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第56話 クリスマスの予定

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『砂漠の月 旅立ち編』の発売日が12月20日に決まった。

 小泉さんからは、前月の構文社パンフから広報すると言われてて、書影も載るとのこと。
 構文社イチオシでは普通のことかもしれないけど、僕の新刊がこんなに推されたのは初めてのことだ。新人賞を獲ったデビュー作よりも扱いが大きい。

 それでも謡い文句は『第10回新人賞作家、鮎川零の待望の長編最新作!』。待望って、そんなに待たせてはいないんだけどね。編集部から言えば、期待できる作品、待たせてたのかも。




「クリスマスの予定、どうする? スキーにでも行くか?」

「クリスマスはどうします? まあ、彼の方が優先でしょうが。私とも付き合って欲しいね」

 なんて、二人から言われてる。いや、自慢してるわけじゃないよ。それでも、今年は困らずに返答できた。

「ごめん、クリスマスの頃は新刊の取材や発売記念サイン会が目白押しで……」

 もちろん、残念な気持ちもある。

「おお、そうか。さすがにサイン会には行けないな。じゃあ、空いてる日に二人きりでパーティしよう。別にクリスマス関係ないし。ホテルの部屋、予約しとくよ」

「そうですか。では、空いてる日にうちに遊びに来てください。そうだねえ。その日は帰さないってどう? ディナーは用意しておきますよ」

 なので、クリスマス前後の僕のスケジュールは、オフィシャルとプライベートで埋まってしまった。自分史上最高に忙しい師走になった。




 九条さんとは火曜日とたまに土日のどっちか、神崎さんとは金曜日にデートするのが習慣になった。
 ジム通いの習慣に付随してるけど、リズムは悪くない。新刊発売に向けて少しずつ忙しくはなってきたけど、第二巻の締め切りはまだ漠然としてる段階で、プライベートに時間が割けるのは嬉しい。

「なんか色々順調そうですね。筋肉のコンディションが物語ってます」

 僕の上腕二頭筋をさすさすして、舞原さんが言った。ちょうど力こぶを張るような恰好でトレーニング中だ。

「そう? 僕の筋肉、調子良さそう?」
「いいですよ。とっても。ついでに肌艶も」

 舞原さんと会ってから、はや3ヶ月が過ぎてる。その間に、僕のガタイは少しずつだけど大きくなった気がする。少なくともひ弱なヒョロヒョロだった印象は払しょくされた。
 しかしついでに肌艶もって余計なお世話だよ。

「舞原さんも初めて会った時より大きくなったような。身長伸びてる?」

 彼はまだ20代前半だから、それも有り得る。どのみち僕より高いけど。

「身長はミリ単位ですよ。僕も日々ここで鍛えてますから、ほら」

 と、ジムのトレーナーをさっと捲る。

「うおお。凄っ」

 見事に六つに割れた腹筋が登場。あまり隆々といった感じではないけど、腕や肩にも均整の取れた筋肉が綺麗だし、やっぱり美しい体というのは、狙って作るもんなんだな。

「見惚れました? ま、九条さんや神崎さんとは見劣りしますけどねー」

 パチンとウインク。何が言いたいんだ。九条さんはともかく、神崎さんと関係あること彼は知らないはずだ。現状の金曜日、ジムでは極力一緒にいるところを見せないようにしてる。

「なに言ってんだか。舞原さんの体も十分凄いですよ」
「え? ホントですかっ! やったあ」

 なんか高校生みたいな喜びよう。3ヶ月経っても、舞原さんの言動には首を傾げることが多いな。



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