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尾羽打ち枯らす
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式典から数日。
文生は政務室で雑務をこなしていた。すると不意に、外から青年の声が聞こえてきた。
「失礼致します! 戦況の報告に参りました!」
文机から顔を上げた文生は、隣にいた仁顺に目で合図する。と、仁顺が口を開く。
「入るが良い」
「はッ!」
小気味好い返事をした伝令兵は、戸布を捲って入室し、部屋の中央に歩み出て片膝を突き拱手する。
「して、如何様な状況じゃ?」
「現在の戦況としましては、我々が優勢とのことです」
「ほう」
仁顺が白髭を撫でつける。
「どうやら新兵器が役に立っておるようじゃの。被害は如何程じゃ?」
「兵は二千。弩は百。その他武器は今補充に向かわせております」
「剛の兵は?」
「三千五百程削れたと思われます」
「そうか……。今後も逐次報告するように」
「はッ!」
青年兵の言葉を聞き終えると、仁顺は片手を振って、彼を下がらせた。
文生と仁顺だけの二人になる。と、文生が口を開く。
「思ったよりも幸先は良いな。やはり弩の威力が目覚ましいようだな」
「そのようでございますな」
首肯する仁顺。だがその顔色は良くない。彼は陰鬱な声で話し始める。
「……此度の戦にも永祥将軍が出陣しておるはずです。だのに、これだけの被害で済むなど到底思えませぬ……」
「ふむ。確か強いと噂の者であったな。されどその者はあまり若くはないのであろう?」
「その通りでございます」
「ならば指揮の能力が落ちてきているだけではないのか? 先の戦の二度ともその者が率いておったのだろう? 老いには勝てないのであろう」
「……それが原因ならば良いのですが」
文生は眉間に皺を寄せる。
「まだ油断出来るとは言えぬが、今は素直に喜べば良いではないか。こちらとて何もしてこなかった訳ではないのだから」
その言葉に仁顺は何も答えない。
「何。このままいけばすぐに決するであろう。美琳に兆しがない今、我が出ることなく済めば何よりではないか」
途端、仁顺はいつもと同じ、温厚な笑顔を浮かべる。
その予想外の変化に文生は動揺する。
「急にどうした」
「いえいえ、王の仰る通りだと思ったまででございます」
「そうか……?」
文生は怪訝な顔をした。が、こうなってしまった仁顺を追及しても意味がないことはとうに知っていた。
「そろそろ先程の続きを始めましょうかの」
にこやかな表情のまま、仁顺が言うと、一転して文生は表情を引き締める。
「ああ、そうだな。早急に東側の河川工事を進めさせないと。氾濫してからでは遅いからな」
「今は男手も減っている分、工夫が必要になりますな」
「うむ。何か良い案はあるか?」
すると仁顺は首を縦に振り、文生の文机に一枚の木簡を置くのであった。
文生は政務室で雑務をこなしていた。すると不意に、外から青年の声が聞こえてきた。
「失礼致します! 戦況の報告に参りました!」
文机から顔を上げた文生は、隣にいた仁顺に目で合図する。と、仁顺が口を開く。
「入るが良い」
「はッ!」
小気味好い返事をした伝令兵は、戸布を捲って入室し、部屋の中央に歩み出て片膝を突き拱手する。
「して、如何様な状況じゃ?」
「現在の戦況としましては、我々が優勢とのことです」
「ほう」
仁顺が白髭を撫でつける。
「どうやら新兵器が役に立っておるようじゃの。被害は如何程じゃ?」
「兵は二千。弩は百。その他武器は今補充に向かわせております」
「剛の兵は?」
「三千五百程削れたと思われます」
「そうか……。今後も逐次報告するように」
「はッ!」
青年兵の言葉を聞き終えると、仁顺は片手を振って、彼を下がらせた。
文生と仁顺だけの二人になる。と、文生が口を開く。
「思ったよりも幸先は良いな。やはり弩の威力が目覚ましいようだな」
「そのようでございますな」
首肯する仁顺。だがその顔色は良くない。彼は陰鬱な声で話し始める。
「……此度の戦にも永祥将軍が出陣しておるはずです。だのに、これだけの被害で済むなど到底思えませぬ……」
「ふむ。確か強いと噂の者であったな。されどその者はあまり若くはないのであろう?」
「その通りでございます」
「ならば指揮の能力が落ちてきているだけではないのか? 先の戦の二度ともその者が率いておったのだろう? 老いには勝てないのであろう」
「……それが原因ならば良いのですが」
文生は眉間に皺を寄せる。
「まだ油断出来るとは言えぬが、今は素直に喜べば良いではないか。こちらとて何もしてこなかった訳ではないのだから」
その言葉に仁顺は何も答えない。
「何。このままいけばすぐに決するであろう。美琳に兆しがない今、我が出ることなく済めば何よりではないか」
途端、仁顺はいつもと同じ、温厚な笑顔を浮かべる。
その予想外の変化に文生は動揺する。
「急にどうした」
「いえいえ、王の仰る通りだと思ったまででございます」
「そうか……?」
文生は怪訝な顔をした。が、こうなってしまった仁顺を追及しても意味がないことはとうに知っていた。
「そろそろ先程の続きを始めましょうかの」
にこやかな表情のまま、仁顺が言うと、一転して文生は表情を引き締める。
「ああ、そうだな。早急に東側の河川工事を進めさせないと。氾濫してからでは遅いからな」
「今は男手も減っている分、工夫が必要になりますな」
「うむ。何か良い案はあるか?」
すると仁顺は首を縦に振り、文生の文机に一枚の木簡を置くのであった。
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