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五
しおりを挟む五
目を開けてみると、ともかく何か冷たい感覚がした。全身にあんまり血が通わず、身を起こすのも大分と気怠かった。キン、と言って、すぐに頭が痛み出した。寝ている間に忘れていた煩いが、一遍に蘇ってきて、頭を抱えた。
とりあえずは、机の前に座ってみる。間違いない、いつもの、自分の机である。何だか久しぶりに、この椅子に着いた気がする。それから、日記帳を取り出したのだった。
今日の分が書けるはずも無いのだと、すぐに気がついた。何故なら、今日はまだ始まったばかりなのだから。溜息を吐いて、これを閉じた——今日の頁は、まだ埋まってはいなかった。
それから、朝ご飯を食った。どんな日であっても、朝ご飯だけは、毎日食うようにしているのだ。朝ご飯さえ食っていれば、何とか明日へ、か細い命を、繋いでいけるような気がする。
しかしどうもこう、憂鬱である。ともかく、憂鬱である。もはや何も満足な事は考えられなくなっていた。生きているのが辛いだとか、死にたいだとか、そう言う事ばかり考えている。
他人ばかりが羨ましい、後は、もう過ぎ去った日々の事だとか。駄目だ駄目だ、いつものように、心に鍵をかけてしまおう。その所為で、私はいつも顔が怖いなどと評される。
「私、好きなものに囲まれていたいんだよね」と同僚が言った。その気持ちは、分からないでも無かった。けれどもきっと、それが叶ったところで根本的な解決にはならないのであった。
「だから、今の環境は、私にとってとってもストレス」
ああと相槌を打った。自分の憂鬱も、私の周りに『好きなもの』が固められていない所為かと思った。
好きなもの、は、容易に手に入るものでは無い。
相思相愛、本当の意味でそんな事が、実際起こり得るものなのだろうかと、何度考えたか知れない。——彼は、やっぱり無関心であった、私なんかには。
けれども彼は私に向かって、のべつに、多くの事を語った。
「右も左も分からない世界に、突然一人で放り出されたなら、一体どうするんだろう」という仮定の話。それから、「今日と明日って言うのは、一体何の区切りなんだろう」という哲学的な話。いつも唐突に、一人で呟くようにして、言い出すのであった。
下校時刻、コンクリートの一本道を眼下に、手すりにもたれながら、あの言葉を言った。心にこびりついて離れない。今を憂い、過去を想うのも、全てはその言葉の真理に尽きてしまうのだろうか。
身に徒らな疲労を覚えながら、やっと家に帰り着くと、作業のようにして酒を流し込んだ。それからできる限り長く、深く眠りにつきたいと思いながら、布団に潜り込む。誰も隣で囁いてはくれないし、慰めてもくれない。私は一人、一人で泣いて酔うのにも飽きたし、ぐるぐると生と死を思考するのも無意義だ。悪い所をなおそう、と思っても第一なかなかなおらない、その上になおったと思っても、また別の、致命的な悪い所が見つかってしまう。次々に。
端的に言えば、私は絶望をしながら、こうして何とかやっと、意識を失ってしまえる。
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