愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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2人の距離

宣言

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ロメリアは馬鹿ではない。

ガブリエルに指摘されたことの意味を、彼女はちゃんと理解していた。

ロメリアは、彼にそう言われるまで、訓練の邪魔をしてしまう可能性を露ほども考えていなかった自分に対して恥じ入る気持ちと、素直に「ごめんなさい」と言えない自分に参っていた。


そんな複雑な感情の行き着く先は、彼女が最も得意とする涙だった。ただそれだけのことなのである。

しかし傍から見れば、自らの我儘が婚約者に受け入れられずに泣く自分勝手な令嬢だ。


「……おいおい、ガブリエル。それは言い過ぎじゃないのか?この子はお前の顔が見たくてほんの少し会いに来ただけじゃないか。それにここまで来れば、ガブリエルの顔が見えるかもしれないって言って連れてきたのは俺なんだ。婚約者殿ばかり責めるなよ」

口を挟んだリュダは、眉間の皺を揉んでいた。

「お前には関わりのないことだ」
「いや、そりゃ、そうだけど。女の子泣かすのは騎士道に反することじゃねぇの」
「……」

ガブリエルは押し黙る。

そして次に口を開きかけた時、ロメリアはバッと顔を上げて、令嬢にあるまじき仕草で顔を拭った。

すんすんと鼻を鳴らし、なお、ボロボロと涙を流し続けながらも、ロメリアはドレスの裾を握ったまま、大きく口を開く。

「じゃあ、あなたが立派な騎士になったらたくさん会いに来てもいいのね!?」

少し怒った風にそう問いかけるロメリアに、ガブリエルは答えに窮したのか口を閉じる。

一方で、ロメリアは元々答えなんて期待していなかったために言葉を続けた。

「……どんなにあなたに嫌われていようと私はあなたのこと、ずっと好きよ。大好きよ」

足をガクガク震わせながら支離滅裂なことを叫ぶロメリアに、ガブリエルは今度こそ絶句したのか、目を見開いて固まった。

「……」
「だからって、邪魔だと思われたいわけじゃない。だからもう、あなたが騎士になるまでここには来ない。手紙も出さない」
「……」
「今度会うまでに、ちゃんと「ごめんなさい」って言える立派なレディになるから……だから……だから、それまでわたくしのこと忘れちゃ駄目よ」

それだけ言って、ロメリアはバタバタと忙しくその場を走り去ってしまった。

その場には男、2人が残される。

「……あの子、お前のことものすごく好きなんだなあ」

そう呟くリュダの横で、ガブリエルはロメリアの去った方向をじっと見つめ続けている。

その視線の意味を考えあぐねて、リュダは「そんなに怒らなくても」と声をかけたが、どうやら意味を捉え間違えたらしく、ガブリエルは無表情からさらに色を無くして、踵を返した。

「あ、ちょっと待ってくれよ~」

その背をリュダが追いかける。

これ以来、ロメリアが宣言通り、ガブリエルの元を尋ねることはなくなった。

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