異世界パピーウォーカー〜イケメン獣人預かり〼〜

saito

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マメ柴のシバ

妹、犬預かるってよ。

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「だったらなんで今更のこのこ姿を現したの?」

さゆりは抑揚なく言った。

「さゆり、お前はもう少し人の気持ちを思いやる言動をして下さい。お兄ちゃんは、今地味にまゆとかずやのことで傷ついています。」

「そんなの10年も帰って来ない方が悪いし、帰れもしないのに姿見せる方が悪い。まゆさんは高崎さんにして正解。」

「さゆり、頼むから、少しで良いので優しさ増しめで…。お兄ちゃんもね、こう見えて結構苦労してきてるから。ね?わかって?」

「あんたはたかだか1年だけど、こっちは10年苦労してる。チート能力で暮らす異世界はどう?楽しい?順調?」

穴越しに見える兄の血色の良い顔と、手元に光る指輪や艶やかな質感のベルベットのローブが、彼の向こうでの地位を物語っていた。

思いやりがないのはどっちだろう。
さゆりは思った。
いつもそう。殊勝な態度は面倒ごとを避けるための最初だけのポーズなのだ。
帰って来れないなら、期待を持たせるようなことをしないでほしい。
兄が中途半端な朗報を放るだけ放ってまた去った後、自分はどうやって父や母に接すればいいというのか。

「順調なもんか。仕事をこなしあぐねて、こうして妹を頼ろうってまで追い詰められてる。」

また何か不穏なことを言いだしたな、とさゆりは苦い顔を浮かべた。

「仕事?」

「そう。俺は今、こっちで獣人関係の仕事をしていて、例えば……彼らを魔力で治療したり、教育したり、訓練したりしている。」

向こうの世界では、労働力として人化した獣が重用されているらしく、公的な仕事として獣人を世話する職が地球からの渡航者に与えられるらしい。

「それで今一人の獣人の教育をしているんだけどこれが手強くて。3日でなんとかしなきゃいけないんだけど、全然間に合わないんだよね。で、そっちでやってもらえば一ヶ月あんじゃんて思って。」

「戻れないんじゃないの?」

「だからさゆりにやって貰おうかと。」

「おことわ…」

「ワン!」

さゆりが即答しようとした時、
犬の鳴き声がした。
みつるがマメ柴と思われる若犬を足元から抱き上げ、さゆりに見せた。

小麦色のこぶりなわんこは、つぶらな瞳でさゆり見つめながらブンブン尻尾を振っている。
ころんとしたフォルムがとても可愛い。

「獣人じゃないじゃん。」
さゆりは平静を装って言った。

「人型にもなるけど、犬の姿で面倒見てくれればいいいから。飼ってみたかっただろ?犬。」

ぐうの音も出なかった。
確かにさゆりはずっと飼いたかったのだ。
万一のためにペット可のマンションにしてしまうくらい。
母が犬嫌いだったため実家では叶わなかったが、一人暮らしならきっと、何とか仕事との折り合いがつけば。
それがいつかは分からなくとも。

「仕方ないなぁ。その子のためだからね。お兄ちゃんを許したわけじゃないから。」

差し出した手はすでに柔らかな毛皮を待ちわびていた。
みつるが穴からもふもふした生き物を差し出す。
さゆりが受け取ると、尻尾をぶん回してさゆりにすり寄ってきた。

何だこの可愛い生き物は!!
何だこの可愛い生き物は!!
何だこの可愛い生き物は!!
と思った。

「じゃあ、一ヶ月後に引き取るから。」
みつるが言った。どうやら切り上げるつもりらしい。

「まって、何しておけば良いの?」

「普通に一緒に暮らして、人間に慣れさせてくれたら良い。人間が好きになるように。」

「お兄ちゃんは戻ってこれないんでしょ?この子は戻れるの?」

「こっちの時間の進みの方が遅いからね。時間は遡求することはないから、そいつがこっちに戻るのは特に問題ない。」

「この子のお世話する道具とかは?」

「こっちでは人型で過ごしてるから人間のもの使ってた。
そっちでも食事とかトイレとか人間と同じで大丈夫。」

「そう。」

特に聞くこともなくなってしまった。いや、別に、さゆりがみつるともっと話していたいわけではないが。

「じゃあよろしくな。」

みつるがそう言うと、ぐにゃりと穴が歪み、普通の部屋の壁に戻った。
後にはさゆりと、さゆりの顎を舐め回す犬が残された。
なんか夢みたいだ。とりあえず犬可愛い。
顎を舐め回すマメ柴の頭をグリグリ撫でた。

みつると話していた時間は1時間ほどの感覚だったが、終わってみればもう夜中だった。
考えてみれば兄とは時間の流れが違うはずなのに普通に会話できていたので、空間がつながってる間のさゆりの時間の進みも変わっていたのだろう。

空腹を感じたさゆりは簡単に食事をすると、身繕いを手早く済ませて床に着いた。
その間興味深そうに室内を見回していたマメ柴は、さゆりがベッドに収まるとベッド脇の床に丸まって寝る体制に入った。
さゆりは一緒に寝たかったが、知らない環境ではまず慣れるのが大事と知っていたのでそのまま寝入った。
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