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警察官チョウさんの場合3
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某警察署……。
その中を一つの人影が慌ただしく駆ける。そしてその人影を追うように、後ろからゆっくりと別の影が動く。それは幾人もの影が重なり合って、まるで別の生き物のように見える……。
「ハア…!ハア…!」
息を切らしながら、その人影……チョウさんは走り続けていた。
さっき突然、婦警の一人の一言から始められた「鬼ごっこ」。ゲーム参加者は署内の職員全員。チョウさんはそのゲームの“鬼”で他の者に殺されれば負けとなる……。
「くそったれ……!鬼ごっこならルールがあべこべだろうが……!」
などと愚痴をこぼしつつ、逃げるチョウさん。
その間も背後から署員たちが拳銃をチョウさん目掛けて乱射する。だが弾は付近の柱や天井をかすめるばかりで、ほとんど命中することはなかった。
とはいえ、何発かは急所を外してはいるがチョウさんに当たっているのは確か。このままではジリ貧である。
(外に出ることさえ出来れば……!)
チョウさんは逃げながら足元にあったパイプ椅子を手に取り、思い切り窓ガラスに叩きつけた。……が、窓ガラスは割れるどころかヒビ一つ入らない。
「ちっ……!」
チョウさんは追っ手を気にしながら、そのまま2発、3発と再び窓ガラスをたたいたが、やはりビクともしない。そうこうするうちに、追っ手が追いついてしまった。
「くそっ……。やむをえん。」
チョウさんは窓を割るのを諦めて、また逃げ始めた。
……鬼さんどーこだ……
……鬼さんどーこだ……
「ハァッ……!ハァッ……!」
老体で署内を駆けずり回った上に、繰り広げられる異常な事態にチョウさんの疲労はついに限界に達した。
「……チッ、……情けねえなぁ。」
などと老いた自分に文句を言いながら、チョウさんはひとまず階段の物陰に身を隠すことにした。
……鬼さんどーこだ……
……鬼さんどーこだ……
森の騒めきにも似た亡者の声が、チョウさんの耳に執拗にこびりつく。
あるいは近づき、あるいは離れて……。
……鬼さんどーこだ……
……鬼さんどーこだ……
チョウさんの額を汗が伝い、やがて落ちる。その音でさえ、奴らに聞こえてしまうのでは、と危惧してしまう程、チョウさんの神経はひどく緊張していた。
……………………
……………………
……と、いつのまにか先程までの騒めきが消えた。
(……撒いたのか?)
チョウさんは恐る恐る階段の物陰から様子を伺ってみた。しかしそこにはさっきまでの追っ手の姿は無かった。
「……やれやれ。」
ひとまずは安心と、大きくため息をつくチョウさん。そのまま呼吸と考えをまとめるため、その場で小休憩することにした。
(……それにしても、この警察署で一体何が起こっているんだ?そもそもどうしてこんなことになったんだっけか……。)
チョウさんはつい半刻前の出来事を思い返してみた。
いつものように部下を現場に送り、後から向かおうとしていたら同僚に呼び止められ、いつもの他愛ない会話をした後……。
……遊びましょ……
「……そうだ。あの婦警の奴が変な気色の悪い人形を抱えて出てきたんだっけか。なんか名前なんかつけてやがったな。確か『ミリア』とかなんとか。そんで鬼ごっこやろうなんて言い出してこのザマだ。この騒動、おそらくあの婦警が何かしたに違いねえ。」
思案を巡らしながら、チョウさんは何とか落ち着こうと、咥えたタバコに火を付ける。
「いやしかし待てよ。『ミリア』……。はてどっかで聞いたような……。」
チョウさんはハッ、とした。
ついこの間に殺された井口という会社員、その恋人の名前が確か『ミリア』ではなかったか。同じ名前をした人形……。果たしてこれは偶然だろうか?
……ごとり
不意に、チョウさんの足元にボウリング球くらいの毛玉のような物が転がってきた。何事かと不審に思い、調べてみると……。
「……‼︎ううっ……⁉︎」
チョウさんは思わず声を上げてしまった。
転がってきた毛玉……。それはあの婦警の頸だった。ついさっきまでヘラヘラと笑っていたあの顔のままで、頸だけになって転がっていたのだ。しかも、よく見ると婦警は何者かに舌を引き抜かれていた。口の中は傷口からの出血で真っ赤に染まり、しかしそんな状態にも関わらず笑っている婦警の頸は、思わず吐き気をもよおすほど、異常な雰囲気を醸し出していた。
チョウさんは思わず口元を抑えた。
吐き気もそうだが、何より今自分がこの状況下で声を上げてしまったことが非常にまずい。そう直感して取った行動であった。しかし……。
……みーつけた……
もはや、後の祭りであった。
その中を一つの人影が慌ただしく駆ける。そしてその人影を追うように、後ろからゆっくりと別の影が動く。それは幾人もの影が重なり合って、まるで別の生き物のように見える……。
「ハア…!ハア…!」
息を切らしながら、その人影……チョウさんは走り続けていた。
さっき突然、婦警の一人の一言から始められた「鬼ごっこ」。ゲーム参加者は署内の職員全員。チョウさんはそのゲームの“鬼”で他の者に殺されれば負けとなる……。
「くそったれ……!鬼ごっこならルールがあべこべだろうが……!」
などと愚痴をこぼしつつ、逃げるチョウさん。
その間も背後から署員たちが拳銃をチョウさん目掛けて乱射する。だが弾は付近の柱や天井をかすめるばかりで、ほとんど命中することはなかった。
とはいえ、何発かは急所を外してはいるがチョウさんに当たっているのは確か。このままではジリ貧である。
(外に出ることさえ出来れば……!)
チョウさんは逃げながら足元にあったパイプ椅子を手に取り、思い切り窓ガラスに叩きつけた。……が、窓ガラスは割れるどころかヒビ一つ入らない。
「ちっ……!」
チョウさんは追っ手を気にしながら、そのまま2発、3発と再び窓ガラスをたたいたが、やはりビクともしない。そうこうするうちに、追っ手が追いついてしまった。
「くそっ……。やむをえん。」
チョウさんは窓を割るのを諦めて、また逃げ始めた。
……鬼さんどーこだ……
……鬼さんどーこだ……
「ハァッ……!ハァッ……!」
老体で署内を駆けずり回った上に、繰り広げられる異常な事態にチョウさんの疲労はついに限界に達した。
「……チッ、……情けねえなぁ。」
などと老いた自分に文句を言いながら、チョウさんはひとまず階段の物陰に身を隠すことにした。
……鬼さんどーこだ……
……鬼さんどーこだ……
森の騒めきにも似た亡者の声が、チョウさんの耳に執拗にこびりつく。
あるいは近づき、あるいは離れて……。
……鬼さんどーこだ……
……鬼さんどーこだ……
チョウさんの額を汗が伝い、やがて落ちる。その音でさえ、奴らに聞こえてしまうのでは、と危惧してしまう程、チョウさんの神経はひどく緊張していた。
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……と、いつのまにか先程までの騒めきが消えた。
(……撒いたのか?)
チョウさんは恐る恐る階段の物陰から様子を伺ってみた。しかしそこにはさっきまでの追っ手の姿は無かった。
「……やれやれ。」
ひとまずは安心と、大きくため息をつくチョウさん。そのまま呼吸と考えをまとめるため、その場で小休憩することにした。
(……それにしても、この警察署で一体何が起こっているんだ?そもそもどうしてこんなことになったんだっけか……。)
チョウさんはつい半刻前の出来事を思い返してみた。
いつものように部下を現場に送り、後から向かおうとしていたら同僚に呼び止められ、いつもの他愛ない会話をした後……。
……遊びましょ……
「……そうだ。あの婦警の奴が変な気色の悪い人形を抱えて出てきたんだっけか。なんか名前なんかつけてやがったな。確か『ミリア』とかなんとか。そんで鬼ごっこやろうなんて言い出してこのザマだ。この騒動、おそらくあの婦警が何かしたに違いねえ。」
思案を巡らしながら、チョウさんは何とか落ち着こうと、咥えたタバコに火を付ける。
「いやしかし待てよ。『ミリア』……。はてどっかで聞いたような……。」
チョウさんはハッ、とした。
ついこの間に殺された井口という会社員、その恋人の名前が確か『ミリア』ではなかったか。同じ名前をした人形……。果たしてこれは偶然だろうか?
……ごとり
不意に、チョウさんの足元にボウリング球くらいの毛玉のような物が転がってきた。何事かと不審に思い、調べてみると……。
「……‼︎ううっ……⁉︎」
チョウさんは思わず声を上げてしまった。
転がってきた毛玉……。それはあの婦警の頸だった。ついさっきまでヘラヘラと笑っていたあの顔のままで、頸だけになって転がっていたのだ。しかも、よく見ると婦警は何者かに舌を引き抜かれていた。口の中は傷口からの出血で真っ赤に染まり、しかしそんな状態にも関わらず笑っている婦警の頸は、思わず吐き気をもよおすほど、異常な雰囲気を醸し出していた。
チョウさんは思わず口元を抑えた。
吐き気もそうだが、何より今自分がこの状況下で声を上げてしまったことが非常にまずい。そう直感して取った行動であった。しかし……。
……みーつけた……
もはや、後の祭りであった。
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