Sランク冒険者はお姫様!?今さら淑女になんてなれません!

氷菓

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第二章 破滅の赤

お人形遊び

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マティスロア家では、ここ最近の日常となっている賑やかな子供の声がこぼれ渡っていた。暖かな日差しが降り注ぐ庭では、色とりどりの

その声の一室では三人の子供たちが集まり、芝居じみた仕草で会話をしている。


「ダミニ…僕と一緒に出掛けないかい?」

「いやー」

「ちょっとそこはもっと我儘な感じで『ふっなぜ?』って言うところだって言ったじゃないですか」

「ふゅっいやぁ」

「くぅ…可愛いじゃないですか」


幼児らしさは残しつつもスラリと伸びた体つきや頬の少年と少女、彼らより年少のふくふくとした丸みの帯びた頬に、幼児特有のポッコリした胴の幼児がそこにいた。

少女ことルカリアは、目の前で胸…というよりはお腹を突き出しドヤ顔を決める弟イーサンを悔しそうな目で見つめている。ここ最近全てを否定した系闇落ちチート主人公の如く世界に抗うことを決めたイーサンは、以前とは比べ物にならないほど堂々たる姿で立ち向かっていた。小さな子供が精一杯の虚勢を張り、『どうだ』と言わんばかりに誇る。その様相はまるで気位の高いのよう。

兄のローガンはその得意げな子猫と、それに悶えているルカリアを見ながら手の中の人形を弄っていた。色鮮やかな彩色が特徴的な木彫りの人形は、この国の美の象徴を如実に取り入れた芸術的価値の高い逸品である。もっとも娘のために誂えられたそれは、活発な少女にはただの置物と化してしまったようだが。


「ねぇ、今日は人形遊びするんじゃなかったの?」

「え?兄様そのお人形で遊びたいんですか?」

「僕はバックギャモンがしたい」

「イーサン君にはまだ無理なので却下です」

「えーじゃあ今これはどういう状態だっていうのさ?」


机には木彫りの人形が入った箱が置かれ、その傍でルカリアとイーサンが向かい合って立っていた。それをカウチに座り眺めるローガンという、何をして遊んでいるのかよく分からない状態が続いていた。


「おままごとですよ?」

「人形もなしに?」

「お人形は私たち自身です。ちょっと私はそのお人形に感情移入しておままごとは出来そうにないので…」


そういってルカリアとつられたローガンの視線の先には、豪華な装飾が施された木箱の中に艶やかな光沢が目を引く白い布に沈む人形がいた。白木を使った木彫りの人形はドレスから髪まで全てが木製であり、その大きさは30㎝ほどと、子供が両手で抱えられる大きさであった。目を引く植物のツタのような青色の曲線に咲く真っ赤な花は、町のいたるところで見られる模様であり、三人の母であるイザベラのドレスにもたびたび見られる意匠だ。しかしその最大の特徴は写実的とは言い難い顔とポーズだろう。


「え?二人とも何も思わないんですか?」

「思うって…何を?」

「にいさまとってとって」

「危ないから座って持った方がいいよ」


ローガンから人形を受け取ったイーサンは、ギュっと抱きかかえるとルカリアを不思議そうに見つめた。


「ダミニちゃん可愛くない?」

「ダミニちゃんって…もしかしてその子の名前ですか?」

「さっきルカリアが言ってたからこの子のだとおもったけどちがうの?」




ルカリアは先ほどの会話を思い出す。

『ダミニ…僕と一緒に出掛けないかい?』

ここで出てきたダミニという女性はとっさにルカリアが出した名前ではない。ルカリアがマティスロア家に来る前、つまり城に滞在していた頃の話。暇を持て余していた従者ピスティスが城を探索していた時の話である。







ピスティスは部屋から出られないルクレツィアルカリアのために情報収集かつ、これから居座る国の人間観察に連日勤しんでいた。

勿論自らが認めたあの主人が監視一つや二つ欺けないはずがない事は理解しているが、それと同時に興味がない事はいい加減で面倒くさがりであることも知っている。そして現在彼女の興味の先はこの国の色彩豊かに描かれる模様とそれに由来する物語が記された本にある。妹のラトレイアも惹かれるのか離れようとしない。

こうして暇を持て余したピスティスは姿を消しつつ城内を探索することになったのだった。


「何か面白そうなこと転がってないのか」


城の内部を目的もなく歩き回り、人間を観察していく。大多数が城で働いている人間であり、これと言ってドラマがあるわけではなくつまらない。豪華な部屋の装飾も興味がないので歩きながら見る程度で十分。


「ここは使用人の棟か」


ルクレツィアルカリアがいる棟から外れた場所に、装飾は少ないが宮殿と同じく長い歴史を感じる建物が佇んでいた。蔦が壁を這い宮殿に日差しを遮られ昼間でも若干肌寒い。日中は使用人は宮殿に出払っていることもあり、あまり長居したいと思えない場所であることから、立ち去ろうと身体を背けると誰かの声が耳に入ってきた。


「おい!それはダミニのものだろう!?」

「いいえ、彼女が僕の下さったハンカチーフです」

「な!?ならば何故職務中に使用人棟ここにいるのだ!」

「大声を上げないでくださいよ。これだから脳が筋肉で出来ている騎士は…だから最近彼女に相手をしてもらえないのでしょう?」

「今はそんな話をしていないだろう!話を変えようとするな」


文官と騎士の言い争いが棟の隅で行われ、ピスティスは他人に見えていないことを良いことに特等席でその様子を観察していた。現場は2人とも職務中であろう時間…それも使用人棟の。問い詰められているのは上等な服を着こなした神経質そうな文官の男であり、背の裏に隠しているがその手の中には主人と妹が最近見ていたこの国でよく使われる模様が織られているようだ。ただそれだけならば騎士も問い詰めなかっただろう。ここがを干している裏庭でなければ…


『変態だ…変態がいるぞ!』


ピスティスはこの展開に目を輝かせていた。

まず文官の男が干してある洗濯物(女性もの)を取ったと思われる現場。その時点で既に紳士の道から反れているのは言うまでもない。が、何故騎士の男はそれが知り合いダミニのものだと分かったのだろう?たとえそのハンカチーフにイニシャルを刺繍してたとしても、文官の男が持っている時点で判断するなど目が良すぎはしないだろうか?

そしてどうして文官の男とこの時間、この場所にいるのだろう?何か文官の男が怪しい動きをしていたとしよう。だがしかしそれを騎士の男が見つけること、そして追いかけることは限りなく不可能に近いのだ。何故ならピスティスはこの城を満遍なく見てきた故に、騎士の男が身に着けているエンブレムが城下の治安維持を担っている隊の所属を示していたからだった。つまりこの騎士は持ち場を離れてこの現場で、女性のハンカチーフを盗んだかもしれない男を攻めているのだある。


『絶対あの男騎士もそのダミニって奴のもの狙ってただろ!』


そう推理したピスティスは、言い争う男たちに絞って観察することを決めたのだった。

そして…






「で、その渦中のダミニさんが私付きのメイドさんだったと…」

「そう。最終的に四人の将来有望な男たちは乱闘騒ぎで地方へ左遷されたようだな」

「えーラトもお散歩参加すればよかったです。ハーレムって案外脆い物なんですね~」


騎士、文官の男たちの他に魔法師と神官を交えたハーレムは唐突に終わりをみせた。抜け駆けしようとした魔法師がダミニ嬢にプロポーズという名の囲い込みを計画し、それが他のメンバーに露見した末に、大乱闘エリートブラザーズとして使用人棟を荒らしたのだ。勿論そんなことをした四人は左遷。渦中の女性にも問題があったとして共に左遷という結末を持ってこの話は幕を下ろした。






そんな話をネタとして使ったとは幼い兄弟に言えるわけもなく…


「そうそう!その子の名前はダミニちゃんです!可愛すぎて引く手あまた確定ですね!」


こうしてお人形遊びは名付けをして終わったのだった。

















ー--------
芸術や建築面で物語の裏を表現していきたいと思っています。

次回 決意
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