愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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必然の出会い

王女の話

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「まあ、今は軍の宿舎に?では、将来は騎士になられる方ですのね!」

 ワクワクとした様子で迫られて、ロメリアはほんの少しだけ圧倒された。マリエンヌはキラキラと宝石のように輝く青い瞳でじっとロメリアを見つめる。

「じゃあ、ロメリアは婚約者の方のことが気になったから、王都にいらしたのですね」
「そうですわ」

頷いてみせると、マリエンヌは少し考えてから、ロメリアの手を取った。

「それなら、今行ってみませんこと?」
「い、今?」

 まさか、王女からそんなことを言われるとは思わず、ロメリアは動揺してしまう。目の前のマリエンヌはまるでいたずらする前の子供のように、その瞳をより一層輝かせて、口元に手をあてて笑った。

「はい、今ですわ。こんなに愛らしい婚約者がわざわざここまで会いに来てくれたと知ったら、きっとその方も喜ぶはずです」

(……本当にそうかしら)

ロメリアには自信がなかった。ガブリエルとはここ1年と少しの間、手紙のやりとりをしていたとはいえ、直接話せていない。その手紙でさえガブリエルからの返信の内容は薄く、最近では軍の訓練内容ばかりに終始している。つまるところロメリアは、自分がガブリエルの元へ行って喜んでもらえる自信が全くなかったのだ。

(嫌だわ。自信のない私なんて、私らしくない)

自らの心を叱咤して、ロメリアは王女の言葉に頷いた。

「丁度行きたいと思っていたところですもの。行きますわ」
「ええ、そうしましょう!」

王女はパンと音をたてて両手の平を合わせた。

軍の宿舎へ向かう道中。

 マリエンヌは自らの話をしてくれた。自分には婚約者がいないこと。恋愛結婚に興味があること。けれど、自分には自由な恋愛など許されていない。だから本の中の恋愛で満足しなければならないこと。

「ロメリアは、婚約者様のことが好き?」
「大好きですわ。寡黙な人ですけど……優しい人だって分かりますもの」
「……素敵ね。政略結婚なのに、相手のことをそんなにも愛せるようになるなんて……私も、そんな風に恋する相手と結婚したい」

 マリエンヌは、王族という地位にある。地位が高ければ高いほど、その血筋に見合う人間を見つけるのは難しい。選択肢が少ない中で選ばれる結婚相手。不安になるのは仕方がないと言えた。

「……マリエンヌ様は、恋をしたことはありませんの?」
「え?」

 何も考えずに出た言葉だった。けれどマリエンヌは、今までみた中のどんな表情よりも幼い顔をして、頬に朱を上らせている。「この表情はもしや」と思い、ロメリアはマリエンヌに向き直った。

「ありますのね?」
「ええ、はい。でも……本当に幼い頃のことですから。美化してしまっている可能性もおおいにありますわね」
「まあ、幼い頃に……それでは、相手のお顔はお分かりにならない?」

マリエンヌは、顔を真っ赤にしてコクリと小さく頷いた。

「はい。あまり……。でも、とても美しい方だと感動したのを覚えています。声がとても印象的で、低くて優しい御声でしたわ」

 彼とは、王宮の庭園で会ったらしい。まさしく先ほどお茶を嗜んでいたあの庭で。マリエンヌが侍女達とかくれんぼをしている時に、偶然出会った。マリエンヌが1人、薔薇の垣根に隠れて、足を茨で傷つけてしまったところを助けてくれたのだという。その人は優しく手をひいてくれた。無表情だったけれど「ありがとう」と笑いかけると微笑んでくれた。そう語るマリエンヌの顔は、誰がどう見ても恋する乙女の顔だった。未だに忘れられない恋なのだろう。当然だ。その出会いは、まるで恋愛物語で良く描かれる……。

(……?)

今、何かを思い出したような気がした。

「ロメリア?どうかなさったの?」

突然、表情を固まらせたロメリアの顔をマリエンヌは覗き込んだ。ロメリアは急いで表情を取り繕う。


「いいえ、なんでもありませんわ。……マリエンヌ様がその方と再び出会えることを心から祈っております」

ロメリアの言葉に、マリエンヌは照れ臭そうに微笑んだ。
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