大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう

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聖女

帰路

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「さ、今日はもう一緒に帰りましょうか」

レーヌの表情を食い入るように見つめていたセレーネは、エルゲンの言葉にハッとして、身体を離した。エルゲンが帰って来る時間は今よりもう少し遅い時間のはずなのでは。そう思い問うと、エルゲンは肩を竦めた。

「ええ、まあそうなのですが。怪我をしているあなたが心配ですし。それにもう、レーヌに教えられることは全て教えましたから。これからは、もう遅く帰る必要もないですよ」

にっこりと微笑むエルゲンに、セレーネは複雑な心持ちになる。エルゲンが早く帰ってきてくれることを嬉しいと思う反面、このままではずっとエルゲンはレーヌへの恋心を自覚しないままになってしまうのではないか。それでは駄目ではないのか。なんて考えてしまう。

「……セレーネ?どうしました、嬉しくありませんか?」

ほんの少し寂しそうに眉を顰めるエルゲンにセレーネは慌てて首を振る。嬉しくないわけがない。嬉しくないわけがないのだが……。

「……レーヌ様は大丈夫なのかしら」

いきなり名指しされて驚いたのか、レーヌはびくりと肩を震わせて、おずおずとした様子でセレーネへと視線を向ける。

「わ、私は……あの、大丈夫です」

レーヌはただたどしい言葉遣いで、遠慮がちに笑った。とはいうものの、何故かその瞳にはほんの僅か、切ない光が浮かんでいた。

「何か分からないことがあれば、すぐに教えてくださいね」

教え子に微笑む教師のようにエルゲンはやんわりと微笑んだ。そんな彼の顔を見て、レーヌはやはり複雑そうな顔をする。

「セレーネ」
「なあに?」
「子供達がまた来て欲しいと言っていましたが、怪我が治るまでは屋敷で大人しくしていなさい」
「……分かったわ」

セレーネがコクリと頷くのを見届けて、エルゲンは治療するための道具を丁寧に棚に収め、再びセレーネの華奢な身体を抱き上げる。

「レーヌ、セレーネが教会を尋ねる時には時々、様子を伺ってあげてください。この人は時々、突拍子もないことをやらかしてしまいますから」
「え……ええ、分かりました」
「それから、以前あなたが提案していた地方神殿の視察についてですが、あなたと視察へ赴く神官に、ヘーゼル神官を推薦しておきました。視察には2人で向かってください。彼女は女性ですし、私と行くよりよほど気楽でしょう」
「え、でも……」
「何か問題が?」
「い、いえ……その、分かりました」

レーヌはほんの少し当てが外れたと残念そうな顔をして、セレーネへちらりと視線を向けた。その瞳の奥に、羨望のようなものが見て取れる。

セレーネは確信した。

レーヌはやっぱりエルゲンのことが好きなのだ。と、するとやっぱり、エルゲンが自分の気持ちに気づけば万事上手くいくのではあるまいか。そんなことを考え始めるセレーネの思考を遮るように、エルゲンは「帰りますよ」と一声かけて、レーヌによって開かれた扉から治療室を出た。
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