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第一章 私の前世はちょっとおかしな旦那様の姉上
マリーの生まれ変わりを探せ
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メグに正直に話して理解してもらった。
当面は様子見ということで、ロンには私が姉上(マリー)の生まれ変わりであることは話さないことになった。
「確かにジャネットの気持ちはわかるわ。執着がすごいものね」
メグはハレット家で三年働いていて、ロンのことはよく知っている。
崇拝に近いように思えたのだけど、彼女は案外冷静にロンのことを見ていた。だからこそ、私に無理強いしなかった。
「だけど、旦那様に知ってほしいとは思っているのよ」
当分は内緒と言う結論を出したけど、メグは休憩室から出る前にそう言った。
ロンのためには話したほうがいいのよね。きっと。
そうすれば、「普通」に戻るかもしれないし。
メグの言葉を信じるなら、どうやら彼は私がマリーの生まれ変わりだと思っている可能性は高そうだし。
気持ちは固まらず、ロンにどうして接していいかわからない。
メグはわかってくれて、引き続きロンと直接会う仕事に代わってくれた。
そうして三日が過ぎて、事件は起きた。
どうしてこんなことに?
突然、お父様、大旦那様たちが「マリーの生まれ変わり」を探し始めた。
身分、外見、出生地に拘らず、十七歳以下の娘で、マリー・ハレットの記憶があるものを募集した。わずか数日で申し込みは数十になり、私はその手伝いに借り出された。
ハレット家は裕福な商家なので、その財産目当てで嘘をつく者も多い。
だからまずは大旦那様たちに会う前に、書類や面談で年齢やその人となりを執事が確認することになったのだ。私はロンの指示で候補者の絞り込みを手伝わされている。
年齢が近いから話しやすいだろう、そんな理由だったらしいけど、怪しすぎる。
数十の申し込みを半分まで絞り、大旦那様たちの面談の前に執事と私が候補者に会う。
なぜ私?
そう思うしかないけれども、ロンの指示なので仕方ない。
最初の候補者は、なんと子爵令嬢だ。
「年齢は十七歳?ですか」
「はい」
うーん。どうみても十七歳には見えないんだけど。
だけど目の前の椅子に座る女性はとても綺麗な人だ。
丹念に化粧を施して、真っ赤なドレスを身に纏っている。
「旦那様を以前から弟のように思ってましたの。この募集を知って、私の前世は姉上様に間違いないと思いましたわ」
弟のようにって。
ロンは二十九歳だよ。
この方はきっと十七歳以上だけど、三十は超えていない思う。だから三十近くのロンを弟みたいに思うとか、無理がありすぎると思う。
怪しいと思いながらも書類にも間違いはないし、王都から来られている子爵令嬢だ。とりあえず顔を立てる意味でも最終候補に残すことになった。
その後、財産目当て、ロンの追っかけみたいな候補者を振り落として、面談していない残りの候補者は八人になった。
「……残り八人ですね。頑張りましょう」
残り八名の書類を一つにまとめながら、執事のカーネルが穏やかに微笑む。
カーネルは多分今は六十歳を超えているはずなのに、十七年前と一見変わらない外見をしている。あの頃から白髪だったし、結構シワもあったんだよね。だからかな。
「そうだ。ジャネットも十六歳なので、応募しますか?」
「いえ、恐れ多いです。私はまったくそんな記憶がありませんから」
今だにマリーを知っている人たちに、私がマリーの生まれ変わりと話すことに抵抗がある。信じてくれないだろうし、変な目で見られるのも怖いから。
「ジャネット。今回。実際はマリー様の生まれ変わりを探しているわけではないのですよ。大旦那様たちは、この機会に旦那様のご結婚相手を探そうとしているのです。なんでも旦那様がマリー様の生まれ変わりなら、結婚してもいいと言ったとか」
「は?」
白目を剥きそうになるほど驚いてしまって、思わずそんな言葉が出てしまった。
カーネルはぎょっとして私を見ていた。
ああ、ごめんなさい。
「カーネルさん、すみません。あまりにも驚いたもので」
「驚くことですか?ああ、あなたはまだ屋敷にきて日が浅いので色々知らないのですね」
言葉としては冷たい言い方だが、カーネルは本当にそう思っただけらしく、声色は優しいままだった。
「大旦那様は旦那様に結婚してほしいのです。長年、婚約にすら至っていない旦那様が、やっと興味をもちそうな女性がいる。それがマリー様の生まれ変わりとか。私もですが、大旦那様たちも生まれ変わりなど信じていないと思います。けれども旦那様の結婚相手を探すために、このような募集をかけたのです」
「なるほど」
カーネルに説明され、納得できた。
だけど、マリーの生まれ変わりと結婚させるとか、お父様たちどうしちゃったんだろう。
きっと、本当に生まれ変わりを信じていないから、そんな思いつきができたんだろうなあ。
そう考えると、もの凄く寂しい。
「ジャネット。本当に、あなたはこの候補者に加わるつもりはないのですか?」
「ええ。まったくそんな気持ちはありません。本当の意図を教えてもらって、ますます無理だと思ったくらいです」
「ジャネットは変わっていますね。未婚の女性たちの中でこの募集は話題になっているみたいですよ」
「そうなんですか?」
びっくりだ。
確かにロンはかっこいいし、ハレット家は裕福だものね。
今回は身分に関係なく募集しているから、私みたいなメイドの立場でも応募できるし。
だからこそ、応募者が増え過ぎて絞るのが大変だった。
それから残りの候補者八人と会って、最終的に五人まで絞り込んだ。
「疲れました」
「そうですね」
最後の候補者が退出し、カーネルは書類を一つにまとめている。
「最後に一つ仕事をお願いしてもいいですか?それが終わったら今日はもう休んでいいですよ」
「え?いいのですか?」
何の仕事だろう。
でもなんか心が疲れているので早く休めるのは嬉しい。
「この書類を旦那様に届けてください」
「へ?」
「どうしました?」
なんで、私が?いや、届けるだけなので雑用なのは確かなんだけど。
「頼みましたよ。お疲れ様です」
カーネルは押し付けるように書類を私に渡すと、そうそうと席をたち部屋を出ていってしまった。
「うわああ」
私も誰かに押し付けたい。
そう思うけど、できるわけがない。
仕方ないので、ロンの執務室に行くことにした。
当面は様子見ということで、ロンには私が姉上(マリー)の生まれ変わりであることは話さないことになった。
「確かにジャネットの気持ちはわかるわ。執着がすごいものね」
メグはハレット家で三年働いていて、ロンのことはよく知っている。
崇拝に近いように思えたのだけど、彼女は案外冷静にロンのことを見ていた。だからこそ、私に無理強いしなかった。
「だけど、旦那様に知ってほしいとは思っているのよ」
当分は内緒と言う結論を出したけど、メグは休憩室から出る前にそう言った。
ロンのためには話したほうがいいのよね。きっと。
そうすれば、「普通」に戻るかもしれないし。
メグの言葉を信じるなら、どうやら彼は私がマリーの生まれ変わりだと思っている可能性は高そうだし。
気持ちは固まらず、ロンにどうして接していいかわからない。
メグはわかってくれて、引き続きロンと直接会う仕事に代わってくれた。
そうして三日が過ぎて、事件は起きた。
どうしてこんなことに?
突然、お父様、大旦那様たちが「マリーの生まれ変わり」を探し始めた。
身分、外見、出生地に拘らず、十七歳以下の娘で、マリー・ハレットの記憶があるものを募集した。わずか数日で申し込みは数十になり、私はその手伝いに借り出された。
ハレット家は裕福な商家なので、その財産目当てで嘘をつく者も多い。
だからまずは大旦那様たちに会う前に、書類や面談で年齢やその人となりを執事が確認することになったのだ。私はロンの指示で候補者の絞り込みを手伝わされている。
年齢が近いから話しやすいだろう、そんな理由だったらしいけど、怪しすぎる。
数十の申し込みを半分まで絞り、大旦那様たちの面談の前に執事と私が候補者に会う。
なぜ私?
そう思うしかないけれども、ロンの指示なので仕方ない。
最初の候補者は、なんと子爵令嬢だ。
「年齢は十七歳?ですか」
「はい」
うーん。どうみても十七歳には見えないんだけど。
だけど目の前の椅子に座る女性はとても綺麗な人だ。
丹念に化粧を施して、真っ赤なドレスを身に纏っている。
「旦那様を以前から弟のように思ってましたの。この募集を知って、私の前世は姉上様に間違いないと思いましたわ」
弟のようにって。
ロンは二十九歳だよ。
この方はきっと十七歳以上だけど、三十は超えていない思う。だから三十近くのロンを弟みたいに思うとか、無理がありすぎると思う。
怪しいと思いながらも書類にも間違いはないし、王都から来られている子爵令嬢だ。とりあえず顔を立てる意味でも最終候補に残すことになった。
その後、財産目当て、ロンの追っかけみたいな候補者を振り落として、面談していない残りの候補者は八人になった。
「……残り八人ですね。頑張りましょう」
残り八名の書類を一つにまとめながら、執事のカーネルが穏やかに微笑む。
カーネルは多分今は六十歳を超えているはずなのに、十七年前と一見変わらない外見をしている。あの頃から白髪だったし、結構シワもあったんだよね。だからかな。
「そうだ。ジャネットも十六歳なので、応募しますか?」
「いえ、恐れ多いです。私はまったくそんな記憶がありませんから」
今だにマリーを知っている人たちに、私がマリーの生まれ変わりと話すことに抵抗がある。信じてくれないだろうし、変な目で見られるのも怖いから。
「ジャネット。今回。実際はマリー様の生まれ変わりを探しているわけではないのですよ。大旦那様たちは、この機会に旦那様のご結婚相手を探そうとしているのです。なんでも旦那様がマリー様の生まれ変わりなら、結婚してもいいと言ったとか」
「は?」
白目を剥きそうになるほど驚いてしまって、思わずそんな言葉が出てしまった。
カーネルはぎょっとして私を見ていた。
ああ、ごめんなさい。
「カーネルさん、すみません。あまりにも驚いたもので」
「驚くことですか?ああ、あなたはまだ屋敷にきて日が浅いので色々知らないのですね」
言葉としては冷たい言い方だが、カーネルは本当にそう思っただけらしく、声色は優しいままだった。
「大旦那様は旦那様に結婚してほしいのです。長年、婚約にすら至っていない旦那様が、やっと興味をもちそうな女性がいる。それがマリー様の生まれ変わりとか。私もですが、大旦那様たちも生まれ変わりなど信じていないと思います。けれども旦那様の結婚相手を探すために、このような募集をかけたのです」
「なるほど」
カーネルに説明され、納得できた。
だけど、マリーの生まれ変わりと結婚させるとか、お父様たちどうしちゃったんだろう。
きっと、本当に生まれ変わりを信じていないから、そんな思いつきができたんだろうなあ。
そう考えると、もの凄く寂しい。
「ジャネット。本当に、あなたはこの候補者に加わるつもりはないのですか?」
「ええ。まったくそんな気持ちはありません。本当の意図を教えてもらって、ますます無理だと思ったくらいです」
「ジャネットは変わっていますね。未婚の女性たちの中でこの募集は話題になっているみたいですよ」
「そうなんですか?」
びっくりだ。
確かにロンはかっこいいし、ハレット家は裕福だものね。
今回は身分に関係なく募集しているから、私みたいなメイドの立場でも応募できるし。
だからこそ、応募者が増え過ぎて絞るのが大変だった。
それから残りの候補者八人と会って、最終的に五人まで絞り込んだ。
「疲れました」
「そうですね」
最後の候補者が退出し、カーネルは書類を一つにまとめている。
「最後に一つ仕事をお願いしてもいいですか?それが終わったら今日はもう休んでいいですよ」
「え?いいのですか?」
何の仕事だろう。
でもなんか心が疲れているので早く休めるのは嬉しい。
「この書類を旦那様に届けてください」
「へ?」
「どうしました?」
なんで、私が?いや、届けるだけなので雑用なのは確かなんだけど。
「頼みましたよ。お疲れ様です」
カーネルは押し付けるように書類を私に渡すと、そうそうと席をたち部屋を出ていってしまった。
「うわああ」
私も誰かに押し付けたい。
そう思うけど、できるわけがない。
仕方ないので、ロンの執務室に行くことにした。
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