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必然の出会い
リーネ
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王都についてしばらく、ロメリアは屋敷の中で静養していた。元来、身体があまり強い方ではないので、まずは王都の環境に慣れることが大切だとセレスが言う。その言葉に従って、ロメリアは数日の間は大人しくしていた。すでにガブリエルには、ロメリアが王都へ向かうことは伝えてある。
しかし、軍の宿舎へ行くことは伝えていなかった。
(行くって言ったら、来なくていいって言われてしまいそうだし)
だからロメリアは少し様子を見てから、ガブリエルの顔を見ることが少しでも出来たらすぐに帰ろうと、考えていた。
しかしまず、訓練所で彼の様子を見る前にロメリアには仕事があった。王女の話し相手となることである。
「ロメリア様、腰のリボンをしめます。苦しかったら、仰ってくださいまし」
「ええ……」
鏡ごしに話しかけてきたのは、メイドであるリーネだった。彼女はロメリアが幼い頃から仕えており、他の誰よりもロメリアが信頼している者だ。
「本当にお美しくなられましたね。ロメリア様」
「……ガブリエルは全然そんな風に思ってないみたいだけど」
不貞腐れたように愚痴を零すとリーネは「ふふふ」と上品に笑ってみせた。
「そんなことはありません。こんなにも美しい女性を見て、何も思わない男性はきっといませんわ。ガブリエル様はきっとロメリア様のことを心の中では美しいと思われているはずです」
「そうかしら」
「ええ、ええ、そうですとも!さあ、ドレスの方の準備は完璧ですわね。次は……髪飾りに致しましょう」
リーネは、ロメリアの髪飾りを丁寧に選んでいった。彼女の仕事はいつも丁寧だが、今日はいっそう丁寧かつ慎重である。なにせ、今日はあの聡明と名高い王女が相手なのだから気合も入るというものだろう。
「……ねえ、リーネ。王女様と私って話が合うのかしら」
「そうですねえ。王女様は天文学や化学に深い見識があるようですから……。お嬢様はそういった分野に興味はないのですか?」
「ないわよ」
きっぱりと言い切るロメリアに、リーネは苦笑を零す。本当のことなのだから仕方がない。
「それでしたら……やっぱり乙女同士のお話なのですから、婚約者様の話などいかがです?」
「ガブリエルについて?」
「ええ、そうです。お嬢様はいつもガブリエル様についてお悩みのことが多いのですから」
「そんなことを話してどうするのよ」
「女の子同士というのは、互いの悩みを打ち明けることでぐっと距離が縮まるようになるものなのですよ」
別に、王女と仲良くなりたいわけではないのだが。とは言わないけれど、もし会話の内容に困ったらリーネの言う通りにしようと、ロメリアは心に決めた。
王女と仲良くなりたいわけではないが、それでも良好な関係を築いてこちらに損はない。だからといって媚びるような真似もしなくないので、ほどよく話せればそれでいい。
「さあ、準備が整いましたよ!」
リーネに即されて、ふとロメリアは顔を挙げた。
「……いつもより、少し大人っぽい」
鏡の中に映る自分自身はいつもより大人びて見えた。元来、幼い顔つきのロメリアは実年齢より数歳若く見られてしまうことが多い。背が低いことや、その声音の高さも、彼女の幼さを助長させてしまうことの一因だ。それに加えて、ロメリア自身もピンクや水色といった淡い色を好む。そのため、大人っぽいという言葉とロメリアはかけ離れていたのだが。
「お化粧してくれたの?」
化粧をすることによって、幼い顔立ちが整えられて、落ち着いた印象が与えられていた。
桜色のぷっくりとした唇には、口紅なんて必要ないのだけれど。差し入れられた落ち着きのある紅色は、彼女の面差しにほんの少しの妖艶さを与える。身に着けているドレスは、いつもの甘い色合いのドレスではなく。落ち着いたクリーム色のドレスだ。レースがふんだんにあしらわれてはいるものの、幼さを助長させるようなデザインではない。全体的に落ち着いている印象。ロメリアは鏡の中の自分をまじまじと見つめて「私ってやっぱりものすごく綺麗なんだわ」と呟いた。
しかし、軍の宿舎へ行くことは伝えていなかった。
(行くって言ったら、来なくていいって言われてしまいそうだし)
だからロメリアは少し様子を見てから、ガブリエルの顔を見ることが少しでも出来たらすぐに帰ろうと、考えていた。
しかしまず、訓練所で彼の様子を見る前にロメリアには仕事があった。王女の話し相手となることである。
「ロメリア様、腰のリボンをしめます。苦しかったら、仰ってくださいまし」
「ええ……」
鏡ごしに話しかけてきたのは、メイドであるリーネだった。彼女はロメリアが幼い頃から仕えており、他の誰よりもロメリアが信頼している者だ。
「本当にお美しくなられましたね。ロメリア様」
「……ガブリエルは全然そんな風に思ってないみたいだけど」
不貞腐れたように愚痴を零すとリーネは「ふふふ」と上品に笑ってみせた。
「そんなことはありません。こんなにも美しい女性を見て、何も思わない男性はきっといませんわ。ガブリエル様はきっとロメリア様のことを心の中では美しいと思われているはずです」
「そうかしら」
「ええ、ええ、そうですとも!さあ、ドレスの方の準備は完璧ですわね。次は……髪飾りに致しましょう」
リーネは、ロメリアの髪飾りを丁寧に選んでいった。彼女の仕事はいつも丁寧だが、今日はいっそう丁寧かつ慎重である。なにせ、今日はあの聡明と名高い王女が相手なのだから気合も入るというものだろう。
「……ねえ、リーネ。王女様と私って話が合うのかしら」
「そうですねえ。王女様は天文学や化学に深い見識があるようですから……。お嬢様はそういった分野に興味はないのですか?」
「ないわよ」
きっぱりと言い切るロメリアに、リーネは苦笑を零す。本当のことなのだから仕方がない。
「それでしたら……やっぱり乙女同士のお話なのですから、婚約者様の話などいかがです?」
「ガブリエルについて?」
「ええ、そうです。お嬢様はいつもガブリエル様についてお悩みのことが多いのですから」
「そんなことを話してどうするのよ」
「女の子同士というのは、互いの悩みを打ち明けることでぐっと距離が縮まるようになるものなのですよ」
別に、王女と仲良くなりたいわけではないのだが。とは言わないけれど、もし会話の内容に困ったらリーネの言う通りにしようと、ロメリアは心に決めた。
王女と仲良くなりたいわけではないが、それでも良好な関係を築いてこちらに損はない。だからといって媚びるような真似もしなくないので、ほどよく話せればそれでいい。
「さあ、準備が整いましたよ!」
リーネに即されて、ふとロメリアは顔を挙げた。
「……いつもより、少し大人っぽい」
鏡の中に映る自分自身はいつもより大人びて見えた。元来、幼い顔つきのロメリアは実年齢より数歳若く見られてしまうことが多い。背が低いことや、その声音の高さも、彼女の幼さを助長させてしまうことの一因だ。それに加えて、ロメリア自身もピンクや水色といった淡い色を好む。そのため、大人っぽいという言葉とロメリアはかけ離れていたのだが。
「お化粧してくれたの?」
化粧をすることによって、幼い顔立ちが整えられて、落ち着いた印象が与えられていた。
桜色のぷっくりとした唇には、口紅なんて必要ないのだけれど。差し入れられた落ち着きのある紅色は、彼女の面差しにほんの少しの妖艶さを与える。身に着けているドレスは、いつもの甘い色合いのドレスではなく。落ち着いたクリーム色のドレスだ。レースがふんだんにあしらわれてはいるものの、幼さを助長させるようなデザインではない。全体的に落ち着いている印象。ロメリアは鏡の中の自分をまじまじと見つめて「私ってやっぱりものすごく綺麗なんだわ」と呟いた。
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