小悪魔令息は、色気だだ漏れ将軍閣下と仲良くなりたい。

古堂すいう

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番外編①

感慨に耽る

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白い敷布の上。目の前で眠る愛しい恋人。

静かに凪ぐ青い瞳は、今は薄い瞼で閉じられているが、長い睫毛が影を落としてそれはそれで美しい。

朝露に濡れる薔薇。夜明けの蓮。あるいは月に映える木蓮。

なにかにつけて花に喩えられる愛しい人。確かに花が良く似合う美しい面差しをしているが、その内側はひどく人間らしくなによりあたたかいことを、知っている。

「エリス」

呼びかけても、安らかな寝息が返って来るだけだ。昨夜無理をさせてしまったせいだろう。その証拠に無意識につけた紅い跡が、細く白い首筋。鎖骨。なだらかに滑る胸にまで、花のように咲いている。

我ながら、ひどい。

何がって、自分の理性があまりにも脆かったこともそうだが、あまり体力に自信のないこの子に無理をさせたこともそうだった。大人として情けないが「いいよ。おいで」と興奮冷めやらない俺を見て包容力全快で受け止めてくれようとするその声に抗えず、甘えてしまった。将軍という立場にいると、甘える機会がないから箍が外れてしまったとも言える。

「……いい歳したおっさんがすることじゃないな」

自身に対する嘲笑が零れた。

エリスの艶やかな亜麻色の髪を撫でると、細く柔い絹のような髪がひと房零れて、指先をくすぐる。

「んん……」

いとけない寝顔と声を聞いていると、昨夜の熱が背を伝い、静まったはずの欲望が目を覚ます。とはいえ、眠り始めたばかりの恋人を起こすわけにもいかない。

「……シ、モン」

澄んだ甘い声に、意識を引っ張られる。腕の中の恋人が、閉じた貝殻から青い真珠を覗かせるように、瞼を開いた。いつ見ても神秘的な光景だ。

「まだ、眠っていなさい」

囁いたにも関わらず、麗しい恋人はぱちりと完全に瞼を開いて、瞳を爛々と光らせた。

「どうした」
「んー?」

まだ寝ぼけているんだろう。もう一度「どうした」と問うと、エリスは甘い笑みを零して、手を差し出し顎を撫でてきた。これは幼い頃からのこの子の癖だ。何故そうするのか聞いたことが何度かあるが、まともな答えが返って来た試しがない。

「シモン」
「ん?」
「朝見るお前は、なんてかっこいいんだろう。色っぽくて、ハンサムで、すごく……ものすごく、エロい。鼻血出る」
「……はあ」

昨夜からまるで箍が外れたかのように誉めそやしてくる。まるで誰にでも賛美を贈る軟派な男のようなノリだが、もちろんそうではないことは分かっている。

全く、冷たいなら冷たいでも困りものだと考えていたが、こんなに素直になられてしまうのも考えものだ。素直な言葉と直接的な言葉をもらうたびに、屈強だと信じていた理性が根のない草のように吹き飛ばされる。そして残るのは、本性とあられもない欲望だけ。

それを、この子は分かっているのだろうか。

こんなおじさんの欲望の皮が剥いでなんとする。

小悪魔令息だと世間で呼ばれる恋人だが、小悪魔どころではない。この凶悪なまでの愛らしさと美しさは間違いなく魔王級だ。

「寝ぼけているな?」
「そうかな」

こてん、と首を傾げたエリスは瞼をぱちりと閉じて、もう一度視線を合わせたかと思うと、再び瞼を閉じ、眠りについた。白皙の美貌をそっと撫でると口角をあげて、気持ちよさそうに笑う。

「……俺は、あなたのものだよ。エリス」

ふいに口をついて出た言葉。

ずっとそうだったのかと問われるとそうではない。

なにせ出会った頃のエリスは確かに美しく凛々しくはあったが、まだ小さな子供だった。愛しいと感じたことは幾度もあるが、男として愛したいと思い始めたのはごく最近。

エリスが15歳の時、彼の気持ちを知って嬉しいと感じた。だが、せめてエリスが18歳になるまでは……つまり学園を卒業するまでは、こんな風になるつもりはなかった。だからと言ってエリスが18歳になり、想いが通じた日に身体を重ねることになるとは夢にも思わなかったが……。

再び眠り出したエリスの顔を眺める。もちろんいくら見ても飽きないからというのもあるが、幼い頃の彼を知っているから余計に、成長を感じる面差しは感慨深い。

なにせ出会った頃のエリスは確かに美しく凛々しくあったが、まだ小さな子供だった。愛しいと感じたことは幾度もあるが、男として愛したいと思うには、まだ彼は幼かった。

鼻水を垂れて、涙をボロボロ流す侯爵家の子息。美しいと褒めたたえれば不貞腐れる変わった子供。

まさか、そんな子供がこれほどまでに愛しい存在になるなんて、あの頃は想像すらしていなかった。
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