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神殿
慈愛
しおりを挟む「子供達に乞われたから」というより、「子供達と遊ぶのが楽しいから」という理由で、セレーネは再び神殿へ赴いた。もちろん足の怪我を直してからである。
「おお、おお、また来てくださったか。お嬢さん」
満面の笑みで出迎えてくれたカーティスに、セレーネは深く礼をして2人で子供達がいるという庭へ向かった。エルゲンは今日こそ途中で時間を作り、あなたの様子を見に来ると約束して、今日も仕事に励んでいる。
庭にはすでに子供達がいた。しかし彼らは皆、庭の中央で聖女レーヌの周りを囲み、絵本だろうか。なにかの本を夢中で凝視している。邪魔するわけにもいかないので、セレーネはカーティスと共に、そんな子ども達の様子を眺めることにした。
「すまんのお。今日は……あなた様が来ると伝わっているはずだったのじゃが」
「いいんですの。子供達の好きなようにさせて差し上げるのが1番ですわ」
微笑んで見せるセレーネに、カーティスは「そうですな」としみじみ頷いた。
「では、しばらくは私とお話でもして楽しみましょうかのお」
「ええ」
「そうじゃ、私の悩みを聞いてくださらぬか」
「まあ、もちろんですわ」
「ありがたい。まあ、私自身というよりかは聖女様のことについてじゃな」
「……聖女様の?」
「いつも、民の悩みを聞き、女神に祈り、なにかと仕事の絶えぬ日々を送っていらっしゃる。あの御年ならば、まだまだ遊びたいざかりであられるだろうに。それなので、何か気の紛れるようなものを送って差し上げたいと思うのですが、あのお年頃の女性に送るものなんぞ、儂の頭で考えたって皆目検討もつきません。それなので、なにか考えつくものがあったらぜひ教えていただきたいのです」
蓄えた髭を丁寧に撫でて、カーティスはほっほっほと朗らかに笑った。セレーネは聖女の行う役割の全てを知るわけではない。が、彼女の送る日常がとても生真面目なもので、若い女が身につけるには、あまりに地味で質素な服であることは、こうして見ているだけで察せられる。もし自分がその立場にあったら、おそらく3日も持たずに役目をほおりだしていただろうとすら思う。しかし、それをレーヌはこうしてまるで苦なんて何もないとでもいうかのようにこなしている。
それは尊敬に値すべきことだ。と、セレーネは考えていた。
「私は……真心の籠もったものなら、なんでも良いような気が致しますけれど」
「お嬢さんはなかなか良いことをおっしゃいますな」
「そうは言っても、何をお送りするのが1番なのかですものね。お花はすぐに枯れてしまうし……」
心が浮きたち、普段身につけていられるもの。
「ハンカチ……とかでしょうか。レースの」
レースは普通のハンカチより繊細で、なりより見た目が華やかだ。持っていると心が浮き立つ。我ながら名案なのではないかと思ったが、カーティスはほんの少し困ったような顔をした。
「レースのハンカチは、ちと見つけるのが難しいですな」
「そ、そうなんですの?」
「ええ、はい。あまり市井の雑貨屋ではお見かけ致しません」
「……ごめんなさい。そうとは知らずに」
「いいえ、いいえ。お嬢さんのお育ちが良いことは様子を伺っているだけでも分かりますから。あなたは……エルゲン様の奥方でいらっしゃるのでしょう」
「え!?お、お気づきでしたの?」
「ええ、はい。エルゲン様のあなたを見る瞳を見ればすぐに分かりますとも」
セレーネは何だか気が抜けてしまって、深めの溜息を吐いた。
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