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必然の出会い
提案
しおりを挟むガブリエルが、王都にある軍の宿舎へ行ってしまってからはや1年が経った。
ロメリアはあれからガブリエルと顔を合わせてはいない。けれど、どうしても彼の様子が気になってしまい、たびたび手紙を送っていた。彼からの返事は手紙を出すたびに返ってはくるけれど「元気だ。そちらも元気そうでなにより」だとか、あるいはただ事務的に軍の訓練内容が羅列されているだけの時もある。
(面倒くさいなら、面倒くさいで、何かもっと書きようがあるじゃない!)
ロメリアはそっけない返事が返って来るたびに、それを投げ捨てて怒るのだけれど。それでも大好きな婚約者からの手紙を捨てることは出来ず、その手紙を後生大事に胸に抱いては、その夜眠りにつくことを繰り返していた。
そんな日々を過ごしていたある日のこと。
ロメリアは父──セレスから呼び出された。
「ロメリア、この父と少しの間だけ王都へ行って見るかい?」
「え」
突然の提案に身を固まらせるロメリアに、セレスは苦笑を零した。彼はロメリアがガブリエル恋しさに手紙を出し、そして返ってきた手紙を後生大事にしているところを何度も目にしていた。
大切な愛娘がここまで心を寄せているのだ。何とかしてやりたいと思うのが、親心。そう考えたセレスは、娘と共に数日の間、王都へ行こうと決めた。
セレスは公爵という身分にあって、王族とも血の繋がりがある。それ故に、普段は王族が要地としている領地を離れるわけにはいかないのだが、数日だけ離れる許可を王直々にもらったのだと言う。
しかしそれには条件があるらしかった。
「もちろん、お前が会いたがっているガブリエルに会いに行くのでもいい。だが、向こうにいる間は王女様の話相手になって欲しいと、王に頼まれてしまってね」
「王女様?王女様って……」
「そうだよ。国王の第一王女であらせられる。マリエンヌ様だ」
マリエンヌ・ベル・マニエル・フルリス。
この国の第一王女である彼女は聡明で、なによりも誰よりも美しいと聞く。彼女はロメリアと1つしか年が違わない。この国の令嬢なら誰もが話し相手になりたいと望む人間だ。
しかし、ロメリアだけは違う。
マリエンヌは、この国では数少ないロメリアより地位の高い人物で、かつ、誰もがその美貌を称える人物だ。性格も穏やかで、天文学や化学の分野においても才能があると聞く。それに比べてロメリアは、勉学は全くできない上に、読む本といえばもっぱら恋愛小説ばかり。それに性格もあまりいいとは言えないと自分でも分かっている。唯一、自信をもって言えるのは「自分は美しい」ということだけれど。それだけだ。
つまるところ、彼女を目の前にすると劣等感に苛まれそうになるから嫌なのである。そんなことを知る由もないセレスは「どうだろう?」と上機嫌にたずねてくる。
(……ガブリエルに会えるんだもの。苦手な人の相手をするだけで彼に会えるんだから、ちょっとは我慢するべきよね)
ロメリアはそう自分に言い聞かせて、心の中にわだかまる漠然とした不安を心の片隅に追いやった。
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