Sランク冒険者はお姫様!?今さら淑女になんてなれません!

氷菓

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第二章 破滅の赤

牢屋で暴露

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薄暗い牢屋と対象に、陽だまりと花が咲き誇る鉄格子の中、ルクレツィアはツヴァイとリーリヤと名乗る謎の少年少女を見つめていた。


「ふふっではあと一つ。二人の身分と名前、姿を嘘偽りなく教えてください」


そして……


「「【解除】」」


二人の姿が少しズレたかと思えばそこには真っ赤に燃えがる炎のような髪と瞳の少年と、咲き誇るバラのような深紅の髪と瞳の少女が居た。









「何というか…纏う色が変わると印象が変わりますねぇ。リリーは特にゴージャスというか迫力が増しました。ツヴァイに至ってはその歳で色気を感じてしまうんですが、大変そうですね。主に貞操の危機で」

「いやもっと感想あるでしょう?ほらこの色よ?【太陽神の愛し子】よ?」

「リリー、ルカはこの国のことは何も知らないんだから無理言うなよ。というか俺の顔を顔見てもあまり驚いていないみたいだな?本当の姿って言うくらいだから全てお見通しだってことか?まぁお前のその顔で色気がなんだとか言われても説得力ないんだけど」

「あーそうだった、すっかり忘れてたわ。もー横を向いても前を向いても面が良すぎてしんどい」


リーリヤは姿を偽る前の緊張感はどこへ行ったのか、やさぐれた様にカップに角砂糖を放り入れた。ルクレツィアはその量に内心混乱しながらも、それがこの国の普通なのかとツヴァイへと視線を移した。ついでに口を付けようとしていたカップは、持ち上げたままソーサーと口の間をさ迷っていた。


「いや俺を見ないでくれよ。これはリリーが異常なだけだからな?」

「あ、ですよね。これがこの国の作法なのかと…ところで【太陽神の愛し子】って何です?あれ、もしかしてお二人って私の想像以上にお偉い面倒な人だったりしちゃいます?」


ツヴァとリーリヤは顔を見合わせ、先ほどの真面目雰囲気を思い出したかのように姿勢を正した。それに釣られる形でルクレツィアもカップをソーサーに置き、三人の間に再び緊張が走る。


「俺の名前はコーラル=バハルカンズ。この国の第13王子だ」

「私はイングリッド=バーグマン。コーラル殿下の婚約者でバーグマン公爵家の第1公女よ」

「・・・んん!?」


ルクレツィアは三拍空けた後、理解と常識の狭間で狼狽えた。いくら俗世と離れた森の奥や人間ですらない妖精の世界で暮らしていたと言っても、前世や本からある程度の知識はある。それを踏まえ王子と公女に街中でばったり出会い、挙句の果てに明らかに後ろ暗い組織に誘拐されているのだ。


『あれ?もしかして私この国の言葉間違えてる?王子と公女って大きくなるまで城の奥で大切に育てられるんじゃ…いやそうに違いない。こんな初めてのお使い感覚で小さい子供が街を散策しているわけないもんね!?』

『あれだけ街を歩きながら他の人間の脳から言語情報読み取って、今さら言葉を聞き間違えることは無いだろ。あと最後のは完全にブーメランだぞ。普通の五歳児はここまで語彙力はないし流暢な会話は無理だ』

『あのー二人とも忘れてましたがここ牢屋なのですけどぉ、仮に彼らの言葉が本当だとして、王子様と公女様がこんなとこにいるってバレたら面倒なんじゃないのです?早めに脱出した方がいいと思うのです』

『あぁぁ嘘じゃないと見抜けてしまう自分の第六感と身体能力亜が今は憎い…』

『ラトレイアにしてはまともなこと言うじゃないか』

『ちょっと酷いのです!ラトはいつだって真面目とサボりを両立できないか試行錯誤しているのですよ』

『真面目とサボりは対局してんだろ何言ってんだ』

『ぶー!これだから兄はいつまでも堅物なのです!』

ルクレツィアは左右の耳にピアスとしてぶら下がっている従者、ピスティスとラトレイアの兄弟喧嘩が始まった段階で念話で話を終えた。凝縮された思考での会話は時間にして一瞬であり、その間に落ち着きを取り戻したように表情を変え意識をツヴァイとリーリヤ、いやコーラルとイングリッドに向き直した。


「不勉強で申し訳ありません。この国には、可愛い子には旅どころか奴隷オークションに参加させよ。とかいう諺でもあるのですか?」

「ふっ良くわかったわね…獅子は子を谷底に落とすというし、当然私たちは狙ってこの悪の組織の拠点へ」

「んな訳ねぇだろ。インジーも悪乗りすんな」

「いたっ!もう!ルカにカッコいい正義の味方的な王子と公女の印象を付けようと思ったのに」


コーラルはしたり顔で話すイングリッドの後頭部に手刀を落とすと、状況を理解できてい中でも落ち着き払っているルクレツィアをみて覚悟を決めた。実際にはルクレツィアの脳内では、王子と公女誘拐に一役買ってしまったのではないかと冷や汗を流しまくっていた。


「俺たち貴族は七歳になると本格的な勉強が始まる。それまでの自由な時間を俺とイングリッドは市井について見分を深めることに費やしている」

「自分で言うのもなんだけどかなり高貴な身分だから、護衛を巻くのも大変なのよ」

「へ、へぇ…そうですか。えーと、ちなみにですよ?私の目の前に自称王子と公女がいるんですよね、平民の装いをした。それでも当初は茶髪と水色の瞳だったんですけどね?その彼らを巻き込んで今から闇オークションに出品されちゃうかも!な状況なんですが~これってかなり不味い状況だったりします?」


ルクレツィアは自分でも何を言っているか理解したくないが、念のため自称王子&公女に伺った。コーラルとイングリッドはフーと息を吐くと、眩い程の良い笑顔でサムズアップした。


「「もちろん最悪に決まってるだろ(でしょ)!」」

「ですよねー!」


ルクレツィアは額に手を当て上を向き苦笑した。そしてコーラルとイングリッドは懐から紋様の入った小刀とハンカチをテーブルに置いた。


「これが証拠だ。っていても家紋なんて分かるわけないよな」

「いえそれだけ立派な細工や刺繍は貴族のものでしょう。まぁ万が一商家だとしても、王家やそれに裏なる公爵家を名乗るなんて不敬は犯せませんしね。信じるしかないです。えーではでは現状を整理するとですよ?お忍びというかお城脱走してきた王子様と公女様が誘拐され、まさかの闇オークションに出品☆って感じでオーケー?」

「いざ言葉にすると本当に不味いわねこれ」

「あ、悪いルカさらに悪いお知らせがあるんだこれが」


行儀が悪いと分かっていても止められず、ルクレツィアは肘をテーブルに立て組んだ指に頭を突っ伏していた。そしてそれに追い打ちをかけるかのように、吹っ切れたイングリッドとコーラルは紅茶に口を着け、爆弾を投下する。


「実はさっきの続きなんだが【太陽神の愛し子】ってやつな?この国の国教で神に続き最も尊い存在として崇められているんだよ俺たち」

「そうそう。本当は教会の奥底から出してもらえないんだけれど王子と公女だし身分的にね?」

「うえぇぇ…いやいやお二人とも権力詰め込み過ぎじゃありませんか?それもう政治的にも民意的にも爆弾ですよ。あ、もしかしてさっき言ってた見た目ってその髪と瞳の色が?」

「正解!赤系の髪と同色の瞳が【太陽神の愛し子】の証ね。過去にはオレンジや赤茶色、桃色とかいたしまぁ曖昧だけれど、髪と瞳が同色てのが条件よ」

「いやぁ呑気に猫追いかけてた誰かさんを助けようとしたら、とんでもねぇ所にきたなー」

「そうねー。この国の王子と公女しかも国教で重要な立ち位置にいる子供の誘拐。挙句の果てに売りに出されれば、場所次第ではこれはもう戦争ね。ことが事だし民に露見すれば教会はこれ幸いと聖戦でも吹っ掛けてくるかも?」

「『愛し子を我ら教会ならば守れていたのに~』って感じかなぁ?大変だなぁインジー?」

「そうねぇコニー?まぁ私は変態に売り飛ばされないことを祈って、ここで寂しく泣いていましょうかシクシク」

「ワーワーもうこれ聞かなかったことにしてこの国から逃げてもいいですかね?出来れば私がここにいたこと忘れて欲しいなー!なーんて」


とうとう頭を抱えてしまったルクレツィアを尻目に、コーラルとイングリッドは同時にルクレツィアの手を取ると花が咲き綻んだように微笑みかけた。


「「ダメに決まってるだろ(でしょ)」」

「ぬあー…めちゃくちゃ仲いいですね!もう!」

「まぁ私もこんなことになるとは思ってなかったのよ。ちょっと路地にズカズカ踏み込んでいく危なそうな子がいたから引き留めただけ。本当よ?」

「いや俺はお前にだけはそれを言われたくないんだけど」

「えーこれもう三人とも悪いってことで良くないですか?脱走王子・公女と火事場泥棒ってことで」

「おいルカ、お前段々面倒になってきてるだろ」


三人は出会って直ぐの頃が嘘のようにお互い自由に言い合っていた。特にコーラルの口調が砕け、さらに身分と名前を明かして以降はルクレツィアの言葉も軽くなっている。牢屋の雰囲気を変えると同時に音が漏れないようにしてある鉄格子の中は、その廊下と比べ明るく賑やか…騒がしい様子であった。


「いや私もまさか闇オークション組織なんて大物引っかけるとは思わなかったんですよ。まぁ王子様と公女様も引っかけたんですけどね!ハハハッしんどい!てことで私と雇用契約結びません?」





「「よし乗った!」」





まるで待ちわびていたかのような勢いでコーラルとイングリッドの声が重なった瞬間だった。



















ーーーーーーーーーーー
イングリッドのことを公女と呼んでいるのは訳があります。

次回 牢屋で交渉
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