Sランク冒険者はお姫様!?今さら淑女になんてなれません!

氷菓

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第一章 無知な少女の成長記

不変の楽園

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「ぶはっルーシー何やってんだよ、空飛ぶのへったクソだな!飛ぶんじゃなくて吹っ飛んでるだけだろっ」

「もうカルム兄笑うなんて酷い、あともっと優しく受け止めてよ服が皴になっちゃう!それに今のはギディオン兄さまが悪いの!急に雷落としてくるなんて驚いちゃって吹っ飛んじゃったじゃん。」

「あははははは!駄目ですわお腹が痛い、ふっふふふふ!もうルーシーあれは雷ではなくギディオンの…ぶふっ…ク…クシャミですのよ…ふっふふあははははっ!」

「む、すまんルーシー怒らないでくれ」

「ルーシーの下手くそ~」

「もうフローお姉ちゃんもエルお兄ちゃんも馬鹿にしないでよっ馬鹿!ギディオン兄さま…別に怒ってないからその捨てられた子犬みたいな顔やめてっ。もー次はちゃんと飛べるんだから見てて見てて!」





あの人前でも構わず大泣きしてから私は全ての記憶を思い出しました。あんなにわんわん泣いて子供みたいで恥ずかしいと以前の私なら思っていたと思います。ですが今は別に悪い事なんかじゃなく、思ったことをやりたいことを感情をさらけ出して生きることも大切だと心から思いました。

ここでの生活ももう半年が経ち、ここの皆はどんな私でも受け止めてくれるんだって実感できたからでしょうか。いつの間にか敬語は取れ、最近では遠慮がないと言いますか生意気な口も我儘も癇癪だって、嫌々期だって経験しました。抑えていた感情が溢れ皆には前よりずっといいと言われています。

この三か月の間に沢山の精霊や妖精などと仲良くなり、今日は五人で空を飛ぶ練習をしています。と言ってももちろん私は魔法で空は飛ぶべます。今は精霊の力を借りて行う【精霊術】で術を発動する練習をしているのです。精霊は純粋な自然エネルギーを糧とし行使するそうで、大気中の魔素が不安定の所でもどんな場所でも使うことが出来る力だそうです。大きな魔法は周囲の魔素を消費したり、過剰に増やしてしまうものもあるそうでそんな状況でも使える【精霊術】は凄いです!

今は純粋な風で空を飛ぶ練習の成果を見てもらっているのですが、魔法と違って自分の力じゃない分調節が難しいです。《風の最高精霊》カルム兄は若草色のサラサラの髪を背中まで伸ばし、同色の穏やかそうな瞳をしています。初めて見た時は男性だというのが信じられないほど嫋やかな人だな、と見ほれた自分が恥ずかしいほど内面はいい加減です。風って自由で飄々としたイメージだったのに実際は


「あ、やっべ昨日カッコつけて作った竜巻放置してたら町一つ消えてたわ」

「よしちょっと女の子のスカートめくってくるわ」

「ハックシュン!うお今日は大型台風二個か~」


前世の記憶のせいで偏見を持っていたことが痛いほど分かりました。こんなアホだなんて知りません!

《雷の最高精霊》ギディオン兄さまは黄色の刈り上げた短髪と同色の鋭い頑固と逞しい肉体で一見恐ろしい武人!って感じの人です。ですが実際は天然というか無口で眼光鋭いんですけど優しいクマさんだと勝手に思っています。

《光の最高精霊》のフローお姉ちゃんは一番最初にあった精霊さんの一人で、この人にも裏切られてます。口調とは裏腹に何と言っても悪戯が半端ないです。あと笑いのツボが浅くてしょっちゅう笑ってます。この前なんてお昼寝していた私の顔面のパーツを逆さまにして、悪魔のような顔にしやがりました。クロエ母様に泣きついたら他の兄さま姉さまも参加してその後数日はフローお姉ちゃんの悪戯は落ち着きました。でもあの猫のようなツンとしてでも愛らしい目で見られると憎めないのです。だからと言って許す私でもなく倍で仕返ししときました。

《闇の最高精霊》のエルドレッドお兄ちゃんは肩につかないくらいのサラサラの黒髪で前髪をセンターで分け、同色の眠たげな瞳のおとこの娘です。というよりかわいい服?んー自分に似合う服を着ているだけで心は男なんだそうです。いつもゴスロリファッションで私の服(ゴスロリに限る)も見繕ってくれます。今日はじゃんけんで勝ったクロエお母様監修のパンツスタイルです。

その他にも沢山の個性的な人たちと仲良くなって毎日がとても楽しいです。でも…やっぱり師匠に会いたいという気持ちはあります。ここは素の私をさらけ出しても受け入れ愛してくれます。とても心地いい場所で離れたくないと思うのも事実です。だけど…師匠のことが大好きなのも事実で…。

私は左腕に着けたままの《エクスカリバー》をそっと撫でました。彼女はここに来てからもずっと暴走した魔力で私が傷つかないよう守ってくれていたようで、私が誰かといる時は暇らしく寝ています。クロエ母様は心配しなくても大丈夫と言いますがやはり責任を感じてしまいます。








「ルーシーどうしたの?元気ないようだけど何かあったなら聞くよ?」


森の中にあるシロツメクサの生えた場所で、エルお兄ちゃんと動物の姿の下級精霊、妖精と一緒に来ています。ぼんやり花冠を作っているとエルお兄ちゃんが突然花冠を私の頭に乗せそう聞いてきました。エルお兄ちゃんは感情をあまり表に出すタイプではなく、ずっと一緒にいたら何となくわかる程度の差ですが確かに心配してくれているのがわかります。


「あのね…師匠は今頃どうしているのかなって…」


エルお兄ちゃんは基本リアクションがないに等しいので、悩みを打ち明けやすいです。沈黙が気まずくなくゆったりとした時間を過ごせるエルお兄ちゃんは、私の頭に乗せた花冠をとって微調整し始めました。私はそれをぼーと見ながら手元に顔をこすり透けてくるオオカミの精霊を撫でていました。


「多分今頃は寝ているんじゃない?」

「え?こんなお昼に?」

「いや人間界の今は真夜中だよ。まだルーシーがここにきて半日くらいしかたってない事になるはずだから…知らなかった?」


いや初耳です。これは予想外です。師匠ちょっとは私のこと心配してないかなとか、寂しく思ってないかなとか思ったりしましたが、まさかまだ一日すら経っていないなんて思いすらしませんよ。これ常識なんですか?そんな「え、当たり前じゃんだから半年近くここにいるんだろ?」なんて器用に顔で表現しないでくださいキャラが崩れてますよエルお兄ちゃん。


「なんだか私つくづく前世の常識に囚われてるんだなって思った…。常識なの?ここが時間の流れが違うなんて」

「うん、子供でも知ってる。絵本や大人たちが子供に言い聞かせるんだ。『子供だけで森に入ってはいけない。甘い声で攫われて、帰ってきたときにはお爺ちゃんお婆ちゃんになってしまうからね』って。まぁこの話のモデルが精霊と家庭を持って精霊界で暮らした結果、戻ってきたとき人間界の人たちにとっては老人になってしまうと思い込んだのがきっかけだけどね。だから長くここにいるにしてもルーシーみたいな魔人や不老じゃない限りここには連れてきてはいけないことになっているんだ。」


なるほど流石異世界リアルで浦島太郎物語的な感じが起こるんですね。物語がフィクションで終わらずそれが常識だなんてそりゃ知らないですよ。だって絵本や童話集なんて師匠の書庫にないんですもん!いや地方の夢のない伝承的な童話はありました!可愛さの欠片のない不気味な挿絵の伝承ばっかりでした。


「じゃあじゃあ魔力が多い子供の成長は!?同じ年の子でも兄弟でも魔力量の違いで見た目はどれくらい変わるの?みんなどんな生活を送っているの!?」

「えっと…落ち着いて。ほらクロエ様がくれたお菓子を食べて落ち着いてからにしよう」

「ごめん、ありがとう」


そういって私たちはシロツメクサと精霊、妖精に囲まれおやつを楽しみました。逸る気持ちを抑え穏やかに過ぎる時間を過ごしたのです。



















ーーーーーーーーー
兄、姉の呼び方が異なるのは見た目のせいです。精霊たちに年なんて些末なことですがルクレツィア的には自分に近いほど
〇〇お兄ちゃん→〇〇兄→○○兄様
姉も同様な活用形です。と言っても精霊は自分の容姿を自由に変えられるので、呼ばれ方を変えたければ変えます。みんな今がベストな形というわけです。

次回 初耳ですそんなこと!
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