シャワールームは甘い罠(R18)番外編追加しました!

紫紺

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第44話 くたびれた大根

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 雑誌の取材は今朝だったらしい。姿は見かけてないので帰ったのか。それにしても……。

「なんで金曜じゃなかったんだろ」
「さあ。でも今回はトレーニングじゃなくて仕事ですから。だからじゃないですか」

 なるほど。金曜日、少なくとも午前中は神崎さん個人的に仕事お休みなんだな。

「ま、わざわざ火曜日にしたワケはありそうですけどね」

 舞原さんがニンマリして言う。言いたいことはわかるけど、乗る気は全くなかった。

「なんもないよ……さて、今日もありがとう。少し早いけどもう上がるよ。病み上がりにはこれ以上キツい。金曜日にまた頑張る」

 心の病だけど、体も相当ガタ来てた。もうガソリン切れだ。
 僕の素っ気ない対応に、さすがに悪乗りを自覚したのか、舞原さんも真面目な表情になった。

「そうですね。金曜日、しっかりやりましょう。無理は良くないです」
「ありがと」

 あとはシャワーを浴びるだけ。そして自分の部屋に戻る。そう思うと、幾分スッキリしたものがまたねちっこく胸によみがえってくる。ジムに来たのは正解だけど、一瞬だったな。



 シャワールームの空いてる個室を探し、ドアノブに手をかけた。脳内霧がかかったようで、文字通り冴えない僕。背後から近づく人の気配を丸きり感じなかった。

「だ、誰っ!?」

 だから、いきなり手首を掴まれたことに腰を抜かすほど驚いてしまった。

「そんなに驚かなくても……声もかけましたよ?」

 そこには明るい髪色と琥珀色の瞳、神崎さんが困惑した表情を見せていた。

「聞こえませんでした……あの、今からシャワー浴びるので」

 取材をまだ受けていたのだろうか。洒落たスポーツウェアを着ているが、汗を掻いてる様子はない。

「やせ我慢しなくて……いいんですよ……そんな萎れた鮎川さんは見たくない」
「萎れてなんかいません」

 十分くたびれた大根みたいだけど。

「素直じゃないな」

 僕の顎を空いてる方の手で撫ぜる。ポツポツと生えた無精ひげを咎めるように。

「な、なんで……」

 僕は思わずカッとなった。シャワーを浴びてる人に聞こえたらとかそんなことも考えられなかった。

「あなたに何がわかるってんですか。僕がなんで萎れてるのか、知ったふうで。おまけに人の弱みに付け込んで……」

 腕を振り払い、神崎さんのヘーゼルアイに向かって叫んだ。なのに涙が溢れて来て。

 ――――あっ……。

 ふわりと体が浮いた気がした。それから、神崎さんのオーデコロンだろうか。お香のような香りが僕を包む。少し薄いと思っていた唇。想像してたより弾力がある。
 腰を抱かれてつま先立ちになった。後頭部に神崎さんの長い指が埋まりそう。

 そんなどうでもいいことが僕の頭の中でぐるぐる回る。けど……嫌じゃなかった。あんなにしたかったキス。それは九条さんとのものだったはずなのに。僕は、いつしか両腕を神崎さんの背に回していた。


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