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第一章 無知な少女の成長記

初耳ですそんなこと!

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お菓子とお茶をいただいた後、エルお兄ちゃんは微調整した花冠を私の頭に乗せ話始めました。私も途中だった作業を再開し、手を動かしながら耳を傾けました。


「まず人界に住む人型の生き物を総称して「人間ニンゲン」もしくは「ヒト」というんだ。そこから大きく分けて人族、魔族、神族の三つに分かれる。人族は極端な変化を嫌い排除する傾向があるから、身体的特徴が大きく規格を逸脱する種族はいないかな。

魔族はエルフ族や獣人族、竜人族とか色々いる種族の総称だね。比較的人族に近い種族は亜人なんて纏められることもあるよ。見た目も能力もバラバラだけど人型で会話が出来れば魔族と判断できるかな。あとは魔物と呼ばれる獣。動物と違って魔法が使えるんだけど詳しいことは今は省くね。魔族と人間は大昔は全面戦争してたけど今はそこそこ交流があるようだね。

最後の神族だけどこれは住んでいたという方が正しいかな。もう長い間その姿を見せていないし、僕たちみたいに自分たちの世界【神界】を持っているから。まぁ居ないわけでもないとは思うから微妙。ただ余り関わらない方がいい相手でもあるよ、気分屋というか天邪鬼な奴が多いから。

そんなわけで【人間界】には様々な見た目や能力などの特徴を持った種族がいるんだ。特に人族は能力に差があって、王族や貴族はもはや別の種族と考えてもいい。あと国が異なればそれも」

「えっと…つまり人族は姿かたちは同じでも根本…種族が違うということであってる?」

「うん。人族というくくりは同じだけど魔族と同じように複雑に派生しているんだ。その進化の過程で見た目が変わってしまったものが淘汰され今の人族になったという感じかな。だからこそ貴族と平民には埋まらない差があるんだ。その中でももちろん個体差能力差があって、それが魔力による肉体の強度とか成長とかだね。

それでここからが本題、ルーシーが言う肉体の成長は人族の高位貴族や魔力の高い一族では珍しい事じゃない。そういう種族一族はそもそも寿命が長いし年齢と見た目を一緒くたに考えてはいないよ?」

「ほ…ほんと?でもある程度までは普通に成長するんじゃないの?ずっと子供の姿なんて…」


私は思わず身を乗り出して聞いてしまいました。自分が普通じゃない…前世の記憶と余りにもかけ離れた常識に不安で仕方がないのです。いつまでも幼いことで面倒に、疎ましく思われないか。大好きな人にそう思われることが怖くて怖くて仕方がないのです。エルお兄ちゃんは私が余りにも情けない顔をしていたからでしょうか、ポンポンと頭を撫でて安心させるようにほんの少しだけ表情を緩めました。


「そんなに怖がらなくても大丈夫。ルーシーがどこからそれを知ったのかはわからないけど、その情報はかなり古く間違ったものなんだ。何も施されないままある程度成長できた子供は《精霊の愛し子》つまり精霊から加護を得ていて、何とか生活していたようなものなんだよ。ただ成長するにつれ増えていく膨大な魔力を循環せず放置し続けた結果、中位精霊レベルじゃ抑えられなくなって死んでしまっていた。そもそも昔は今よりも魔力過多な人族が少なかったし、肉体も進化する前で今よりずっと脆かったからそんな子供は生まれてすぐに死んでしまっていたよ。
でも今は同じ年の子でも兄弟でも成長にバラつきがあって当たり前の時代なんだ」

「それって…どういうこと?」

「まず順を追って話すね。大昔は魔力を多く持つ子供はその不可に耐えられなくなってほとんどが死んでしまっていたんだ。

でも貴族…つまりある程度魔力の多かった人たちが交配を追うごとにその血を濃くしていき、高魔力を保持する子供が生まれる確率が高くなっていったんだ。それと同時に見た目は変わらず肉体だけが進化していった人族貴族は寿命が延びるとともに生殖能力も衰え子供が作りにくくなってしまっていたんだ。

「それが人族にも派生した種族一族がいて別の生物であることの成り立ちってことか」

「そう。そこで少しでも優秀な子孫を残すためにこの問題が人族の大きな課題となった。そして魔物の肉を摂取することでそれを防ぐことに成功した。人族のような弱い肉体にとって波長の合わない魔力ほど毒になるものはないからね。それを逆手にとって、あえて魔力を含む肉を取り込んで魔力免疫によって幼い肉体の中で荒れ狂う魔力のはけ口を作ったんだ。これによって肉体の破壊と構築つまりは魔人化に近い事をして強制的に魔力に合うを作ることもできるから、自分で魔力を制御したり体内で循環することを覚えた後の強さに大きく貢献した。それでも死亡率は5,6割といったとこかな。そうそう歴史に残る大魔法師なんてのはこの時代の貴族でかつ《精霊の愛し子》だった子達が大半かな。」

「え…魔人化ってことは生まれたばかりの子供に…」

「そう。ルーシーは別のやり方だったけどそれと似たようなことを何百年もの間、平気でしていたんだよ人族は。だから今の貴族や高魔力を持つ民族は魔人じゃないけどそれに近い状態だね」


私は絶句して思わずエルお兄ちゃんのドレスの裾を握ってしまいました。それに気づくとお兄ちゃんは私の手を自分の手で包んで胸元で温めてくれました。トクンットクンッと安定した心臓の音が私を落ち着かせてくれます。


「ルーシー安心して。この方法での延命はもう行われていないし、してはいけない邪方として禁術に指定されたんだ。まぁルーシーがした方法も同じく禁術なんだけど…そもそも魔人になるというのは強制的に種を進化させることに等しいんだ。だから魔力はもちろん痛みに耐えることのできる精神力とか生命力がないと進化には至らないよ。廃人や精神異常なんて珍しくない。だから魔人は少なく特別な強さを持つんだ。魔人になる方法もなれる人が殆どいないから今では忘れ去られて、魔人になれるなんてかなり歴史や魔法に精通した国のトップや魔法師くらいじゃないかな。」

「そうなんだ…師匠、魔人になることを決めた時私がこれに耐えられるって信じてくれていたのかな…」

「僕にはわからないけど、その師匠って初めての細胞破壊に耐えた後泣くほど喜んだんでしょ?なら心を配るほどにルーシーが大切でそんなルーシーなら腐らず完遂できると信じてこの方法を教えたんでしょ」


俯いた私の頭をくしゃくしゃに撫で、エルお兄ちゃんは非難させた花冠を再び私の頭に乗せ満足そうにうなずきました。髪を滅茶苦茶にされたことへの不満もこの不器用な励ましにより怒ることもできません。


「それで話を続けるけど、研究が進むと何故子供はのかということに気が付いたんだ。母親のお腹の中にいる時母体には何の影響もない中で、出産しへその緒を切った瞬間が生死の分かれ目、その違いは何だろうってね。」

「なんだか話が複雑になってきたね。でもそんなこと母親が子供の魔力を制御していたからじゃないの?親子なら波長が合わないなんてこともないだろうし、いくら子供の魔力が多くても遺伝なら母親も高保持者でかつ魔力操作にたけているんでしょう?」

「そうそれが答え。盲点だっただろうね。いかに子供を生かすかばかり考えて生まれる前のことをすっかり頭の中から除外していたんだ。長く生きすぎ凝り固まってしまった頭ではその疑問にたどり着くのに随分と時間がかかってしまっていたようだよ。まあ人族が領土侵略をもくろみ魔人という至高の存在を作り出そうとしていたことも理由なんだけど…。

それで今では魔力の多い子供、親和性の高い両親や波長を合わせることのできる魔法師によって体内魔力の循環や制御をしてもらい、徐々に自分で行う練習をしていくのが主流だね。その中で同じ兄弟でも魔力の量や質、肉体の魔力浸食率などによって成長が異なるのは当たり前だといううのが常識になっているんだよ。

だからルーシーは何も心配しなくてもいいんだ。それと…そもそも最初に説明した人族、魔族、神族の主な種族だけどそれのどれにも当てはまらないのが魔人なんだ。魔人は寿命、老いの概念から逸脱した存在。つまりルーシーは年齢関係なくやろうと思えばどんな姿形にだってなれるんだよ?君の師も魔人なんだよね聞いてないの?」

「は!?あ、んん?なんかそんなこと…」


私は師匠に魔人に、普通の人のように成長させることはできないか聞いた時の事を思い出しました。


『ルークよ…確かにお前の成長速度は魔法を使えない者の何百倍…いや何千倍も遅く、恐らく普通の人の一生は確実に今の姿で居ることになるじゃろうよ。強大な魔力に幼い身体が耐えられず肉体が四散、なんてことも遥か昔はあったが今はもう解決策はある。時間はかかるが大人になれずに死ぬなんてことはない。それでもお前は皆と同じように生きたいか?』


あーはい、言ってないですね師匠。勝手にを前世と同じに当てはめ魔人になれば自然と大人に成長すると思っていた私のですねこれ!うわぁ…なんだか…


「今まで思い悩んでいたことが全て馬鹿馬鹿しく思えて疲れた…何を恐れていたんでたんだろ私。そもそも種族が、体のつくりが人とは違うんだから同じなんてなられないしなる必要もないんじゃん…師匠も魔人ならそんなこと微塵も考えたりしないのに勝手に悩んで自爆して……ちょっと穴掘って埋まってくる」

「ルーシー落ち着いて。誰にだって失敗はつきもの。ルーシーの師匠もルーシーがすっきりしたのならそれでいいって思ってくれるよ。そうじゃなかったら僕たちの所に何時でもおいで。だから僕があげた服を土で汚すのはやめて」

「いやそれが本命でしょっ!?最後のでいい話が台無しだよ!でも…そうだね、師匠なら私のこと許してくれるはずっいや許さなかったら許すように脅せばいいんだ!あっ!」

「ん?急に何?」


私はエルお兄ちゃんに精霊術で服の汚れを取ってもらい、立ち上がってあることに気づいてしまいました。


「師匠あれだけ私に『老いぼれ』やら『いつ死ぬかわからん』なんて言っていて、そもそも魔人なんだから死ぬことなんてないんじゃないですかぁぁぁ!?」


いきなり叫びだした私に驚いたのかエルお兄ちゃんはビクッとしてしまいました、ごめんなさい。ですがこれは一大事です!もうこうなればどうにでもなってしまえばいいのです、師匠と差しで話し合わなくては私は何時までも人にどう思われるかに怯え師匠と本当の意味で笑えなくなってしまいます。


「エルお兄ちゃんありがとう。私師匠と話し合おうと思う。」


エルお兄ちゃんはパチパチと瞬きをして私の悩みがなくなったことを理解すると、良かったねと微笑みました。私はそのお人形のような可愛さと神秘さに一瞬見ほれてしまいました。真っ白な肌に繊細な黒のレースをふんだんに使用したゴスロリファッションと、艶やかな漆黒の髪と黒曜石のような瞳。誰が見ても美少女なエルお兄ちゃんはすぐに無表情に戻り立ち上がって私を抱きかかえました。


「え、どうしたの?」

「ルーシーの決心がついたんなら早い方がいいでしょ。クロエ様の所に行こう」


私が2歳児の身体で、エルお兄ちゃんは大体13歳くらいなので軽々と抱き上げられちゃいます。お兄ちゃんは闇の精霊なので影を自在に操れ、一緒に食べたお茶やお菓子が入っていたバスケットを影の中に入れ歩き出します。


「うん、ありがとう」

「ん、どういたしまして」


エルお兄ちゃんはクールでミステリアスで美少女で優しい闇の最高精霊です。
















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最高精霊たちはみんな同じ年なんですが、性格的な問題でエルドレッドは皆の弟的存在です。

次回 さぁ話し合いましょうか拳で
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