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魔女は王城に呼び出される
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アストリット・ベルゲングリューンはベルゲングリューン子爵家の令嬢だ。
この家ベルゲングリューン家は、五代前にベルメール帝国からハビエル王国に亡命してきた貴族だった。文官として優秀であったが、次期国王を見る目を持たなかったために、政争に敗れ、ベルメール帝国から家族と共に逃亡することになった。幸い、共に逃げた貴族と共にハビエル王国に誘われ、ハビエル王国で貴族として王宮で仕事をすることになる。
亡命時にはベルゲングリューン家の主筋にあたるベルメール帝国の帝王の妹の子である王子も逃亡していた。その王子の血筋になるヒンデミット伯爵がそれに当たる。リーゼはその伯爵家の令嬢であり、人から姫と呼ばれている。
ベルゲングリューン家とヒンデミット家と共に亡命した貴族はシュライヒ家だった。シュライヒ家は子爵位で、ベルゲングリューン家とシュライヒ家は、ヒンデミット家の側近として政争に負けた折に共に逃亡した家だった。グレーテルはシュライヒ子爵家の令嬢である。
「な?なんだって?」
アストリットの父、ゲーブハルト・ベルゲングリューン子爵は当初、アストリットの身に起こったことを、正確に理解していなかった。
ようやく、学校の課外授業から戻ったアストリットは、学校の学校長からの今回の敬意を書いた書簡を持って、自身の家に入った。課外授業については単位をつけるかどうかの会議中とのことだが、あれは不可抗力だから、単位は不通につけてほしいものだと思う。いつもの課外授業は参加するだけで単位をくれていたのだ。それが、今回だけ隣国の侵略に邪魔されたからと言って、最後まで終えられなかったからと単位なしをほのめかしてきた学校側の教師たちに、アストリットはぎっくり腰の魔法かけてやろうかと、一瞬真面目に考えかけた。
『先生、単位をくれないつもりですか?』
アストリットの言葉に、引率のリーダー役だった教師プリニオ・ケサダは、答えようとして口を開けたが、なかなか声が出せずに結局閉じてしまう。
『・・・そんなつもりは・・・ないのだが・・・』
何度も何度も口を開け閉めして、ようやく絞り出した言葉に、アストリットが貴族の微笑みをして見返す。
『・・・では、学校長に単位をくれるようにと、お伝えください。もし、単位なしなら、わたくしが魔女となってしまったこと、皆に分からせましょうか』
結局、脅したことになってしまった。忘れてくれると良いなと思いながら、手に持った書簡を弄ぶ。
その書簡をまず迎えに出た母、エルメントルート・ベルゲングリューンに渡す。
母と娘はそのまま、応接間に連れだって歩き、ソファに腰を下ろした。すっと侍女が現れ、二人分のお茶の用意をしてから、壁際に下がった。
『あらあら、まあまあ、大変だったのねえ』
母は相変わらず、にこやかに微笑みながらざっと書簡に目を通している。
侍女の入れてくれたお茶を飲みながら、だらしなく足をソファに伸ばす。
『まあ、リットちゃん、お行儀が悪くてよ』
母の言葉に、アストリットは呟くように答える。
『・・・母様、誰も見ておりません、家の者だけです』
『・・・普段から気を引き締めていないと、誰が見ているかわかりませんよ、亡命貴族であるベルゲングリューン家が無くなってしまったらどうするの?』
『・・・無くなるなどあり得ません。今回のことでわが家は最重要家になったはずです』
『・・・何があったの?』
『・・・』
『悪さしたの?』
ついっと、アストリットがあからさまに視線を外す。
『話しにくいことなのね』
アストリットがニコリと笑う。
『・・・どちらかというと、ハビエル王国にとっては良いことですね』
ふうっと、母がため息をつく。
『まったくこの子は、問題ばかり起こすんだから』
『母様、もうすぐ父様が戻るでしょう、そうしたらご説明いたします』
そういう会話をした後、当主であるゲーブハルト・ベルゲングリューン子爵が仕事を終えて宮廷から下がってきた。
父は、相変わらずだらしなくソファに足を延ばしたアストリットに対し、ため息をついたが、母のように特別咎めるようなことは言わず、母の隣に腰かけた。
「何か話があるようだね?」
ゲーブハルトがアストリットに視線を向ける。
「・・・父様、母様、近いうちに国王の名で私を呼び出すと思われます」
「何?」
ゲーブハルトが侍女に茶を貰おうと手招きしようとした瞬間、アストリットがソファに足を延ばしたまま声をあげたため、手を上げかけたまま凍り付いた。
「わたくし、魔女として覚醒したのです」
立て続けに言われる言葉に、ゲーブハルトは表情を暗くして、手が徐々に下がっていく。
「その影響で、国王がわたくしに経緯を聞きたいとか、言っているとのことで」
「・・・陛下とつけなさい、リット」
エルメントルートがやんわりと言う。
「・・・・・・・・・陛下が、会いたいらしいのです」
「・・・言いにくそうね」
母の言葉にアストリットは真顔になる。
「あの人は、腹黒で、あまり尊重出来そうもないので・・・」
アストリットの言葉にエルメントルートが頷く。
「ええ、そう言われてみればそうねえ」
「・・・君たち、陛下のことを悪く言うのは止めなさい」
「・・・」
「・・・」
アストリットとエルメントルートは黙ってお互いに顔を見合わせてから、ゆっくりと頷く。
「「わかりました」」
「本当にわかってるのか」
「・・・」
「・・・黙ったままにするな、まったく。・・・まあ、よい」
ため息をついて、ゲーブハルトは結局うやむやにした後、言葉を継ぐ。
「それで、アストリットはなぜ魔女として覚醒したのかね?」
「うーん、どうなのでしょう。出来そうだなと思ったので、ぎっくり腰になれと念じたら、三千の兵士たちが全部腰を抜かしました」
「・・・まあ、力としては強いのだろうな・・・」
ゲーブハルトが額に指を当てて、ため息をついた。
「なぜ今になってとか、なぜ魔女なんだとかは、言いたいことは山ほどあるのだが。・・・まあ良い、陛下に会うのなら、言葉に気をつけなさい。思ったことを言う前に、一度考えることだ。そうしないと、言葉尻を捕らえられて、陛下の思うがままに操られる。自分の思いとは反対な方向に捕らえられることがある」
「・・・」
アストリットは父の言葉に、急にニコリと笑った。
「なんだ?どうしたんだ?」
「・・・ふふっ、やはりわたくしの思うとおりの方ですね、国王陛下は」
この家ベルゲングリューン家は、五代前にベルメール帝国からハビエル王国に亡命してきた貴族だった。文官として優秀であったが、次期国王を見る目を持たなかったために、政争に敗れ、ベルメール帝国から家族と共に逃亡することになった。幸い、共に逃げた貴族と共にハビエル王国に誘われ、ハビエル王国で貴族として王宮で仕事をすることになる。
亡命時にはベルゲングリューン家の主筋にあたるベルメール帝国の帝王の妹の子である王子も逃亡していた。その王子の血筋になるヒンデミット伯爵がそれに当たる。リーゼはその伯爵家の令嬢であり、人から姫と呼ばれている。
ベルゲングリューン家とヒンデミット家と共に亡命した貴族はシュライヒ家だった。シュライヒ家は子爵位で、ベルゲングリューン家とシュライヒ家は、ヒンデミット家の側近として政争に負けた折に共に逃亡した家だった。グレーテルはシュライヒ子爵家の令嬢である。
「な?なんだって?」
アストリットの父、ゲーブハルト・ベルゲングリューン子爵は当初、アストリットの身に起こったことを、正確に理解していなかった。
ようやく、学校の課外授業から戻ったアストリットは、学校の学校長からの今回の敬意を書いた書簡を持って、自身の家に入った。課外授業については単位をつけるかどうかの会議中とのことだが、あれは不可抗力だから、単位は不通につけてほしいものだと思う。いつもの課外授業は参加するだけで単位をくれていたのだ。それが、今回だけ隣国の侵略に邪魔されたからと言って、最後まで終えられなかったからと単位なしをほのめかしてきた学校側の教師たちに、アストリットはぎっくり腰の魔法かけてやろうかと、一瞬真面目に考えかけた。
『先生、単位をくれないつもりですか?』
アストリットの言葉に、引率のリーダー役だった教師プリニオ・ケサダは、答えようとして口を開けたが、なかなか声が出せずに結局閉じてしまう。
『・・・そんなつもりは・・・ないのだが・・・』
何度も何度も口を開け閉めして、ようやく絞り出した言葉に、アストリットが貴族の微笑みをして見返す。
『・・・では、学校長に単位をくれるようにと、お伝えください。もし、単位なしなら、わたくしが魔女となってしまったこと、皆に分からせましょうか』
結局、脅したことになってしまった。忘れてくれると良いなと思いながら、手に持った書簡を弄ぶ。
その書簡をまず迎えに出た母、エルメントルート・ベルゲングリューンに渡す。
母と娘はそのまま、応接間に連れだって歩き、ソファに腰を下ろした。すっと侍女が現れ、二人分のお茶の用意をしてから、壁際に下がった。
『あらあら、まあまあ、大変だったのねえ』
母は相変わらず、にこやかに微笑みながらざっと書簡に目を通している。
侍女の入れてくれたお茶を飲みながら、だらしなく足をソファに伸ばす。
『まあ、リットちゃん、お行儀が悪くてよ』
母の言葉に、アストリットは呟くように答える。
『・・・母様、誰も見ておりません、家の者だけです』
『・・・普段から気を引き締めていないと、誰が見ているかわかりませんよ、亡命貴族であるベルゲングリューン家が無くなってしまったらどうするの?』
『・・・無くなるなどあり得ません。今回のことでわが家は最重要家になったはずです』
『・・・何があったの?』
『・・・』
『悪さしたの?』
ついっと、アストリットがあからさまに視線を外す。
『話しにくいことなのね』
アストリットがニコリと笑う。
『・・・どちらかというと、ハビエル王国にとっては良いことですね』
ふうっと、母がため息をつく。
『まったくこの子は、問題ばかり起こすんだから』
『母様、もうすぐ父様が戻るでしょう、そうしたらご説明いたします』
そういう会話をした後、当主であるゲーブハルト・ベルゲングリューン子爵が仕事を終えて宮廷から下がってきた。
父は、相変わらずだらしなくソファに足を延ばしたアストリットに対し、ため息をついたが、母のように特別咎めるようなことは言わず、母の隣に腰かけた。
「何か話があるようだね?」
ゲーブハルトがアストリットに視線を向ける。
「・・・父様、母様、近いうちに国王の名で私を呼び出すと思われます」
「何?」
ゲーブハルトが侍女に茶を貰おうと手招きしようとした瞬間、アストリットがソファに足を延ばしたまま声をあげたため、手を上げかけたまま凍り付いた。
「わたくし、魔女として覚醒したのです」
立て続けに言われる言葉に、ゲーブハルトは表情を暗くして、手が徐々に下がっていく。
「その影響で、国王がわたくしに経緯を聞きたいとか、言っているとのことで」
「・・・陛下とつけなさい、リット」
エルメントルートがやんわりと言う。
「・・・・・・・・・陛下が、会いたいらしいのです」
「・・・言いにくそうね」
母の言葉にアストリットは真顔になる。
「あの人は、腹黒で、あまり尊重出来そうもないので・・・」
アストリットの言葉にエルメントルートが頷く。
「ええ、そう言われてみればそうねえ」
「・・・君たち、陛下のことを悪く言うのは止めなさい」
「・・・」
「・・・」
アストリットとエルメントルートは黙ってお互いに顔を見合わせてから、ゆっくりと頷く。
「「わかりました」」
「本当にわかってるのか」
「・・・」
「・・・黙ったままにするな、まったく。・・・まあ、よい」
ため息をついて、ゲーブハルトは結局うやむやにした後、言葉を継ぐ。
「それで、アストリットはなぜ魔女として覚醒したのかね?」
「うーん、どうなのでしょう。出来そうだなと思ったので、ぎっくり腰になれと念じたら、三千の兵士たちが全部腰を抜かしました」
「・・・まあ、力としては強いのだろうな・・・」
ゲーブハルトが額に指を当てて、ため息をついた。
「なぜ今になってとか、なぜ魔女なんだとかは、言いたいことは山ほどあるのだが。・・・まあ良い、陛下に会うのなら、言葉に気をつけなさい。思ったことを言う前に、一度考えることだ。そうしないと、言葉尻を捕らえられて、陛下の思うがままに操られる。自分の思いとは反対な方向に捕らえられることがある」
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