Sランク冒険者はお姫様!?今さら淑女になんてなれません!

氷菓

文字の大きさ
39 / 81
第一章 無知な少女の成長記

ルベライトの輝き

しおりを挟む
暗い洞窟でジッと息をひそめ暮らしていた。腹には子が、私たち【土蜘蛛】は成長し強くなると上半身は人と変わらない見た目で下半身を蜘蛛の姿の完全体を取る。と言っても私程の生体は居らずここら一体の主になって以降強敵と呼べるものにも出会うことはなかった。


「うぉぉぉ…成長すればそらなりますよね…」


ある日いつものように罠を仕掛け得物を待っているとの匂いと人間の声が聞こえた。


「いや肉体そのものが成長している証ですけど…うぅぅこの重い感じ…これ回復魔法でいいんですかね誰か教えてください…」


何やらブツブツ言っている人間を観察する。一体何百年ぶりの人間の血肉だろうか…滅多に来ないご馳走に得物がかかるのを今か今かと待っていた。フラフラと前屈みである人間が自ら罠に向かっていく…よし!糸に触れた瞬間一気に引き上げ網に絡ませる。


「うわぁっ!?は!?苦しんでいる人にさらに追い打ちをかけるとか今日はとことんついてないです!」

『久しぶりの人肉は息がいいわね』

『うっわぁ巨乳!』

『うわ喋った!?』


久しぶりの御馳走は私につるされいつ食われるかというこの状況で私の胸をガン見していた。しかも魔物と直接会話ができるなど初めて出会ったタイプの人間だった。【土蜘蛛】は蜘蛛のように得物が大人しくなるよう待ちそして毒を注入しその血を抜く。ただ人間のような上半身を持っていても視力を得ることはなかった。目の前で糸に絡まれ宙吊りにされている人間は怯えることもなくただ腹を立てているのが音で分かった。


『ちょっと今宙吊りはまずいんですって!デリケートな時期なんですから放っておいてくださいよ!』

『貴方は私の餌なのよ?餌の分際で何を言っているのよ』

『いや隣に滅茶苦茶デカいミイラいるじゃないですかこれで十分でしょっ』

『私今お腹に子供がいるの。それは私の主食よ』


そういうとギギギッと音がしそうな動きで人間が隣の糸に包まれた夫を見た。


『おっと?』

『そう夫。この子達の父親であり私の食糧』

キョトンと目を丸くしたかと思えば人間はギョッとしたように隣と私を見比べた。顔にもかかっている糸から人間の顔はコロコロとその表情を変えているのが分かり面白い。


『うえぇぇぇ!?ちょっえ、夫!?食べちゃったんですか夫を!』

『まぁ人間には分からないでしょうね。私たち【土蜘蛛】は子を産み育てるための栄養を夫を食い得るのよ。だからこれは私と夫の愛ゆえの行為なのよ』


今でも思い出す愛しい1400匹目の夫…あら1500だったかしら。彼との夜には決して他種族のようなロマンはなく、ただの作業だったけれどその後の…私に食べられる覚悟を決めた彼は最高に愛おしかった。ほう…と頬を染め夫を見つめていると、いつの間にか人間の声がやけに近くで聞こえた。


『いやまあ愛は人それぞれですし合意の上なら問題ないですよね、うんそうです、そうに違いない』


そういう人間は私の隣に立ち膨らんだ腹を眺めていた。


『いやぁ蜘蛛の揚げ物ってどうなんでしょうかね、ちょと虫はキツイですですし食べるなら魔石かな』


そういう人間にゾッとした恐怖を感じ飛び退き距離を取った。瞬時に糸を吐き相手を拘束しようとするが人間は目にもとまらぬ速さでそれを躱した。糸を操り殺すことだけに集中するが、最高強度の糸ですら簡単に切り刻んでしまう人間に恐怖し同時に畏怖した。お山の大将、井の中の蛙、慢心していたのだろうか目の前の到底かなわない化け物を相手にそんなことを考える。


『っ!』

『すごく器用ですね、動かせる手足が多い分手数もそれに動きも複雑で流石【土蜘蛛】の女王というだけあります。私も参考にしてみようと思います!』

『うるさいっ私は負けられない、この子達のために生きなければいけないのよ!!』


最高強度の糸を組み合しさらに強度を上げる。本来の蜘蛛が持つ空間認識能力を張り巡らせた極細の糸で発揮し、高速で動き回る人間に何とかついていく。長く住み知り尽くした洞窟だからこそ出来る芸当であり、そうでなければこの尋常じゃない速さについていくことは不可能だっただろう。それでもこの人間にとってこの動きは本気ではないのだろう、凄いと感心しながらも捕まることはなくそれどころか糸を全て断ち切ってしまった。


『宝石が好きなんですか?』

『は?』


そう言って人間はその手に沢山の宝石を持ち眺めていた。宝石と言っても採掘しただけで加工も何もしていない原石だ。人間はそれを徐に投げると指に魔力を集め【土蜘蛛】の技である魔糸を作り出した。投げ上げられ宙を彷徨う石に魔糸を絡ませたかと思えば、次の瞬間には綺麗にカットされた宝石がその手にあった。


『これ貴方の色と同じなんですね。旦那様からの贈り物ですか?』

『ぁ……』


何故か夫たちは皆、食べられる前にこの石を送ってきていた。目の見えない私は何故石を送ってくるのかわからず、ただプレゼントが嬉しく保管し眺めていたのだ。


『これは……私の色なの?』

『そうですよ?貴方の髪は綺麗なネオンピンクです』

『そう…そうなのね……』


ようやく理解した石の意味に何故か心が温かくなる。彼らにはこの色が見えていたのだろうか、ただ私を思ってくれていたことが嬉しかった。


『てことで返してほしければ私の手足となってください』

『は?、いやそこは良かったですねって宝を返すんじゃないの!?』

『ヤレヤレ人生はそんな甘くないんですよ、服従か死か選びやがれ』

『ちょっと趣旨が変わってるんだけど!?』


人間はフウと息をつきわざとらしく首を振り、一瞬で私の真後ろに移動した。そして私背をツーと指で撫でながら呟いた。


『赤ちゃん……生まれてくるといいですね?』


激しい鼓動と冷汗をかき、息も忘れゆっくりと首を動かし振り向いた。細かいの糸を切られ表情は分からない。だがそれが余計に恐怖をあおり、宝石思い出だけでなく宝物子供まで奪おうとする人間に震えた。気が付けば【主従契約】を果たし私はこの宝石の名前を貰っていた。



『我が子のため…我が子のため…』




そう言って今日もルクレツィア様のために働く。だがいつしかその仕事が楽しく我が子の成長と共に他の仲間との交流を心地よく感じていたことに気づいた。


『ルベラ』


あの日貴方に人化を教わり見た光景を私は忘れない。初めての色の美しさを、与えてくれた宝の色と共に私はこの先ずっと生きていくのだ。



だから他の皆みたいな上等な忠誠はなくても貴方の役に立ってあげますよルクレツィア様























ーーーーーーーーーーー
極悪人ルクレツィア様

次回 臆病者の挑戦
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

悪役令息の婚約者になりまして

どくりんご
恋愛
 婚約者に出逢って一秒。  前世の記憶を思い出した。それと同時にこの世界が小説の中だということに気づいた。  その中で、目の前のこの人は悪役、つまり悪役令息だということも同時にわかった。  彼がヒロインに恋をしてしまうことを知っていても思いは止められない。  この思い、どうすれば良いの?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

断罪現場に遭遇したので悪役令嬢を擁護してみました

ララ
恋愛
3話完結です。 大好きなゲーム世界のモブですらない人に転生した主人公。 それでも直接この目でゲームの世界を見たくてゲームの舞台に留学する。 そこで見たのはまさにゲームの世界。 主人公も攻略対象も悪役令嬢も揃っている。 そしてゲームは終盤へ。 最後のイベントといえば断罪。 悪役令嬢が断罪されてハッピーエンド。 でもおかしいじゃない? このゲームは悪役令嬢が大したこともしていないのに断罪されてしまう。 ゲームとしてなら多少無理のある設定でも楽しめたけど現実でもこうなるとねぇ。 納得いかない。 それなら私が悪役令嬢を擁護してもいいかしら?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...