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刀折れ矢尽きる
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「美琳殿。貴女には前線から退いてもらう」
「……え?」
ある日のこと。
軍の司令部に呼び出された美琳は冷水を浴びせられたような気がした。そしてたった今司令官に言われた言葉の意味を瞬時に呑み込むことが出来なかった。
「それは、どういう……」
美琳が呆然としながら聞くと、司令官は額に手を当てながら嘆息する。
「どうもこうも、決定したことだ。従ってもらおう」
「な、なんで? 私こんなに貢献してるのに」
そう言って美琳は、血で真っ赤に染まった自身の着物を見せる。それを司令官は手を振って煙たそうに嫌厭する。
「それは重々承知だ」
「なら……」
揺れる瞳で見つめてくる美琳に対し、司令官は鬱陶しそうに口を歪める。
「一言で言えば……。お主がいると兵たちの士気が下がるのだ」
司令官はもう一度大きく息を吐き出すと、頭を振りながら話す。
「永祥殿の遺言通り、これまでずっとお主に前線の指揮は任せておった。だがな、お主は指揮とは名ばかりで、ただ自分一人が前に突っ走っていくだけではないか。そんなもの、誰も付いていけなくなるわ」
「じゃ、じゃあ頑張って直すわ。だから修を倒すまでは「美琳殿」
美琳の言葉を司令官が手で遮る。
「もう終わりにしてくれないか。我らとてここまで来たら修に勝ちたい。しかし永祥殿という求心力のある方がいなくなった我らには、もう戦い続ける力は残っておらんのだ」
司令官は美琳から顔を背ける。
「それに、元々お主は修を追放された身なのであろう? それが理由であちらがこちらへの攻撃を緩めないのであれば、我らにとってお主は最早…………邪魔者でしかないのだ」
「……!」
悲痛な面持ちで言う彼に、さしもの美琳も頷くしかなかった。
「……分かったわ」
美琳の肩が落ちる。が、直後、野心に満ちた目で司令官を睨み上げる。
「もう貴方たちの力は借りないわ。後は私一人でなんとかしてみせる」
「! そ、それは幾らなんでも無理が……」
と、言いかける司令官。しかし美琳の瞳に宿る焔の強さに硬直した。すると美琳がその姿を鼻で笑う。
「精々私が居なくなった穴を埋めるのを頑張りなさい」
そう言い置くと、美琳は彼に背を向けて、天幕の外へと出ていくのであった。
「……え?」
ある日のこと。
軍の司令部に呼び出された美琳は冷水を浴びせられたような気がした。そしてたった今司令官に言われた言葉の意味を瞬時に呑み込むことが出来なかった。
「それは、どういう……」
美琳が呆然としながら聞くと、司令官は額に手を当てながら嘆息する。
「どうもこうも、決定したことだ。従ってもらおう」
「な、なんで? 私こんなに貢献してるのに」
そう言って美琳は、血で真っ赤に染まった自身の着物を見せる。それを司令官は手を振って煙たそうに嫌厭する。
「それは重々承知だ」
「なら……」
揺れる瞳で見つめてくる美琳に対し、司令官は鬱陶しそうに口を歪める。
「一言で言えば……。お主がいると兵たちの士気が下がるのだ」
司令官はもう一度大きく息を吐き出すと、頭を振りながら話す。
「永祥殿の遺言通り、これまでずっとお主に前線の指揮は任せておった。だがな、お主は指揮とは名ばかりで、ただ自分一人が前に突っ走っていくだけではないか。そんなもの、誰も付いていけなくなるわ」
「じゃ、じゃあ頑張って直すわ。だから修を倒すまでは「美琳殿」
美琳の言葉を司令官が手で遮る。
「もう終わりにしてくれないか。我らとてここまで来たら修に勝ちたい。しかし永祥殿という求心力のある方がいなくなった我らには、もう戦い続ける力は残っておらんのだ」
司令官は美琳から顔を背ける。
「それに、元々お主は修を追放された身なのであろう? それが理由であちらがこちらへの攻撃を緩めないのであれば、我らにとってお主は最早…………邪魔者でしかないのだ」
「……!」
悲痛な面持ちで言う彼に、さしもの美琳も頷くしかなかった。
「……分かったわ」
美琳の肩が落ちる。が、直後、野心に満ちた目で司令官を睨み上げる。
「もう貴方たちの力は借りないわ。後は私一人でなんとかしてみせる」
「! そ、それは幾らなんでも無理が……」
と、言いかける司令官。しかし美琳の瞳に宿る焔の強さに硬直した。すると美琳がその姿を鼻で笑う。
「精々私が居なくなった穴を埋めるのを頑張りなさい」
そう言い置くと、美琳は彼に背を向けて、天幕の外へと出ていくのであった。
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