遊ばれる男

ぱるゆう

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先輩の恋人2

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それから数年後。

『あれ、清水先輩ですよね?』

清水の背後から、絶対に忘れられない懐かしい声が聞こえた。

清水が振り返ると、そこには何度も夢に出てきた顔があった。

思わず両手で口を覆った。嗚咽しそうになるのを堪えた。

『やっぱり先輩だ。お久しぶりです』

『ジュン』とやっと声が出てきた。我慢したが涙が溢れてくる。

『あれ?なんで泣いてるんですか?僕と会いたくないですか?』と白石は背中を見せて、歩き出そうとした。

隣りにいた明菜が白石の腕を掴む。

『ジュン、ちょっと待って』

明菜の腕の中に、赤ちゃんがいるのを清水は見た。

『だって先輩、僕を見たら泣いちゃうんだもん』

『いいから、ここにいて。由紀ちゃん、久しぶり』

明菜は清水に少し近づいて、小さい声で、
『少しずつ記憶は戻ってるみたいなの。あのショッピングモール以来、倒れてないから安心して。ただ全部を思い出したわけじゃないから』

清水は頷いた。

2人の脇から、ハンカチを出す人がいた。

2人が顔を向ける。
『由紀の夫の鳴海です』とハンカチを出した人は言った。

『由紀ちゃん、結婚したんだ。って、え~っと』

『僕も、そうなんだ』

『え~っ!全然分かんない。っていうかイケメン!』

『フフフッ。ありがとう』

『明菜さんも赤ちゃん』

『うん。ジュンが卒業したら、すぐ籍入れて、やっとできたんだ』

『ねぇ、僕のこと忘れてない』と白石が不満そうな声を出す。

『白石くん、結婚と赤ちゃん、おめでとう』と清水は笑顔で言った。

『ありがとう。先輩も結婚したんですね。おめでとうございます』と白石も笑顔になる。

前と変わらない笑顔だ、また清水の目に涙が溜まり始める。しかし、突然とあの人形のように倒れる白石の姿が脳裏にフラッシュバックした。

『由紀ちゃんの旦那さん、イケメンでいいな』と白石を明菜がからかう。

『はいはい、特徴のない顔で悪かったね』

清水が少しずつ恐怖で震えだした。脇で鳴海が清水の体を支える。

明菜も異変に気づき、
『じゃあね、由紀ちゃん。お幸せに』

『明菜さんも育児、頑張ってください』なんとか言った。

『えっ、もっと話したい』と白石が反抗の声を上げる。

『由紀ちゃん達のデートを邪魔しちゃ悪いでしょ』と白石の手を引っ張っていく。

『先輩達も早く赤ちゃん、できるといいね』立ち去る白石達から、その言葉が最後に清水の耳に届いた。

もっと話していたい気持ちか溢れてくるが、またあの日のようになったらという恐怖が、それに勝っていた。

『大丈夫?』

『うん。ありがとう』

『あの子なんだね』

『うん。そう』

『どこにでもいる可愛い後輩って感じしかしないけどなぁ』

『後で、ちゃんと話すわ。ここでは話せない』切羽詰まった顔で清水は言った。

『無理しなくていいよ』鳴海は、初めて見る清水の顔に、怯んだ。

『ううん。いい機会だから話すわ。いつか話さないとならないことだから、そして・・・』清水は下を向いて口を噤んだ。

そして・・・、その先が鳴海は気になったが、今は聞こえないふりをした。




清水達は帰宅した。

清水が夕飯を作り始めた。

鳴海は、ソファーに座り、何気なく清水の後ろ姿を見た。

白石と会ってから、食品売り場で、『何食べたい?』と鳴海に聞いてからは、ずっと黙っている。

帰りの車の中でも、助手席で窓の外をぼんやり眺めているだけだった。

いつものように鳴海は、大袈裟と思うくらい褒めながら、夕飯を食べた。

清水は、そんな鳴海を見て、微笑んでいる。

鳴海は本当は恥ずかしかったが、大騒ぎしながら料理を口に運んだ。

珍しく清水はワインを多く飲んでいた。いつもは料理のお供として飲んでいるだけなのに、今日はワインを飲むために、食事をしているようだった。

そして、食事も食べ終え、
『さっきのショッピングモールのことなんだけど』踏ん切りがついたのか、清水が切り出した。

『あぁ』鳴海はやっと始まったかと、緊張の糸が切れて溜息をつきそうになるのを、なんとか堪えて、何気ない雰囲気を出した。

『白石君は、本当に優しいのよ。損とか考えないレベルじゃないの。自分のことを全く考えないくらい、相手にのめり込んじゃうの』

『うん』明菜は話の邪魔をしないように、軽く相槌を打った。

『今日一緒にいた人いたでしょ』

『あぁ、綺麗な人だったね』

『私が初めて合った時には、既に明菜さんと一緒にいた。詳しいことは私も知らないんだけど、明菜さんが白石君に依存している感じだった』

『そうなんだ』

『初めは私はその理由を知りたかっただけなんだけど、白石君のこと分かってきたら、私は白石君のことがどうしても欲しくなったの』

『うん』

『それで卑怯な私は、自分の身体のことを話して、助けてって言っちゃったのよ』清水の目から涙が溢れそうだった。

『分かったから、もう止めよう』鳴海はそっと背中を撫でた。

『ううん。ダメ。ケジメだから』清水は顔を上げて、涙を手で拭った。

『私の狙いはうまくいった。白石君は私に寄り添ってくれて、一生懸命助けてくれた。でも、明菜さんのことを捨てることもしなかった。

2人の重すぎる荷物は白石君を壊していたみたい。

何も知らない私が、デパートで、一人でいる白石君をたまたま見つけて、普通に声をかけた』

既に涙は目尻から落ちていた。

『そうしたら、白石君は』

清水の声に嗚咽が交じる。

『キョトンとした顔をして、誰ですか?なんで僕の名前を知ってるんですか?って。えっ?って私が驚いている間に、糸が切れた操り人形のように白石君が倒れて、ビクッビクツと震えながら、泡を吹いて』

うわぁ~と清水が声を出して泣いた、

鳴海は清水を抱きしめて、ゆっくりと背中を撫でた。

しばらくして、清水は少し落ち着いてきたのか
『大丈夫、ありがとう』と鳴海から体を話した。

『そして、戻ってきた明菜さんに、お前のせいだ!って怒鳴られた。明菜さんが一生懸命声をかけている脇で、私は何もすることができなかった』

『そっか』

『一緒にいた明菜さんのお母さんに聞いたんだけど、それまでにも、何度も記憶をなくすということがあったらしいの。しばらく平気だったみたいなんだけど、それはね・・・』

また、清水の目から涙が溢れ始めた。

『私のことを忘れていたからだと分かったの』

一筋の涙が頬を伝った。

『だから、もう私は会ってはいけないんだと。その頃には、私も白石君に依存していたから、体調も悪くなって、会社を辞めて』

『あぁ、その先は知ってるよ』

『うん。ねぇ、初めて私と会った時、私のこと、どう思った?』

『美人で、明るくて、ちゃんと仕事もするし。男の同期の間じゃ、当たり年だ、ラッキーだと喜んでいたよ』

『それもね。白石君のお陰なの。白石君に会う前は、みんな私の表面のことしか見てないくせに、好きだとかよく言えるねって、本当にひねくれていた。
ちょうど会社に入る前くらいに、白石君が受け入れてくれて、私自身、幸せでたまらなかったのよ』

『そうだったんだ。でも、僕は由紀が、明るいのも知ってるし、とっても素敵な人だと知っているよ』

『もう。これで話は終わりよ』

『忘れる必要はないよ。ゆっくりと大切な思い出にしてこう』

『うん。キョウ』と清水は唇を尖らせた。

『あぁ』鳴海は清水を腕で抱えながら、唇を重ねた。

そして大人のキスをした。




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