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第二章 破滅の赤

騎士ごっこ

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イデアーレ王国の王都ラナスティア。白亜の王城が聳え立つ山々の麓には、来るものを圧倒する王国の矛、マティスロア家の屋敷が佇んでいた。建国以来忠臣として王国に仕え続けていた名家。その姿は太陽の光を浴び白く輝く石造の建築である。細部には町で至る所に咲き乱れている花々や、色とりどりの糸で服に刺繍されている模様を彷彿とさせる彫刻が施されていた。

そんな荘厳な屋敷では今賑やかな子供の声が響き渡っていた。


「んふふお兄様次は何します?」

「もうヤダぁああああ」

「やぁああ無視しないでぇ兄さまイジメちゃイヤイヤルカリアきらいぃぃぃ」


声と言っても叫び声なのは言わぬが花であろう。個の様子も数日続くと慣れて来たのか、屋敷の主であるセドリックとイザベラが微笑んでいるからか、屋敷の使用人たちも微笑ましいという様子で眺めているだけだった。

実はルカリアもこの怪獣のような幼児の姿に対し、可愛らしいと言わんばかりの目をしているのは内緒だ。城に滞在していた頃、イザベラやセドリックから兄弟となる二人の話を聞いていたルカリアは、その交流の無さと自立という名の単独行動の多さを心配していた。
というのもイザベラがイーサンを出産した際に体調を崩したことにより、屋敷は母と赤ん坊の弟に掛かりきりになってしまたのだ。そこからローガンは屋敷の雰囲気を察したのか、物分かりが良すぎる子供になってしまったのである。
更に難産の末に生まれたイーサンは周囲の人が何をするにも手を貸してしまい、誰かが一度試してみるのを観察し試すようになったのだ。簡単に言えば毒見・反面教師といった後に、確実に成果を得ようとするため誰かと協働しようとしないということである。

ルカリアはそういった悩みを聞き思った


『なるほど。構い倒してやろう』


こうしてルカリアは勉強とは無縁の幼児という現状を謳歌すべく、日に日に顔に出して嫌がるローガンと全力で隠れるイーサンを回収し遊びに強制参加させていたのだった。


「なんで毎日来るんだよ…お前と遊んでも楽しくない」


早起きが苦手なイーサンをシーツごと担ぎ、まだ眠っているローガンの真横で目覚めるのを待っていた日もあった。穴が開くほどの視線を感じ目覚めたローガンの驚きと叫びは言うまでもないだろう。あれ以来ローガンはルカリア襲来の前に本能的に起きてしまうようになり完全なトラウマへとなってしまっていた。

またある日は部屋から逃げ出し屋敷の隅で隠れてやり過ごそうとした時もあった。勿論見つかった。

諦めを覚える程大人びていたローガンは、それ以降ルカリアの遊びには渋々だが参加だけはする方針へと移行したようだった。


「えーでも騎士ごっこ楽しかったでしょう?ノリノリだったじゃないですか」

「なんでお前が騎士で僕がモンスターなんだよ!僕は騎士がいいの!」

「散々モンスター楽しんだ後にいうセリフじゃないですって」

「ねーぼくもう寝るのやだー」

「おーよちよちイーサンくんはねんねしときましょうね~」

「いぃぃぃやぁぁぁぁ」


今日は庭師に貰った木の枝で騎士ごっこをしていた三人。正義の騎士ルカリア、人里を襲うモンスターローガン、襲われた村人(死体)イーサンとなっている。因みにルカリアの勢いに押された故の配役である。そして今、モンスターといえど枝を振り回しルカリアと打ち合い疲れたローガンと、逃げようとしてシーツで縛られ転がされたイーサンは、木陰で寝ころび空を見上げていた。


「なんで僕たちにそこまで構うの」

「なんです?構ってくれて嬉しいんですか?素直に言ってくれていいんですよ?」

「嬉しくない」

「えー照屋さんめ」


ルカリアは隣に寝ころんでいるローガンの柔らかい頬を突きからかった。それが不快だったのか幼児に似合わない眉間にシワを寄せた表情で、右に座るルカリアに目を向け口を開く。


「お前嫌い」

「ぼくもー!」


ローガンの左に転がされているイーサンは、動けない体をモジモジとさせながらもしっかりと主張する。出会った頃とは比べ物にならないほど遠慮が無くなった二人だが、それはこの兄弟間でも言える話だろう。人類は共通の敵に対して手を取り合い背中を預け合える仲になることが出来るのだ。ローガンは以前よりも積極的にイーサンに話しかけ気遣い、イーサンは自己主張と協調を覚え始めた。それもひとえに何をしても敵わないルカリア天災のお陰だろう。

騎士ごっことは名ばかりの打ち合いでは、熱中した幼児の容赦のない猛攻にも涼しい顔で避け偶に足を引っ掛け転がしてくるルカリア天災。逃げようとしてはホラー映画のごとく不気味に追いかけ、いくら頭を使おうとまるで意味がないほどに、揺ぎ無い足取りで見つけ出してくるルカリア天災。フラストレーションが溜まり切る前に上手く息抜きをするため、後々乗せられていたと気づいても翌日も何故が口車に乗せられ地面と背中を合わせている日々。

それでもローガンとイーサンは駄々をこね泣き叫ぼうともこの日々が嫌ではなかった。今までのただ自身の中で解決する興味や興奮が、誰かと遊び共有することで空虚だったと気づいてしまったのだ。苛立ちを全力で空に向けて開放する咆哮も、肺が痛くなるほどの疾走も、無下に扱われる悲しみも、何かを協働して達成した時の喜びも、全てが自由を感じさせるものだったのだ。


「こういう時だけ仲を深めないでくださーい。そんなこと言うイーサン君はずっと寝ててもいいんですよ?」

「やっぱりルカリアすきー」

「よし。なら解放してさしあげましょう」


そう言うとイーサンの傍まで移動し、結んでいたシーツから開放すると膝に乗せる。慣れたのか諦めたのか大人しく膝に座っているイーサン。しかしその頬を摘ままれるのは許せないのか、ルカリアの手を引きはがそうとしていたのだった。


「ルカリアはイーサンに甘いと思う。」

「あらあら優しさは本人には気づいてもらえないものですからね」

「えーどういう意味」

「私は兄さまにも優しいですよってことです」

「絶対嘘だ。優しいやつは無理やり部屋から連れ出したりしないと思うよ」

「昨日の夕食で人参食べてあげたじゃないですか」

「それが母上にバレたおかげで、暫くおやつは人参クッキーになったんだけど。魔法使えるんならどうにかしてくれれば良かったのに」

「便利道具扱いされるので魔法は使いませーん。でも人参クッキーいいじゃないですか。味します?あれ」

「分かってないな。何か嫌なんだよ。名前が嫌」

「嫌々期はイーサン君で十分ですよ。でも人参クッキーってバラしてしまった己の舌の鋭さに拍手したいですね」

「やっぱりお前は意地悪だ!」


こうして一日は過ぎていくのであった。
























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ルカリアはローガンとイーサンを捕まえるためだけに魔法を使うので、便利どころか厄介だと思っています。

次回 お人形遊び
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