永遠の伴侶

白藤桜空

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猫の額にあるものを鼠が窺う

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 夕焼け色の薄雲が、速い風に流されていく。
 真っ赤な太陽は山の後ろに頭を隠し、暗い空を連れてくる。
 都城とじょうからも活気が失せていき、人々は暗闇に包まれ始める。
 政務室で文机ふづくえに向かっていた文生ウェンシェンも、木簡もっかんが読みづらくなっているのに気付き、後ろに控えていた男に松明たいまつを持ってくるよう指示を出す。男が席を外したそのわずかな時間だけ、文生は筆を置き、目頭を揉んで休息を取る。そして松明がともされると、再び筆を取る。が。
「失礼致します」
 不意に男の声が聞こえ、文生は戸口を見やる。しかしそこには誰もいない。
 文生は溜息をくと、再び木簡に目を向けて、そのまま話し始める。
「何か収穫はあったか」
「はい。王の御推測通り、一部のけいたちが流出させている模様です」
「そうか。主犯は見つけられそうか?」
「それはもうしばらく時間がかかりそうです」
「分かった。だが対応が遅くなると被害が広がる。出来るだけ早く調べよ」
「はッ!」
 その言葉と同時に、政務室の壁際から一つの影が消える。

 文生はもう一度大きく息を吐き出すと、松明を持っている男に声をかける。
「報告があるならば事前に伝えよと言ったはずだが? 君保ジュンバオ。他の者に見られたらどうする」
「申し訳ございません」
「……まあ良い。思ったより情報を掴むのが早かったからな。今回は不問にすと浩源ハオヤンに伝えておくが良い」
「承りました」
 君保は足を引きずるようにしながら軽く膝を折る。その姿を顧みることなく、文生は手を動かしながら小さく零す。
「まさかこの一年でこれ程にまでのさばるとはな。あの後……仁顺レンシュンも後を追って死んだ途端、こんなことをしでかされるとは、我もまだまだ舐められたものだ」
「…………」
「しかしまあ……浩源を間諜ジァンディエにして正解だったな。ここまで働くとは、我も予想しておらなんだ。処刑するのには惜しい男とは思っていたが、期待以上だ」
「その御言葉、浩源も喜ぶと思います」
「無論、其方そちも励むのだぞ。文礼ウェンリィの件は致し方なかった故見逃したが……浩源共々、二度目は無い。しっかりと暗躍してもらうからな」
「精一杯務めさせていただきます」
「うむ」
 それを最後に文生は黙ると、ただ粛々しゅくしゅくと文机に向かい続けるのであった。
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