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第43話 待ってるから。
しおりを挟むそれからどうやって火曜日まで生きていたのかわからない。いつまでもスマホの電源を切っておけないので復活させたけど、九条さんからは長いメールが来ただけで着信はなかった。
メールはほとんど謝罪で、帰国する人への打ち上げで飲みすぎ、気が付いたらお持ち帰りしてた。みたいなこと書いてあった。
読むには読んだけど、全然脳内に書き込めなくて、念仏みたいに右から左に流れてしまった。
最後に『連絡待ってるから』とあった。つまり、僕が許してメールなり電話なりで連絡するまで、自分は何もせず待ってるということなんだろう。
――――なんで誰もかれも僕のアクションを『待つ』体なんだよ。
今の僕には、自分からどうこうしようなんて気力、どこ捜してもないよ。ま、なんだ。時間が解決してくれるかもね。
けど、九条さんはきっと待ちきれなくて、あの子と仲良くしちゃうんだろうな。で、こっちに帰ってきたら何食わぬ顔で……。
「はああ……」
大きなため息とともにエレベーターを降りた。そう、こんなでもジムに来た僕を褒めてほしい。というか、ジム行くくらいしか頭が回らなかった。
もし、このまま九条さんとダメになったら、曜日替えようかな。折角習慣になったトレーニング、続けたいんだ。
「おはようございますっ! って、どうしたんですか。鮎川さん」
ロッカーからマシンがひしめくフロアに行くと、早速舞原さんに驚かれてしまった。そりゃ今の姿見れば、誰もが驚くよね。
「頬がこけてるのもですが、無精ひげなんて似合いませんよ?」
「ああ、そういや剃るの忘れてたや。ちょっと古いもの食べて中ったみたいでさ」
一応言い訳は考えておいた。今朝の朝食までほとんど何も食べられなかった。
「そうなんですか。もういいんですか?」
「うん、今朝はご飯食べてきたから」
それでも今日は、いつもより軽めのメニューにしてもらった。ようやくついてきた筋肉を落とさない程度のトレーニング。なのに、僕はすぐぜえぜえになった。
――――失恋ごときで体力落ちすぎだな。今日はちゃんと食べよう。
けど、やっぱり来て良かった。鍛えてる間は嫌なこと忘れられるし、汗とともに流れていく気がする。
「今朝、神崎さんの撮影あったんですよ」
「え? 撮影? ああ、そう言えば……」
雑誌の取材があるって言ってたな。なんだ、神崎社長のルーティンの一つとか? まあ、ジムも宣伝になるしいいのか。
「カッコよかったですよー。モデルみたいでした」
二重の目がきらきら光ってるよ。どれほど神崎さんが輝いていたか想像できる。
僕が失意の底に沈んでいても、地球は普通に回って日々何事もなく過ぎていく。そんな当然のことを、舞原さんとの会話で思い出していた。
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