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第二章 破滅の赤

小さな手

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あの誘拐事件から数ヶ月ぶりに出た城の外。

それまでコニーやインジーとお茶をしたり、新しく家族になる筋肉が素敵なお父様とその奥様と対面したりと割と充実していたお城生活ですが、やはり退屈なのは当たり前で...

楽しみと言えばピスティス覗き魔が持ってくる、お城に務める使用人さん達のドロドロ愛憎劇でしょうか。過激すぎてピュアピュアなルクレツィアちゃんの心まで荒みそうでワクワクでした。

とまぁそんな事もありつつも、頻繁に会いに来てくださった養父母を家族と呼べるようになった事は純粋に嬉しく照れくさくもあります。それは忙しい中何度も会いに来てくれた父様とその寡黙な父様の分まで賑やかな母様のお陰でしょう。特に母様は話題運びや会話の切り口が上手く、家族として受け入れて貰えるか不安だった私の緊張もすぐに解けてしまいました。そうなるとお別れも寂しいわけで...早く一緒のお家に帰りたいねと抱き締めて貰うことも毎度でした。



しかし現在!

お茶目な母様と父性溢れる父様。まだ見ぬ兄弟が待つ城下の屋敷へ辿り着き、これからの生活へ期待に胸を弾ませた対面の場!

なんだかその期待...上回りそうな予感です!












「お前変だな!」


そう言った彼は透き通るようなアイスブルーの瞳を大きく見開き、思わずと言った様子で叫びました。
















王城から馬車でそれほどかからない内に辿り着いたのは、中央を通る石畳を軸に左右均等に整えられた庭が広がる白亜のお屋敷でした。街と海を囲むように見下ろす緩やかな山々の頂上にある王城よりも、いくらか下った中腹付近に位置する侯爵家は、広大な敷地が切り拓かれ一目で家格の高さを来館者に知らしめる威厳に満ちています。建物は街で見た建物と同様、赤色の瓦と太陽光を浴び輝く白い壁。しかし街でみたような凹凸のないシンプルなファサードではなく、装飾として用いられているだろうオーダーが神殿のような神秘的な印象を与えていました。


私は馬車の窓からその様子を目に焼き付けるように見つめ、胸に巣食う違和感に若干の気持ち悪さを覚えていたのです。


――確かお城でも同様に構造体としての柱とは別に装飾として壁に添えられている豪華な柱がありましたね…。建材もコンクリートが使われていました。山から流れる水脈と街に張り巡らされた上下水道…これって…ん~でもやっぱり違和感というか、どこか見落としている感があるんですよねぇ――


――そうなんですか?それは注視しなくてはなのです。でも残念ながらラトは主様が何に疑問を持っているのかわかりそうにないのです。こういうのは人間の趣味次第でコロコロ変わるものですし、現状深く考えても文化を理解していないうちではどうしようもないとラト思うのですが――


――ラトレイアが真面なことを…だが僕も同意見だな。だがそんなことを深く考えたって何になるんだ?――


――兄はこのロマンと魔力を分かっていないですね――


――はぁ?何が言いたいんだよ――


――も~!二人とも少しくらい主人に寄り添ってディスカッションとか考察してくれてもいいんじゃないですかね?あとピスティスはもっと人間の文明の繊細さを理解すべきね。

じゃないの。

建築は短命な人族の歴史が刻み込まれた古文書なんだから舐めてると…足をすくわれるから…ね――


――っ!?わ、かった――


少し語気を強めてしまいましたね。でも本当に何もない状態で人間を知るなんて、それこそ人間が手で残したものを注意深く観察するしかないですしねぇ。ラトレイアと分業するのはいいんですけど、ピスティスにはそういった文化面での知識への関心を持って欲しいんです。まあ本音は三人で一緒に世界遺産巡りとか楽しそ…


――やーい怒られてやんのです。ぷぷぷ~――


――ラトうるさい…――


――え~お兄ちゃま落ち込んでるんですかぁ?いやぁ感性とは一朝一夕で身に着けられないものなのですから気を落さないで欲しいのですぅ――


――~~っ!ホンットにお前性格悪いなヴァァァァァァカ!――


――ラトがお城の探検行きたかったのに抜け駆けした兄が悪いのです!噂話大好きな除き魔より考古学的視点で考えられるラトの方が主様の役に立てたのです!あと宝物庫見たかったのです!貴賓室見たかったのです!ずるいずるい!――


――お前結局それが本音だろ!だから任せなかったんだよ――


あぁまた兄弟喧嘩が始ってしまいました。まぁ誰だって意見の衝突ってありますよね。二人で仲良く話し合ってもらいたいです。




そんなことを思いつつ放置を決め込むことになれた私は念話を切り、到着した馬車から降りて父様のエスコートで屋敷内を歩いています。並行思考から父様との会話一本に切り替えましょう。


「ルカリアは兄弟たちとは初めて顔を合わせることになる。二人も元気の有り余るヤンチャ盛りだからルカリアも遠慮せずやり返してくれていいからな」

「もう父様!そこは相談してねとか言うべきところじゃないんですか?か弱い女の子ですよ私」

「おや?うちの娘は随分大人しい子だったんだな知らなかった。じゃあ挨拶代わりの隠れんぼはもう無しかい?」

「私はまだ赤ん坊なので構ってくれないと夜泣きしちゃいます。深夜盛大に泣きわめいちゃいます」

「ははっそれは困った。それでは娘のストレス発散に尽力しなくてはな」


父様は表情は依然として乏しいものの、母様や私に向ける声は優しく、会話は決して寡黙という訳ではないので楽しいです。最近では幼児のぷくぷくな頬っぺに魅了された信者の母様に入信させられたのか、よく私の頬を大きな人差し指でスリスリしてくるのがブームなようです。どうやら初めは息子2人の頬を軽くいじっていたそうなんですが、岩の如く硬い手が幼児の肌には不快なようで逃げられるのだとか。父様…お顔は確かに強面かもしれませんが会話を増やせば懐いてくれると思うんです。


「でも父様は私が大人しい女の子じゃなくてもいいんですか?父様貴族の娘ですよ?」

「勿論公の場ではルカリア自身を守るためにも仮面は必要だけど、ここ屋敷な私が君の自由を守ってあげられる。だからルカリアは遠慮せず思うままに暮らして欲しいんだ。それに”女の子だから”って形を押し付けるのは好きじゃない。人間我慢の限界があるだろう?」


そう言って悪い笑みをする父様は最高にカッコいいです。でも私知ってるんですからね。

刺繍が苦手な事を長年気にしていた母様に

『女性はみな器用なのだと思っていた』

とか仰たとか…。乗馬や武術が得意な母様は細々とした作業に苛立つそうで、長年抱えていた爆弾を同じくらい不器用な父様に起爆させられ大激怒。

『女性という生き物が皆同じ性質であるとは限らないでしょう!まして女性のドレスの紐を解けぬほどの不器用な貴方に言われたくありませんわ』

と冷たい目で見られ、上達するまで夜は毎日刺繍の練習をさせられたそうですね…内心ほっこりしつつそんなことを娘が思っているとは知らぬ父様は、到着した扉の前で私の目を見て心の準備は出来ているか確認してきます。


「さっきの話ですけど…私は二人とは仲良くしたいと思っています。でもその過程で喧嘩することもあると思うので多少の怪我は見逃してくださいね」


背の高い父様を見上げウインクしました。父様は私が怪我する側だという訳ではないことを理解したのでしょう。思わずといった様子でフッと笑うと、腰より下にある私の頭に手をのせ撫でてくださいました。


「君は本当にイザベラに似てる」


ふふっやっぱり母様の真似をしたら喜ばれました。イザベラ母様とは幼い頃から婚約者として一緒に過ごしてきたそうで、この無表情のしたはデレまくりのチンピラなんだとか(母様談)
懐かしそうに眼を細めた父様は扉の傍に控えていた使用人の一人に頷くと、重厚な木製の扉が開かれました。その奥のソファーにはこの国に来てからよく見かける鮮やかな青色の布をたっぷりと使ったドレスに身を包んだ母様とが。その傍には母様に抱き着いて座っている小さな男の子と、その子より大きい私と同じくらいの身長の男の子がこちらを見つめ経っていました。私は背に父様の手を感じ頷くと、ゆっくりと微笑みながら入室します。


「ただいまイザベラ、ローガン、イーサン」

「おかえりなさい旦那様、ルカリア。」


目を合わせ軽く抱き合った二人と、こちらをじっと見つめる少年たちの視線を受け私も挨拶を返します。


「只今帰りました。この度マティスロア家へ迎え入れていただきましたルカリアと申します。どうぞよろしくお願いいたします。」


母様、そして兄弟となるお二人へと視線を移しにっこりと笑顔で挨拶をします。もの凄く警戒されているのですが、貴族は7歳になるまでは外には出ないそうで同じ年頃の小さな女の子など、初めて見る珍獣と等しいはず。大丈夫ですよ~怖くないですよ~私の邪魔さえしなければ可愛い妹と姉ができますよ~

そんな思いが伝わったのか母様に手で促されたからか、私と同じ五歳で兄となるローガン少年がもごもごと口を動かし目線を逸らします。そして何か決心したようにズボンを握ると私の目を見て一言


「お前変だな!」


「あっ兄さまそれ言っちゃダメだよ!」


そうですね、いきなり変は言っちゃダメですね。でも僕も思ってたみたいな反応もダメだと思いますよイーサン少年。ほら父様も母様も頭を抱えちゃってるじゃないですか。大丈夫ですよお二人とも。このルクレツィア改めルカリア、大人なので。


「ふふっとりあえずお庭で遊びましょうか表に出ろ


こうしてマティスロア家の兄弟仲は深まったのでした。



















ー-------------
正直伏線立たせ過ぎて回収し忘れそうです。
次回から五歳ルクレツィアのジタバタ幼少期編です

次回 追いかけっこ
    
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