32 / 54
マメ柴のシバ
や ら か し た
しおりを挟む
そこそこの人出がある店内が騒然とする中、さゆりは顔面蒼白でシバに駆け寄った。
「シバ!やめなさい!」
肩を掴んで引き離そうとするが、構わずしがみついている。
より強い力で引き離すと、ようやくシバはいつきから離れて座った。
最優先でいつきの安否を確認すると、少し上体を起こしたまま固まっている。
その顔は真っ赤で、目は涙目である。
意識はあるようだ。表情から痛みを感じている様子はないので、大きな怪我は無いらしくて安堵する。
シバはというと、座ったままいつきを見て、「コレジャナイ」という顔をしている。
当たり前だ、コウなわけが無い。
「どうしていつもいつも!
何で飛びかかるの!!
危ないでしょう!」
悪びれのないシバの様子についカッとなった。
下手したらいつきが大怪我をしていたかもしれないのに。
さゆりは感情のまま右手を振り上げた。
打ちすえるためシバの頭に狙いを定める。
「さゆりちゃん!やめなさい!」
強い声がして、さゆりはハッとした。同時に手が止まる。
カウンターの向こうにある厨房に、女将がいた。
「いつき、大丈夫?立てる?」
さゆりが手を止めたので、そのまま息子の状況を確認する。
「平気でしょ。照れてるくらいなんだから。ほら、情けなく腰抜かしてないで立ちな。」
入り口から少し離れたテーブルで給仕していたかなが、いつきに近づいて無理くり引き起こした。
「ちょ、姉ちゃん乱暴!」
「やーい。よーわーむーしー。」
腹や脇や額を満遍なくつつく。
「つっつかないでよ!」
いつの間にか始まったいつもの姉弟の掛け合いに、凍った空気が少し溶けてその場にいた客から笑いが漏れる。
女将も、いつきの無事を知ると、「おーい、B二つ持ってってー」というマスターの声に応えて奥に引っ込んだ。
「あの、すみません。いつき君、本当にごめんなさい。皆さんもお騒がせしました。失礼します。」
少し冷静になったさゆりは、俯いたまま謝るとシバの腕を掴み、引きずるようにして逃亡することにした。
かなが呼び止める声がしたが、とてもじゃないが振り向く勇気はない。
シバの様子を確認する勇気もなかった。
どうして叩こうとしてしまったのだろう。
シバに、人に飛びかかるなと言い含めなかったのは自分だ。
出掛ける際舐められそうになった時に、気づいて注意しておけばよかったのだ。
それに、シバが大人しくても油断せず手をしっかり握っておくべきだった。
少し気が大きくなったせいで、カトレアに迷惑をかけてしまった。
どうしよう、どうしよう。
私がシバにちゃんと言っていたら…!
グルグルと自己嫌悪の堂々巡りをしながらずんずん歩いて、マンションについた。
さっさと階を昇って部屋に入る。
「さゆり、まだ怒ってる?」
声に反応して見てみれば、しおしおになったシバがいた。
しまっているはずの耳が、ションボリしている幻覚がみえる。
「シバ!やめなさい!」
肩を掴んで引き離そうとするが、構わずしがみついている。
より強い力で引き離すと、ようやくシバはいつきから離れて座った。
最優先でいつきの安否を確認すると、少し上体を起こしたまま固まっている。
その顔は真っ赤で、目は涙目である。
意識はあるようだ。表情から痛みを感じている様子はないので、大きな怪我は無いらしくて安堵する。
シバはというと、座ったままいつきを見て、「コレジャナイ」という顔をしている。
当たり前だ、コウなわけが無い。
「どうしていつもいつも!
何で飛びかかるの!!
危ないでしょう!」
悪びれのないシバの様子についカッとなった。
下手したらいつきが大怪我をしていたかもしれないのに。
さゆりは感情のまま右手を振り上げた。
打ちすえるためシバの頭に狙いを定める。
「さゆりちゃん!やめなさい!」
強い声がして、さゆりはハッとした。同時に手が止まる。
カウンターの向こうにある厨房に、女将がいた。
「いつき、大丈夫?立てる?」
さゆりが手を止めたので、そのまま息子の状況を確認する。
「平気でしょ。照れてるくらいなんだから。ほら、情けなく腰抜かしてないで立ちな。」
入り口から少し離れたテーブルで給仕していたかなが、いつきに近づいて無理くり引き起こした。
「ちょ、姉ちゃん乱暴!」
「やーい。よーわーむーしー。」
腹や脇や額を満遍なくつつく。
「つっつかないでよ!」
いつの間にか始まったいつもの姉弟の掛け合いに、凍った空気が少し溶けてその場にいた客から笑いが漏れる。
女将も、いつきの無事を知ると、「おーい、B二つ持ってってー」というマスターの声に応えて奥に引っ込んだ。
「あの、すみません。いつき君、本当にごめんなさい。皆さんもお騒がせしました。失礼します。」
少し冷静になったさゆりは、俯いたまま謝るとシバの腕を掴み、引きずるようにして逃亡することにした。
かなが呼び止める声がしたが、とてもじゃないが振り向く勇気はない。
シバの様子を確認する勇気もなかった。
どうして叩こうとしてしまったのだろう。
シバに、人に飛びかかるなと言い含めなかったのは自分だ。
出掛ける際舐められそうになった時に、気づいて注意しておけばよかったのだ。
それに、シバが大人しくても油断せず手をしっかり握っておくべきだった。
少し気が大きくなったせいで、カトレアに迷惑をかけてしまった。
どうしよう、どうしよう。
私がシバにちゃんと言っていたら…!
グルグルと自己嫌悪の堂々巡りをしながらずんずん歩いて、マンションについた。
さっさと階を昇って部屋に入る。
「さゆり、まだ怒ってる?」
声に反応して見てみれば、しおしおになったシバがいた。
しまっているはずの耳が、ションボリしている幻覚がみえる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)
星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。
団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。
副団長「彼女のご飯は軍事物資です」
私「えっ重い」
胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!?
ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。
(月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる