45 / 93
第44話 くたびれた大根
しおりを挟む雑誌の取材は今朝だったらしい。姿は見かけてないので帰ったのか。それにしても……。
「なんで金曜じゃなかったんだろ」
「さあ。でも今回はトレーニングじゃなくて仕事ですから。だからじゃないですか」
なるほど。金曜日、少なくとも午前中は神崎さん個人的に仕事お休みなんだな。
「ま、わざわざ火曜日にしたワケはありそうですけどね」
舞原さんがニンマリして言う。言いたいことはわかるけど、乗る気は全くなかった。
「なんもないよ……さて、今日もありがとう。少し早いけどもう上がるよ。病み上がりにはこれ以上キツい。金曜日にまた頑張る」
心の病だけど、体も相当ガタ来てた。もうガソリン切れだ。
僕の素っ気ない対応に、さすがに悪乗りを自覚したのか、舞原さんも真面目な表情になった。
「そうですね。金曜日、しっかりやりましょう。無理は良くないです」
「ありがと」
あとはシャワーを浴びるだけ。そして自分の部屋に戻る。そう思うと、幾分スッキリしたものがまたねちっこく胸によみがえってくる。ジムに来たのは正解だけど、一瞬だったな。
シャワールームの空いてる個室を探し、ドアノブに手をかけた。脳内霧がかかったようで、文字通り冴えない僕。背後から近づく人の気配を丸きり感じなかった。
「だ、誰っ!?」
だから、いきなり手首を掴まれたことに腰を抜かすほど驚いてしまった。
「そんなに驚かなくても……声もかけましたよ?」
そこには明るい髪色と琥珀色の瞳、神崎さんが困惑した表情を見せていた。
「聞こえませんでした……あの、今からシャワー浴びるので」
取材をまだ受けていたのだろうか。洒落たスポーツウェアを着ているが、汗を掻いてる様子はない。
「やせ我慢しなくて……いいんですよ……そんな萎れた鮎川さんは見たくない」
「萎れてなんかいません」
十分くたびれた大根みたいだけど。
「素直じゃないな」
僕の顎を空いてる方の手で撫ぜる。ポツポツと生えた無精ひげを咎めるように。
「な、なんで……」
僕は思わずカッとなった。シャワーを浴びてる人に聞こえたらとかそんなことも考えられなかった。
「あなたに何がわかるってんですか。僕がなんで萎れてるのか、知ったふうで。おまけに人の弱みに付け込んで……」
腕を振り払い、神崎さんのヘーゼルアイに向かって叫んだ。なのに涙が溢れて来て。
――――あっ……。
ふわりと体が浮いた気がした。それから、神崎さんのオーデコロンだろうか。お香のような香りが僕を包む。少し薄いと思っていた唇。想像してたより弾力がある。
腰を抱かれてつま先立ちになった。後頭部に神崎さんの長い指が埋まりそう。
そんなどうでもいいことが僕の頭の中でぐるぐる回る。けど……嫌じゃなかった。あんなにしたかったキス。それは九条さんとのものだったはずなのに。僕は、いつしか両腕を神崎さんの背に回していた。
0
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる