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第二章 破滅の赤

囚われの

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◇???視点


私にはこことは全く違うところにいた記憶

科学が発展していた世界

移動に馬は使わないし、夜でも火を灯すなんてこともない

便利で病んでる平等で不自由な世界が私の脳裏に浮かび上がる




それは家族と暮らしていた小さな集落の昼下がり、見知らぬ人間が集落を襲った日の思い出だ










ここは物語でしかありえない魔法がある世界

でも巨大な炎で悪いドラゴンを倒すことも、神々しい光で人々を癒すこともできない

何より魔法には生まれつきの才能が必要で、多くの人間は使うことが出来ないようだった


――あぁ、なんて不平等なんだろう――


ズキズキと痛みを訴える頭を刺激しないよう目をそっと開けると、周囲には集落にいた子供たちが集められているようだった。皆眠っているようで、私が気を失っていた間の情報は得られそうにない

ガタガタと感じる揺れから馬車で運ばれているのだろう。肩に圧し掛かる鉄の首輪とジャラジャラと音を立てる鎖が私たちのこれからを冷酷に告げている。


――私の家族は一緒じゃないのか――


子供だけで集められた状況に、家族がそろって同じ場所に連れていかれることは無いのではと…脳が冷静に判断する。



涙は出ない



ただ、今を、これからを生きることだけに頭を回す




私は死なない














それから何日もかけ辿り着いた先は磯の匂いがする倉庫のような場所だった。その頃には子供たちは弱り誰も泣くこともなく、横たわっているばかり

特に衰弱が激しい子は集落を襲ったあの大人たちに連れていかれ帰ってくることは無った


――これからどんな酷い目に合うか分からないし、その前に神様のところへ行けるならそっちの方があの子たちにとって幸せかもしれないじゃない――


前世では信じることは無かった神という存在

集落でひっそりと祀られていた海神を思い出す

山の中に隠れるような営みは海とは縁遠く、大人たちも誰も海を見たことは無いという

それなのに祀られていた【海の神】に疑問を覚えたことも忘れていた

馬車から地下に降りるまでの短い時間

前世の記憶がなければ、この匂いを磯の香だと…海だと気づくことは無かっただろう




――土の匂いの方が好きだな――




自分で歩ける子供だけが倉庫の隠し扉からカビ臭い地下へと、脅すように促され降りていく

ノロノロとした動きを鞭で脅され、辿り着いた薄暗い道の先にある一角。そこで服を脱ぐように言われる

下は4歳、上は12歳、小さな集落だからこそ全員が顔見知りだった

それでも長期間の馬車での移動や碌に与えられない粗末な食事、極度のストレスで私たちに反抗するという選択はなった


まるで家畜のようにブラシで雑に洗われると、白いワンピースを着るよう指示される

村では見たこともない真白な布と生地が、この状況で印象に残った

そして数人ずつ割り振られた私たちは、鉄格子の牢の中に捕えられ、ただ時間が経つのを待っていた

薄暗い地下の中

疲れきった私達は音を立てることも無く、ただキーンとした無音が脳を貫通する


集落が襲われてどれくらい経ったのかもうわからなくなってしまった

陽の入らない地下牢

気が狂ってしまうのを避けるためか、怪しげな香が焚かれ思考にもやがかかる

そうした日々が淡々と過ぎていったある日






私は目の前を歩く三人の子供に目を奪われた






薄い膜のような球体に覆われた彼らは、私が着ているものと同じ服を着ていながら肌艶は良く、瞳は理性を宿しているようだった

音は聞こえないが口が動いていることから、あの膜が何らかの魔法であることがわかる



――あぁ……理不尽だ――



私が魔法を使うことが出来たなら…


集落が襲われることも


鎖に繋がれることも


日常を奪われることもなく


今頃、あの山で畑を耕し、家族と友人と暮らしていたのだろうか


そのうち幼馴染と結婚なんかしちゃって、子供が生まれて…






あぁ……なぜ彼はここにの…







ほんの数秒だけ見た魔法

それを操り牢の外を自由に歩く彼らが恨めしい

どうして?

どうして私は魔法が使えないの?

鉄格子で隔てられた状況が、魔法を使う者とただの人間との違いを叩きつけるように知らしめている

悔しい、憎い、そんな言葉も軽く感じるほどの黒い感情が腹の底から湧き上がる



【魔法】



生まれつきの努力じゃ得られない才能





でもそうね…


使えないなら、代わりのものがあるじゃない


誰もが使える《圧倒的な力》


子供でも老人でも屈強な大男を殺せる


魔法なんてちっぽけな存在だと思わせる


平等で人を狂わせる



《圧倒的な力》



――ハハッもう狂ってしまった私にはどうでもいいわ――







囚われていた私は籠から這い出て空を見上げた


真っ赤な炎の渦がゴウゴウと暗闇を照らし、どうだと言わんばかりに威張る






――絶対にその傲慢な鼻を明かしてやる――






使えるものは全て使って私は価値を示す



生き残るために











とある兵器を生み出す科学者の話


















ー----------
ルクレツィアが《囚われの人》の視線を認知できなかったのは、彼女の視線に何も感情・思考が乗っていなかったためです。
そして彼女だけがルクレツィア達を認知できたのはいずれ判明します

次回 お勉強開始
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