前世で弟だった旦那様が超シスコンになっていてどうにか矯正したい。

ありま氷炎

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第一章 私の前世はちょっとおかしな旦那様の姉上

秘密を話すことにした

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翌日、お父様とお母様、大旦那様たちが戻られた。
遠目に二人の様子を見ながら、やはり懐かしい気持ちでいっぱいになった。
けれども、私は今はマリーではない。
マリーは亡くなった存在だ。
私はジャネットで、彼女(マリー)の記憶を持っているだけ。
……考えてみれば、もしかしたら妄想なのかもしれない。
鮮明な記憶、ハレット家の屋敷の全てが懐かしい。
床の古い傷を見るたびに、花瓶を割って壊したことなどを思い出したりする。
妄想なはずはない。
だけど、お父様……大旦那様たちに私がマリーの生まれ変わりです。
などと言う勇気もない。
大笑いされるのはまだいい。
嘘つき呼ばわりして屋敷を追い出されるかもしれない。
そう思うとこのまま黙っていようと思う。

「ジャネット」

 隣に立っていたメグに呼ばれ、我に返った。

「……何か旦那様があなたを食いいるように見ているけど、何かした?」
「え?」

 囁かれて顔をあげると、ロンと視線が重なる。
 するとふわりと微笑まれて、ドキマギした。

「旦那様にもしかして惚れられたの?」
「な、」

 大きな声を出しそうになって慌てて自重した。

「なんて事言うのよ。そんなことあるわけないでしょう」

 声を必死に抑えてメグに答えるが、彼女は意味深な笑みを浮かべたままだった。


 午前中の仕事を終えて、私はやっとメグを捕まえた。
 誤解は解くべき。
 というか、ロンが最近私を気にしてくれてるのは、頭をぶつけたことが始まりだ。
 そして、多分彼は生まれ変わりを信じている。
 ……私を姉上(マリー)の生まれ変わりだと思っているのかな。
 それ以外に可能性はないと思う。

 外見はこんなに違うし、どうしてそう思ったのかはわからないけど。あの本のせいよね。きっと。間違っていないけど、どうしたらいいのかな。

「ジャネット。あなたから誘っておきながら考え事しちゃって、どういうことなの?」
「ごめんなさい。メグ。あのね。話があるの」

 午前中、仕事をしながら考えた。
 そして彼女に話すことに決めたのだ。下手な言い訳や作り話をするのは信頼を損ねる。メグなら信じてくれる、そんな風に思えたから。
 休憩室には私とメグだけ。
 鍵はかけれないけど、この時間は多分他の誰もこないはず。

「メグ」

 息を大きく吸って吐いて、彼女を見る。
 メグは何か楽しいことが始まるのかとわくわくした表情をしていた。
 楽しいことではないけれども、嘘はつきたくない。
 彼女の琥珀色の瞳を見つめ返して、私は言葉を続けた。

「……驚いた。そんなことがあるのね」

 話を聞き終わった彼女の第一声はそれだった。
 信じてくれた?
 そう聞くのはちょっと怖くて、ただ彼女を見つめた。

「まあ、旦那様の態度を見ていたらなんとなく信じられるわ。っていうか、旦那様は完全に気がついてると思うわ」
「え?どうして?」
「だって、今日は熱っぽくあなたを見ていたし、知ってる?最近、旦那様はマリー様、あなたのドレスを集めたり、鏡をみて呼びかけたりするのがなくなったのよ」

 マリーをあなたと言い直さなくてもいいのに。
 記憶はあるし、多分生まれ代わりだと思うけど、私とマリーは別人だ。
 ただロンだけが気になるだけ。

「あ、もしかして生まれ変わりとかじゃなくて、ジャネットに惚れた可能性もあるわね」
「え?それはないでしょう?」
「わからないわよ。前々から思っていたのよね。旦那様がマリー様への執着を捨てるのは、恋をすることだって。だからこそ、大旦那様とかはお見合いの話をたくさん持ってきていたのよね」

 メグは思い出したように何度も頷く。

「ジャネット。あなたは旦那様を普通に戻したんでしょう?だったら、生まれ変わりとか関係なく、恋人になってあげたら?」
「じょ、冗談やめてよ」
「なんで?旦那様、かっこいいじゃないの。ちょっとおかしなところを除けば完璧よ」
「……メグ。本当にやめて。私は弟と恋愛する趣味はないのよ」
「確かに……。身内はないわ。でもほら、記憶はあっても今のあなたはジャネットっていう別人だから」
「だめよ。だめ。他の方法を考える」
「もう、いい案だと思ったのに。けれども、旦那様が本当にあなたのことを好きになっていたらどうするの?」
「ありえないから」
「いえ、あの様子じゃ……」
「それなら、私はマリーですってバラすほうがましだわ。恋人とか本当ありえないんだから」
「じゃ、決まりね」
「え?」
「もう悩まなくてもいいわね。さっさと旦那様に話したら?」
「それは……」

 ロンのマリーへの執着は度をこしていて、怖い。
 もし話して信じてくれたら?
 あの時の彼の様子を思い出すと尻込みしてしまう。

「もう。だったら私から話すわ」

 黙ったままの私に痺れを切らして、メグが立ち上がる。

「だめだから」

 必死に彼女のエプロンの端っこを掴んで止める。  

「ロンに話したら、もっとひどいことになりそうで怖いの」

 メグは本当にロンに話してしまいそうなので、私は正直な気持ちを吐露するしかなかった。
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