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花籠の祭典
夜が更けて
しおりを挟む「あなたの懸念は取り除けましたね?」
「う、うん……」
ぎこちなく頷くセレーネに、エルゲンは「それじゃあ、これから楽しい話をしましよう」と子供をあやすような声音で語りかける。
セレーネとエルゲンは、夜が更けるまで花籠の祭典でどこを共に歩くか、どんな屋台に寄り道したいのか。セレーネはエルゲンと言葉を交わす内に楽しくなって、笑顔を取り戻し始めた。そんなセレーネをエルゲンは愛おしそうに見つめ、時にはその薄い金色の髪を撫でて口づけを落とす。
慈愛に満ちたあたたかな時間。
それを何よりも愛おしいと感じながら、セレーネはエルゲンとの夜語りに没頭した。
半年後。
花籠の祭典。
街中に、花の香りと色彩が満ち溢れ、人々の顔も花開くように芳しく満ち満ちている。
小さな藤色の花一輪を持った小さな男の子が、頬を染めながら亜麻色の髪の女の子に、花を差し出して、何事か言葉を紡いだ後、2人は手を取り合った。
きっと、意中の女の子をデートに誘ったのだろう。
そんな愛らしくも微笑ましい光景を、セレーネは馬車から見守っていた。
「どうかいたしましたか、お嬢様」
馬車の対面に座るラーナが、穏やかな声で問いかけてきた。セレーネが先程見た光景を丁寧に説明すると、ラーナは目を輝かせて「最近の子はませているのですねぇ」と口元に手を当てて笑う。
すると、馬車が止まった。
「どうやら、着いたようですね」
小さな窓から外を覗く。しかしそこは教会ではなかった。正確には教会へと続く大通りの手前で止まっていた。
花籠の祭典はおよそひと月をかけて準備される。地域それぞれの旬の花が育てられる期間も合わせると、準備は去年の花籠の祭典が終わってから既に始まっていると言ってもいいが、諸地域の花が王都に一気に集められるのは、祭典が始まるおよそ3日前だ。
運び込まれる花々は、運ぶ人々や、観光目的で訪れる人々と共にやってくる。
それ故に、この時期王都の人口は非常に増える。特に教会あたりの大通りは人で溢れているため、馬車での通行が禁止される区域が非常に多くなる。
「……本当に、人が多いわ」
呟きながら馬車を降りたセレーネは、ラーナに手を引かれてゆっくりと歩を進めた。
本来ならば、ここから歩いて教会へ行かねばならないのだが、神官長の妻であるセレーネには、教会へと通じる地下道をあらかじめ教えられているためそこへ向かう。
深くローブをかぶるセレーネだったが、やはりその類まれなる美貌と身から溢れる輝きは隠しようもなく、すれ違う人、すれ違う人に顔を凝視される。
それを当たり前のように受け止めて、涼しくよく整えられた地下道に入ると、セレーネはようやく息をついた。
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