愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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運命の再会より

運命の再会

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 軍の宿舎は、赤い煉瓦造りの建物だった。堅牢な造りで立派な建物ではあるが質素な印象を受ける。建物を伝う蔓は青々と茂り、そこかしこに落ちた武具の破片のような何かが、散乱したまま放置されている。

 現在、軍の宿舎に泊まっている者達は、訓練所にいるらしい。

 ロメリアは高鳴る胸の鼓動を必死に抑えながら、王女や侍女、護衛騎士達と共に訓練所へ向かった。あまり大袈裟に来訪するのもよくないと王女の侍女達に進言されたため、秘密裏にこっそりと訓練所を覗くことにした。幸い、訓練所の周囲は高い城壁で囲われているため、その塀の上から訓練中の様子を観察することが出来る。

 訓練所といっても、訓練をするのは屋外。日差しが降りそそぐ中で、何人もの男達が剣を振っている。銀色の恐ろしく重そうな剣は、身体の大きな武人達の手に握られていると、軽そうに見えた。

(ガブリエルは……どこにいるのかしら?)

キョロキョロとガブリエルを探すロメリアは、さながら親鳥を探す雛鳥のようだ。

 甘い水色の髪がふわりふわりと舞い上がり、桃色の瞳が爛々と光る。マリエンヌに付き従う騎士達は、常日頃、王女の美貌を眺めているため、ロメリアの美貌を見て動揺することはないが、それでもロメリアの愛らしい容姿は、庇護欲を掻き立てられる。なにより、彼女の行動にはまだ幼さが見てとれて、宮廷人の洗練された振る舞いばかり見てきた彼らには、新鮮で初々しいように見えて、余計に彼女に視線を吸い寄せられてしまう。

そんなソワソワした様子をみせる騎士達に、侍女達は鋭い視線を向け、王女は苦笑を零した。

「駄目よ、あなた達。ロメリアがあまりにも愛らしいからって、そのようにジロジロ見ては失礼だわ」
「……も、申し訳ありません」

そんな彼らの様子には気づかず、ロメリアはガブリエルを探す。しかし、一向に彼の姿は確認できない。

「どうですか?ロメリア」

 ロメリアはしょんぼりと肩を落として、頭をふった。見つからなかった。よほど容姿が変わっていなければ、分からないはずがない。ふむ、とマリエンヌは考えるそぶりをみせる。すると1人の護衛騎士が前へ出る。

「殿下、もしよろしければ、私が言って呼んで参りましょうか」

マリエンヌは首をふる。

「大事にするのはよくないわ。……今日は諦めましょう」

 マリエンヌの言葉に、ロメリアは顔を俯ける。いつものロメリアならここで我儘の1つでも言って、意地でも残ろうとするけれど。「ガブリエルの婚約者はとんだ我儘娘だ」と思われてしまうのも良くない。そう考えて、渋々ながらに頷いた。マリエンヌに手を取られ、その場をあとにすることを決める。後ろ髪を引かれるような思いとはまさにこのことだった。

 あと数日の間は王都に留まることが出来る。が、果たしてその間にガブリエルと会うことは出来るのか。高い城壁から降りる途中、ロメリアは何度も後ろを振り返った。ようやく長い階段を降りて、軍の訓練所から宿舎へ戻る廻廊を歩く。

「大丈夫よ、ロメリア。まだ数日王都にいるのでしょう?その間にきっと会えるわ」

マリエンヌの励ましに、曖昧な返事を返しながら、ロメリアは白い手でドレスの裾を握りしめた。

(……すごく会いたい)

会えると期待して行ったのに、期待は外れ、言葉を交わすどころか姿さえ見ることが出来なかった。

重い落胆が肩に伸し掛かった、その時。

「え」

マリエンヌが当惑した声音を出した。何事かと顔をあげるロメリアの視界に、頭の中で何度も思い浮かべていたガブリエルの姿が映る。

「ガブリエル!」

ロメリアは、思わず彼の名前を呼んで駆けだした。

「……ロメリア」

低く、静けさを帯びる声。ロメリアは彼の元へ駆け寄る。

 たった1年経っただけなのに、彼の雰囲気はほんの少し変わった。体格は逞しくなっているし、風格まで出ているような気がした。ロメリアは彼の傍に辿り着くと、ガブリエルの瞳が見たくて顔をあげた。身長も、以前よりももっと高くなっている。

(え……)

目が合う。

そう思っていたのに、何故かガブリエルはロメリアを見ていなかった。彼の呆然としたような視線を辿る。その先には、マリエンヌの姿があった。マリエンヌも目を見開いている。

2人は視線を交錯させ、しばらく見つめ合っていた。


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