドバイスを聞く事もなく、ただただ自分は天才だからと思い込む、底抜けに明るい面倒な人間。
「フォルスー!きーてきーて!やっぱ自分ってば天才なんスよ!さっきの実技試験、八七点とってさ!!他の皆は八〇点とかなのにさ!ボクすっごくない?!すっごいッスよね!」
「うっわ!!ちょ、危ないやろ!!急に飛びつかんといて!!あーもうハイハイ、良かったやんかー、スゴイスゴイ」
「へへっ、フォルスはどうだったんです?」
これが彼の素の、無邪気な発言だからこそ、タチが悪い。
振り返らなくても、わかる。今話しかけて来た男が、サガラ・イルヴィフォードが、どんな顔をしているか。純粋に、無邪気に、好奇心に満ちた顔をしている、確実に。
空気が読めないだけじゃない。相手を気遣う事が出来ないのは、彼の標準装備。他にも色々な問題発言や行動が多く、実はかなりの爆弾扱いされている事を、本人は知らない。気付いていない。
露骨に避けられても、嫌味を言われても、「自分天才だから仕方ないッスね」の一言で片付けてしまう、鋼の精神の持ち主でもあって、正直手に負えない。
なのに、こうして十九歳と言う年齢にしては随分と幼さの見える言動があるのだから、余計に周囲を苛立たせる。ここまで来るともはや、そう言う面では天才的だ。
面倒なのに絡まれた。
心底うんざりした表情を隠そうともしないフォレルスケットだが、当のサガラ本人は、全く気付かない。
◇ ◆ ◇
ルオーダ採掘場は、大きな山の中に出来た採掘場だった。
他の場所よりも地の精霊達が多く住んでいる為か資源も豊富で、資源採取ダンジョン化しており、ある程度資源を採っても、一週間すればまた資源が復活すると言う特殊な採掘場で、このグラナディール大陸内でも滅多にない採掘ポイントの一つ。
とは言え、モンスターも棲んでいる為安全と言う訳でもなく、モンスターと戦う準備も、必要だけど。
当初の予定通り、ルオーダ採掘場へは、ユヅキの提案通りシエロに運んでもらった為、徒歩で三時間かかる道のりも、ほんの数十分で済んでしまった。
最短距離で、障害物もなく、モンスターや盗賊等に襲撃される事なく済んだ結果なのだが、この快適さに慣れるとダメな気がする、と言うのはミナギの心の声。
それは実際当たっていて、帰り道は何事も経験だからと徒歩を選び、途中から馬車に乗る事になるのだが、馬車酔いを起こし、硬い木のベンチ長時間座っていた結果お尻も痛くなり、散々な結果になってしまった。
もう二度と馬車なんて乗りたくない、そう口に出してしまう程に。
「採掘場って、地の精霊が多いんだね」
「まー、ココは山の中だからな」
見えんからわからんけど、と。そう続くナギトの言葉に、そう言えばこの人見えないんだっけ、と思うのは当然ミナギ。
普段ユヅキ、アルバ、セラータ、そして五人の小さな精霊達と一緒に居て、普通に精霊達を交えた話をしているせいで忘れがちだが、ナギトは未契約の精霊が見えない、存在を感知できない、声が聞こえないと言う、ないないないの三拍子が揃っている男。
今ミナギが見ている景色も、ナギトの目には映っていない事を、思い出す。
大小さまざまな精霊達がこっちを見たり、わざわざ顔を出したりして、次々に挨拶してくる。ミナギには話す力がない事を知っているのか、笑顔で手を振ったり、軽く手を挙げて来たり、果てには両手をぶんぶんと振って大歓迎をアピールする者も居て、ちょっとびっくりしてしまった。
「ナギト!ナギト!鉄鉱石だけど、こっちの奥の方が品質良いの採れるって!」
「んー。こう言う時、精霊術師が居ると楽よなぁ。採掘ポイント探す時間と、採掘時間がかなり省ける。アルバ、明かりよろしく」
「はぁいぃ」
一人、ルオーダ採掘場に住む地の精霊達に話をしていたユヅキが声を、 複数ある横穴の一つを指差す。
どうやら良質な鉄鉱石が採れる場所に案内してくれるらしく、一人の大きな地の精霊がユヅキ達の数メートル先に立ち、採掘場の奥の方を指差している。目付きが悪く仏頂面ではあるが、友好的なのは間違いない。
きっとあの精霊は、このルオーダ採掘場の中でも力の強い精霊の一人なのだろう。
高さ三メートル、横幅二メートル程の横穴を、進む。案内役の地の精霊が先頭。未契約の精霊の姿が見えるユヅキとミナギがその後ろ、一番後ろをナギトが歩く。
アルバはその列の頭上を飛び、自分の力で丸い明かりを作り、暗い採掘場内を照らして出していて。範囲はおよそ五メートル先を軽く見渡せるくらい。
残るセラータは珍しく、自分の足で歩いている。
「普通は、精霊達に採掘ポイント教えてもらうって事ないよね?」
「ココに二人も『見える』ヤツが居るから感覚バグるけどな、普通は見えんのが当たり前だからな?教えてもらうなんてあり得んし、普通は経験とか勘に頼って採掘してる。思ったように採れんとか、質が悪いのとか、そんなんで特定の魔鉱石採取クエなんて、完了まで一週間以上かかるとかザラにあるな」
「…………それ、移動時間関係なしに、だよね?」
≪採掘にかけた時間だけだ≫
何気ない質問ではあったが、返されたナギトの言葉に、自分の感覚がズレ始めている事を知るには十分。そんなまさかと思いつつ、認めたくない思いもあって、話題の軌道を戻して行く。
経験や勘に頼って採掘をして、受けたクエストをクリアする為に必要な鉱物を集めるのに一週間以上なんて、ちょっと大変過ぎないだろうか。
しかも、ヴェルメリオの言う通り移動時間を含まないとなれば、ちょっと大変、なんてレベルの話ではないか。
「品質も、調べるの大変だもんね。やっと採れたーって思って持って帰っても、品質悪いからって、報酬減らされちゃうんだもん」
「ウチの親父達も、最初は苦労したって言ってたな。クエ発注者が酷いヤツで、ギルドが品質良いて鑑定したのに、なんだかんだケチつけて報酬減らされた事もあったってよ。」
経験者が身近に居るからこそわかる、苦労話。
そんな苦労話も、ミナギには初めて聞く話で。そう言う、実際にやってみないとわからない経験や話が聞けるのも、学内クエストのシステムの良いところなのかもしれない。
学内クエストで経験したり、話を聞いたりしていなければ、初心者として良いカモになりかねないから。ケチをつけられて報酬を誤魔化されたり、騙されたり、なんて事が多発しそうだ。
ちなみに、鉄鉱石等の品質の鑑定はクエストを受けたギルドで鑑定してもらうか、鉱物鑑定技術のある魔研技師に鑑定してもらう方法があるらしい。
前者は無料で、後者は有料。しかし、鉱物鑑定技術を持つ魔研技師に鑑定してもらうと、必要なら証明書も発行してもらえる為、報酬の減額は防げるとの事で、使い方次第、か。
「ヴェルメリオ」
≪この洞窟内だと、ツーハンドソードは厳しいな。カラベラにしておこうか≫
「おう」
赤い閃光が、洞窟内を照らし出す。
何が、と足を止めて振り返ったユヅキとミナギの目に映るのは、左手で緩く湾曲した片手剣を持つナギトの姿。後方を睨み付けて肩の高さでカラベラを構える。
いつものツーハンドソードではなく、その半分程度の長さを持つ片手剣のカラベラを選んだのは、狭い洞窟内ではツーハンドソードの戦闘には不向きだからこそ。
ツーハンドソードとカラベラでは戦い方は全く違うが、大丈夫なのだろうか。
ナギトの動きから、何かが――恐らくモンスターが、後方から迫っているのだろう事はなんとなくわかる。が、何が来ているのかまでは、見えない。肩をびくつかせて一歩後退するミナギの横で、素早く腰の剣帯からリング・ダガー二本を引き抜くユヅキ。
音は、しない。けれど、何もなくナギトがヴェルメリオを構える筈がない。
いつの間にか、採掘ポイントへ案内しようとしていた地の精霊が、ミナギの傍に立っていた。見上げた横顔は、元の仏頂面に厳しさが増している様に見える。
アルバが、ユヅキの肩に降りる。セラータが、以前見た黒豹の姿になった。つまりそれは、それ相応のモンスターが来る可能性がある、と言う事で。
耳のすぐ脇で、心臓がバクバクとなっている気がする。現実にはあり得ないのに、そう思えてしまうのは――ミナギがそれだけ緊張しているから。
「来るぞ!」
怒号に近いナギトの声が、鋭く響く。
反射的に息を呑むミナギの隣で、ユヅキの肩に降りたアルバが再度上昇。洞窟の天井すれすれまで飛ぶと、洞窟に入った時に出した明かりを、更に大きく、強い光へと変える。
光の届く距離が、広がる。五メートル先を見渡せるくらいの明かりから、十五メートル先まで見渡せるくらいのものへ。
そうして、見えた。ユヅキやミナギ達と同じくらいの体長を持った、ネイビーブルーのトカゲのようなモンスター。一匹だけではない。天井や壁にも貼り付いていて、その数、五。皆それぞれ、尻尾の先端にオレンジ色の何本もの棘を持ち、オレンジ色の宝石のような光る眼でナギト達を見ていた。
ネイビーブルーの体に、発光する目と、尻尾の先端に棘を持つトカゲのようなモンスターとくれば、間違いない。クエバ・リザードだ。危険度ランクは確かD。食糧は岩や鉱物で、食べた物によって、舌や眼の色が変わる特殊な生態を持っているリザード種。
オレンジ色の舌と眼を持つクエバ・リザードが持つ能力は――。
「ミナギ!俺の前に出来るだけ強くてデカイ結界!」
「っ!クアドリラテロ・バレッラ!」
「アルバも!シールド!!」
ナギトの前方。一辺が一メートル弱の大きさを持つ半透明の四角い結界が、出現。その速さと大きさに、軽く瞬きながら、お、と小さくナギトが声を上げた。
しかし、すぐに表情を引き締め、ミナギの結界と自分の前に割り込んだ、光の壁に目を細めた。光の統括大精霊であるアルバの作った、光の盾。クアドリラテロ・バレッラよりも大きな光の盾が、完全にナギトを覆い尽くした、直後。
五頭のクエバ・リザードがその尻尾を大きく振り回す。尻尾のオレンジ色の棘が、射出される。何本も、何本も、ナギト達に向かって。
射出された棘の一本でも身に受ければ、人体など簡単に貫通してしまうだろう事は、その大きさと太さから見て取れた。が、問題はそこではない。
ミナギが張ったクアドリラテロ・バレッラに、次々にクエバ・リザードの射出した棘が突き刺さる。かと思えば、次の瞬間には棘が結界に突き刺さった順に爆発。
オレンジ色の舌と眼を持つクエバ・リザードが持つ能力は――爆発。
人間、敵対モンスター、物体に関わらず、尻尾の先端に生えた棘がぶつかると、即座に爆発する、特殊な性質。
「……っ!!くっそ……!」
いくつかの棘が突き刺さった瞬間に結界にヒビを入れ、続く連続爆発に耐え切れず破壊される。悔しさに吐き出したミナギの声は、だがしかし爆発音にかき消され、誰の耳にも届かず消えて行く。
爆風は凄まじいものだったが、結界の後ろにアルバが光の盾を作ったお陰で、一番クエバ・リザード達に近いところに立っていたナギトにすら届かず。短くなった髪を揺らす事すら出来ずに終わる。
「爆発終わったら俺とセラータの部分だけシールド解除!」
「わかってるわよぉ!行っちゃいなさぁい、二人とも!」
連続した爆発音が、止む。
けれど爆発によって巻き上げられた細かな塵が、ナギト達の視界を阻む。が、どこにクエバ・リザードが居るか、すぐにわかった。
発光する眼とは、なんとも便利なものだ。
クエバ・リザード側からすれば、厄介なものかもしれないけれど。
アルバが創り出していた、光の盾が消えて行く。と同時、駆け出すナギトの傍らには、黒豹の姿をとったセラータの姿もある。
互いに言葉はない。そもそもセラータは無言で、滅多に喋らないけれど。それでも、どのクエバ・リザードを狙うのか理解しているようで、迷う事無く駆け出す。
対するクエバ・リザード達は、自分達の棘の爆発で、獲物であるナギト達が死んだと確信したのか、仲間同士で顔を見合わせ、グエグエと不快な声を上げる。もしかしたら、笑っているのかもしれない。
既に勝利を確信しているクエバ・リザード達の、目の前で。撒き上がった土埃の中を突っ切り現れる、ナギトとセラータの姿。
グエグエと声を上げていたクエバ・リザード達が、ピタリ、動きを止める。驚いているのだろう。しかし、すぐに向かって来る一人と一匹に対応するべく、天井と壁に貼り付いていたクエバ・リザードが尾を振り、棘を射出。
地面を歩いていたクエバ・リザードの二頭は、仲間の射出した棘を追って、素早く駆け出す。
「オスクロ・フレチャ!」
魔法で創り出された闇の矢が、飛んでいく。狙うのは、音もなく駆け寄って来るクエバ・リザードではなく、射出された棘を狙って。
空中で、クエバ・リザードの棘と、ナギトが放ったオスクロ・フレチャが、激突。
爆風が直接ナギトの体を襲うが、僅かに目を細めて粉塵から目を守りつつ、前傾姿勢をとって低く構え、左手で握ったヴェルメリオを真っ直ぐ突き出す。
真っ直ぐ、粉塵を切り裂いて突き出されたヴェルメリオが、地面を駆けていたクエバ・リザードの開いていた口の中に深々と突き刺さる。ナギトの腕の、中ほどまで。響き渡る絶叫。粉塵のせいで視界が悪く、仲間の絶叫に、一緒に地面を駆けていたクエバ・リザードが、絶叫を頼りに、大きく体を捻り尻尾を振り回す。人間の武器で例えるならそれは、モーニングスターのように。
だがその攻撃がナギトを捉える事はなく、それよりも先に、ナギト共に飛び出していたセラータが、闇の壁を創り阻む。
クエバ・リザードの尻尾の棘とセラータの闇の壁がぶつかり合い、起こる爆発は――クエバ・リザードの得意技の一つ。
尻尾に生える棘が、対象物にぶつかると爆発する性質を使った、近距離攻撃。
「俺が一人だったら、その攻撃も通ってたかもしれんな。グラベダド・マス」
ズズンッ、と。ナギトに尻尾での近距離攻撃を仕掛けていたクエバ・リザードが、突然その場に沈み込んだ。そう、沈み込んだ。足が地面にめり込み続けて体が、尻尾が、地面に沈む。
足から力が抜けたとは、また違う。突然重たい何かが背中に落ちて来たような、そんな沈み方。
それが、たった今尻尾で攻撃しようとしていた相手の――ナギトの闇属性の高位魔法である、重力を操作する魔法によるものだと、気付ける筈もなく。なんとか体を動かそうともがくものの、硬い岩盤にめり込んだ体は、早々簡単には動かない。
手っ取り早い方法は、尻尾の先端についている棘で周囲の岩盤を叩いて脱出する方法だが、全身に強く圧し掛かる重力を前に、尻尾はおろか、足の指一本動かす事も出来ず。苦痛の悲鳴を上げるのみ。
しかも重力を操る魔法は、天井や壁に貼り付いていたクエバ・リザード達も効果範囲に入っていたらしい。襲い掛かる、地面に引っ張るような強い重力に耐え切れず、ズドン、ズズンと重たい音を響かせて落ちて行く。井に貼り付いていたものは仰向けのまま、壁に貼り付いていたものは、横向きのまま。
さてこれに驚いたのは、撒き上げられた粉塵でいまだに何も見えていないミナギだ。
アルバの創り出した光の盾はまだミナギとユヅキを包んでいて、粉塵に咳き込む事も、目に入る事もなく無事でいるけれど。
否もう、この大きさを考えれば、光の壁だろうか。壁の向こう側とこちら側では、全くの別世界。ユヅキ、ミナギ、アルバには粉塵は全く届いていないが、向こう側は粉塵に全て覆われて視界ゼロ。
「っ!何が起きてんの?!」
「わかんないけど、ナギトならだいじょーぶ!」
自分の中の不安や心配に耐え切れず叫べば、
ナギトの声やセラータの声が聞こえず、クエバ・リザード達の悲鳴しか聞こえないところから考えて、とりあえずナギト達が苦戦しているわけではない事は確実だろう。
けれど、何が起こっているかわからないと言うのは、不安と心配を煽るわけで。風の精霊に頼めば粉塵を吹き飛ばしてくれるだろうか、そう考え、ちらり見るのは自分の傍に居る五人の小さな精霊達――の、風の精霊コンビ。
目が合った瞬間、自分達の仕事か、と風の精霊コンビが目を輝かせたのは、ミナギの気のせいではない。
うんと頷き、光の盾の向こう側を指差し、埃を払うように手をパタパタと振る。粉塵を惹き飛ばしてくれ。そう訴えたつもりだが、彼等にちゃんと伝わっただろうか。
抱えた不安は一瞬。むしろ杞憂に終わる。風の精霊コンビは同時に右手をはーいと上げ、これまた同時に右手を光の盾の向こう側に向けて伸ばす。
瞬間吹く風は、暴風とまではいかないが、撒き上がった粉塵を吹き飛ばすには十分な風。
そうして吹き飛ばされた粉塵は、途中でナギトの重力魔法によって地に落ちる。
しかし、重力魔法が発動しているとは知らないミナギからしてみれば、それは想定外の異常な展開。驚くなと言う方が無理な話。
「ユヅキさぁんっ!?なにあれぇ!!」
後から考えれば、随分と素っ頓狂な声が出たなとミナギは思う。
けれど、元々戦闘経験なんてなく、魔法を見る機会も滅多になかったミナギにとって、今ナギトが使っている重力魔法は、異次元の魔法だ。魔法の勉強をしていても、まだそんな高位魔法に触れられるものではなくて。
「闇属性の魔法の中には、重力を操るものもあるの!『グラベダド』ってやつ!ほんの少しの時間だけど!モンスターが地面に沈んでるから、『グラベダド・マス』の方!」
「オレまだそこまで勉強出来てないんだけどーーーーーーーー?!」
時間にして、ほんの十秒程度。
それでも五体のクエバ・リザードを相手にするには、十分。明確に倒せたのは、ナギトが最初に攻撃して口の中にヴェルメリオを突き刺した一体だけだが、完全に岩盤に身体がめり込んでしまった状態では生き残っていたとしても、何も出来ず。
尻尾の棘を射出するのだって、尻尾を振り回す予備動作が必要な為、もはやクエバ・リザードには打つ手なし。
悔しいと咆哮を上げる余裕があるだけ、まだマシな方か。
そんなクエバ・リザードを冷たく一瞥すると、ナギトは口の中に突き立てたヴェルメリオを引き抜く。悲鳴も上がらなかったところを見ると、その一体は既に死んでいるらしい。
まあ当然か。口の中にヴェルメリオが突き刺された状態で、更に重力がかかったのだ。体の内側で何が起きているかなんて、簡単に想像出来る。しかも今回ヴェルメリオが変身した剣のカラベラは、湾曲した刀身を持つのだから、尚更。
見れば、すっかりいつもの黒猫の姿に戻ったセラータが、仰向けのまま埋まっているクエバ・リザードの腹の上でお座りをして、ゆらゆらと尻尾を揺らしている。
もう脅威はないと、そう言う判断だろう。
「さて……どうトドメを刺そうかな」
刀身にべっとりとついたオレンジ色の血を、勢いよくヴェルメリオを振る事で払い落として。ナギトが呼ぶのは――ミナギ。
え、やだ。ほぼ反射的にそうミナギが声を出してしまったのは、仕方ない。
それでも、ナギトからは有無を言わさぬ圧をかけられ、笑顔のユヅキに背中をぐいぐいと押されてしまえば、どうしようもなく。トドメとばかりに、面白そうだと思った五人の小さな精霊達までユヅキを手伝うのだから、諦める道以外残っていない。
心の底から嫌だと表情で訴えたまま、まだ生きているクエバ・リザード達の傍に立つナギトの下へ。
近付いた瞬間ギロリと光る眼で睨まれ、ビクッとミナギの体が震える。
すると、大丈夫だとばかりに、ひょいとセラータが肩の上に飛び乗り、ミナギの頬に頭をすり寄せる。
「何事も経験。ミナギ、ちょっとコイツの体を前やったコラムビで突いてみろよ」
「…………攻撃されない?」
「クエバ・リザードの攻撃方法は、尻尾と尻尾の棘を使った攻撃ばっかりだから、安心していいよー」
「そうよぉ!ナギトがぁ、ミナギにケガさせるようなことぉ、すると思ってるのぉ?」
「んのー」
不安が顔を覗かせるミナギに対して、大丈夫だと安心させるように声を掛けるのはユヅキ。少しからかうようにアルバが続けば、アルバの言葉に対して「んのー」とセラータが鳴く。猫の鳴き声ではあったが、今のは明確な意思がそこに見えた。
それぞれの言葉を受け、意を決してミナギは自分の武器であるコラムビを剣帯から抜き取る。
恐る恐る、ナギトの足元に居るクエバ・リザードの前にしゃがみ込み、少し迷った後、その体にコラムビを突き刺そうとして――。
ガキィンッ、と響く、硬い音。
コラムビを握るミナギの両手が、跳ね返されたかのように大きく上がる。
驚きと、しゃがみ込んだ状態だったせいで、そのまま仰向けにひっくり返りそうになったミナギの上半身は、だがしかし、それよりも早くナギトが足で支える事で難を逃れた。
「ナギト……?」
「突発的事態だったんでぇ!足が出ただけですー!手はヴェルメリオ持っとったからぁー!!」
助けられた事にミナギが礼を言う間もなく、静かに響いたのは怒色交じりのユヅキの声。
なんで足で助けたのと、向けられる視線からユヅキが語ろうとしていた不満を察したのか、ナギトが慌てながら答える。本当に、力関係のよくわからない二人だ。
そんな二人のやり取りを、ぱちくりと瞬きながら聞いていると、心配そうに顔を覗いて来たのはナギト――ではなく、肩の上に乗っていた筈のセラータ。星空のような瞳に覗き込まれ、びっくりした、なんて言いながら目を向ければ、安心したのかセラータは目をゆっくりと細めた。
コラムビを握っていた手が痺れている。激しくではないけれど、少しだけ。
「え、硬くない……?」
「そうなんだよ。クエバ・リザードは岩とか鉱石が食料だからか、体がくっそ硬いんだよ」
「そう言う事は早く言ってくれない?オレがこ、こら……コレ使う前に言う事も出来たよね?」
「何事も経験よぉ?ほぉらぁ、人間もよく言うじゃなぁいぃ?『百聞は一見に如かず』だったかしらぁ?」
「アルバ、ソレ、ジョサニア大陸でのことわざだから。ロディッキ大陸出身のコイツ知らんと思う」
返された言葉に、また「あぁらぁ」なんて驚いたように言いながらアルバはユヅキの肩の上へ。ナギトの言葉は本当かとユヅキに確認しているが、返された答えは首肯。
大陸が違えば文化も暮らしも違うように、ことわざにだって違いが出る。これに関しては、精霊であるアルバは初耳だったらしい。驚いただの難しいわなどと、ユヅキにあれこれ言っているアルバの声を聞きながら、ナギトは再度ミナギを見下ろす。
「起きれるか?」
「う、うん……。ごめん、ありがと……。でもどうするの?こんなに硬いなら、普通の剣とか歯が立たないんじゃない?魔法銃も難しそう」
「そうそう。だからこのルオーダ採掘場内での戦闘だと、魔法メインになりがちなのよな。ま、硬いのは体の表面だけで、内側から攻撃すりゃ終わるケド……。この埋まってるのどうしよっかな」
ゆっくり起き上がるミナギを横目に、岩盤にめり込んだまま、悔し気に鳴き声を上げているクエバ・リザードを見下ろすナギト。
剣が通らない為、とりあえず天井や壁に貼り付いているクエバ・リザードを、重力魔法で落としたのはわかった。が、どうやらこれ、落とした後の事を考えていなかったらしい。それはどうなんだろうと思いつつ、かと言って方法はミナギにもわからない。
コラムビを剣帯に戻し、どうするのかと見上げたナギトが見ていたのは、セラータ。
「セラータ、皮は防具用素材に重宝されるし、尻尾の棘は爆弾の材料として使われる。光る眼は死んだ後も光を失わないから、マニアは欲しがる。だから、出来れば身体の表面に傷はあんまつけたくないんよな。出来るか?」
「にゃぁ」
自分の魔法だと余計な傷を付ける自覚があったのか、意外にもナギトはセラータにトドメを頼んでいた。
するとセラータは、二つ返事でこれを了承、したように見える。
生き残っているクエバ・リザード達へと目を向けると、長い尻尾を一度大きく揺らす。それだけ、ただそれだけに見えた行動は、だがしかしクエバ・リザードの体内で何かしらの攻撃をしたらしい。
四体のクエバ・リザードが、一度大きく体を震わせ、オレンジ色の血を吐き、そして動かなくなる。
「おおー」
「セラータ凄いっ!!」
「……訊かない。もう何が遭ったかは訊かないから。とりあえず死んだって事だよね、それだけわかればいい……!!」
感嘆の声を上げて拍手するナギト。素直に褒めるユヅキ。その流れに、ついつい何が起きたのか訊きたくなるが、必死に我慢するミナギが居る。
そんなミナギに気付いていながら、完全に無視してナギトは岩盤に埋まっているクエバ・リザードを掘り出していく。今度は無重力にする闇魔法を使っているのか、簡単に引っ張り出す姿は、ちょっと、かなり、ドン引きしてしまう。
ユヅキもユヅキで、肩にアルバを乗せたまま、セラータを抱き上げ、凄い凄いと褒めていて。
本当なんなんだ、この人達。
ドン引きしているのが顔に出ていたのか、わらわらと心配そうな顔をしてミナギの顔周辺に集まるのは、いつもの五人の小さな精霊達。
触れられた感覚はないが、ぺたぺたとミナギの顔を触ったり、頭を撫でたりと、それぞれがそれぞれにミナギを心配しているのは、その表情や動作から見て取れた。大丈夫と笑顔を見せれば、ぱぁっと嬉しそうに顔が綻ぶ。
単純と言えば聞こえが悪いが、この単純さが今のミナギには丁度良かった。身近な人間が、自分の常識からかけ離れた、規格外の人間だからこそ。
がっくりと項垂れ、ミナギが吐き出したため息は、重い。
「……ハァ、なんかもう疲れた……。まだ採掘してないんだけど、大丈夫かな……」
「あ、採掘はすぐ終わるぞー。お前とゆづがやるから」
「オレとユヅキさんだけ?!ナギトさんは?!」
突っ込んだら負け。
それが頭にあっても、どうしても突っ込まずにはいられない、そんな自分の性分が何よりも悲しいと、後にミナギは語る。
◇ ◆ ◇
早かった。本当に早かった。
普通の冒険者であれば、採掘ポイントを探すだけでも時間が掛かり、良質な鉄鉱石や魔鉱石を見付けるだけでもかなりの時間を要し、そして鑑定してもらうのに更に時間が掛かると言うのに。
ルオーダ採掘場に住む地の精霊の案内と、的確な指示の下で進めた採掘は、ほんの二時間程度で終わってしまった。
「こんな簡単に終わらないクエストでしょ!!絶対!!こんな楽でいいはずないっ!!」
「ミナギー、気持ちはわかるが、ダンジョン内で叫ぶなー?モンスターが来るぞ」
「んなこたわかってるよ!!わかってるけどこればっかりは無理!!」
質はわからないが、量だけみればクエスト完了に十分な鉄鉱石だけでなく、様々な魔鉱石まで採取出来て。こんな人生イージーモードみたいな展開が普通ではありえない事くらい、流石のミナギでもわかる。
ダンジョン内で叫ぶのが危険なのはわかっている。わかっているけれど、叫ばずにはいられない。
もう一つ納得いかないのは、採掘をしたのがユヅキとミナギの二人だけと言う点だ。
アルバとセラータ、五人の小さな精霊達が特に手を出さなかったのは、まだわかる。否、小さな地の精霊は、ここを掘ってと、採掘ポイントを教えてくれた為、ちょっと違うけれど。
「でも、未契約の精霊見えるのアタシとミナギ君だけだもん。ナギトがやみくもに掘るより、アタシ達が掘った方が早いでしょ?」
「それにぃ、安全に採掘する為にはぁ、見張りも必要よぉ?」
「く……っ!!」
返されるユヅキとアルバからの正論に、ぐうの音も出なくなってしまう。何より、納得してしまった自分が悲しい。味わう敗北感。
実際、採掘ポイントに着くまでに、他にも色々なモンスターに遭遇。採掘している時も、素早くナギト、アルバ、セラータが倒してくれたものの、何度かモンスターが襲撃して来た。ミナギが手を出す事もなく、ナギト達にあっさり片付けられていたけれど。
学園に帰る為に、採掘した素材をアイテムバッグに入れていると、「そんな事より」とナギトに掛けられる、声。
「ミナギ、お前さっきクエバ・リザードに襲われた時に、四角い結界使ってなかったか?」
「え?ああ……うん、出来るだけ強くてデカい結界って言われたから……クアドリラテロ・バレッラ出したけど……それが何?」
「パーティに誘った時、クアドリラテロ・バレッラは安定させるの難しいっつってたじゃん。だからネグロ・トルエノ・ティグレに襲われた時もトリアングロ・バレッラしか出せなくて、大ケガしてたし」
そう言えばそんな話もしたなぁ、なんて。随分昔の話のように感じるが、まだほんの三ヵ月くらい前の話なんだから、妙な感覚だ。ネグロ・トルエノ・ティグレと戦ったのも、二週間以上前の話。
よく覚えてたね。そう正直に返せば、ナギトは当然とばかりに肩を竦めるだけ。
「クアドリラテロ・バレッラの練習自体は前からしてたけど、ネグロ・トルエノ・ティグレとの戦いで、やっぱ必要だなって思って。最近だと、コイツ等が力を使う練習する時、オレも自分で結界張って壊されないように集中して……てやってたら、クアドリラテロ・バレッラでも安定して張れるようになった感じ」
コイツ等と言いながらミナギが視線を向けるのは、五人の小さな精霊達。ナギトの目にその姿が映る事はないが、その動作から、誰の事か伝えるには十分。
諸々を理解したナギトは、何かを言うよりも早く、ミナギの頭を撫でていた。ぐりぐりと、強めに。
褒めているつもりなのだろう、きっと、多分。
「ちょっ!何ナギトさん痛いっ!」
「エライエライ。頑張ってんじゃん、ミナギ。でも声デカイ」
「じゃあもうちょっと手加減してくれる?!縮む!!」
「アレで縮むとしたら、ミナギ君、ナギトママに逢ったらもーっと縮んじゃうかもね」
必死にナギトの手を止めようと抵抗するミナギだが、これが全く効果なし。
五人の小さな精霊達は、最初こそ助けた方が良いのかとも思って居たが、今は可愛がられているだけだと理解して、にこにこ笑って見守っている。
ちょっと気になる話題がユヅキから出て来たものの、今のミナギに訊く余裕なんてある筈がなく。むしろ助けてくれとまで言う始末。まあ、誰も助けてくれないのだけれど。いつもは比較的味方になってくれるセラータですら、尻尾をふりふり見守っているだけ。
唯一、迷うような表情を見せているのは、この採掘ポイントまで案内してくれた、ルオーダ採掘場に住む地の精霊だ。
初めて見るやり取りである為、口を挟むべきかどうか迷い、ユヅキを筆頭にした面々が笑顔で見守っている為、あえて貫く沈黙。とりあえず、この機にモンスターが襲撃しないよう、周囲への警戒役を担当。
もしここで周囲への警戒を怠って、彼等が――特にユヅキが怪我を負うなんて事があれば、どうなるか。
アルバが居る為、怪我はすぐに治療されるとは言え、怪我をしたと言う事実は消えない訳で。
うん、考えるのを止めよう。ただただ恐ろしい。
とにかく、彼等を無事にルオーダ採掘場の外まで送り届けるのが、今の自分の責務だ。
自分達を案内してくれた地の精霊がそんな風に考えているとは全く思わず、わいわいと賑やかなナギト達が返る準備を終わらせたのは、それからたっぷり十数分は後の話。
ダンジョン内で賑やかに過ごすなんて本来はあり得ないが、それが出来るのは、精霊に人一倍好かれやすい精霊術師が居るからだろうか。
しかし、あくまでも無事だったのは、ルオーダ採掘場を出るまで。
「どっかの大陸に、『行きはよいよい、帰りは怖い』て歌詞のある歌があるらしいんだが、それと似たようなもんだな。どんなダンジョンでも、帰る時の方が注意必要だぞー」
「ナギト、それ言うとミナギ君が、『前それでネグロ・トルエノ・ティグレと遭遇したからそう言うの止めてくれる?』て言いそう」
「……ユヅキさん、正解ではあるんだけど、オレのセリフ全部持ってくの止めてくれる?」
パーティリーダーとして、ナギトが色々教えてくれているのはわかる。わかるけれど、ミナギとしてはその説明が毎回良い意味で当たるので、正直勘弁して欲しいところ。
しかも、自分が何か言うよりも早く、ユヅキが完璧に自分のセリフを奪うのだから、もうどんな顔をすれば良いかわからない。嗚呼もう、とため息を吐くのが、今のミナギに出来る最後の行動だった。
そして今回も、ナギトが懇切丁寧に建ててくれたフラグは、ものの見事に回収されるのである。
「おいガキ共!さっきルオーダ採掘場から出て来たよなぁ?」
「悪いんだけどさー、採掘してきたやつ、全部僕達にくれない?」
「大人しくぜーんぶ出してくれたら、まー……ちょっと痛い目に遭わせるだけで済ませるからさ」
ルオーダ採掘場を出てから、どのくらいだったか。十分も経っていない事を考えれば、距離にして六〇〇メートルも行っていないだろうか。
そんなナギト達に対して声を掛けて来たのは、五人の冒険者達。
だが、掛けられる声はどう頑張っても友好的なものではなく、悪意しか感じられない。追い剥ぎだ。
「オレ、ナギトさんキライになりそう」
「しっかたないじゃん。こう言うのよくあんだからさー。俺だってたいぎーって思っとんだ」
見た目は、あくまでも冒険者。五人からなるパーティで、剣を持つ者が三人、大きな鐘が付いた杖を持つ治癒魔法士か補助魔法士が一人、空中をふわふわと漂う魔石球を持つ攻撃魔法士が一人と言う構成だが、どう見ても荒くれ者の集まりと言った一団に周囲を囲まれ、思わずミナギは心の声が出ていた。大きな声で。
向けられる不満を受け止めつつ、ハアやれやれと肩を落としてため息を吐くのは、ナギト。
その隣では、ユヅキが困ったように笑いながら、腰の剣帯からリング・ダガーをするっと取り出す。柄の先に着いているリングに人差し指を引っかけ、そのまま引っ張り出すのだが、この動きがスムーズで、初めて見た時思わずミナギは目を見開いてしまったのを、今でも覚えている。
だがそれは、採掘して来た物を全部寄越せと訴える冒険者に対しての、反抗の意思を示すもので。完全に敵認定だ。
ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべながら、それでもまだちょっと痛い目に遭わせる程度だと語っていた彼等の機嫌を損ねるには、十分過ぎた。
「あっれぇ?さっき私達言わなかった?『大人しく全部くれたら見逃してあげる』って」
「あぁらぁ?『見逃す』なんて言ったかしらぁ?『ちょっと痛い目に遭わせる』ってぇ、私は聞いたけどぉ?」
「俺も聞いたぁ。『出待ち賊』に渡すモンなんて、一個もナイんだわ。相手すんのもたいぎいから、消えろ」
わかりやすく頬を引き攣らせる敵の攻撃魔法士の言葉に、あえて突っかかるのはアルバ。続くナギトの言葉で、完全に交渉の余地はなくなった。
否まあそもそも、ナギトとユヅキが交渉するつもりなんて毛頭ないし、自分達の絶対優位を信じて取り囲んで来たナギトいわく出待ち賊達は、揃って表面上の優しい態度を打ち消した。
「しっかたねぇなぁ!やるぞ!」
「大人の言う事は大人しく聞いておくのが利口だって……教えてあげるのも人生の先輩としての役目だ」
ナギト達と、出待ち賊のパーティとの戦いが、始まる。
そしてミナギにとって初めての――人同士の戦いが。
【出待ち賊】
ダンジョンから出て来た冒険者パーティ等を襲い、ダンジョン内で収集した物を奪い取る盗賊の総称。
自分達でダンジョンに入って採掘したり採取したり、モンスターと戦ったりするよりもリスクが少なく、アイテムの消費なども抑えられる事から、一部の悪辣な冒険者がやる行為。
当然犯罪者認定されるが、経験の浅い初心者パーティや学生パーティが襲われる事が多い為、通報したらまた襲われるのではないかと恐怖に呑まれ、通報する事も少なく、犯罪が表面化する事は少ない。
手にした魔法銃に魔力を流し込み、魔力を弾丸として撃ち出す武器で、矢数に左右される弓とは違い、魔力さえあれば何発でも撃てる事と、弓矢と比べると圧倒的な攻撃力を持っている――と言うのは、よく聞く話。
だが、実際見ると聞くとは大違い。百聞は一見に如かずとはよく言ったもので、自分と相性の良い魔法銃を見付けた魔法銃士は、口を揃えてこう言うのだ。
「ただ魔力を弾丸にするだけで戦えるなら、誰も苦労しない」
その言葉通り、今まさに、自分の魔法銃に振り回されている魔法銃士が、ここに。
◇ ◆ ◇
自分の魔力を、一発の弾丸にして撃ち出す。
言葉だけではただそれだけだが、実際のところ、ただそれだけでも難しい。だって問題は、その後。込めた魔力の量によって、当然弾丸の威力は変わって来る。だが、魔力を込め過ぎれば魔法銃が暴発する可能性もあり、逆に込める魔力が弱過ぎればモンスターの表皮を傷付ける事すら出来ない。
加えて、撃った対象を貫く弾丸や、炸裂する弾丸、発射すると複数の弾丸に分裂する弾丸。更には、着弾すれば燃え上がったり、凍結させたり、時には爆発したり。様々な効果を持たせた魔法の弾丸は、それだけ扱いも難しくなる。
どれだけの魔力を込めれば自分の銃は耐えられるのか。どれだけの魔力を込めればモンスターを倒せるか。
必要な物事を複数同時に考えつつ銃を構え、仲間の動きを予測し、モンスターの動きも予測し、なおかつモンスターの弱点を狙う。しかも、魔法銃を構える自分が安全な位置に居る事も大事で。
本当に、本当に、色々な事を考えて引き金を引き、一発を撃つ。
相性の良い、自分だけの魔法銃を見付ければ良いと言う訳ではないからこそ、本当の魔法銃士は大変なのだ。
そして、ここにも自分の魔法銃に振り回される魔法銃士が、また一人。
「…………っ。ホンマに、どうやったらウチの銃は安定するんかな……っ」
魔法銃のスコープを覗きながら、彼女は苦しそうに息を吐き出す。
ここは、ベル・オブ・ウォッキング魔法学園の、五棟ある実技演習場の、一つ。魔法銃士学科が専用で使っている実技演習場だ。
教師に指定された効果を持つ自分が作れる魔法の弾丸を創り、不規則な動きをする的に向かって撃ち出す、実技試験。何人か同時に試験を受ける中に、彼女の姿があった。
フォレルスケット・カペラ。十八歳。一七六センチ。
燃え上がる炎のようなルビーレッドの髪と瞳を持つ、魔法銃士学科の三年生。
バレットM82A1と名前の付いた、魔法銃の中でも特に大きな狙撃銃が、彼女の愛銃だ。
例えるならそれは、太陽の如く巨大な炎を、長さ十三センチくらいの弾丸に抑え込む作業。ほんの一瞬でも気を抜いてしまえば、その瞬間銃身が爆発するのではないかと思う程の圧力を抑え込むのは、並大抵の苦労ではない。
まあこれは、彼女の魔力が他の人よりも特殊なものだからこそ、なのだけれど。
暴れそうになっている魔法の弾丸を必死に抑え込み、不規則に動く的を見据え、彼女は、フォレルスケットは引き金を――引いた。
「あー…………やっぱ今回の試験もボッロボロやった……」
愛銃であるバレットM82A1を背負いながら、フォレルスケットはがっくりと肩を落とし、実技訓練場を後にする。
魔法の弾丸は撃ち出せた。動く的も、まあまあ動きを予測して撃ち抜けた。けれど――今回の実技試験で彼女の評価は、六十点。後一点でも低ければ、追試験なっていたギリギリの合格点。
なんとなく予想はしていたものの、予想通りギリギリクリアとなると、落ち込む者は落ち込む。
自分の欠点がわかっているからこそ、ちゃんと克服する為に魔法銃を改良したり、自分の魔力コントロールを研究したりと、色々しているのに。
「的にはなんとか当たってくれたんやけどなぁ……。威力デカ過ぎて、他の的まで吹っ飛ばしてしもて、狙った効果が出とったんか判断出来ひんかったし……」
重く息を吐き出し、またがっくりと肩を落として項垂れるフォレルスケット。
頭の動きに合わせてふわふわ揺れる髪の毛は、まるで本当に燃えている火のようにも見えるのだから、少し不思議な話。
その隣を、同級生の生徒達がクスクスと笑いながら通り過ぎて行く。わざとらしく聞こえる声で、「また追試ギリギリだったわね」だとか、「ヘタクソ過ぎ」だとか言うのだから、性格が悪い。
まあ当のフォレルスケット本人は、いつもの事だからと聞き流していた。他人に言われるまでもなく、自分だって、そう思っているから。
追試ギリギリなのはいつもの事。自分の魔力のコントロールが下手なのも、いつもの事。少しでも成績を良くしようと、出来る事は何でもやっているのに。なかなかどうして、上手くいかないものだ。
魔法銃の改良、調整。魔力のコントロールが上手くなるとされている訓練。教師に個人的に授業を付けてもらった事も、一度や二度ではない。
それでもこれと言った成果がないのだから、フォレルスケットの気は重い。
「……なんとか三年にまではなれたけど……進級もギリギリ、ちょっとおまけしてもろうた結果やから……。今年は難しいかもしらんなぁ……」
再度がっくりと項垂れ、もう何度目かもわからないため息を、一つ。重いため息は、フォレルスケットの足元に沈む。
打開策を探って実家に相談してみたものの、結果はお察し。
カペラ家の中でも、ここまで自分の魔力の扱いが下手な者は初めてだと書かれた手紙が届いたのは、二日前。これで落ち込むなと言う方が無理な話だ。
本当どうすれば良いんだろうと、肩からずり落ちて来たバレットM82A1を背負いなそうとしたところで、聞こえて来た、足音。明るく、楽しそうに軽快で、確認せずとも、足音の主は絶対笑顔だと思わずにはいられない、そんな音。
瞬間的にフォレルスケットが眉を顰めて渋い顔をするのは、足音の主は落ち込んでいる時に逢いたくないナンバーワンに上げられる男だから。
天才はどこにでも居るものだ。否あれを、天才と称するのは難しいけれど。
魔力を持たない家に、突然変異の如く強い魔力を持って生まれた結果、家族だけでなく親戚一同から天才だともてはやされた。挙句、ベル・オブ・ウォッキング魔法学園なんて有名校に招待されれば、もう止められない。
自分は天才なのだと思い上がるようになるのに、時間はかからなかった。
お調子者なんて表現では足りない。思い上がりに、思い込みの激しさが追加され、更には自分と相性の良い魔法銃を見付ける時、「憧れの魔法銃士と同じになるから」と言う理由だけで手にしたハンドガンタイプの魔法銃と適合した事で、更に思い込みの激しさは増長されて。自分は他の誰も追いつけない天才なのだと、吹聴するようになった。
誰かの気持ちに同調する事もない、他者を理解する事もなく、周囲からの苦言やアドバイスを聞く事もなく、ただただ自分は天才だからと思い込む、底抜けに明るい面倒な人間。
「フォルスー!きーてきーて!やっぱ自分ってば天才なんスよ!さっきの実技試験、八七点とってさ!!他の皆は八〇点とかなのにさ!ボクすっごくない?!すっごいッスよね!」
「うっわ!!ちょ、危ないやろ!!急に飛びつかんといて!!あーもうハイハイ、良かったやんかー、スゴイスゴイ」
「へへっ、フォルスはどうだったんです?」
これが彼の素の、無邪気な発言だからこそ、タチが悪い。
振り返らなくても、わかる。今話しかけて来た男が、サガラ・イルヴィフォードが、どんな顔をしているか。純粋に、無邪気に、好奇心に満ちた顔をしている、確実に。
空気が読めないだけじゃない。相手を気遣う事が出来ないのは、彼の標準装備。他にも色々な問題発言や行動が多く、実はかなりの爆弾扱いされている事を、本人は知らない。気付いていない。
露骨に避けられても、嫌味を言われても、「自分天才だから仕方ないッスね」の一言で片付けてしまう、鋼の精神の持ち主でもあって、正直手に負えない。
なのに、こうして十九歳と言う年齢にしては随分と幼さの見える言動があるのだから、余計に周囲を苛立たせる。ここまで来るともはや、そう言う面では天才的だ。
面倒なのに絡まれた。
心底うんざりした表情を隠そうともしないフォレルスケットだが、当のサガラ本人は、全く気付かない。
◇ ◆ ◇
ルオーダ採掘場は、大きな山の中に出来た採掘場だった。
他の場所よりも地の精霊達が多く住んでいる為か資源も豊富で、資源採取ダンジョン化しており、ある程度資源を採っても、一週間すればまた資源が復活すると言う特殊な採掘場で、このグラナディール大陸内でも滅多にない採掘ポイントの一つ。
とは言え、モンスターも棲んでいる為安全と言う訳でもなく、モンスターと戦う準備も、必要だけど。
当初の予定通り、ルオーダ採掘場へは、ユヅキの提案通りシエロに運んでもらった為、徒歩で三時間かかる道のりも、ほんの数十分で済んでしまった。
最短距離で、障害物もなく、モンスターや盗賊等に襲撃される事なく済んだ結果なのだが、この快適さに慣れるとダメな気がする、と言うのはミナギの心の声。
それは実際当たっていて、帰り道は何事も経験だからと徒歩を選び、途中から馬車に乗る事になるのだが、馬車酔いを起こし、硬い木のベンチ長時間座っていた結果お尻も痛くなり、散々な結果になってしまった。
もう二度と馬車なんて乗りたくない、そう口に出してしまう程に。
「採掘場って、地の精霊が多いんだね」
「まー、ココは山の中だからな」
見えんからわからんけど、と。そう続くナギトの言葉に、そう言えばこの人見えないんだっけ、と思うのは当然ミナギ。
普段ユヅキ、アルバ、セラータ、そして五人の小さな精霊達と一緒に居て、普通に精霊達を交えた話をしているせいで忘れがちだが、ナギトは未契約の精霊が見えない、存在を感知できない、声が聞こえないと言う、ないないないの三拍子が揃っている男。
今ミナギが見ている景色も、ナギトの目には映っていない事を、思い出す。
大小さまざまな精霊達がこっちを見たり、わざわざ顔を出したりして、次々に挨拶してくる。ミナギには話す力がない事を知っているのか、笑顔で手を振ったり、軽く手を挙げて来たり、果てには両手をぶんぶんと振って大歓迎をアピールする者も居て、ちょっとびっくりしてしまった。
「ナギト!ナギト!鉄鉱石だけど、こっちの奥の方が品質良いの採れるって!」
「んー。こう言う時、精霊術師が居ると楽よなぁ。採掘ポイント探す時間と、採掘時間がかなり省ける。アルバ、明かりよろしく」
「はぁいぃ」
一人、ルオーダ採掘場に住む地の精霊達に話をしていたユヅキが声を、 複数ある横穴の一つを指差す。
どうやら良質な鉄鉱石が採れる場所に案内してくれるらしく、一人の大きな地の精霊がユヅキ達の数メートル先に立ち、採掘場の奥の方を指差している。目付きが悪く仏頂面ではあるが、友好的なのは間違いない。
きっとあの精霊は、このルオーダ採掘場の中でも力の強い精霊の一人なのだろう。
高さ三メートル、横幅二メートル程の横穴を、進む。案内役の地の精霊が先頭。未契約の精霊の姿が見えるユヅキとミナギがその後ろ、一番後ろをナギトが歩く。
アルバはその列の頭上を飛び、自分の力で丸い明かりを作り、暗い採掘場内を照らして出していて。範囲はおよそ五メートル先を軽く見渡せるくらい。
残るセラータは珍しく、自分の足で歩いている。
「普通は、精霊達に採掘ポイント教えてもらうって事ないよね?」
「ココに二人も『見える』ヤツが居るから感覚バグるけどな、普通は見えんのが当たり前だからな?教えてもらうなんてあり得んし、普通は経験とか勘に頼って採掘してる。思ったように採れんとか、質が悪いのとか、そんなんで特定の魔鉱石採取クエなんて、完了まで一週間以上かかるとかザラにあるな」
「…………それ、移動時間関係なしに、だよね?」
≪採掘にかけた時間だけだ≫
何気ない質問ではあったが、返されたナギトの言葉に、自分の感覚がズレ始めている事を知るには十分。そんなまさかと思いつつ、認めたくない思いもあって、話題の軌道を戻して行く。
経験や勘に頼って採掘をして、受けたクエストをクリアする為に必要な鉱物を集めるのに一週間以上なんて、ちょっと大変過ぎないだろうか。
しかも、ヴェルメリオの言う通り移動時間を含まないとなれば、ちょっと大変、なんてレベルの話ではないか。
「品質も、調べるの大変だもんね。やっと採れたーって思って持って帰っても、品質悪いからって、報酬減らされちゃうんだもん」
「ウチの親父達も、最初は苦労したって言ってたな。クエ発注者が酷いヤツで、ギルドが品質良いて鑑定したのに、なんだかんだケチつけて報酬減らされた事もあったってよ。」
経験者が身近に居るからこそわかる、苦労話。
そんな苦労話も、ミナギには初めて聞く話で。そう言う、実際にやってみないとわからない経験や話が聞けるのも、学内クエストのシステムの良いところなのかもしれない。
学内クエストで経験したり、話を聞いたりしていなければ、初心者として良いカモになりかねないから。ケチをつけられて報酬を誤魔化されたり、騙されたり、なんて事が多発しそうだ。
ちなみに、鉄鉱石等の品質の鑑定はクエストを受けたギルドで鑑定してもらうか、鉱物鑑定技術のある魔研技師に鑑定してもらう方法があるらしい。
前者は無料で、後者は有料。しかし、鉱物鑑定技術を持つ魔研技師に鑑定してもらうと、必要なら証明書も発行してもらえる為、報酬の減額は防げるとの事で、使い方次第、か。
「ヴェルメリオ」
≪この洞窟内だと、ツーハンドソードは厳しいな。カラベラにしておこうか≫
「おう」
赤い閃光が、洞窟内を照らし出す。
何が、と足を止めて振り返ったユヅキとミナギの目に映るのは、左手で緩く湾曲した片手剣を持つナギトの姿。後方を睨み付けて肩の高さでカラベラを構える。
いつものツーハンドソードではなく、その半分程度の長さを持つ片手剣のカラベラを選んだのは、狭い洞窟内ではツーハンドソードの戦闘には不向きだからこそ。
ツーハンドソードとカラベラでは戦い方は全く違うが、大丈夫なのだろうか。
ナギトの動きから、何かが――恐らくモンスターが、後方から迫っているのだろう事はなんとなくわかる。が、何が来ているのかまでは、見えない。肩をびくつかせて一歩後退するミナギの横で、素早く腰の剣帯からリング・ダガー二本を引き抜くユヅキ。
音は、しない。けれど、何もなくナギトがヴェルメリオを構える筈がない。
いつの間にか、採掘ポイントへ案内しようとしていた地の精霊が、ミナギの傍に立っていた。見上げた横顔は、元の仏頂面に厳しさが増している様に見える。
アルバが、ユヅキの肩に降りる。セラータが、以前見た黒豹の姿になった。つまりそれは、それ相応のモンスターが来る可能性がある、と言う事で。
耳のすぐ脇で、心臓がバクバクとなっている気がする。現実にはあり得ないのに、そう思えてしまうのは――ミナギがそれだけ緊張しているから。
「来るぞ!」
怒号に近いナギトの声が、鋭く響く。
反射的に息を呑むミナギの隣で、ユヅキの肩に降りたアルバが再度上昇。洞窟の天井すれすれまで飛ぶと、洞窟に入った時に出した明かりを、更に大きく、強い光へと変える。
光の届く距離が、広がる。五メートル先を見渡せるくらいの明かりから、十五メートル先まで見渡せるくらいのものへ。
そうして、見えた。ユヅキやミナギ達と同じくらいの体長を持った、ネイビーブルーのトカゲのようなモンスター。一匹だけではない。天井や壁にも貼り付いていて、その数、五。皆それぞれ、尻尾の先端にオレンジ色の何本もの棘を持ち、オレンジ色の宝石のような光る眼でナギト達を見ていた。
ネイビーブルーの体に、発光する目と、尻尾の先端に棘を持つトカゲのようなモンスターとくれば、間違いない。クエバ・リザードだ。危険度ランクは確かD。食糧は岩や鉱物で、食べた物によって、舌や眼の色が変わる特殊な生態を持っているリザード種。
オレンジ色の舌と眼を持つクエバ・リザードが持つ能力は――。
「ミナギ!俺の前に出来るだけ強くてデカイ結界!」
「っ!クアドリラテロ・バレッラ!」
「アルバも!シールド!!」
ナギトの前方。一辺が一メートル弱の大きさを持つ半透明の四角い結界が、出現。その速さと大きさに、軽く瞬きながら、お、と小さくナギトが声を上げた。
しかし、すぐに表情を引き締め、ミナギの結界と自分の前に割り込んだ、光の壁に目を細めた。光の統括大精霊であるアルバの作った、光の盾。クアドリラテロ・バレッラよりも大きな光の盾が、完全にナギトを覆い尽くした、直後。
五頭のクエバ・リザードがその尻尾を大きく振り回す。尻尾のオレンジ色の棘が、射出される。何本も、何本も、ナギト達に向かって。
射出された棘の一本でも身に受ければ、人体など簡単に貫通してしまうだろう事は、その大きさと太さから見て取れた。が、問題はそこではない。
ミナギが張ったクアドリラテロ・バレッラに、次々にクエバ・リザードの射出した棘が突き刺さる。かと思えば、次の瞬間には棘が結界に突き刺さった順に爆発。
オレンジ色の舌と眼を持つクエバ・リザードが持つ能力は――爆発。
人間、敵対モンスター、物体に関わらず、尻尾の先端に生えた棘がぶつかると、即座に爆発する、特殊な性質。
「……っ!!くっそ……!」
いくつかの棘が突き刺さった瞬間に結界にヒビを入れ、続く連続爆発に耐え切れず破壊される。悔しさに吐き出したミナギの声は、だがしかし爆発音にかき消され、誰の耳にも届かず消えて行く。
爆風は凄まじいものだったが、結界の後ろにアルバが光の盾を作ったお陰で、一番クエバ・リザード達に近いところに立っていたナギトにすら届かず。短くなった髪を揺らす事すら出来ずに終わる。
「爆発終わったら俺とセラータの部分だけシールド解除!」
「わかってるわよぉ!行っちゃいなさぁい、二人とも!」
連続した爆発音が、止む。
けれど爆発によって巻き上げられた細かな塵が、ナギト達の視界を阻む。が、どこにクエバ・リザードが居るか、すぐにわかった。
発光する眼とは、なんとも便利なものだ。
クエバ・リザード側からすれば、厄介なものかもしれないけれど。
アルバが創り出していた、光の盾が消えて行く。と同時、駆け出すナギトの傍らには、黒豹の姿をとったセラータの姿もある。
互いに言葉はない。そもそもセラータは無言で、滅多に喋らないけれど。それでも、どのクエバ・リザードを狙うのか理解しているようで、迷う事無く駆け出す。
対するクエバ・リザード達は、自分達の棘の爆発で、獲物であるナギト達が死んだと確信したのか、仲間同士で顔を見合わせ、グエグエと不快な声を上げる。もしかしたら、笑っているのかもしれない。
既に勝利を確信しているクエバ・リザード達の、目の前で。撒き上がった土埃の中を突っ切り現れる、ナギトとセラータの姿。
グエグエと声を上げていたクエバ・リザード達が、ピタリ、動きを止める。驚いているのだろう。しかし、すぐに向かって来る一人と一匹に対応するべく、天井と壁に貼り付いていたクエバ・リザードが尾を振り、棘を射出。
地面を歩いていたクエバ・リザードの二頭は、仲間の射出した棘を追って、素早く駆け出す。
「オスクロ・フレチャ!」
魔法で創り出された闇の矢が、飛んでいく。狙うのは、音もなく駆け寄って来るクエバ・リザードではなく、射出された棘を狙って。
空中で、クエバ・リザードの棘と、ナギトが放ったオスクロ・フレチャが、激突。
爆風が直接ナギトの体を襲うが、僅かに目を細めて粉塵から目を守りつつ、前傾姿勢をとって低く構え、左手で握ったヴェルメリオを真っ直ぐ突き出す。
真っ直ぐ、粉塵を切り裂いて突き出されたヴェルメリオが、地面を駆けていたクエバ・リザードの開いていた口の中に深々と突き刺さる。ナギトの腕の、中ほどまで。響き渡る絶叫。粉塵のせいで視界が悪く、仲間の絶叫に、一緒に地面を駆けていたクエバ・リザードが、絶叫を頼りに、大きく体を捻り尻尾を振り回す。人間の武器で例えるならそれは、モーニングスターのように。
だがその攻撃がナギトを捉える事はなく、それよりも先に、ナギト共に飛び出していたセラータが、闇の壁を創り阻む。
クエバ・リザードの尻尾の棘とセラータの闇の壁がぶつかり合い、起こる爆発は――クエバ・リザードの得意技の一つ。
尻尾に生える棘が、対象物にぶつかると爆発する性質を使った、近距離攻撃。
「俺が一人だったら、その攻撃も通ってたかもしれんな。グラベダド・マス」
ズズンッ、と。ナギトに尻尾での近距離攻撃を仕掛けていたクエバ・リザードが、突然その場に沈み込んだ。そう、沈み込んだ。足が地面にめり込み続けて体が、尻尾が、地面に沈む。
足から力が抜けたとは、また違う。突然重たい何かが背中に落ちて来たような、そんな沈み方。
それが、たった今尻尾で攻撃しようとしていた相手の――ナギトの闇属性の高位魔法である、重力を操作する魔法によるものだと、気付ける筈もなく。なんとか体を動かそうともがくものの、硬い岩盤にめり込んだ体は、早々簡単には動かない。
手っ取り早い方法は、尻尾の先端についている棘で周囲の岩盤を叩いて脱出する方法だが、全身に強く圧し掛かる重力を前に、尻尾はおろか、足の指一本動かす事も出来ず。苦痛の悲鳴を上げるのみ。
しかも重力を操る魔法は、天井や壁に貼り付いていたクエバ・リザード達も効果範囲に入っていたらしい。襲い掛かる、地面に引っ張るような強い重力に耐え切れず、ズドン、ズズンと重たい音を響かせて落ちて行く。井に貼り付いていたものは仰向けのまま、壁に貼り付いていたものは、横向きのまま。
さてこれに驚いたのは、撒き上げられた粉塵でいまだに何も見えていないミナギだ。
アルバの創り出した光の盾はまだミナギとユヅキを包んでいて、粉塵に咳き込む事も、目に入る事もなく無事でいるけれど。
否もう、この大きさを考えれば、光の壁だろうか。壁の向こう側とこちら側では、全くの別世界。ユヅキ、ミナギ、アルバには粉塵は全く届いていないが、向こう側は粉塵に全て覆われて視界ゼロ。
「っ!何が起きてんの?!」
「わかんないけど、ナギトならだいじょーぶ!」
自分の中の不安や心配に耐え切れず叫べば、
ナギトの声やセラータの声が聞こえず、クエバ・リザード達の悲鳴しか聞こえないところから考えて、とりあえずナギト達が苦戦しているわけではない事は確実だろう。
けれど、何が起こっているかわからないと言うのは、不安と心配を煽るわけで。風の精霊に頼めば粉塵を吹き飛ばしてくれるだろうか、そう考え、ちらり見るのは自分の傍に居る五人の小さな精霊達――の、風の精霊コンビ。
目が合った瞬間、自分達の仕事か、と風の精霊コンビが目を輝かせたのは、ミナギの気のせいではない。
うんと頷き、光の盾の向こう側を指差し、埃を払うように手をパタパタと振る。粉塵を惹き飛ばしてくれ。そう訴えたつもりだが、彼等にちゃんと伝わっただろうか。
抱えた不安は一瞬。むしろ杞憂に終わる。風の精霊コンビは同時に右手をはーいと上げ、これまた同時に右手を光の盾の向こう側に向けて伸ばす。
瞬間吹く風は、暴風とまではいかないが、撒き上がった粉塵を吹き飛ばすには十分な風。
そうして吹き飛ばされた粉塵は、途中でナギトの重力魔法によって地に落ちる。
しかし、重力魔法が発動しているとは知らないミナギからしてみれば、それは想定外の異常な展開。驚くなと言う方が無理な話。
「ユヅキさぁんっ!?なにあれぇ!!」
後から考えれば、随分と素っ頓狂な声が出たなとミナギは思う。
けれど、元々戦闘経験なんてなく、魔法を見る機会も滅多になかったミナギにとって、今ナギトが使っている重力魔法は、異次元の魔法だ。魔法の勉強をしていても、まだそんな高位魔法に触れられるものではなくて。
「闇属性の魔法の中には、重力を操るものもあるの!『グラベダド』ってやつ!ほんの少しの時間だけど!モンスターが地面に沈んでるから、『グラベダド・マス』の方!」
「オレまだそこまで勉強出来てないんだけどーーーーーーーー?!」
時間にして、ほんの十秒程度。
それでも五体のクエバ・リザードを相手にするには、十分。明確に倒せたのは、ナギトが最初に攻撃して口の中にヴェルメリオを突き刺した一体だけだが、完全に岩盤に身体がめり込んでしまった状態では生き残っていたとしても、何も出来ず。
尻尾の棘を射出するのだって、尻尾を振り回す予備動作が必要な為、もはやクエバ・リザードには打つ手なし。
悔しいと咆哮を上げる余裕があるだけ、まだマシな方か。
そんなクエバ・リザードを冷たく一瞥すると、ナギトは口の中に突き立てたヴェルメリオを引き抜く。悲鳴も上がらなかったところを見ると、その一体は既に死んでいるらしい。
まあ当然か。口の中にヴェルメリオが突き刺された状態で、更に重力がかかったのだ。体の内側で何が起きているかなんて、簡単に想像出来る。しかも今回ヴェルメリオが変身した剣のカラベラは、湾曲した刀身を持つのだから、尚更。
見れば、すっかりいつもの黒猫の姿に戻ったセラータが、仰向けのまま埋まっているクエバ・リザードの腹の上でお座りをして、ゆらゆらと尻尾を揺らしている。
もう脅威はないと、そう言う判断だろう。
「さて……どうトドメを刺そうかな」
刀身にべっとりとついたオレンジ色の血を、勢いよくヴェルメリオを振る事で払い落として。ナギトが呼ぶのは――ミナギ。
え、やだ。ほぼ反射的にそうミナギが声を出してしまったのは、仕方ない。
それでも、ナギトからは有無を言わさぬ圧をかけられ、笑顔のユヅキに背中をぐいぐいと押されてしまえば、どうしようもなく。トドメとばかりに、面白そうだと思った五人の小さな精霊達までユヅキを手伝うのだから、諦める道以外残っていない。
心の底から嫌だと表情で訴えたまま、まだ生きているクエバ・リザード達の傍に立つナギトの下へ。
近付いた瞬間ギロリと光る眼で睨まれ、ビクッとミナギの体が震える。
すると、大丈夫だとばかりに、ひょいとセラータが肩の上に飛び乗り、ミナギの頬に頭をすり寄せる。
「何事も経験。ミナギ、ちょっとコイツの体を前やったコラムビで突いてみろよ」
「…………攻撃されない?」
「クエバ・リザードの攻撃方法は、尻尾と尻尾の棘を使った攻撃ばっかりだから、安心していいよー」
「そうよぉ!ナギトがぁ、ミナギにケガさせるようなことぉ、すると思ってるのぉ?」
「んのー」
不安が顔を覗かせるミナギに対して、大丈夫だと安心させるように声を掛けるのはユヅキ。少しからかうようにアルバが続けば、アルバの言葉に対して「んのー」とセラータが鳴く。猫の鳴き声ではあったが、今のは明確な意思がそこに見えた。
それぞれの言葉を受け、意を決してミナギは自分の武器であるコラムビを剣帯から抜き取る。
恐る恐る、ナギトの足元に居るクエバ・リザードの前にしゃがみ込み、少し迷った後、その体にコラムビを突き刺そうとして――。
ガキィンッ、と響く、硬い音。
コラムビを握るミナギの両手が、跳ね返されたかのように大きく上がる。
驚きと、しゃがみ込んだ状態だったせいで、そのまま仰向けにひっくり返りそうになったミナギの上半身は、だがしかし、それよりも早くナギトが足で支える事で難を逃れた。
「ナギト……?」
「突発的事態だったんでぇ!足が出ただけですー!手はヴェルメリオ持っとったからぁー!!」
助けられた事にミナギが礼を言う間もなく、静かに響いたのは怒色交じりのユヅキの声。
なんで足で助けたのと、向けられる視線からユヅキが語ろうとしていた不満を察したのか、ナギトが慌てながら答える。本当に、力関係のよくわからない二人だ。
そんな二人のやり取りを、ぱちくりと瞬きながら聞いていると、心配そうに顔を覗いて来たのはナギト――ではなく、肩の上に乗っていた筈のセラータ。星空のような瞳に覗き込まれ、びっくりした、なんて言いながら目を向ければ、安心したのかセラータは目をゆっくりと細めた。
コラムビを握っていた手が痺れている。激しくではないけれど、少しだけ。
「え、硬くない……?」
「そうなんだよ。クエバ・リザードは岩とか鉱石が食料だからか、体がくっそ硬いんだよ」
「そう言う事は早く言ってくれない?オレがこ、こら……コレ使う前に言う事も出来たよね?」
「何事も経験よぉ?ほぉらぁ、人間もよく言うじゃなぁいぃ?『百聞は一見に如かず』だったかしらぁ?」
「アルバ、ソレ、ジョサニア大陸でのことわざだから。ロディッキ大陸出身のコイツ知らんと思う」
返された言葉に、また「あぁらぁ」なんて驚いたように言いながらアルバはユヅキの肩の上へ。ナギトの言葉は本当かとユヅキに確認しているが、返された答えは首肯。
大陸が違えば文化も暮らしも違うように、ことわざにだって違いが出る。これに関しては、精霊であるアルバは初耳だったらしい。驚いただの難しいわなどと、ユヅキにあれこれ言っているアルバの声を聞きながら、ナギトは再度ミナギを見下ろす。
「起きれるか?」
「う、うん……。ごめん、ありがと……。でもどうするの?こんなに硬いなら、普通の剣とか歯が立たないんじゃない?魔法銃も難しそう」
「そうそう。だからこのルオーダ採掘場内での戦闘だと、魔法メインになりがちなのよな。ま、硬いのは体の表面だけで、内側から攻撃すりゃ終わるケド……。この埋まってるのどうしよっかな」
ゆっくり起き上がるミナギを横目に、岩盤にめり込んだまま、悔し気に鳴き声を上げているクエバ・リザードを見下ろすナギト。
剣が通らない為、とりあえず天井や壁に貼り付いているクエバ・リザードを、重力魔法で落としたのはわかった。が、どうやらこれ、落とした後の事を考えていなかったらしい。それはどうなんだろうと思いつつ、かと言って方法はミナギにもわからない。
コラムビを剣帯に戻し、どうするのかと見上げたナギトが見ていたのは、セラータ。
「セラータ、皮は防具用素材に重宝されるし、尻尾の棘は爆弾の材料として使われる。光る眼は死んだ後も光を失わないから、マニアは欲しがる。だから、出来れば身体の表面に傷はあんまつけたくないんよな。出来るか?」
「にゃぁ」
自分の魔法だと余計な傷を付ける自覚があったのか、意外にもナギトはセラータにトドメを頼んでいた。
するとセラータは、二つ返事でこれを了承、したように見える。
生き残っているクエバ・リザード達へと目を向けると、長い尻尾を一度大きく揺らす。それだけ、ただそれだけに見えた行動は、だがしかしクエバ・リザードの体内で何かしらの攻撃をしたらしい。
四体のクエバ・リザードが、一度大きく体を震わせ、オレンジ色の血を吐き、そして動かなくなる。
「おおー」
「セラータ凄いっ!!」
「……訊かない。もう何が遭ったかは訊かないから。とりあえず死んだって事だよね、それだけわかればいい……!!」
感嘆の声を上げて拍手するナギト。素直に褒めるユヅキ。その流れに、ついつい何が起きたのか訊きたくなるが、必死に我慢するミナギが居る。
そんなミナギに気付いていながら、完全に無視してナギトは岩盤に埋まっているクエバ・リザードを掘り出していく。今度は無重力にする闇魔法を使っているのか、簡単に引っ張り出す姿は、ちょっと、かなり、ドン引きしてしまう。
ユヅキもユヅキで、肩にアルバを乗せたまま、セラータを抱き上げ、凄い凄いと褒めていて。
本当なんなんだ、この人達。
ドン引きしているのが顔に出ていたのか、わらわらと心配そうな顔をしてミナギの顔周辺に集まるのは、いつもの五人の小さな精霊達。
触れられた感覚はないが、ぺたぺたとミナギの顔を触ったり、頭を撫でたりと、それぞれがそれぞれにミナギを心配しているのは、その表情や動作から見て取れた。大丈夫と笑顔を見せれば、ぱぁっと嬉しそうに顔が綻ぶ。
単純と言えば聞こえが悪いが、この単純さが今のミナギには丁度良かった。身近な人間が、自分の常識からかけ離れた、規格外の人間だからこそ。
がっくりと項垂れ、ミナギが吐き出したため息は、重い。
「……ハァ、なんかもう疲れた……。まだ採掘してないんだけど、大丈夫かな……」
「あ、採掘はすぐ終わるぞー。お前とゆづがやるから」
「オレとユヅキさんだけ?!ナギトさんは?!」
突っ込んだら負け。
それが頭にあっても、どうしても突っ込まずにはいられない、そんな自分の性分が何よりも悲しいと、後にミナギは語る。
◇ ◆ ◇
早かった。本当に早かった。
普通の冒険者であれば、採掘ポイントを探すだけでも時間が掛かり、良質な鉄鉱石や魔鉱石を見付けるだけでもかなりの時間を要し、そして鑑定してもらうのに更に時間が掛かると言うのに。
ルオーダ採掘場に住む地の精霊の案内と、的確な指示の下で進めた採掘は、ほんの二時間程度で終わってしまった。
「こんな簡単に終わらないクエストでしょ!!絶対!!こんな楽でいいはずないっ!!」
「ミナギー、気持ちはわかるが、ダンジョン内で叫ぶなー?モンスターが来るぞ」
「んなこたわかってるよ!!わかってるけどこればっかりは無理!!」
質はわからないが、量だけみればクエスト完了に十分な鉄鉱石だけでなく、様々な魔鉱石まで採取出来て。こんな人生イージーモードみたいな展開が普通ではありえない事くらい、流石のミナギでもわかる。
ダンジョン内で叫ぶのが危険なのはわかっている。わかっているけれど、叫ばずにはいられない。
もう一つ納得いかないのは、採掘をしたのがユヅキとミナギの二人だけと言う点だ。
アルバとセラータ、五人の小さな精霊達が特に手を出さなかったのは、まだわかる。否、小さな地の精霊は、ここを掘ってと、採掘ポイントを教えてくれた為、ちょっと違うけれど。
「でも、未契約の精霊見えるのアタシとミナギ君だけだもん。ナギトがやみくもに掘るより、アタシ達が掘った方が早いでしょ?」
「それにぃ、安全に採掘する為にはぁ、見張りも必要よぉ?」
「く……っ!!」
返されるユヅキとアルバからの正論に、ぐうの音も出なくなってしまう。何より、納得してしまった自分が悲しい。味わう敗北感。
実際、採掘ポイントに着くまでに、他にも色々なモンスターに遭遇。採掘している時も、素早くナギト、アルバ、セラータが倒してくれたものの、何度かモンスターが襲撃して来た。ミナギが手を出す事もなく、ナギト達にあっさり片付けられていたけれど。
学園に帰る為に、採掘した素材をアイテムバッグに入れていると、「そんな事より」とナギトに掛けられる、声。
「ミナギ、お前さっきクエバ・リザードに襲われた時に、四角い結界使ってなかったか?」
「え?ああ……うん、出来るだけ強くてデカい結界って言われたから……クアドリラテロ・バレッラ出したけど……それが何?」
「パーティに誘った時、クアドリラテロ・バレッラは安定させるの難しいっつってたじゃん。だからネグロ・トルエノ・ティグレに襲われた時もトリアングロ・バレッラしか出せなくて、大ケガしてたし」
そう言えばそんな話もしたなぁ、なんて。随分昔の話のように感じるが、まだほんの三ヵ月くらい前の話なんだから、妙な感覚だ。ネグロ・トルエノ・ティグレと戦ったのも、二週間以上前の話。
よく覚えてたね。そう正直に返せば、ナギトは当然とばかりに肩を竦めるだけ。
「クアドリラテロ・バレッラの練習自体は前からしてたけど、ネグロ・トルエノ・ティグレとの戦いで、やっぱ必要だなって思って。最近だと、コイツ等が力を使う練習する時、オレも自分で結界張って壊されないように集中して……てやってたら、クアドリラテロ・バレッラでも安定して張れるようになった感じ」
コイツ等と言いながらミナギが視線を向けるのは、五人の小さな精霊達。ナギトの目にその姿が映る事はないが、その動作から、誰の事か伝えるには十分。
諸々を理解したナギトは、何かを言うよりも早く、ミナギの頭を撫でていた。ぐりぐりと、強めに。
褒めているつもりなのだろう、きっと、多分。
「ちょっ!何ナギトさん痛いっ!」
「エライエライ。頑張ってんじゃん、ミナギ。でも声デカイ」
「じゃあもうちょっと手加減してくれる?!縮む!!」
「アレで縮むとしたら、ミナギ君、ナギトママに逢ったらもーっと縮んじゃうかもね」
必死にナギトの手を止めようと抵抗するミナギだが、これが全く効果なし。
五人の小さな精霊達は、最初こそ助けた方が良いのかとも思って居たが、今は可愛がられているだけだと理解して、にこにこ笑って見守っている。
ちょっと気になる話題がユヅキから出て来たものの、今のミナギに訊く余裕なんてある筈がなく。むしろ助けてくれとまで言う始末。まあ、誰も助けてくれないのだけれど。いつもは比較的味方になってくれるセラータですら、尻尾をふりふり見守っているだけ。
唯一、迷うような表情を見せているのは、この採掘ポイントまで案内してくれた、ルオーダ採掘場に住む地の精霊だ。
初めて見るやり取りである為、口を挟むべきかどうか迷い、ユヅキを筆頭にした面々が笑顔で見守っている為、あえて貫く沈黙。とりあえず、この機にモンスターが襲撃しないよう、周囲への警戒役を担当。
もしここで周囲への警戒を怠って、彼等が――特にユヅキが怪我を負うなんて事があれば、どうなるか。
アルバが居る為、怪我はすぐに治療されるとは言え、怪我をしたと言う事実は消えない訳で。
うん、考えるのを止めよう。ただただ恐ろしい。
とにかく、彼等を無事にルオーダ採掘場の外まで送り届けるのが、今の自分の責務だ。
自分達を案内してくれた地の精霊がそんな風に考えているとは全く思わず、わいわいと賑やかなナギト達が返る準備を終わらせたのは、それからたっぷり十数分は後の話。
ダンジョン内で賑やかに過ごすなんて本来はあり得ないが、それが出来るのは、精霊に人一倍好かれやすい精霊術師が居るからだろうか。
しかし、あくまでも無事だったのは、ルオーダ採掘場を出るまで。
「どっかの大陸に、『行きはよいよい、帰りは怖い』て歌詞のある歌があるらしいんだが、それと似たようなもんだな。どんなダンジョンでも、帰る時の方が注意必要だぞー」
「ナギト、それ言うとミナギ君が、『前それでネグロ・トルエノ・ティグレと遭遇したからそう言うの止めてくれる?』て言いそう」
「……ユヅキさん、正解ではあるんだけど、オレのセリフ全部持ってくの止めてくれる?」
パーティリーダーとして、ナギトが色々教えてくれているのはわかる。わかるけれど、ミナギとしてはその説明が毎回良い意味で当たるので、正直勘弁して欲しいところ。
しかも、自分が何か言うよりも早く、ユヅキが完璧に自分のセリフを奪うのだから、もうどんな顔をすれば良いかわからない。嗚呼もう、とため息を吐くのが、今のミナギに出来る最後の行動だった。
そして今回も、ナギトが懇切丁寧に建ててくれたフラグは、ものの見事に回収されるのである。
「おいガキ共!さっきルオーダ採掘場から出て来たよなぁ?」
「悪いんだけどさー、採掘してきたやつ、全部僕達にくれない?」
「大人しくぜーんぶ出してくれたら、まー……ちょっと痛い目に遭わせるだけで済ませるからさ」
ルオーダ採掘場を出てから、どのくらいだったか。十分も経っていない事を考えれば、距離にして六〇〇メートルも行っていないだろうか。
そんなナギト達に対して声を掛けて来たのは、五人の冒険者達。
だが、掛けられる声はどう頑張っても友好的なものではなく、悪意しか感じられない。追い剥ぎだ。
「オレ、ナギトさんキライになりそう」
「しっかたないじゃん。こう言うのよくあんだからさー。俺だってたいぎーって思っとんだ」
見た目は、あくまでも冒険者。五人からなるパーティで、剣を持つ者が三人、大きな鐘が付いた杖を持つ治癒魔法士か補助魔法士が一人、空中をふわふわと漂う魔石球を持つ攻撃魔法士が一人と言う構成だが、どう見ても荒くれ者の集まりと言った一団に周囲を囲まれ、思わずミナギは心の声が出ていた。大きな声で。
向けられる不満を受け止めつつ、ハアやれやれと肩を落としてため息を吐くのは、ナギト。
その隣では、ユヅキが困ったように笑いながら、腰の剣帯からリング・ダガーをするっと取り出す。柄の先に着いているリングに人差し指を引っかけ、そのまま引っ張り出すのだが、この動きがスムーズで、初めて見た時思わずミナギは目を見開いてしまったのを、今でも覚えている。
だがそれは、採掘して来た物を全部寄越せと訴える冒険者に対しての、反抗の意思を示すもので。完全に敵認定だ。
ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべながら、それでもまだちょっと痛い目に遭わせる程度だと語っていた彼等の機嫌を損ねるには、十分過ぎた。
「あっれぇ?さっき私達言わなかった?『大人しく全部くれたら見逃してあげる』って」
「あぁらぁ?『見逃す』なんて言ったかしらぁ?『ちょっと痛い目に遭わせる』ってぇ、私は聞いたけどぉ?」
「俺も聞いたぁ。『出待ち賊』に渡すモンなんて、一個もナイんだわ。相手すんのもたいぎいから、消えろ」
わかりやすく頬を引き攣らせる敵の攻撃魔法士の言葉に、あえて突っかかるのはアルバ。続くナギトの言葉で、完全に交渉の余地はなくなった。
否まあそもそも、ナギトとユヅキが交渉するつもりなんて毛頭ないし、自分達の絶対優位を信じて取り囲んで来たナギトいわく出待ち賊達は、揃って表面上の優しい態度を打ち消した。
「しっかたねぇなぁ!やるぞ!」
「大人の言う事は大人しく聞いておくのが利口だって……教えてあげるのも人生の先輩としての役目だ」
ナギト達と、出待ち賊のパーティとの戦いが、始まる。
そしてミナギにとって初めての――人同士の戦いが。
【出待ち賊】
ダンジョンから出て来た冒険者パーティ等を襲い、ダンジョン内で収集した物を奪い取る盗賊の総称。
自分達でダンジョンに入って採掘したり採取したり、モンスターと戦ったりするよりもリスクが少なく、アイテムの消費なども抑えられる事から、一部の悪辣な冒険者がやる行為。
当然犯罪者認定されるが、経験の浅い初心者パーティや学生パーティが襲われる事が多い為、通報したらまた襲われるのではないかと恐怖に呑まれ、通報する事も少なく、犯罪が表面化する事は少ない。
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