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第39話 壊れ物
しおりを挟む「わっ、いって!」
「だ、大丈夫か!? 倫、沁みたか?」
「あー。大丈夫。ちょっと沁みた。意外と擦り傷あったなあ」
「くうう。あいつらもっと殴っとくんだった……」
帰宅した僕はシャワーを浴び、念入りに歯磨きをした。裸になって気付いた。手や足に意外とたくさんの擦り傷があった。ついでに言えば、口の中も切れてた。
佐山もジェフもタクシーで帰れとうるさかったんだけど、アドレナリンが湧き出てた僕は痛みも疲れもなく、自ら運転を主張して帰ってきた。助手席の佐山はずっと大人しくて、ほとんど僕が一人で喋ってた。
だけどシャワーを浴びた後、突然疲れと体中の痛みを感じて……。とりあえず、佐山に消毒液を付けてもらうことにした。で、今ここ。
「俺がもっと早く気付いていれば……いや、アイスクリーム屋に一緒に行っていれば……そもそも酒を飲まなければっ」
「もうその辺でやめとけ」
次は多分、『ジェフの誘いに乗らなければ』、とかになりそうなので止めておいた。
「僕はほら、かすり傷だけでなんてことない。アイスうまっ」
バスローブをひっかけベッドの上。消毒液を付けてもらいながら戦利品のアイスを食べてる。選ぶ時間はなくてセット商品だったけど、好きなバナナストロベリーがあって良かった。
あの時、佐山は半分居眠りながら車の中で待っていた。そこにジェフが車のドアを叩く。
『おい、サヤマ。リンはどこ行ったんだ?』
『なんだよ。アイスクリーム買いに行ったんだよ。もう戻るよ』
『アイスって……店、電気消えてるぞ……ヤバいっ!』
『え、おい、ヤバいってどういうことだよっ』
佐山が体を起こした時には、ジェフはもうアイスクリーム屋に向かって走り出していた。そこにたまたまいたマイケルもその後を追う。
完全に出遅れた佐山は車を飛び出し、必死に二人を追いかけた。何が起こったのか咄嗟にはわからなかったが、真っ暗なアイス屋を見て酔いは一瞬で醒めた。
すぐそこに店があるのに、全然近づけない。胸が苦しくて息が出来なかった……。
佐山が車の中で、ぽつりぽつりと話してくれたことだ。言い訳はしないと言ってたけど、仕方ないことだよ。それでも、ジェフが気付いてくれてよかった。
「奥の部屋に入ってあんたが床に転がってるのを見た時……俺は、あのブタ野郎どもを殴り飛ばしたけど、ホントは自分を殴りたかったんだ」
「僕が迂闊だったんだよ。あんな時間に一人で店に入るなんて。閉店間際でお客さんがいない時間だもの、用心しろって言われてたのに」
消毒液を付け終わった佐山の肩に自分の頭を乗せる。
「マイケルがしてた話、なんで黙ってたんだ」
「え……あーそれは……」
駐車場でタクシーにするか運転して帰るか揉めてた時、マイケルが言っちゃったんだよな。『前もバスルームで危険な目にあったのに懲りてない』って。
以前、ウェルカムパーティーで、ド下手ギタリストに迫られた話。佐山には内緒にしてたんだよね。
「おまえに心配かけたくなくてだよ」
「何言ってるんだ。心配するに決まってる」
佐山は僕を包み込むように抱きしめる。それでも、壊れ物を抱くようにふんわりと。いつものように骨を砕く勢いでは抱いてくれないんだな。
まだ少し鼻をすすってる。涙なんか流すなよ。そんなおまえ、僕は見たくない。
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