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女神の祝福
真相
しおりを挟む神殿にたどり着くとヤーナには馬車内に留まるように言い置いた。
礼拝堂に入ると、そこに人はいなかった。窓から降り注ぐ陽光はとても温かく、それを受けて宙に舞う埃がキラキラ光っている。
慎ましやかな静寂が落ちる堂内を抜けると、そこにいたのはエルゲンだった。
「セレーネ」
彼は心配そうにこちらを見ていた。
「大丈夫よ、エルゲン。あなたが傍にいてくれるんだもの。何も怖いことなんてないわ」
本当は少し怖い。けれど、自分が向き合わなければならないことがあるのなら、向き合わなければと思った。エルゲンが向き合ったのだから、自分もそうしなくては、と。
「……分かりました」
エルゲンはセレーネの白く小さな手を温めるように握りしめ、しばらくしてから離した。
「こちらです」
互いに視線を合わせ、案内される。そこは地上ではなく、地下だった。部屋に入るための扉だと思っていたところが、実は地下へ繋がる階段を隠すための扉だったとは。小さな驚きに呑まれながらも、セレーネはエルゲンの後に続いた。階段を降りると、数人の神官達が険しい顔をしながら何事かを話し合っていたが、エルゲンを見るとすぐに居住まいを正して頭を下げる。
「……どうしていますか」
「俯いて、泣くばかりです」
それを聞いたエルゲンは無表情のまま、歩き出す。彼が足を止めたのは地下室……正確に言えば地下牢の1番奥だった。
地下とはいえ、廊下側にはわずかに地上からの陽光が降り注いでいるため、中はそこそこ明るい。
灰の壁。錆びた鉄の柱が幾本にも埋められたその牢に、その人はいた。
陽光を受けて光る髪は白く見える。髪の間から覗く目元は赤くなっていた。たくさん泣いたのだろう。聖女に選ばれた時の威風堂々としたオーラは鳴りを潜めている。
エルゲンとセレーネに気がつくと、彼女──レーヌはわずかに顔を上げて、ハラハラと涙を落とした。
そこで気づく。彼女の額から百合の紋章が消えていた。それは聖女の証。女神に聖女として認められた証でもある。
「昨夜、彼女の額から紋章が消えました。おそらく女神がしたことと思われます」
「……そう、なの」
静かな声は地下牢に響いた。エルゲンとセレーネの声が止むと、レーヌの嗚咽だけが地下牢の中にこだまする。
今回、セレーネが誘拐される際、花籠の祭典の折に地下道を通って教会へ来ることをミリーナや、ロイに教えたのがレーヌだった。レーヌはしっかりと理解していたらしい。教会を内密に訪ねてきた彼らが、悪意を持ってセレーネを攫おうとしていることを。
彼女の心はミリーナに悟られていた。
──……あなた、本当はエルゲン神官長様のことが好きなんでしょう?セレーネお姉様さえ消えれば、エルゲン様はあなたを心の拠り所にしてくださるかもしれないわよ?
そんな言葉に揺れて、結果として彼女は彼らに情報を与えてしまった。
ミリーナは言っていた。セレーネが消えたら、自分がエルゲンの心を慰めるのだと。つまり、いずれはレーヌのことも始末するつもりだったのかもしれない。
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