大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう

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奮闘

お菓子


次の日、セレーネは張り切って教会へ行く準備をしていた。

カーティスに会いに行くにしても、今度教会を訪ねた時には、教会に預けられている子供達の元へ案内してくれると言っていたことを思い出して「それなら」と考えて、料理長に頼み、お菓子をたくさん持っていくことに決めたのだ。

セレーネは今もそうだが、幼い頃はお菓子を食べることが大好きで、エダンに勧められるがままにお菓子を食べて太ったことがある。走るたびにお腹がたぷんたぷんと揺れるのを見て、エダンはよく「おお、おお、可愛いのお」なんて言って笑っていたが、成長するに連れて妹の華奢な体躯と自らの体型を比べるようになり、セレーネはお菓子を我慢して、適度な運動をこなし、そして今の体型を手に入れた。

あの時は相当に辛かった。

だけど、エダンに温かく見守られながら、幼い頃にお菓子をたくさん食べた思い出は今でもセレーネの心の中に温かく残っている。

子どもたちはお菓子が大好きだ。とエルゲンに聞いたので、セレーネは料理長の作ったお菓子を持ってラーナと共に教会へ向かった。

丁度、お昼も過ぎた時間。お菓子を詰めたバスケット2つをラーナに持たせたセレーネは、馬車を降りて、礼拝堂の中へ静かに入り、カーティスを探した。

「あ!」  

カーティスは、この間、会った時と同じ場所に腰掛けていた。

「ご機嫌よう」

声をかけると、カーティスは驚いたようにセレーネの顔を見て、皺を濃くして嬉しそうに笑った。

「おや、この間のお嬢さんかね」
「はい」
「この前は布を被っておられたから良く見えなんだが、お顔も御髪もお美しいですな」

ほっほっほと笑うカーティスに、セレーネは花が綻ぶように笑い「お隣よろしくて?」と問いかけ、カーティスが頷いたのを見届けて、ゆっくりと腰掛けた。

木の椅子はお世辞にも座り心地が良いとは言えず、セレーネはほんの少し身じろいだ。

「この間は神官長様のご不在を教えていただきまして、ありがとうございました」

まずは、頭を下げる。セレーネはここで身分を明かすつもりはなかった。身分を明かせば、きっとカーティスは恐縮してしまうだろうから。エルゲンにもどうか伝えないようにと言ってある。

「いいえ、そんな」

セレーネはラーナが差し出したバスケットを1つ受け取り、それをズイとカーティスに差し出した。

「これはほんのお礼ですわ」
「おお、おお。これは……香ばしい匂いですなあ」
「タルトとクッキーですの。私も気に入っていってよく食べているものですわ」
「これは、これは。ありがたく頂きます」

カーティスは恭しい態度でバスケットを受け取った。

「そ、それで申し訳ないのですけど」
「はい?」
「今日もお尋ねしたいことがあって参りましたの」
「ほうほう、この老いぼれで良ければ」

カーティスが快く頷いてくれたので、ラーナに目配せして、ほんの少し離れたところにいてもらう。

セレーネは居住まいを正して、カーティスの重い瞼の被さる目をじっと見つめた。

「し、神官長様は聖女様のことがお好きだと思うのですが……」
「ほ?」

まるでフクロウのように首を傾げるカーティスに、セレーネもキョトンと呆然とするハムスターのような顔をした。

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