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女神の祝福

花籠を挟んで2人(最終話)

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「エルゲン、どうかしら?アマンダに頼んで造ってもらったの」

ふわりと、甘いクリーム色のドレス揺らしながら、セレーネは花々の積まれた大きな籠を抱えてエルゲンに手渡した。

あの事件の収拾がついてから、すでにふた月。

セレーネの精神状態も安定し、神殿も次の聖女選定のための準備を始めた。表向きレーヌは大きな病を患い、聖女の職務を全うできる状態ではないためその任を解いた、とされている。

先代の聖女の任期がとても長かったこともあって、これには国民全員が驚いたが、女神の祝福を受けているエルゲンの判断に間違いはないだろうと……結局は、そのような形で皆納得した。

『女神の祝福を受けているからと言って、過ちをおかさないとは限らないのですがね……』

と、エルゲンが疲れた様子で苦笑していたのが、3日前。


そして今日は、新たに行われる聖女選定式のために日夜奔走しているエルゲンにやっと訪れた貴重な休日。

エルゲンに、ゆっくり休んでもらおうと、ずっと前から張り切っていたセレーネは、ふとあることを思い出した。

衝撃的な事柄の連続で忘れていたが、結局セレーネとエルゲンは、今年の花籠の祭典には参加出来ていなかったのである。馬車の中から各産地の花に溢れる王都の景観はよく見ていたが、それだけだ。

手を繋いで王都を歩くことも、まして露天で買い物をすることもないまま……。


そのことが気にかかったセレーネは、せめてエルゲンに身近で花の美しさとその香を堪能してもらおうと思った。

しかし、花を見ることは好きでも、花の知識については全く詳しくないセレーネは、調香師でもある年上の友人……アマンダにいい香りのする花を選んでもらった。


セレーネが抱える花籠には色とりどりの花が摘まれている。種類は多けれど、それぞれの香りを壊さず、適度に作用しあって花籠からは芳しい香りが漂っている。

「これは……」

驚愕しているエルゲンに、セレーネは説明する。花籠の祭典には参加できなかったから、せめて……。

「アマンダ様より朝から届いたという荷物はそれだったのですね」

どこか嬉しそうに笑って、エルゲンは花籠を受けった。美貌のエルゲンが花籠を持っていると、なにやら女神よりも神々しく見える。セレーネは花を見るよりエルゲンを見ている方がよほど癒やされると思った。

「セレーネ、こちらへ」
「?」

既に近い距離にいるのに、手招きされる。首を傾げながら近寄るとふいに髪に何かを挿し込まれた。

「なあに?」
「いえ……髪に花を飾るあなたを見ていると癒やされるなあ、と」

全く同じようなことを考えていたことが可笑しくて、セレーネは「ぷっ」と吹き出して笑った。そんな彼女の花咲くような笑みを見て、エルゲンはその微笑みをより一層深める。そしておもむろに手を伸ばすと、セレーネを少し引き寄せてその額に口づけを落とした。

「ありがとう、セレーネ。とても……嬉しい贈り物です」
「ふふ、どういたしまして」
「来年は、きっと2人で手を繋いで花籠の祭典に参加したいですね」
「うん、そうね。その時はあなたに似合う花を私があなたの髪に挿してあげる」
「私にですか?」
「うん。あなたは綺麗だもの。花が似合うわ」
「……喜んでいいのか、微妙なところですが。あなたが似合うというのなら……そうですね。ではお願いします」
「うん、任せてね」

花籠を挟んで、2人。

笑い合う様子を見守るのは、あの雪の日。2人の運命を交錯させた女神だろうか。

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