陽民くんのおつかい

ありま氷炎

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 次の日、ラジオ体操に行くために朝早く起きる。 
 玄関でお父さんの靴を見つけて、ほっとした。 
 帰ってきて、朝食時間になっても、お父さんも婆ちゃんも部屋から出てこなかった。残った朝食にサランラップをかけて、お母さんは仕事に出かけた。 
 心配そうだったけど、昨日も早く帰ってきていたので、僕は大丈夫と答えた。お母さんはいつも忙しそうだ。きっと休むと大変だと思ったし、お母さんがいても、何も変わらないと思ったからだ。 
 おなかすいたら、パンでも食べよう。 
  
 お父さんは仕事に行かなくてもいいのかな。昨日は休みだったけど。お父さんは、パソコン関係の仕事をしているみたいで、休みは普通の人と違う。でも二日間休みだったことはほとんどなかった。 
 
 そっと、居間の近くにいって、襖を開けると座っているお父さんの背中が見えて、思わず閉めた。 
 背中だったけど、怒っているのがわかったから。 
 
 ――お爺ちゃん、大丈夫かな。 
 サマージャンボなんて、当たんなくてもいい。だからお爺ちゃんを助けて! 
 
 そう思うけど、達磨大師はお父さんを連れて寺まで来いって言っていた。 
 でもお父さんはすごく怒っているから絶対に無理だ。 
 でも、お父さんのお父さんだよ。 
 死んでもいいの?僕なら絶対にいやだけど。 
 
 いいや、僕一人で行く。 
 怖いけど、達磨大師にお願いしてみる。 
 
 そう決めると、準備を始めた。昨日は水筒を忘れたので、忘れないように麦茶をいれた。冷たいのが飲みたかったから、氷もいれた。お腹が減るとは思わなかったけど、菓子パンを持っていくことにした。 
 昨日、お父さんが余分にお金をくれたから、お金も足りてる。 
 
 リュックを背負って、水筒をその横に入れると出かけた。 
 婆ちゃんも怒っているみたいだから、お爺ちゃんのためにお寺に行くなんていったら絶対に止められる。だから黙って家を出た。 
 
 駅に行って、隣の駅で降りる。昨日したから大丈夫だった。 
 でも、そこからがわからなかった。 
 
 まる寺の場所を歩いている人に聞いて、歩いたけど、いくら歩いてもつかなくて、何度も人に聞いた。お水がなくなって、しばらくしてから、やっとお寺の階段が見えた。 
 なにか、気持ち悪かったけど、階段を上った。 
 一気に登って、あの大きな達磨大師のいる寺を目指す。 
 
 怖い顔の達磨大師を見たら、急に暗くなった。 
 
「大丈夫?私のこと見える?」 
 
 そう呼びかけられ、僕は目覚めた。 
 お坊さんが心配そうに僕を見ていた。 
 
「今、救急車呼ぶから待っていて」 
「いらない。それよりお父さんを呼んでください!お願いします」 
 
 僕が倒れたって行ったら、お父さんはきっとお寺に来てくれる。 
 だから! 
 
「大丈夫だよ。病院にまず着いてからお父さんに来てもらえばいい」 
「それじゃ遅いんです。お願い。お父さんを!」 
 
 僕の必死な思いにお坊さんは僕から番号を聞いて、お父さんに電話してくれた。 
 お寺の、どこかわからないけど、僕はそこでお父さんを待つことにした。 
 ポカリスエットをもらいながら横になる。首には冷たいタオルが巻かれ、ひんやりし気持ちよかった。うつらうつらしていると、顔色を変えたお父さんがやってきた。 
 
「陽民!大丈夫か?」 
「お父さん」 
 
 僕を見るとお父さんは大きな溜息をついた。 
 
「まったく、一人でまたお寺になんて」 
「お父さん、今すぐ達磨大師のところへ行ってきてよ」 
「は?」 
「お父さんは、おじいちゃんが死んでもいいって思ってるの?そうなの?達磨大師が言ったんだ。日が沈むまでお寺にお父さんがきたら、お爺ちゃんを助けるって。お父さん、お爺ちゃんを助けてよ。サマージャンボなんてどうでもいいよ!」 
「陽民……」 
 
 お父さんは僕のことを怒らなかった。 
 困ったように見ていた。 
 
「だったら、僕が達磨大師に頼んでくる。お父さんのサマージャンボなんてどうでもいいから、お爺ちゃんを助けてって」 
  
 僕はふらっとしたけど、体を起こした。 
 お坊さんが慌てて止めたけど、立ち上がる。 
 
「陽民!やめなさい!」 
「いやだ!お父さん、お爺ちゃんを助けてよ。僕はお爺ちゃんが死ぬなんて見たくない」 
 
 いつの間にか泣いていた。 
 もう小4なのに。 
 
「わかった。私が行ってくる。陽民。お前は静かにしてなさい」 
「本当に?お父さん。達磨大師のところへ行ってくれるの?」 
「ああ」 
 
 お父さんは頷いて、僕の頭をなでると、部屋を出て行く。 
 お坊さんにも言われて、また横になった。 
 
 そうするとまた寝ていたみたいで、目を開けるとベッドの上だった。家じゃない。病院だ。お母さんが泣きそうにしてて、ごめんと思った。また仕事から早く帰ってきたんだ。 
 
「お母さん。ごめんなさい」 
「ううん。ごめんは私よ。仕事なんて休めばよかった。大介もお母さんもあんな様子だったのに」 
「お父さんは?おばあちゃんは?」 
「……お爺ちゃんのところへ行っているわ」 
「まさか、お爺ちゃん!」 
「大丈夫。持ち直したんだって。奇跡だって病院では噂よ」 
 
 お母さんは笑って、嬉しくなってお母さんに抱きついた。 
 
「珍しいわね。陽民が」 
 
 お母さんはそう言ったけど、僕の背中に手をやって撫でてくれた。 
 
 それから、多分、1週間くらいして、お爺ちゃんが家に引っ越してきた。 
 家の中はなんだから、おかしな雰囲気だったけど、僕は楽しかった。 
 
 達磨大師の掛け軸と木像は、なぜか家に戻ってきてる。 
 お坊さんが夢で、元の場所に返すように達磨大師に言われたみたいで、お爺ちゃんが住むようになってからすぐに、持ってきてくれた。 
 
 達磨大師は僕たちと一緒にいたいのかなと思ったりしたけど。 
 
 
 お父さんは掛け軸に木像まで増えて、嬉しそうに毎日祈ってる。 
 サマージャンボはだめだよっていうと知っていると言っていた。 
  
 だったら何に対して祈っているのかわからないけど、婆ちゃんもお爺ちゃんが一緒に住むようになって、なんだか赤い服を着るようになって、もっと明るくなった。 
 お母さんも前より優しくなった。 
 
 僕のおつかいは、失敗したみたいだけど、ゲームをたくさん買ってもらうより、良かったと思う。 
 達磨大師、ありがとう!


 (終わり) 
 
 
 
 
  
 
  
 
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