54 / 73
花籠の祭典
夜が更けて
「あなたの懸念は取り除けましたね?」
「う、うん……」
ぎこちなく頷くセレーネに、エルゲンは「それじゃあ、これから楽しい話をしましよう」と子供をあやすような声音で語りかける。
セレーネとエルゲンは、夜が更けるまで花籠の祭典でどこを共に歩くか、どんな屋台に寄り道したいのか。セレーネはエルゲンと言葉を交わす内に楽しくなって、笑顔を取り戻し始めた。そんなセレーネをエルゲンは愛おしそうに見つめ、時にはその薄い金色の髪を撫でて口づけを落とす。
慈愛に満ちたあたたかな時間。
それを何よりも愛おしいと感じながら、セレーネはエルゲンとの夜語りに没頭した。
半年後。
花籠の祭典。
街中に、花の香りと色彩が満ち溢れ、人々の顔も花開くように芳しく満ち満ちている。
小さな藤色の花一輪を持った小さな男の子が、頬を染めながら亜麻色の髪の女の子に、花を差し出して、何事か言葉を紡いだ後、2人は手を取り合った。
きっと、意中の女の子をデートに誘ったのだろう。
そんな愛らしくも微笑ましい光景を、セレーネは馬車から見守っていた。
「どうかいたしましたか、お嬢様」
馬車の対面に座るラーナが、穏やかな声で問いかけてきた。セレーネが先程見た光景を丁寧に説明すると、ラーナは目を輝かせて「最近の子はませているのですねぇ」と口元に手を当てて笑う。
すると、馬車が止まった。
「どうやら、着いたようですね」
小さな窓から外を覗く。しかしそこは教会ではなかった。正確には教会へと続く大通りの手前で止まっていた。
花籠の祭典はおよそひと月をかけて準備される。地域それぞれの旬の花が育てられる期間も合わせると、準備は去年の花籠の祭典が終わってから既に始まっていると言ってもいいが、諸地域の花が王都に一気に集められるのは、祭典が始まるおよそ3日前だ。
運び込まれる花々は、運ぶ人々や、観光目的で訪れる人々と共にやってくる。
それ故に、この時期王都の人口は非常に増える。特に教会あたりの大通りは人で溢れているため、馬車での通行が禁止される区域が非常に多くなる。
「……本当に、人が多いわ」
呟きながら馬車を降りたセレーネは、ラーナに手を引かれてゆっくりと歩を進めた。
本来ならば、ここから歩いて教会へ行かねばならないのだが、神官長の妻であるセレーネには、教会へと通じる地下道をあらかじめ教えられているためそこへ向かう。
深くローブをかぶるセレーネだったが、やはりその類まれなる美貌と身から溢れる輝きは隠しようもなく、すれ違う人、すれ違う人に顔を凝視される。
それを当たり前のように受け止めて、涼しくよく整えられた地下道に入ると、セレーネはようやく息をついた。
あなたにおすすめの小説
報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜
矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』
彼はいつだって誠実な婚約者だった。
嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。
『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』
『……分かりました、ロイド様』
私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。
結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。
なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。
※この作品の設定は架空のものです。
※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
この度改編した(ストーリーは変わらず)をなろうさんに投稿しました。
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく
矢野りと
恋愛
彼がかつて愛した人は私の知っている人だった。
髪色、瞳の色、そして後ろ姿は私にとても似ている。
いいえ違う…、似ているのは彼女ではなく私だ。望まれて嫁いだから愛されているのかと思っていたけれども、それは間違いだと知ってしまった。
『私はただの身代わりだったのね…』
彼は変わらない。
いつも優しい言葉を紡いでくれる。
でも真実を知ってしまった私にはそれが嘘だと分かっているから…。
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目の人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。