この賭けの行方は

市之川めい

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本気か気の迷いか

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『セックスが痛いし全然気持ちよくない。はっきり言って下手』

 また今回も同じ理由で振られた。もう何人目か数えるのもしたくない。毎回避妊は気を付けているし(もちろんお互いのためだ)、モテる容姿にあぐらをかかずに清潔感とかも意識しているが、それだけではダメらしい。
 動画とか見て練習しようと思っても、同じようにしているとしか思えず……それでも技術に違いがあるのか、女優の大げさな――いわゆる演技なのかすら分からない。

 飲みたい、飲んで忘れたい……俺はいつものように聡史さとしを誘うためにメッセージを開いた。途中まで打ったところで、今夜は居酒屋じゃなく家飲みを提案するために書き直した。
 今までは詳しく話していなかった、別れの理由を相談してみようと思ったためだ。

 残業がある聡史を待つ間、スーパーでビールと食べ物を買っておく。高校の時からの十年以上の付き合いなので、聡史の好みは完全に把握している。

 俺は自分で言うのもなんだが、初めて彼女ができた高校一年の時から今に至るまで、相手に不自由はしていない。高校や大学時代は別れても頻繁に告白やアプローチをされるので、落ち込むことも無縁だった。
 だが社会人になってから交際解消の話になる時に、俺のセックスが嫌だと言われることが増えた。なんで急に――と初めは思ったが、よくよく考えてみると、学生時代の元カノたちも言葉をにごしていたが、そのようなことを言っていたことに気が付いた。彼女たちは若かったので恥ずかしくてはっきり言えなかっただけだ。
 それから気にしてスマホでやり方を調べたりしたが、結局また振られた。もう今は怖くて新しい恋人を作るのを躊躇ちゅうちょする。

 そんなことを考えていたら、聡史から『今終わった』とのメッセージを受信した。退社した聡史と落ち合い、家へと向かう。
 隣を歩く聡史はどうなんだろう。恋人の有無や軽い内容はお互い言ったりするが、セックスについてまで詳しく話したりしたことがなかった。
 聡史はクールで優等生なイメージを崩さず、下ネタは自ら言わない。周りでそんな話をしてる人がいても、我関せずと柔和にゅうわな微笑みで流すだけだ。
 
 だから――もし今夜、俺がそんな話をしたら嫌がらないだろうか? そんな不安も少しよぎったが、俺達は高校以来の親友だし、俺は本気で悩んでいるのだから多分相談に乗ってくれると期待した。
 まあ、アドバイスをもらっても俺がちゃんとできるかは別問題だが、悩みを聞いてもらえるだけでも気が晴れるだろう。

 部屋に着いて早速二人でビールの缶を開けた。残りは冷蔵庫に入れて、ソファでくつろぐ。居心地が良い――今回の彼女と別れる前はセックスが原因か部屋にいても気まずかったし、やっぱり男友達の方が気も使わないしラクだ。
 でも、悩んでいる顔をしたのだろうか――聡史が俺に「何かあったか?」と尋ねてきた。

 聡史の人間性は信用している。俺を笑ったり、からかうことは絶対にない。俺は自分が下手だというのを伝える恥ずかしさがあったが、正直に打ち明けた。
 だが――アドバイスをくれるのだろうと漠然と考えていたが、聡史は思ってもみない提案をしてきた。

 要するに、『聡史との

 聡史は酔ってないと言う。まあ今までの経験からもそうだろう、酒にかなり強い聡史がビールを飲んだだけで変なことを口走ったりはしない。
 なら俺が飲み過ぎて聞き間違えたのか? 落ち込んでいるし酔いが回るのが早かったのかもしれない。そう思って再度確認した。

 やっぱり本気みたいだ。
 え? 確かに俺がセックスについての悩みを話したが、どういう思考回路でそうなるんだ?
 普通、ここをこうして――的な言葉でのアドバイスか、せいぜい指使いを何も使わずにエアで見せてくれるだけじゃないのか?

 でも真剣な顔の聡史を見ると、俺のことを思って言ってくれているようだ。ふざけられている感じは全くない。それに――たしかに動画見ても上達しなかったんだから、実践練習した方がいいのか。  
 どうせ少し触るだけだろうし、聡史は頭が良いから的確に言ってくれるだろう。信頼関係があるから俺も下手と言われて傷付いたりはしなそうだ。

「…………頼む」

 二人でベッドが置いてある寝室へ向かった。一人暮らしなのにセミダブルだ。今は恋人はいないと言っていたが、聡史のセックスはどういう感じなんだろうと想像する。
 聡史はたくさんの人と遊ぶタイプではないが、かといって暗いわけではない。全く興味がなさそうにしていたが、色素の薄い茶色がかった髪と切長の目が映える顔立ちもあり、優秀でクールと高校時代から人気があった。
 俺と違って頻繁に別れず、大学生の時にできた恋人と長く付き合っていたみたいなので、多分相性が良かったのだろう。

 ベッドの端に座ると、聡史が俺の髪に触れてきた。今までは俺からすることが多かったからなんだかくすぐったい。でも、髪の一本一本まで神経が通っているようで、なでられると新鮮でドキドキした。
 どうしてよいか分からず身を任せていると、聡史の舌が俺の口の中に入ってきた。意外と嫌悪感はなく――むしろ素直に上手いと思ってしまう。

 そうだ、これは練習なんだからちゃんと学ばないと――そう思うのに、頭がぼーっとして快感だけを追っていく。セックスってこんなに気持ちいいものなのか。
 優等生な聡史に相応ふさわしい、長く細い指が肌をなぞり、乳首を捏ねるたびに一歩一歩未知の感覚へと昇って行くようで、自分の身体からだなのにすでに自分ではコントロールが効かない。

 でも――聡史の指と口は、さっきからと思うところには来ない。執拗に気持ち良い部分をこすられているけど、それでも足りない、もう待てない――どうしても欲しい。

「聡史、口でして――」
 
 気が付くと俺は聡史に懇願していた。練習に付き合ってくれている聡史に悪いとか、ごめんだけどそんなこと考えるのも無理なくらい、性器が膨張していて痛い、早く出したい。 
 舐めているのは男なのに、全然嫌じゃない。でもそれは聡史だからで、他の男だったら考えられない。でも聡史はどうなんだろう?
 いくら長年の友達からの相談だからって、ここまでしてくれるものなのか? 溜まってるって言ってたけど、だったら自分でした方が早いし、欲しい場所をすぐ触れるし、なんなら相手に愛撫する必要もないから手っ取り早いのに……

「あんっ……う、ん――あ……」

 聡史に的確なポイントを攻めたてられ、叫んだと同時に体が宙に浮いたような感覚になり、痺れるような射精をした。

 気持ち良さに体をうずめる。聡史が何か口にした言葉は、五感が違うところに行っていて上手く聞き取れなかった。やっと少しずつ息ができてきて体を起こそうと思った瞬間、下半身に違和感が生じた。

「おい。聡史……何やってるんだ?」
「潤滑剤だよ」

――じゅん……かつ……ざい?

 もう一度説明され、俺はやっと『潤滑剤』が漢字として理解できた。うん、理解できた――けど……は? おかしいだろ。でもなんだか聡史はいつものように冷静な口調だ。
 えっと……これは普通の提案なのか? もし逆の立場、聡史が俺と同じ理由で悩んでいたとしても、俺が聡史に挿れるって発想にはどう頑張ってもならないと思うんだが。

 でも――さっきのあれはめちゃめちゃ気持ち良かった。あの快感以上のものがあるのかと思うと……俺はどうして良いか分からず、熱のこもっているであろう目で聡史を見つめた。

 聡史の指がゆっくりと俺の中に潤滑剤を浸潤させていく。異物感がすごい、聡史の指が入っているのは自分の体なのに自分じゃない感覚、でもはっきりと分かる箇所がある。そこを聡史が擦るたびに、声が自動で漏れ出していく。
 内側と性器を両方同時に刺激され、あまりの気持ち良さに意識が飛びそうだ。良く分からなくて涙も出てくる。

「挿れるぞ」

 聡史の硬いそれは、男だから分かる興奮具合で、俺はどうして男の自分に対してそうなるのか不思議だった。溜まってるって言っても普通、こんな風になるか? 中高生じゃないんだから……

 先端部分を押し付けられ、指とは違う質量に怖くなる。指だけでもあんなに違和感があったのに……こんなのが入ったら俺、壊れるんじゃね?
 でも、聡史が俺を見つめる視線、壊れそうなものに触れるような優しい手――それは聡史なら大丈夫、と素直に思わせてくれる。

 聡史の首にすがるように手を回すと、聡史がゆっくりと俺の反応を確かめながら挿入してくるのが分かった。痛い、とても痛い。みんなこんなの受け入れてるのか? そりゃあ下手だったら怒りたくなるの分かるわ、申し訳ない。俺も同じように、今度はちゃんとしないと――
 でも、重ねている肌が温かくて心地よくて……恍惚状態になっていて、本来の目的を忘れて聡史から与えられる刺激だけに反応してしまう。

 初めは苦痛しかなく、こんな大きいのを挿れるのは無理だと思っていたけど、だんだんと甘い痛みに変わっていく。それは多分、俺が聡史に身を預けられる安心感があるからなのか。

「あっん……ゔっ、やだ……へんになる、あ――」

 女みたいな声を出す恥ずかしさとか、それはとっくに過去に置き去りにして、俺は聡史の腕の中で達した。

瑞輝みずき……」

 ああ――俺、分かっちゃったよ。

 俺はまだイッた余韻が引かない身体からだで、聡史が吐き出した熱をダイレクトに感じた。 
 
 聡史……ただ漏れだって、お前の気持ち。お前の今夜の行動、おかしいと思っていたけど……理由が分かったらなんか……に落ちた。
 でも同時にすごく恥ずかしくなってくるんだけど。友達だからなんて言うか――ノリでやってる部分もあると思ってて、事後は酔った勢いだったって笑えばいいやと思ってたけど……これじゃあ照れて顔を見るのも緊張する。

 
 緊張――するのに、聡史が誘うものだから二人でシャワーを浴びることになった。聡史に甲斐甲斐しく髪や体を洗われ、俺は溜まった湯船に浸かる。

 聡史は多分、今までずっと自分を偽ってきたんだろう。真面目で優しい聡史の性格を考えたら、酔った勢いでしらばっくれるより、俺に負担をかけないよう今夜のことを謝罪して、今後は連絡を経つ可能性が高い。
 それに――聡史の方から切り出すにはかなりの勇気がいるだろうから……俺の方から言ってやるか! でもちょっと悔しいから困らせてもやりたいけど。
 
 そんなことを逡巡していると、さっきから聡史が動いている気配がないことに気が付いた。

「聡史?」
 
 聡史が考え込んだように放心状態になっている。呼びかけに反応して慌ててシャワーを止めた聡史を、湯船の中に入るよう促した。
 さっきのこと、話さないといけない。時間が経つにつれ、より気まずくなる。

「あのさ――」
 
 向かい合って座っているので、顔を見るのが恥ずかしくて視線を下げたが、でもそうすると下半身がいやでも目に入る。入浴剤入れてって言うか? いや――より変な空気になりそうだ。
 結局、俺は風呂を出てから話すと伝えタオルを借りた。

「瑞輝、サイズ一緒だよな?」

 買い置きのパンツと歯ブラシを渡されたので礼を言い受け取る。ボクサーパンツは俺が好きなメーカーと色。あれ? 前に一緒に買い物に行った時は、違うメーカーのものを買ってた気がするけど。ちょっとにやける想像は勘違いだったら恥ずかしいので、気にしないことにした。好みが変わったのかもしれないし。

 寝る支度を終えたので、ソファに座る。聡史もぎこちなく腰を下ろした。

「お前ってゲイだったの? なんで俺とやった?」

 俺から訊けばいいのかもしれないが……聡史の口から言ってもらいたい。俺って案外めんどくさい男だったんだな。
 聡史が極度に緊張しているのが簡単に分かるくらい、震えている。

「お前のことがずっと――好きだったんだよ」

 あ、嬉しくて胸が高まる。でも「俺も――」感情伝えようと口を開きかけた時、聡史が言った。

「殴ってくれ、もう連絡しないよ」

 気が付いたら俺は聡史にキスをしていた。
 俺の気持ちを勝手に決めるなよ!

「俺は聡史、お前と……離れたくないよ」

 聡史が驚きと、嬉しさと、信じられないといった感情が混じった目でこっちを見た。

「瑞輝……言葉で言い表せないくらい、お前が好きだ」

 そう言うと、聡史は俺の体を引き寄せ抱きしめてきた。安心する……多分俺は今まで、これを与えることができていなかったんだ。このまま聡史の腕に包まれながら眠りたい――

  
 あ、ダメだよ俺。やるべきことがまだ残っていた。顔を上げると、聡史と目が合った。

「確認したいんだけど、さっきのって俺のための練習だったよな?」
「うん」
「なら、今から早速復習してもいいか?」

 その時の聡史の表情は見物みもので、ムードが一気に吹き飛んだ。
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