Sランク冒険者はお姫様!?今さら淑女になんてなれません!

氷菓

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第二章 破滅の赤

アイツ嫌い

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◇ローガン視点


僕の一日はからいつもより早く始まるようになった。

それもこれもルカリアという奴が妹になったせいだ。

僕は別に妹なんていらないし。これまで見たことない変な色や顔をもっと見てみたいけど、僕は仲良くなるつもりなんてないんだ。母上も父上もアイツのこと家族っていうけど、家族っていうのは母上から生まれた子供が家族なんだって本で書いてた。だから妹じゃないし、よその子のくせに母上たちに気に入られているなんて嫌だ!僕の母上と父上だ。

でも僕が腹を立てても喚いても何も変わらないということを僕は知ってしまったんだ。


「うわぁああああぁああ!?」


あぁ…弟のイーサンの叫び声が聞こえる。今日も逃げようとして捕まったか、隠れて見つかったのか…まぁなんだかんだ楽しんでそうというのは分かる。嫌がっていてもその顔は笑顔なんだ。

でもそれは僕も同じなんだろう。嫌だ嫌だと認めないでいたけど、ルカリアと遊ぶのは楽しいんだ。大体負けるのに、騎士になれないのに楽しい。ちょっと…いやかなり腹立つしい僕が嫌だって言ってもやめてくれないけど、アイツがすることはなんだかんだ楽しいから一緒にいてやるんだ。

あ、そろそろ来る


「コンコンコン!君は既に騎士に包囲されている!大人しくそこから出てきなさーい」

「出てきなさーい」

「さもなくば君の目に入れても痛くない可愛い妹とイヤイヤ期を抜け出し甘えん坊になった弟があんなことやこんなことになるぞー」

「兄さま助けてー」

「きゃ~お兄ぃ様ぁ~」


なんで騎士なのに二人をイジメようとしているんだろう…ルカリアって騎士知らないのかな。僕は侍女に扉を開けてもらい、二人を見る。イーサンはすっかりルカリアに懐いてる。でもこういうのって手の平で転がされてるっていうんだと思う。なんか裏庭の子猫がメイドにあやされてる時と同じだ。


「ちゃんと起きてるから静かにしなよ二人とも。朝から煩いってまた母上に怒られちゃうよ」

「出てきたな連続野菜泥棒ー」

「ドロボー」

「それ絶対僕じゃないよ」

「目に入れても痛くない可愛い妹とイヤイ…」

「弟だけは開放してください騎士様」

「よかろー!」

「あれぇ!?ちょっと可愛い妹忘れてますよ!?」


文句を言いながらも特に気にしてなさそうなルカリア、イーサンと一緒に歩き始める。朝食は元々自分の部屋で取っていたけど、ルカリアが起こしに来るようになってみんなで食べるようになった。初めはいつも寝ている時間に無理やり起こされて怒ったけど、父上と母上が昔から父上のお仕事に行く時間に合わせて一緒に食べていたことを知ったのもこれがきっかけだった。父上は忙しくてたまにしか夕飯を一緒にできない。だから毎日家族がそろって食事をできることは嬉しい。ルカリアは早起きが苦手なイーサンの世話をしていて、僕はその様子を気づかれないように見ていた。


母上は…今でも深く悲しんでいる。でも喜んでいるし楽しんでもいる。それはルカリアが来てからも同じだけどどこか違う。よくわからないけどルカリアは母上を変える何かがあるんだと思う。僕は悲しんでいる母上イーサンを見ているのが悲しくて苦しくて逃げてたんだ。
よくわからない父上も怖い。騎士はカッコいいし父上が凄いからカッコいいってわかるけど、目の前にすると人形みたいに固まってしまう。

だから…僕が逃げた、変えられなかった場所にアイツが来て良くなったのが嫌だ!

なんでなんだ

僕のルカリアじゃない!

僕の…僕のルカリアは……





だから僕は認めない。認めたらルカリアはどこに行くの?






今日は雨が降っていて部屋で遊ぶことになった。イーサンは絵を、僕とルカリアは本を読んでいた。お気に入りの騎士の本。絵が少なくてまだ自分だけじゃ全部読めないけど、侍女に読んでもらって覚えた内容と字をなぞるだけで面白い。
頭の中でカッコいい鎧を着た騎士が弱い人たちを襲う悪いモンスターを倒すんだ。黒いモンスターは意地悪で声を聴くだけで倒れちゃうほど嫌になる。そして村の人たちを食べて暴れていたところを、国一番の騎士が助けにきて…


「兄さま」


いつの間にか眠ってしまったイーサンの頭を膝に乗せ、ルカリアがこちらを見つめていた。読んでいた本は目の前のテーブルに置かれている。なんだか難しそうな見た目で本当に読めていたのか怪しい


「なに?」

「騎士って何をするんですか?」


ルカリアの目線が僕の持っている本に行っている。

『騎士物語』

誰に聞いても知っているという程、この国で一番有名な話だ。庶民は本を持っていないらしいけど、話自体は寝る前の寝物語として聞くってメイドにきいたんだ。でもルカリアは多分この国の人じゃないし知らないんだろう。


「騎士は悪い人とかモンスターを倒して弱い人達を守るんだよ」

「へ~正義の味方って感じですか?」

「うん。それで毎回最後に助けた人達から『ありがとう』って言われるんだ。でもいつも『騎士に感謝は不要。弱き者を守るのが当たり前だ』って笑うのがカッコいい」

「あぁ見返りを求めないってところがカッコいいですね。そうやって人を助けて回る話ですか?」


ルカリアも騎士に興味あるのかな。いつも騎士ごっこの時にを使うけど、全然勝てない…七歳になったら訓練を始めるって父上が言っていたけど、なんでルカリアは上手いんだろう。


「そうだよ。国で一番強い騎士が困っている人がいたらどこにでも駆けつけてくれるんだ。ルカリアも興味あるの?」

「騎士にですか?」

「うん」


なんだか気になって広げていた本を閉じる。そして青い皮に細工された装丁の凹凸を弄りながら、悩むルカリアの答えを待つ。


「騎士というか、人を…守るお仕事っていうのに興味があります。兄さまは?」

「僕?」

「騎士のどこに興味を持ったんですか?カッコいい所?」


カッコいい…騎士は強くて、皆に感謝されて、でもそれで照れたりしない。だから…?


「なんで騎士になりたいんだろう?」


どうして僕は騎士になりたいのかと言われたら、『父上のようになりたい』といえばいいんだ。『立派だ』と喜ばれるし、本当に父上のような騎士になりたいと思ってる。でもいつものそれ決まり文句をルカリアには言えない…言いたくない。


「僕って本当に騎士になりたいのかな」


口から出てしまった言葉が思ったより大きくて驚いた。知らないうちに下を見ていたみたいで首が痛い。でもルカリアに見られている気がして前を向けない。あれ、なんでこんな話になったんだろう。そうだ本…


「ルカリアは上手いよね。なら騎士になってウィンクルム主人公みたいになれるかも」

「兄さまはなりたくないんですか?そのウィンクルムに」


前を向くとルカリアが僕を真っ直ぐに見つめていた。ウィンクルムはカッコいい。でも僕は彼みたいになる僕を考えられない。騎士ごっこは楽しいのにウィンクルム騎士になるって素直に言えないのが気持ち悪い


「兄さまは難しく考えない方が楽しく生きれると思うんですよ~思ったことを言葉で頭から出してみるのも、悩みやすい人には必要かもしれませんね」

「なんで上からなんだよ、お前の質問に悩まされたのに」

「えー日常会話の一つだったじゃないですか」

「目力があり過ぎるのが悪い」

「ただ見てただけなのに酷い!?」

「んん……ぅ、うるさいぃ」

「あ、起きた」


ルカリアの膝を枕にして眠っていたイーサンが、愚図るように目を覚ました。まだ寝ぼけているのか体をくねらせているけど、そんなの構わずルカリアは持ち上げて自分の膝の上に乗せる。え、重くない?イーサン小さいけど僕でも持ち上げるの大変なのに?


「じゃあイーサン君も起きたことですし、お昼ご飯頂に行きましょう~」


ルカリアは不思議……というか変な奴だけど、居なくなって欲しいとは思わない。ルカリアの本当の家族とかどうしてここにいるのかとか気になるけど、ルカリアが言いたくなるまで僕は待とう。イーサンを抱き上げながら目の前を歩くルカリアを見っていると、宝石みたいな紫の瞳がこっちを振り向いた。


「なぁんですか?ローガン君も抱っこして欲しいのかなぁ~?赤ちゃんが多くて困りますね」

「「赤ちゃんじゃない!」」


イーサンしっかり起きてるじゃん。


「そうやってムキになるところが赤ちゃんなんでちゅよ」


くそぉ違うっていう程馬鹿にされる。ルカリアの手から降りたイーサンと顔を見合わせる。やっぱり僕たちの心は一つだ。




『『やっぱりアイツ嫌いだ』』













ー-----------
五歳児の思考・言語能力って……

次回 マティスロア家の侍女長
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