DALLS

hyui

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2.何の為に

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 酒場の喧騒から抜け出した、ラスクとソーニャは、ロジーという人物の場所へ向かっていた。
「この街の外れの方にある家がロジーっておっさんの家だよ。」
「ああ。」
 ラスクはソーニャの後ろを歩きながら、街の風景をキョロキョロと見回した。

「ソーニャ。あれは何をしている?」
 ラスクが指差した先には、前に木箱を置き雑巾を手にした子供達がズラリと並んでいた。
「…ああ。あれは…靴磨きだよ。」
「靴磨き?」
「いい格好した大人があの箱に足を乗っけんのさ。そんでそれを子供が磨くんだ。駄賃と引き換えにね。」
「靴を磨く…。何のために?」
「知らないよ。大人には大事なんだろうよ。自分の見てくれがさ。だがガキにとっちゃ一大事だ。なんせ、その駄賃で生き死にがかかってんだからよ。」

 靴磨きに並ぶ子供達。彼らは皆戦争孤児であった。
 長く続いた戦争により親を亡くした子供達の存在は、あらゆる国が抱える戦後の大きな問題の一つであった。
 一部は孤児院であったり、有志の者が引き取ったりされたが、それでも全ての子供達を受け入れる事はできなかった。
 残された子供達は、生きるために生き残る術を身につけることを余儀なくされた。
 ある者は盗みを働き、ある者は靴磨きなどの軽作業で賃金や食料を賄い、その日その日を生き延びていた。
 善悪など言っていられない。できない者は野垂れ死ぬしかなかった。

「皆、必死なんだよ。生きるために。」
 靴磨きの少年たちを見ながら、ソーニャは言った。
「アタシもあの子たちと一緒さ。その日を生きる為に、盗みをやって食いつないでる。そりゃ、できることなら盗みなんかしたくない。父さん、母さんがいるなら、いくらでも甘えたい。だけど…。」
「ソーニャ。」
 泣き出しそうな声で語るソーニャの肩に、ラスクはポンと手を置いた。
「旦那…。アンタ…。」
「ロジーの居場所への案内を続けてもらいたい。」
「……。」
 ソーニャは一瞬ポカンとした後、力の限りラスクの肩を小突いた。
「ほんっとに空気読まないな!アンタは!」


 そうしてまた街中を二人して歩いていると、一人の少年が手を振りながら近寄ってきた。
「ソーニャ姉ちゃん!ソーニャ姉ちゃんじゃないか!」
「ジロ⁉︎」
 ソーニャは駆け寄ってきた少年をそのまま抱え上げた。
「ジロ!随分大きくなったじゃん!背も伸びちゃってさあ!」
「わ!わ!やめろよ!おろせよ!」
「キヒヒ!生意気坊主め!」
 ソーニャはジロと呼んだ少年の頭をワシャワシャと撫でると、ゆっくりと下におろした。ジロはしばらく息を整えると、ソーニャをキッと睨みつける。
「いい加減ガキ扱いすんなよな!もう12だぞ!オイラは!」
「バーカ。充分ガキだよ。ガキ、ガキ、ガキ~。」
 からかうソーニャと、ジタバタと暴れるジロ。
 そんな二人の間に、ラスクは何の気兼ねもなく割って入った。
「ソーニャ。案内を続けてもらいたいんだが。」
「あ…。旦那。ご、ごめん。つい知り合いと会ったもんで。」
「知り合い、とはこの子供のことか?」
 そう言って、ラスクはジロを指差した。これには彼もカンカンである。
「ああ⁉︎ガキじゃねーって言ってんだろ!誰だよ!オッさん!姉ちゃんの何なんだ!」
 喚き散らすジロを「コラ!」とソーニャが諌める。
「この人はアタシの客だよ。ロジーさんのとこまで案内することになってんだ。」
「ロジーって…あの変人科学者かぶれのロジーかよ?」
「そういう口を聞かない!」
 彼女はそう言ってジロの頬をつねり上げた。
「イデデデ…!悪かった!悪かったよ!でもなんだってあんな奴のとこへ行くんだよ。」
「それは…アタシも聞いてなかったな。」
 ソーニャはラスクに向き直り、尋ねた。
「どうして、旦那はロジーさんを探してるんだ?」
「それは答えなければならないか?」
「…答えたくなかったら、いいけど…。」
「理由は、『知りたい』からだ。」
「知りたい?」
 不思議そうに覗き込む二人に、ラスクは相変わらずの仏頂面だ。だがそのガラス玉のような目に、僅かに光が差して見えた。

「私は、『何故生まれたのか』。『何のために生まれたのか』。それを、私は『知りたい』。」

 その声はいつものように淡々としていた。
 だがそれ故に、そこに一点の疑いの余地もない、納得せざるを得ない奇妙な気迫があった。



 人は『何故生まれたのか』、『何のために生まれたのか』。
 人類にとって、これは永遠の命題かもしれない。
 その理由を導き出すために、ある者は神を生み出し、「宗教」を産んだ。
 またある者は、神を否定し、「哲学」を産んだ。
「人」である事を知るために自身の生涯を捧げた者もいれば、「人」を知るために他人の命を奪った者もいる。
 そうして幾千幾万もの人間たちが紡ぎ続けた「探究」。その結果が「今」につながり、それがまた「未来」に向かって紡がれていく。

「自分は何の為に生まれ、どのような存在で、何を為していくのか。」

 DALLS(人形達)と呼ばれた彼もまた、それを探そうとしていた。
 死に溢れた世界でそれを探そうとするのも皮肉な話である。いや、むしろ多くの死に触れたからこそ疑問を抱いたのか。

 彼はそれ以上は語らなかった。
 だが壮大な浪漫を、彼は追いかけようとしていた。そんな浪漫を聞いた時、人はどのような反応をするだろうか?
 その時、ジロがポツリと話しかけた。
「……オッサン…もしかして暇なのか?」

 途方もない話をされると、人は大抵の場合、本気には聞かないものである。そして純粋無垢な子供は、時として無慈悲な言葉を投げつけるのだ。
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