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友人
変化
熱から回復してみると、思考能力も回復したのだろう。弱気な心はどこかへ吹っ飛んでしまった。
デドモンドが教えてくれたことを着実に実行しつつ、アランの浮気が発覚したひと月の後。
王宮から、花の季節の訪れを祝うパーティーへの招待状が届いた。
毎年、この季節になると、王宮の中央の中庭では、初代皇后陛下が愛した「カラリエ」という花が咲く。甘い芳香のする桃色の花だ。ドレスの裾のように豪奢で美しい花弁が特徴的で、ミレーユも特に気に入っていた。その花が毎年この季節になると咲くので、皆で建国を支えた皇后に敬意を捧げるという意味合いで以って貴族と王族が一同に会するというわけだ。
ミレーユは父であるモデューセ公爵に渡されたその招待状を寝台に放り投げた。
(……付き添いは婚約者でないと駄目なんて決められていないけど、アランと行きたくなんてないわ)
エスコートする人間はできるだけ身近な方がいい。
そして今回に限ってはアランでなければならない。
決められたわけではないけれど、婚約したばかりなので、アランをエスコート役に選ばなければ、周囲が変に噂する。
──……侯爵子息とミレーユ嬢は不仲なのだろうか。
別にそれでも構わないのだが。アランが納得しないだろう。
このひと月、アランを「浮気者」として観察してきたミレーユは、彼がとんでもないナルシストで、自らより優れた人間のことを決して認めない狭量な人間なのだということが分かった。
一見してアランはよくできた好青年だが、それは表面を取り繕うのが上手いだけで、実はその発言から彼の人となりというものは上手い具合に滲みでている。
『サンローザ伯爵子息が文官試験に合格したって?ああ、彼はね……宰相の側仕えが父親だから、たぶんコネなんじゃないかなぁ……て、ああ、僕はそんなこと思っていないけどね』
『コンリネ侯爵子息は、顔は確かにいいけど、僕より身長は低いし……』
『そういえば、この前リンゼル侯爵令嬢が僕に手紙をくれたんたけど……ああ、心配しないでミレーユ。僕には君だけだよ』
なとなど、自分より何か優れている人間は意地でも認めようとしない癖に、どこかの令嬢に好意を寄せられれば、満更でもなさそうにしてみせる。
(……結婚する前に気づけて良かったと思うべきね)
ミレーユは自らにそう言い聞かせた。
「ミレーユ、ちょっといいかしら」
(……お母様?)
柔い声に答えると、扉は静かに開く。
入ってきたのは年を経てもなお艷やかな花のように美しい母──エリーチェ。
ミレーユはエリーチェを部屋の片隅に置かれた椅子へ座るよう即して、彼女の言葉を待った。
「王宮のパーティーに着ていくドレスを新調しようと思うのだけど。いつものデザイナーにお願いする?」
問われて、ミレーユは悩んだ。
いつものデザイナーは、アランが好むほんの少し大人っぽいデザインのドレスを描く人物だ。
(だけど、もうアランの好みなんかに合わせなくたっていいわね)
そう思い、ミレーユは母の言葉に否定の意を込めて首を振った。
デドモンドが教えてくれたことを着実に実行しつつ、アランの浮気が発覚したひと月の後。
王宮から、花の季節の訪れを祝うパーティーへの招待状が届いた。
毎年、この季節になると、王宮の中央の中庭では、初代皇后陛下が愛した「カラリエ」という花が咲く。甘い芳香のする桃色の花だ。ドレスの裾のように豪奢で美しい花弁が特徴的で、ミレーユも特に気に入っていた。その花が毎年この季節になると咲くので、皆で建国を支えた皇后に敬意を捧げるという意味合いで以って貴族と王族が一同に会するというわけだ。
ミレーユは父であるモデューセ公爵に渡されたその招待状を寝台に放り投げた。
(……付き添いは婚約者でないと駄目なんて決められていないけど、アランと行きたくなんてないわ)
エスコートする人間はできるだけ身近な方がいい。
そして今回に限ってはアランでなければならない。
決められたわけではないけれど、婚約したばかりなので、アランをエスコート役に選ばなければ、周囲が変に噂する。
──……侯爵子息とミレーユ嬢は不仲なのだろうか。
別にそれでも構わないのだが。アランが納得しないだろう。
このひと月、アランを「浮気者」として観察してきたミレーユは、彼がとんでもないナルシストで、自らより優れた人間のことを決して認めない狭量な人間なのだということが分かった。
一見してアランはよくできた好青年だが、それは表面を取り繕うのが上手いだけで、実はその発言から彼の人となりというものは上手い具合に滲みでている。
『サンローザ伯爵子息が文官試験に合格したって?ああ、彼はね……宰相の側仕えが父親だから、たぶんコネなんじゃないかなぁ……て、ああ、僕はそんなこと思っていないけどね』
『コンリネ侯爵子息は、顔は確かにいいけど、僕より身長は低いし……』
『そういえば、この前リンゼル侯爵令嬢が僕に手紙をくれたんたけど……ああ、心配しないでミレーユ。僕には君だけだよ』
なとなど、自分より何か優れている人間は意地でも認めようとしない癖に、どこかの令嬢に好意を寄せられれば、満更でもなさそうにしてみせる。
(……結婚する前に気づけて良かったと思うべきね)
ミレーユは自らにそう言い聞かせた。
「ミレーユ、ちょっといいかしら」
(……お母様?)
柔い声に答えると、扉は静かに開く。
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ミレーユはエリーチェを部屋の片隅に置かれた椅子へ座るよう即して、彼女の言葉を待った。
「王宮のパーティーに着ていくドレスを新調しようと思うのだけど。いつものデザイナーにお願いする?」
問われて、ミレーユは悩んだ。
いつものデザイナーは、アランが好むほんの少し大人っぽいデザインのドレスを描く人物だ。
(だけど、もうアランの好みなんかに合わせなくたっていいわね)
そう思い、ミレーユは母の言葉に否定の意を込めて首を振った。
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